俺は深夜に目を覚ました。
現代人らしく、手探りで探しだしたスマホの電源ボタンをいの一番に入れようとしたが反応が無い。
「電池切れ………そらそっか。」
昨日は長時間ライトを付けっばなしだったし仕方ない。
お手軽な光源として大活躍だったスマホはもはや物言わぬ板切れと化した。
目が完全に覚めてしまった。
だって、心が全然休まらないのですよ。
熟睡なんざ出来るわきゃぁない。
ニアバイ赤道の島とはいえ、夜は冷えるのに掛け布団なんてものがある筈もなく。
体を横たえた寝台が柔らかく包み込んでくれるような安心感を与えてくれる訳もなく。
もっと言えば、俺の服装は初の海外と言うことでテンションのおかしいままに買ったTシャツ&アロハシャツ。
そして、ジーンズ。
うん、ある意味正装だ。
マイアミとかだと正装なんじゃねーかな(偏見)?
ここらの人も笑って許してくれる筈。
じくじくと静かに痛む肩。
それを無視して立ち上がる。
快適なベッドでの安眠って、非常に文明的な贅沢なんだなぁって痛感した。
視界ゼロの真っ暗闇の中、俺は静かにゆっくりと医務室の扉を開けた。
荒れ放題にもかかわらず、ホテルのロビーは月明かりに照らされてどこか荘厳な雰囲気を放っていた。
無音。全くの無音だった。
警戒心を何処かに忘れて、導かれるように外へ出た。
そこで美しいものを見た。
100メートルほど先、月明かりの下で佇む傷だらけの恐竜。
傷だらけ。
大きな口の鋭い歯。
ゴツゴツとした肌に、鋭い爪と力強い脚。
知っている。
この島に訪れる者はきっと誰もが知っているだろう。
この島の頂点に立つ捕食者。
「………すご。」
月光に照らされた彼に、俺は見惚れた。
なんなら、喰われても良いとさえ思ってしまった。
もし、餌となり彼の血肉の一部になれるのなら、それはとても自然な事でありとても名誉な事なのではないかとまで思ってしまった。
その、王者の有り様に完全に呑まれてしまっていた。
彼は数秒ほどじっとしていたかと思うと、のしのしと歩き去っていった。
俺はというとその光景を目の当たりにして、呆けきっていた。
夜風に弄ばれた紙屑が、ガサリと音を立てたことではっと我に帰る。
「そうだよな。ここって恐竜が生きてるスゲー所じゃん。」
不安であった。
心細かった。
あのパニックが起きるまで自分はこの島を作り上げた人間という支配階級的な存在あった筈なのに、今では酷く矮小な存在に………食物連鎖のピラミッド、その最下層にたった一日で転げ落ちて居ることに絶望を感じていた。
だが………1分にも満たない、数秒の光景は、俺にとってまるで神話の一場面を目の当たりにしたような不思議な高揚感をもたらした。
「そうだよな。絶望的な状況だけど、楽しんじゃいけない訳じゃ無いよな。縮こまってビクビク生きなきゃいけない理由なんて無いよな。」
イスラ・ヌブラル島。
コスタリカ沖の絶海の孤島にして、太古の昔に滅んだ恐竜たちが闊歩する恐竜の
うん。生き残るとか何とか、シリアスに構えず、そこに間借りしてちょっと住まわせてもらう位の感覚が丁度良いんじゃないだろうか?
深夜、無音の中での頂点との邂逅。
それは、俺を少しだけこの島の住民にした。
翌朝。
結局、昨日は余り眠れなかった。
フラフラと夢遊病患者の様に医務室のベッドへと戻り、血塗れのシーツを抱きこんだは良いものの、昨夜の光景を忘れられず、眠れる訳もなく。
安眠とは言い難い眠るという行為を行った。
体は疲れ果ててるのに、テンションがマッハで良く眠れませんでしたと。
「み、みじゅ。水分………」
飲みかけのメリケンテイストのペットボトルから、毒々しい味と見た目のスポドリで喉を潤す。
スマホは相変わらず、電池切れで死んだまま。
食えるもの?何言ってるんすか、ははっ。チョコバーは昨日食べちゃったでしょ?
ぐぅぅぅ
情けなくも、俺の腹が空腹を訴えて悲鳴をあげた。
相変わらず、医務室は真っ暗である。
手探りで探し当てたスマホをポケットに、突っ込みそろりと扉まで静かに歩み寄る。
そっと開けてみれば、
きっとここには今、何も居ないのだろう。
「レ、レストランいく。オレ、めし、喰う。」
何となく一人寂しい片言原始人ごっこをして、俺はホテルのレストランを目指して探索を開始した。
フロントのカウンターには、ホテルの施設案内図が放置してあった。
「あ、一階に有るのねレストラン。」
ロビーから奥へと伸びる通路、その先にレストランがあるらしい。
僅かに日の光が照らす薄暗いホテル内を歩く。
自分の足音にさえ怯えながら、何とか到着。
警戒心をMaxにしながら、厨房にたどり着いた。
「………行くぞ。」
ゆっくりと扉を開ける。
少し顔を出してなかを見る………
そっと扉を閉めて、溜め息をついた。
知っている。あの特徴的なシルエットは知っている。
ディロフォサウルス。
毒を吐く驚異の肉食竜。
当たり前だけど、口が悪いって訳じゃない。
体内で作った毒を飛ばしてくるって、遠距離の攻撃手段を持ったビックリどっきり恐竜である。
もう既に食堂で何かしらの食糧を手に入れると言うか選択肢は、俺の中から消え失せていた。
自分よりデカイ恐竜に喧嘩を吹っ掛けて、安全を確保とか無理無茶無謀である。
まだ、チョコバーその辺に転がっている事を祈りつつ俺はホテルのエントランスに………いや、待て。
今チラッと目に映ったのは、セキュ、ガー………
セキュリティ!ガード!!
警備室じゃないか!?