大パニック。
そう、目の前の光景は正に大パニックである。
あちこちからキャーとかギャーとか悲鳴が聞こえてくるし、人々は秩序無く逃げ惑う。
まぁ、当たり前だろう。
何せ
かく言う俺もこの素晴らしいテーマパークにご来場の皆々様と同様にニギャーニギャーと悲鳴をあげて情けなくも逃げ惑っている。
この世界に転生してからはや22年。
チートもなければファンタジー成分も含まれていない身の上で、現代日本に産み落とされて普通に生きて普通に大学を卒業した。
んで友人に誘われるがまま卒業旅行に行ったらこれである。
「行き先はギリギリまで内緒のミステリーツアー風味だぜ!」
なんて言われて、それはそれで楽しそうだからと彼の趣向に乗っかったのが運の尽き…
行き先はイスラ・ヌブラル島。
世界で唯一の特別なサファリパークにして、遺伝子科学が生んだ奇跡と罪業のテーマパーク…『ジュラシック・ワールド』であった。
うん。
目的地が判明した時に前世で観た映画『ジュラシック・ワールド』の世界に転生したんだって初めて知りました。
映画のストーリーも1日だけだった筈だし、その場に居合わせる確率も低かろうとウキウキで参加するのではなかった。
だって、生きた恐竜とかメチャクチャ見たくない?
と、現実逃避をしたところで目の前の惨劇は俺の前から去ってくれない。
今もデカイ翼竜…プテラノドンに捕まってノォゥーとか白人のおっちゃんが空へと連れ去られたり、凶悪な面構えの翼竜…たしかディモルフォドンだったかに押し倒された誰かが悲鳴をあげている。
恐竜さんのスプラッタ&ワイルドなお食事風景があちこちで繰り広げられている中を逃げ惑っていると、ふとちょっとした広場に出た。
そこは小さい子向けのワクワク恐竜ふれあい広場的な物だった。
子供のトリケラトプスに鞍を着けてちびっこ達が騎乗…いや、小さくても恐竜なんだから騎竜と言うべきか。
俺も乗りたかったが子供だけが対象だったため断腸の思いで諦めたからよく覚えている。
いや、そうじゃない。そんなことはどうでもいい。
問題はトリケラトプスの上で子供が泣き叫んでいること。
そして、明らかにその子供を狙って
俺の体は反射的に動いていた。
一歩。
駆け出す。
二歩。
走る。
三歩目。
大地を踏みしめて跳躍。
「うぉりやぁぁぁぁ!!!」
俺は、子供目掛けて降下してきたディモルフォドンに体当たりを仕掛けていた。
きっと、運が良かったのだと思う。
前世からを含めて俺は、殴りあいの喧嘩なんてしたことは無かったし、別に体を鍛えたりもしていなかった。
だから、滑空する恐竜に、空中で仕掛けたタックルが命中したのは奇跡のようなもの。
だから、運が良かったのはここまでだ。
ビッと、頬に何か熱い物が走る。
翼竜の牙か爪か…鋭いものが俺の頬を抉った。
体当たりの勢いを殺せないまま俺は地面をゴロゴロと転がる。
回る視界に一瞬だけ、恐竜の上でキョトンとして泣き止んだ子供が映る。
良かった、あの子は無事だった。
咄嗟に動けて良かった。
縁もゆかりもない子だけど、目の前で子供が食われるのは絶対に見たくない。
とはいえ…
「まぁ、そうなるよなぁ。」
俺が体当たりをかました翼竜は、今度は俺を狙っている。
「ギャァ!ギァッ!」
威嚇するように、俺に向かって咆哮を上げる。
恐竜としては小さいサイズにもかかわらず、結構な迫力だ。
「フゥ………よっしゃぁ!来いやクソトカゲぇあぁぁおぁ!?」
次の瞬間、俺の体はふわりと空中に持ち上げられていた。
鋭い痛みが肩に走り、上を見れば食い込む鳥………否、プテラノドンの爪。
「ま、まさかのバックアタック…うわあぁぁ!?」
そこからは、断片的にしか意識がなかった。
急上昇する体。
眼下では先程の子供が誰かに助けられていた。
それに安心しつつも、プテラノドンに捕らえられ空中に上って行く。
肩に生じた鋭い痛み。
抗うようにじたばたと暴れていると、俺を捕らえていたプテラノドンが力を失い、重力に引かれて俺ごと墜落する。
下から流れる視界の端に、陣形をとってライフルを射撃する一団が見えた。
(あっ、あれは
俺の意識は深い茂みに墜落したことで喪われた。