燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第83話 皐月~重油にまみれた姫~

抜錨した2つの駆逐隊は、提督が受けた連絡通りにスールー海を北上していた。

今回の任務に当たって各艦娘はそれぞれ自分の得意とする分野の強化をしてきていた。

例えば、山風ならば「改二丁」に備えて大発動艇を多めに積んできていたし、舞風や朧は強化型の缶を装備していたし、望月や長月は電探を装備して索敵に特化した装備をしていた。

それぞれの駆逐隊内の役割を考えた上で色々と互いに補いあうのは基本中の基本であった。

 

「えっと、対空装備は初霜と潮、大発は山風と霰と皐月………改めて色々と覚えておかないとな。」

「旗艦として大事よね。私も最初の頃は夜遅くまで机の上で格闘してたわ。」

「陽炎、最近その辛さが分かるようになったよ。隣でいびきをかいてる望月が恨めしいのなんの………。」

「ふわ~………旗艦は辛いね~。………そろそろ船の残骸が見えてきたよ。」

 

あくびをしながらも、声のトーンを変えた望月の言葉に、単縦陣で進んでいた長波達と陽炎達は速力を落とす。

見れば正面に、船首だけ顔を出した形で沈んでいたタンカーの姿が見えた。

 

「あの船の乗組員は全員無事だったのかな………?」

「残念だけれど………数名殉職したそうよ。」

「そっか………。」

 

桃が悲しそうに呟くが、過ぎた事を考えても始まらない。

この悲劇の連鎖は自分達が止めないといけないのだ。

と、そこで陽炎の電探に通信が届いた。

 

「………誰からだ?」

「タウイタウイの司令から。深海棲艦3隻の名称が決まったわ。桃の姉の上から順番に「駆逐林棲姫」、「深海竹棲姫」、「深海梅棲姫」だそうよ。」

「成程な………でも、その深海棲艦は何処に………。」

「待て………何か来るぞ?」

 

今度は長月の言葉に皆が身構える。

だが、何処にもその影は見当たらない。

 

「長月………何処………?潜水艦も………いない………。」

「いや、電探に何か反応がある………!?海面だ!曙、2時の方向に爆雷投射機で最大距離!」

 

長月の指示で曙が咄嗟に身体をスパークさせて改二になり、爆雷投射機で遠距離に爆雷を飛ばした。

すると着水した爆雷が爆発すると共に、海面が広範囲に渡って燃え上がったでは無いか。

 

「アレは油………まさか重油!?」

 

曙の驚きと共にその海面………いや、黒く染まった重油の塊から悲鳴が響き渡り、3つの影が浮かんでくる。

それは不思議な深海棲艦であった。

重油を垂らす深海棲艦独特の口の上にそれぞれ少女が乗っていた。

リボンで髪を縛った少女、ショートヘアの少女、そして重油から梅の枝を生やしている眼鏡の少女。

 

「報告が確かなら………それぞれ駆逐林棲姫、深海竹棲姫、深海梅棲姫ね。」

「桃………聞くぞ。アイツ等の顔は………。」

「うん、お姉達だ………。松姉ぇ、竹姉ぇ、梅姉ぇ………間違いないよ。」

 

覚悟はしていたとはいえ、いざその目で見るとやはりショックなのだろう。

感情の無い姉妹達の表情を見て、桃は涙を流していた。

 

「最終確認だ………。いいんだな?」

「うん………お姉達を苦しみから………解放してあげて!」

 

桃の言葉に、長波や陽炎達は改二や擬似改二を発動させる。

但し、桃だけはまだ擬似改二の時間が10分に到達していないのでここでは控える。

 

「桃は盾を持つ望月の後ろにいろ!敵陣は………っ!?」

「コレダケダト思ッテイタノカヨ!?」

 

攻撃的な松………駆逐林棲姫の声に、重油の中からフラッグシップ級の軽空母ヌ級改が数隻出てくる。

更に後期型フラッグシップナ級改等、多数の駆逐艦も飛び出してきた。

 

「うわー、完全に駆逐艦と攻撃機の手数で勝負だね。13人いても足りないかも?」

「皐月………それに山風も大発動艇でカバー………。」

「分かった………!行け………!」

 

戦車が乗った大発を複数移出する3人に対し、数にモノを言わせた敵駆逐艦とヌ級改の攻撃機が襲い掛かってくる。

初霜と潮は対空迎撃に集中し、他の面々はとにかく敵艦を迎撃していく。

桃以外はエース級故に火力があるので撃破に苦労はしないが、所々に広がっていく重油が気にはなった。

 

「何だろう、イヤな予感はするけど………うわ!?」

 

皐月が驚いたのはコントロールしていた自身の大発動艇の内の1つが重油の塊に突っ込んだ途端、渦が広がりあっという間に沈められたからだ。

 

「あの重油の空間………浮力が働かないんだ!?だから、囲まれた船とかも沈んで………!?」

「浮力が働かないんじゃ、魚雷も効かないわね………。どうやってあの3隻の親玉に当てようかしら………。」

「だったら消すまでよ!潮、それに望月も爆雷貸して!」

 

対空迎撃を行っている潮のベルトから爆雷を取った曙が重油の塊に向けて投射機で放っていく。

爆雷を投げつける為に重油に引火するので結果的に駆逐林棲姫や深海竹棲姫、深海梅棲姫にもダメージが与えられていく。

更に近くにいる敵深海棲艦も誘爆で沈んでいくのでかなり効果は高かった。

 

「イッタイナァ!纏メテ沈メテヤンヨ!」

「好キニサセルカヨォ!」

「ウッサイナァ!全員!」

 

苛立ちを覚える3隻の重油を纏った姫達は魚雷を発射する。

深海棲艦側の魚雷は重油の効果は受け付けないらしく、長波や陽炎達へと迫ってくる。

 

「望月、桃を頼む!」

「あいよ~!」

「う、わ!?」

 

桃を強引に引っ張った望月は飛んできた魚雷を回避。

他の面々も、自分の仕事をしながらも強力な魚雷を躱していく。

しかし、今度はぬるりと深海竹棲姫の足下の重油が伸びて、回避したばかりの曙の足を包み込む。

 

「ええ!?」

「ぼのぼの!?」

 

主機が重油に引っかかり、思わず引きずり込まれそうになった曙を慌てて後ろから朧が持ち上げて何とかやり過ごす。

驚くべき攻撃手段に皆が驚く間もなく、今度は深海梅棲姫の足下の重油が舞風へと伸びる。

 

「何これ!?気持ち悪い!?みんな、気を付けて!」

 

素早く高角砲を山風にパスして、バク転で難を逃れた舞風は全員に注意を促す。

いつもとは明らかに違うタイプの敵の攻撃に、エース駆逐隊もやりにくさを感じていた。

何より………。

 

「こっちの攻撃をどうやって向こうに当てるかよね………。」

 

陽炎は高角砲を駆逐竹棲姫に向けていたが、距離が開きすぎて当たらない。

魚雷は重油が壁となって役に立たない以上、効果的な攻撃手段が無かった。

唯一、爆雷は重油を燃やしてダメージを与えられたが、どうやら完全に取り払えるだけの効果は無いらしく、このままでは拙攻になってしまうのは目に見えて分かった。

 

「陽炎、引くなら早い方がいい。深海棲艦の効果なのか霧が出てきた。電探の調子も悪くなっている。」

「一旦戻って武蔵さんとかに協力して貰った方がいいかもね………。」

 

長月の言葉に陽炎は考える。

こういう時、判断に迷ったら致命傷を負う事もある。

だからこそ、早い内に手は打たなければならなかった。

 

「長波、引くわよ!戻って武蔵さんや古鷹さんの助力を得る!」

「分かった!全員、ここは一旦後退だ!」

 

長波の言葉に全員が素早く後ろ向きで砲撃をしながら下がっていく。

しかし、桃を盾で守る形であった望月が遅れた。

そこに、3隻の重油の姫の砲門が向く。

 

「まず!?」

「も、望月さん!?」

 

桃を後ろに付き飛ばした望月は両手で盾を構えて3方向から一度に飛んできた砲撃を受け止める。

しかし、軽い身体では駆逐艦の物とは思えない威力の砲弾を受け止めきれず、吹き飛んでしまう。

 

「うわあああ!?」

「望月さん、しっかり………きゃあ!?」

「桃!?」

 

吹き飛んだ望月の元に向かおうと立ち上がった桃であったが、その足元に重油が伸び彼女は引きずり込まれてしまう。

気付けば桃は、三角形を作った3隻の重油の姫………姉達の真ん中にいた。

 

「逃げろ、桃!」

「しゅ、主機が動かな………ああ!?」

 

何とか身体を動かそうとする桃であったが、自身の周りに渦が出来てきて、脚から沈み始めていく。

浮力を失った事で、桃の身体が海の底へと徐々に向かっていく。

 

「も、桃………ここで………沈むの!?」

「待ってろ、桃!」

 

再び反転した長波達が桃を助けようとするが、追いかけようとしていた敵駆逐艦やヌ級改達が邪魔をする。

片っ端から撃破をしようとするが、とても桃の救援には間に合わない。

 

「し、沈む………嫌だよ………お姉………!」

 

徐々に足首、太もも、膝と沈んでいく自身の身体は、桃に恐怖心を植え付けるのに十分だった。

彼女は思わず破壊衝動に縛られている姉を呼んでしまう。

 

「助けて………助けて、松姉ぇ、竹姉ぇ、梅姉ぇ………!」

 

そうしている間にも、身体はどんどん沈んでいき、腰から胸にかけてどんどん桃の姿が重油の中に消えていく。

気付けば桃は泣いていた。

結局姉を静かに眠らせる事も出来ず、自分も沈んでいくのだから。

こうなってしまったら、いずれ自分はどうなるのだろうか?

自分もまた深海棲艦となり、姉達と同様に破壊衝動に縛られてしまうのだろうか?

 

「お姉………!松姉ぇ………!竹姉ぇ………!梅姉ぇ………!助け………!」

 

遂に桃の顔の半分まで沈み、喋る事も出来なくなってしまう。

桃は死を覚悟した。

視界が暗くなり、海面から延ばした右手も………。

 

ザバァ!!

 

(え?)

 

重油まみれになっていた為に口を開く事は出来なかったが、桃は自分の手が掴まれ海上に引き上げられたのを感じる。

その光景に僅かな間ではあったが、長波達や陽炎達も固まる事になる。

何故ならば、その桃の手を取っていたのは無表情である3人の重油にまみれた姫………桃の姉達であったからだ。

 

(お姉………?)

 

桃は見る。

少しだけではあったが………3人の深海棲艦が笑みを浮かべたのを。

優しい慈愛の笑みを。

姉としての………姉妹愛を発揮したのを。

 

(まさか………!?)

 

だが、そこで桃は3人に思いっきり投げ飛ばされる。

重油の空間の外まで投げられた彼女は朧にキャッチされ、海面に顔を付けられ重油を取り払われる。

 

「だ、大丈夫、桃ちゃん!?」

「ぶはっ!お姉達が!お姉達、あたしの事分かって………!?」

 

だが、前を見た桃の目に衝撃的な光景が入る。

こちらを見て笑みを浮かべていた3人の内、駆逐林棲姫の上から………霧の向こう側から巨大な手が伸び、彼女を………松を押しつぶしたのだ。

 

「え………?」

 

まるで裏切り者を粛正するかのように、乗っていた深海棲艦独特の顔を模した台座もすり潰していく。

更に、その奥から強烈な砲撃が飛来し、深海竹棲姫と深海梅棲姫………竹と梅を玉座ごと炎に包み、沈めていく。

唖然とする桃達の前に、霧の向こうから巨大な顔と腕を生やした戦艦を背負った鬼女………戦艦棲姫改が2隻出現する。

 

「あいつ等………!」

「仲間を………沈めやがった!!」

 

状況を理解した陽炎や長波が歯ぎしりをする中、桃は膝を付き海面に手を付いたまま………大粒の涙を流しながら、叫ぶ。

 

「お姉ぇぇぇーーーっ!!」

 

あまりの出来事を前にして、13人の艦娘達の怒りが沸点に達した。

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