思うに、このジュラシック・ワールドを作り出したインジェン社は割りととんでもない技術を持っている。
インドミナスレックス。
映画ジュラシック・ワールドのラスボス的存在。
そいつには色んな恐竜や他の生き物の遺伝子をぶちこんであって、その特徴を作った奴の思い通りに発現させていた。
それはひょっとして、人と猫の遺伝子を何か小難しくも良い感じに掛け合わせれば猫耳美少女が爆誕するという事ではなかろうか?
人と恐竜の遺伝子を良い感じにほにゃほにゃすれば、リザードマン的美女モン娘が産まれるのでは?
黒くてカサカサしてる奴と人間を掛け合わせて火星にロケットでぶちこめば、マーズもテラフォーミングされちゃうのでは?
「てか、絶対人間の遺伝子がぶちこんであるよね?ここの恐竜。妙に人間臭い所あるもん。」
さて、どうでも良い妄想はおいといて、只今ホテルの自室に向かっております。
2階にございます203号室、そこが俺と友人の部屋である。
真っ暗な非常階段を、マグライトの明かりを頼りに登っております。
いや、ホントこの明かりの有難いこと。
まぁ、それまでは気がつかなかった壁にベッタリ着いた血痕とか、転がっている人の指とかを見たときには若干後悔したけども。
カツンカツンと寂しげな足音を響かせながら、はい2階に到着。
扉をそっと開けて、周囲を確認する。
………大丈夫っぽいかな?
「クリア。」
誰かに伝える必要も無いのに、ポツリとちょっと格好つけて呟いた。
気分はなんちゃってSWAT。
………いや、静か過ぎて寂しいんです。
静かな空間に一人で居ると、人間って独り言が増えると言う豆知識。
いつか誰かの役に立つといいなぁ。
「………ただいま。」
非常階段からホテルの自室まで、幸運な事に肉食竜にも人だった物の一部にも会うことはなかった。
そっと、部屋の扉を開ける。
実は少し怖い。
この部屋は、一緒に
もしも、友人の物言わぬ骸が部屋にあったらどうしようという恐怖に襲われた。
けれども、俺の友人はしっかりした奴だった。
俺が知っているよりもはるかに。
すまん、先に行く
無事でいろ
また会おう
壁に大きく書かれたメッセージ。
部屋に荒らされた様子は無い。
きっと大丈夫。
アイツは要領が良いから、ちゃんと避難できてる。
その筈だ。
すぅっと、深呼吸をしてから扉を閉める。
チェーンロックもかけておく。
カードキーは電源が落ちて無用の長物になったみたいだ。
部屋のクロークに仕舞った、旅行鞄。
その中から必要になりそうなものをピックアップする。
アロハシャツ、要らない。
下着………要る。
ソーラー充電式のスマホのバッテリー………うーん、要る。
資格取得の為の参考書………何で俺は旅行先にこんなもん持ってきたんだ。要らん。
予備の現金………要らん。
歯ブラシ………要らん………ホントに?やっぱり持っていく事にしよう、チョコバーで口の中も気持ち悪いしね。
ガイドブック『ジュラシック・ワールドを120%楽しもう!』………要ら………いや、これ要るわ。日本語でパークの説明があるし、内容の半分使って園に居る恐竜の解説をしている。謂わばガイドブックプラスの恐竜図鑑。持ってこう。
取り敢えず、俺が持ってきた荷物の中で必要な物の選別は終わった。
メッセンジャーバッグとポケットに色々とめぼしい物を入れた。
こんなことになるなら、デカいリュックサックを持ってくるべきだったかな。
ジュースが結構スペースをとってる。液体は嵩張るんやなぁって。
ベッドの脇にタバコが落ちているのに気が付いた。
友人が吸っていた銘柄だ。白に赤い丸が目印の奴。
何となく中身を咥えて、警備室から持ってきたライターで火を着けた。
「ヴぇっへ!がっは!!ゲホッゲッほ!!!」
凄い噎せる。
それでも、もう一吸い。
「ゲホッ……あ゛ー」
前の人生では喫煙者だったが、今生では非喫煙者で通していた。
実に22年ぶりのタバコである。
身体がタバコに驚いて噎せた。
あぁ、そうそう。
前も初めて吸ったときはこんな感じだった気がする。
ここのホテルは全館禁煙だったが、人が消えた今は良かろう?
ちゃんと吸ったり、時に噎せたりしながら一本をゆっくり吸い終える。
バスルームに入る。洗面台に僅かに残った水滴をタバコに吸わせて立ち上がる。
ベッドルームへと出て、ぼへっと大きなガラス張りの窓から外を見る。
モノレールの駅へと続く、今は誰一人居ないメインストリート。
あぁ、もののあわれであるなぁ。
「夏草や つわもの供が………って感じかな?ちょっと違うか。」
窓の外を見ながら古戦場に思いを馳せていると、空に浮かぶ黒点に気が付いた。
そいつは、みるみる間に大きくなり………
「おまっ!マジかよ!!ふざけんな!!!」
ガシャァァン