燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第82話 潮~積み重ねられる訓練と思い~

桃が第二十五駆逐隊預かりになってから数週間後、夏の暑さは更に激しくなったが、訓練は猛暑の中でも続いていた。

肝心の桃はというと、暑がる事は多かったが、秋月達の話を聞いて以来、訓練に文句を付ける事は劇的に少なくなっていた。

そして、タウイタウイ泊地にいる色んな艦娘達の協力を得て、更に長波達は鍛えられる事になる。

そんなある日………。

 

「あ、当たらない!?重装甲じゃない潮には主砲が効果抜群だと思ってたのに、何で当たらないんだよ!?やっぱり胸か!?普段の胸部装甲故か!?」

「回避率と胸部装甲は関係ありません!後、長波さんだけには言われたくありません!」

 

再び行われた第二十五駆逐隊と第十四駆逐隊の演習。

その中で、実は意外と隠れ巨乳同士である長波と潮の対決が行われていた。

正規の改二の力を発揮しているという事もあり、横須賀に来た時の春の合同演習よりは上手く戦えると思っていた長波だったが、考えが甘かった事を認識させられる。

今の彼女は、去年の春に皐月と戦った時よりは勿論の事、数週間前に陽炎と戦った時よりも数段恐ろしく思えた。

何せ、自慢の高火力を防御されるのではなく上手く回避されていたからだ。

 

「長波、潮を侮らない方がいいわよ~。私達の中じゃ、最初に改二に目覚めたんだから。」

「後、意外とえげつない戦い方するから気を付けた方がいいわね。」

 

実際に第十四駆逐隊内で演習をした際に思い知らされたのか、陽炎や曙がやれやれといった感じで長波に警告をする。

確かに潮は改二の姿にかなり馴染んでいるらしく、華麗に海上で体重移動をしながら長波の砲撃を回避していっている。

普通に攻めていたら、いずれは根競べで負けてしまうだろう。

 

「下手に撃っても当たらないなら………!」

 

ならば………と長波は奇策を使う覚悟で、左胸にぶらさげてある爆雷を投げつける。

それは潮の周りに落下し派手に水柱を上げて彼女の姿を隠す。

 

(潮は腰のベルトに大量の爆雷を巻き付けている………!春の合同演習での皐月との戦いでの経験が確かなら………!)

 

長波の予測通り、潮はお返しとばかりに大量の爆雷を投げつけてきた。

それは長波の周りで今度は派手に爆発を起こす。

爆雷は後だしジャンケンの方が有利………嘗て皐月に言われた通りの展開だが、だからこそこの後の潮の行動もある程度絞られた。

 

(ツッコんで来るか、動けない所に魚雷を撃ってくるか………!潮の性格なら………!)

 

多少の被弾は覚悟で魚雷を投棄し一気に増速する長波。

今度も予測通り、潮は両膝の6門の魚雷を一気に発射してくる。

だが、予め接近していた事で狙いは狂い、魚雷は長波の両脇ギリギリをすり抜けていく。

 

「貰った!」

 

長波の目に、至近距離で見開かれた潮の目が映った。

そして、その顔面に高火力の右手の主砲を突き付ける。

勝負あったと思った長波であったが………。

 

ガキィンッ!!

 

「え?」

 

その主砲が上にはねあげられる。

何と咄嗟に反応した潮が、機銃付きの船の形を模した左腕の小手を、主砲に対し裏拳のようにぶつけたのだ。

明後日の方向に主砲を撃ち込む事になった長波に対し、潮はそのまま左に回転する勢いで、右足で回し蹴りを喰らわせて怯ませる。

そして1回転して再び左腕の機銃付きの小手を長波の腹に突き付けると一言。

 

「ゴメン………なさい!!」

 

そのまま至近距離で機銃を連射し、長波をKOした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「な、長波さんが………呆気なく負けた!?」

「桃………追い打ちを掛けないでくれ………と言っても、これが今の長波サマの実態だけれどな………。」

 

審判である古鷹に運ばれてきた長波は、あまりにハイレベルな戦いを前に驚愕する桃の前でぐったりと倒れていた。

尚、前回とは対戦相手を入れ替えていたとはいえ、今回も第二十五駆逐隊の面々は全員が敗北を喫していた。

それだけ対戦相手である第十四駆逐隊の面々は鍛えられているという証拠であるだろう。

ちなみに休暇という割には、彼女達6人は長い間タウイタウイ泊地にいてくれているが、それは桃の一件に目途が立つまで各所属の鎮守府等の提督達が気を使ってくれているからであるらしい。

その為、訓練相手には事欠かなかったが、予想以上の強さを発揮しているのは痛感させられた。

とりあえず桃から濡れタオルを受け取った長波は顔を拭いて感謝をしながら彼女に問う。

 

「そう言えば桃はどうだった?」

「も、桃は清霜さんと戦ったけれど………あの強さで反則レベルなのに、姉である長波さん達が手玉に取られているのを見ると………。」

「私なんて長波姉さん達に比べればまだまだよ?その長波姉さんが旗艦として尊敬しているのが陽炎さんなんだから上には上がいるのは当然じゃない。」

「あ、あの潮さんの戦いを見ていると説得力がありまくります………。」

 

只々、呆然としている桃に対して笑いかける清霜。

この泊地に来た事で、桃も色んな艦娘の話を聞く事が出来た。

新人時代の長波がした様々な姉妹艦との経験談。

滅ぶ前のパラオの秘書艦をしていた望月の悲恋。

北の海で武蔵の艤装を無理やり付けた清霜の一撃。

それらの話を聞く度に、桃は様々な感情に襲われる事になった。

 

「当たり前だけど、苦労してるのは桃だけじゃないって実感するなー。」

「そりゃ、艦娘になる事自体がかなりの勇気のいる事だからな。トラック泊地の高波の手紙で、長波サマもまた、色々思う事があったよ。」

「艦娘になる………か。桃は当然だけれど、何で艦娘になろうと思ったのか知らなくて………。」

「そうだな。何かしら強い理由があったのかもしれないし、逆にそうせざるを得ない立場にあったのかもしれないし………。」

 

艦娘になると人としての記憶を無くす。

それ故に、艦娘達は自身が何故艦娘になったのかは知らない。

只、海防艦のような幼子が艦娘になっている姿を見ていると、ただならぬ事情を抱えている娘がいるのも事実であるだろうと認識せざるを得ない。

 

「でも、時々思うよね。艦娘と深海棲艦の関係………奪還(ドロップ)とかを考えるとさ………。そこまでして守りたい物って何だろって。」

「そこは深く悩んでも答えは出ないと思うぞ。ましてや上層部のようなきな臭い存在だっているんだ。考えすぎるといつものポテンシャルを発揮できなくなる。」

「分かってる………つもりなんだ。だけど………。」

「今を精一杯生きるのも大切だし、何よりお前は自分の大切な物を守ろうとしているだろう?どういう理由があったとしても、姉達の事を静かに眠らせてやりたいと思うのは大切に想っている証拠だ。」

「ありがと………でも、お姉達の方はどう思っているのかなって。」

「……………。」

 

長波は悟る。

桃は艦娘にならなければ自分の姉達が苦しむ事も無かったのでは無いか?と考えているのだ。

確かにそれはその通りであるだろう。

だが、過ぎた事を考えても何も始まらないのも事実ではあった。

 

「今からの事を考えようぜ。………ちなみに、その姉の名前をそろそろ聞いてもいいか?資料が送られてこないから調べようが無いんだ。」

「上層部がマズイと思って破棄してるのかなぁ………?名前は上から「松」、「竹」、「梅」だよ。松型は今の所、全員木の名前。」

「成程、分かりやすい。しかし、お前のような四女の姉達だから、しっかり者じゃないとやってられないだろうな。」

「何それ!ひっどーい!………まあ、大体当たってるけれど。」

「………いい姉さん達か?」

「うん………。」

「そっか。」

 

長波は身体の痛みも消えてきたし、そろそろ起き上がろうとする。

しかし、そこでタウイタウイの提督が走ってやってくるのが見える。

 

「陽炎、長波!居るか!?」

「どうしたの、司令?………まさか?」

 

大声で呼ばれた事で事態を予測し、訝しんだ陽炎に応えるように提督は頷いた。

 

「さっき無線で連絡が届いた。スールー海で例の事件が発生したらしい。第十四駆逐隊と第二十五駆逐隊は船渠(ドック)入りを済ませたら急いで出撃してくれ。」

 

その提督の言葉に、長波達も戦慄した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

本来、駆逐隊2つだけで出撃するのは異常とも言える事態だ。

しかし、それだけの実力を持ったエース級であるのならば、強行偵察に送り出すには打ってつけだった。

何より………。

 

「前に確認できた場所からタウイタウイ泊地に近づいてきているんだ。もしかしたら、少しずつだが、この泊地を狙って来ているのかもしれない。」

「それは本当か、提督?だったら、古鷹さんや武蔵さん達には下手に頼れないな………。」

 

もし防衛戦になってしまった場合の事を考えると火力の都合上、古鷹や武蔵といった強力な艦娘は下手にタウイタウイを動けなかった。

それは、軽空母である瑞鳳や防空駆逐艦である秋月、更には電探等の探知能力に優れた清霜にも当てはまる。

そういう意味では、歴戦のエース駆逐隊である第十四駆逐隊が揃っているのは、嬉しすぎる誤算であった。

 

「悪い、陽炎。居るからには頼りにさせて貰うぞ。」

「いいわよ!思う存分頼りにして!」

「何か妙に嬉しそうだな………?」

「そりゃ、久々に第十四駆逐隊のみんなが揃って任務に赴けるんだから燃えるに決まってるじゃないの!」

「あー、成程………。」

 

陽炎と長月は横須賀鎮守府、皐月と潮はタウイタウイ泊地、曙は大湊警備府、霰は幌筵泊地に本来は在籍している。

それは個々の実力が高いから北から南に散らばっているのだが、強い絆で結ばれた彼女達にしてみれば、6人で組める機会は夢のような時間なのだろう。

 

「やっぱ、喧嘩してぶつかりあった駆逐隊ってのは………忘れられない物なのか?」

「まあボク達、色んな所で死にかかったからねー。懐かしいな………。」

「更に言えば、私や皐月のように落ちこぼれも最初は半数を占めていた。」

「その中で………時に取っ組み合いの大喧嘩をしながら………成長してきた。」

「決してなだらかな1本道とは思えなかったですけれど、いい思い出です。」

「アタシとしては最悪な思い出も沢山あるけれどね。でも、それもあって当然なのよ。」

「長波達も沢山喧嘩して殴り合っていけばいいわ。いつかきっとそれも経験になるから。」

「何かいい話に纏めてるけど………エースがそれでいいのか?」

 

抜錨の準備を進めている陽炎達第十四駆逐隊を見ていた長波は、自分の駆逐隊を振り返る。

彼女達はその長波の姿にビクっとした。

 

「長波サマとしてはまあ、勇猛果敢な駆逐隊には喧嘩は必須だと思うけど………。」

「あたしはやだよ!?喧嘩強く無いもん!?」

「山風~、そう言いながら前にあたしに思いっきり腹パンしたよね?」

「アレは望月さんが暴走してたからで………私はどうなのかしら?」

「初霜ちゃんは五月雨ちゃんに思いっきり手刀喰らわせてたよね!?」

「パラオで巨大な鉄骨を振り回していた朧も相当な物だと思うな。」

「え!?長波さん、この第二十五駆逐隊って!?桃、とんでもない所に放り込まれた!?」

「今までを振り返れば素質は全員あるかもな………。」

 

ニヤリと笑いながら長波は準備を済ませて桟橋に移動する。

陽炎を含め、13人の駆逐艦達もそれに習う。

見送りとして、居残り組の艦娘達が総出で来てくれた。

そして………。

 

「じゃあ、行くわよ!第十四駆逐隊………抜錨!!」

「遅れるな!第二十五駆逐隊、抜錨だ!!」

 

欠番の駆逐隊はスールー海へと飛び出していった。

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