燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第9話 巻雲~追いかける背中があるから~

午後の訓練もそれぞれやっている事は変わらなかった。

初風嚮導の駆逐隊は、補給を済ませると沖合にまた抜錨し、今度は重巡洋艦リ級2隻を含む深海棲艦達を、風雲を旗艦にして沈めて来た。

深雪嚮導の駆逐隊は、また彼女に1対1で挑む形になってずぶ濡れになり、雷嚮導の駆逐隊は、陣形練習の後、横須賀の外周を1周する事になった。

そして、長月嚮導の駆逐隊は、的を何度も撃ちぬいていって、最後にはまた、「ぱんぱかぱ~ん」である。

夕方には遠方に抜錨していた部隊も帰ってきており、偶然居合わせた愛宕が同じ挨拶で長月達に返してくれていた。

そして、それぞれクタクタになった夕雲型の面々は食事を取り風呂に入ると、布団に入って明日の演習に備える事になる。

 

「夕雲姉さんは凄いですよね。もう重巡を3隻も沈めているんですから!」

「初風さん達がいるからですよ。でも………ごめんなさい、巻雲さん。」

「はい?」

 

就寝する前、同部屋の巻雲に対し、夕雲は言おうかどうか悩んだが、やはりこのままにしてはおけないと思い、頭を下げる。

 

「ゆ、夕雲姉さんどうしたんですか!?いきなりそんな………!?」

「私は………深海棲艦と対峙した時、巻雲さん達を連れてこなくて良かったと思ってしまいました。」

 

訓練とは違う本物の殺気を放つ深海棲艦の群れ。

繰り出される砲撃等は、間違いなく夕雲達を「沈める」つもりであった。

その姿を見た途端、夕雲は思わず巻雲達を置いてきて正解だと思ってしまったのだ。

 

「夕雲姉さん………。」

「酷いネームシップだと思います。戦闘訓練に明け暮れる妹達を足手纏いだと思っているのですから………。」

「そ、それは仕方ない事ですよ!」

 

顔を上げた夕雲は、甘えんぼ袖をバタバタ振りながら必死に身振り手振りで感情を表現する巻雲の顔を見る。

彼女は笑っていた………だが、無理している事は傍目にも分かった。

 

「練度が追いつかない私達が悪いんです!夕雲姉さん達は、そんなの気にせず深海棲艦をどんどん倒して下さい!………勿論、私達だってすぐ追いつけますから!」

「巻雲さん………でも………。」

「ほら、明日も早いですし、もう寝ましょう!お休みなさい!」

 

巻雲はそう言うと、夕雲の返事を待たず、さっさとパジャマに着替えて布団にもぐる。

夕雲は只、ありがとうとだけ述べると、同じように布団に潜った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

それから1時間位経った後だろうか?

夕雲はふと目が覚めてしまっていた。

違和感を覚えた彼女は、隣のベッドを見てみる。

巻雲がいなかった。

彼女のパジャマは脱ぎ捨てられており、制服が無くなっていたのだ。

 

(何処に………?)

 

もう消灯時間は過ぎている。

夕雲は素早く制服に着替えると、部屋を抜け出した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

廊下を彼女は静かに早歩きで進んでいく。

パジャマを着替えるというのだから、遠出をしている可能性が高い。

何か当てが無い物かと夕雲は考えたが………。

 

「何をしているのです?」

「きゃっ!」

 

突如後ろから掛けられた声に、夕雲は身を震わせる。

振り返ると、そこには嚮導艦の1人である雷が………いや違う。

よくよく見ると、茶色い長髪をアップヘアーにしている雷によく似た艦娘だ。

 

「確か………電さん?」

「暁型4番艦の電です。今日の当直を担当しています。夕雲さんですね。………巻雲さんを探しているのですか?」

「え?どうしてそれを?」

 

驚く夕雲に対し、電はクスリと笑うと優しい声で言う。

 

「………今日だけ特別ですよ?1つ先の曲がり角を曲がった廊下の窓が開いてあります。そこから出て、昼間使用した訓練海域へと向かってみて下さい。」

 

彼女の説明にまさかと思った夕雲は、電に頭を下げてお礼を言うと、言われた通りに窓から外に出て行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

夕雲が訓練海域に出ると、そこでは巻雲が艤装を付けながら抜錨し、練習用のポールをよけながら、必死に的当てをしていた。

 

「清霜ーーー!どうだったーーー!?」

「巻雲姉さん、命中率6割!昼間よりも良くなってるーーー!」

 

曲げられるだけ袖を曲げて手を振る巻雲に対し、清霜も手を振って応える。

見れば、2人だけでなく、高波と浜波も夜の海域で必死に訓練をしていた。

 

「清霜さん………。貴女達こんな時間に………。」

「うわっ!?夕雲姉さん!?って、もうバレたの!?」

 

長女夕雲の登場に、清霜は思いっきり驚く。

その声が隊内無線で通じたのか、他の3人も彼女の元へやってくる。

 

「夜間訓練の申し出をしていたのですね。」

「はい………夕方に長月さんにお願いして、こっそり申請書を作らせて貰ったんです。………その、最新鋭である夕雲型の足手纏いになるのはイヤでしたから。」

「巻雲さん………。」

 

早く実戦をこなしている姉達に追いつきたい………そう思ったのだろう。

その4人の想いを長月は了承してくれたのだ。

 

「高波は、なるべく………ううん、絶対に迷いたくないかも、じゃなくて迷いたくないですから!長月さんの言葉を胸に刻んで訓練をしているのかも、です!」

「あ、あたしも………!みっ、みんなを………守りたい………守れる艦娘になる………だから………だからっ!」

「私は過去例を見ない戦艦になれる駆逐艦を目指して!だから、その為に練度上昇を目指して、夕雲姉さん達にも負けない駆逐艦になります!!」

「高波さん、浜波さん、清霜さん………。」

 

訓練はウソを付かないと言ってのけた4人の姿を見て、夕雲は改めて長月に感謝をすると共に、自分を恥じた。

自慢の妹達は、こんなにも強い駆逐艦魂を持ち合わせているのだ。

この調子ならば、いずれ遠くない内に実戦にまで対応できるだろう。

それだけの意気込みがあると、夕雲は感じた。

 

「こんな私は………ネームシップとして、どうすればいいのでしょうね。」

「堂々と前を向いていて下さい!」

「え………?」

 

即答した巻雲の言葉に、夕雲は驚かされる。

彼女は今度こそ自信を持った笑顔で夕雲に言ってのけた。

 

「私達の自慢の姉さん達は、振り返らずに前を向いていて欲しいんです!」

「追いつくべき背中があるかも………じゃなくて、あるから!」

「あ、あたし達も………追いかけられる………から!」

「戦艦すら驚かせる駆逐艦魂をこれからも見せて下さい、私達に!」

 

巻雲に続いて言葉を発揮する夕雲型艦娘達の力強い姿。

それは夜の暗さの中でも太陽のように眩しかった。

 

「分かりました………。」

 

夕雲はその姿を見ると、自分に言い聞かせるように応える。

 

「私達は先に進んでいます。だから、早く追いついてきてくださいね!待ってるわ!」

 

夕雲はそうエールを送ると訓練を続ける巻雲達に手を振りながら駆逐艦寮へと戻っていく。

その足取りは巻雲達から何かを受け取ったように、どんどん力強くなっていた。

 

(まずは、明日もしっかりと初風さんの元で実戦をこなそう。)

 

夕雲の頭の中で、どんどん計画が練られていく。

 

(余裕があったら風雲さん達と相談して、夜間訓練と早朝訓練の申し出をしよう。………明日から忙しくなるわ!)

 

眩しい程のエネルギーを貰った夕雲は、廊下を歩きながら自然と右の拳を突き上げていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「そうか………。巻雲達だけでなく、夕雲も触発されたか。これは、姉妹全員に伝わるのも時間の問題だな。」

 

同時刻、夜の執務室にて、提督は秘書官の五月雨と共に書類と格闘をしながら、前に並んだ艦娘達を見ていた。

それは、夕雲達の嚮導を務める初風、深雪、雷、長月………更には、先程夕雲が出会った電も居た。

 

「余計な事をしましたか?」

「いや、むしろ礼を言わせてくれ。君には昔から世話になっている。」

「提督って電や五月雨のような、「初期艦」の面々には甘いわよね。」

 

笑みを浮かべる提督に対し、初風が彼への差し入れの菓子を摘まみながら、つまらなそうに言う。

初期艦というのは、最初に艦娘となった者達の事だ。

最初に艦娘を任された横須賀の提督にとっては一番馴染みの深い5人の駆逐艦であり、文字通り深海棲艦に対し、最初から戦って来た戦友だ。

吹雪、叢雲、漣、電、五月雨。

この5人は、横須賀鎮守府の中でも特殊な立ち位置だと言われている。

 

「悪いな、彼女達は俺にとっては特別なんだ。」

「………で、夕雲型には良い報告があったけど、深海棲艦の方はどうなってるの?私、あんな近海で重巡見かけた事無いわよ?」

 

初風が昼間の近海警備で出会ったリ級の事を改めて報告する。

そこらで出会う深海棲艦は、精々軽巡ホ級が旗艦になる事がたまにあったくらいだ。

だが、少しとはいえ、確実に深海棲艦の力が上がっている。

 

「勢力を増している………という報告は、呉や佐世保、舞鶴等からも聞いている。」

「対策は?」

「その為の強化訓練だ。」

「バカ提督………ここのメインは駆逐艦なのよ?いきなり訓練中の艦が、「姫」クラスや「鬼」クラスと遭遇したらどうするのよ?」

「それは俺も上に進言した。………だが、回答はこうだ。「駆逐艦等、腐るほどいるだろう」と。」

「あー、はいはい、そうですか………。」

 

もはやどうしようもないと言わんばかりに初風が菓子を握り潰して一気に口の中に放り込む。

上層部からしてみたら、駆逐艦等、使い捨てのコマなのだ。

現場で艦娘の魂を持って修練を積む者達を知らないからこそ言えるセリフだ。

それで、この場にいる者達が誰も激高しないのは、こういった報告が一度や二度では無いからだ。

 

「夕雲型にはまだ言うなよ。案外、殴り込みをしそうな娘が多々いそうだ。」

「それはそれで面白そうだがな。」

「………長月、提督をあまり困らせないであげて。」

「心配するな。ブラックジョークだよ、五月雨。」

「上層部はきっと、「私のような例」を恐れているのよ。」

 

意地の悪い笑みを浮かべていた長月は、五月雨の言葉に思わず咳払いをする。

彼女だけでなく、一瞬執務室の空気が凍った。

それを気にする事なく、五月雨は続ける。

 

「あんな事を知ったら、誰だって駆逐艦の事を恐れてしまうわ。だから………。」

「五月雨、ストップだ。」

 

深雪が珍しく真剣な表情で五月雨の言葉を止める。

そして、場の空気を変えるように言う。

 

「いざとなったら、深雪さま達も、「改二」使う必要があるかもな。………不完全な「改二」を。」

「そうね、夕雲型はみんないい子達だもの。………一人前になるまでは、私達が守ってあげなきゃ。」

 

深雪の言葉を雷が引き継ぐ。

それに応えるように、提督と熟練の艦娘達は頷いていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

数週間後、横須賀の岬から、初風率いる駆逐隊が抜錨する。

この頃には、深雪・雷・長月率いる夕雲型の駆逐隊も練度が向上しており、実戦形式の訓練もチラホラと取り入れていた。

全ては嚮導である彼女達の教えと、毎日時間外の自主練習を積極的に行った夕雲型の面々の努力の賜物であった。

中でも夕雲達の部隊は、重巡リ級だけでなく、戦艦ル級や正規空母ヲ級と対峙する事も出来るだけの力を身に着けていた。

 

「貴女達、成長が早くて助かるわ。陽炎姉さん達は、もっと苦労してたって聞くもの。」

「初風さん達の教えがいいからです。本当にありがとうございます。」

 

初風を旗艦として進んでいく駆逐隊は、夕雲・風雲・岸波・朝霜・長波という順番で海を進んでいく。

その先はいつもの通り嵐となっており、実戦を兼ねた訓練には絶好の場所であった。

只………。

 

「いつにも増して、暗いわね………。」

 

雨がポツポツと降り始めた中、初風は暗雲を見上げながら、一抹の不安を覚えていた。

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