悪魔姫と魔槍騎士 作:松山主水末吉
【1】
夜の八時。
木倉勇一はジャージに着替えると、キッチンで洗い物を(裸エプロンで)しているリアスに、声を掛けた。
「部長。ちょっとその辺走ってきます」
「あら、それじゃあついでにおつかい頼めるかしら。コンビニで牛乳買ってきてくれる?」
「うっす」
「ありがとう勇一。お金出すからちょっと待ってて?」
リアスは一旦寝室に引っ込み、バッグの財布から千円札を取り出し、玄関で待つ勇一に手渡した。
「お釣りはお駄賃としてあなたにあげるから、好きな物を買っていいわよ」
「あざっす」
「寄り道しないで、早く帰ってくるのよ? 気を付けてね」
千円札をポケットに突っ込む勇一の頬に、リアスはチュッとキスをした。
本当は唇にしてあげたいところだが、そうすると自分を抑えきれずその場で勇一を押し倒して裸に剥いてしまいそうなので、我慢した。
その代わり、帰ったら思う存分、小柄ながらも鍛えられた肉体を楽しもうと思った。
マンションを出た勇一は、住宅街を抜けて市街地に出る。
槍術の道場が閉鎖されてからはサボっていたため、体力も落ちている。それを実感した。
公園まで来ると、そこのベンチに座って休憩を取る。
そこへ兵藤一誠もやって来た。
「ようチビ。走り込みか?」
「まぁな」
「俺もだ。でも俺、思ったより体力あるみたいだな。結構走ったのに、全然疲れねえんだ」
言いながら、勇一の隣に腰を下ろす。
「部長の話だと、悪魔になると夜は調子が出るらしいからな。そのせいだろ」
「そういやそんな事言ってたな……逆に昼間はちょっと体が重くなるんだけど……」
「そりゃ悪魔だから、太陽の光はきついだろ。部長はそのうち慣れるって言ってたし、実際平気そうだろ?」
「あー、確かに……なぁ、チビ」
一誠が険しい表情で、勇一に顔を近付ける。
「──お前、部長と付き合ってるのか?」
「いきなり何だよ」
「だってお前と部長が手ぇ繋いで学校に来るとこ何回も見掛けるし、部長はやたらお前にベタベタしてるし、俺たちが部活で出払ってる時もお前と部長は部室に残ってるし! どう考えても怪しいだろ!」
「うーん……」
勇一は、どう答えたものか迷った。
はっきりと告白し合った訳ではないが、お互い深く強く思い合っている。リアスははっきりと好意を口にした。毎日睦み合い、一緒にお風呂に入って、ベッドで裸身を絡ませ合っている。付き合ってる、愛し合ってると言えるだろう。
問題は一誠だ。
聞けば悪魔と敵対している種族『堕天使』が、『天野夕麻』なる偽名で嘘の告白をして接近し、すっかり舞い上がった一誠は初デートの最中に殺されたらしい。同情に値する顛末だ。恋愛絡みで何かしらトラウマを抱いてしまってもおかしくはない。
──が、その一誠の方から切り出してきた話題である。
それに、一誠がリアスに変な可能性を感じてちょっかい掛けてくるのも不愉快だ。この際、釘を刺す意味でも言っておくべきか……リアスには、帰ってから説明すればいい。
「まぁ、だいたいお前が察してる通りだよ」
「やっぱり部活の間、部室で部長とエロい事してたのかこの野郎!」
「違う、そっちじゃない」
呆れつつも、『してない』とは否定出来ない勇一であった……。
「でも、何でお前みたいなチビと部長が……どういう経緯でそうなったんだ?」
「ああ、春休みの時に──あぶねっ!」
勇一はいきなり立ち上がり、一誠の胸元にドロップキックを叩き込み、自身もその反動でその場から飛び退いた。
二人の中間辺りの空間に何かが飛んできて、ベンチの背もたれを破壊する。それは、槍だった。ただし、穂先から柄尻まで、全てが光で構成されている。それが実体を持つ凶器のように、背もたれを砕いたのだ。勇一の行動がなければ、二人のうちどちらかは重傷を負っていただろう。
二人が、槍が飛んできた方向に目をやると、外灯の上に女が一人、立っていた。
髪の長い女で、メリハリの効いたプロポーションにスーツを着ている。下はタイトなミニスカートで、スラリと伸びた肉感的な曲線を描く生足にハイヒール。月光に照らされて、背広の襟元から深い胸の谷間が覗いていた。
「奴はレイナーレ様が殺したはずだが……まさか悪魔に転生していたとはな」
女はポツリとつぶやく。
聞かせるつもりのない呟きだったが、悪魔に転生して強化された一誠の聴力は、それを耳聡く聞き取った。
「殺した……って、俺の事か?」
そう理解した一誠は、フラリと前に出た。
「レイナーレって、夕麻ちゃんの事か? お前、夕麻ちゃんの知り合いなのか? 夕麻ちゃんは今どこにいるんだよ!」
「答える義理も義務もない」
女が手を頭上にかざすと、その手の中から光が生まれ、槍を形作った。
「今度こそ死ね!」
そして放たれる第二擊。
それを打ち払ったのは、勇一であった。
手には鎧の魔槍が握られている。この武器は主と常に繋がっており、主の意思によって、或いは自らの意思で、主の元へ駆けつける。そのような術式を、勇一に授ける際にリアスの父ジオティクスが施しておいてくれたのだ。
「
勇一は両手で握った鎧の魔槍を正面に立てて、呪文を唱える。
物々しい形の穂先が光を放ち、鎧に変化して、勇一の身体を包み込んだ。
勇一は一誠を庇うようにしてその前に立ち、外灯の上に立つ女に槍を突き付けた。
「お前、何者だ! コイツはこの町を管理してるリアス・グレモリー様の眷属だぞ!」
「ほう……あのリアス・グレモリーが眷属に迎えるとは、やはり
女は両手に一本ずつ、光の槍を生み出す。
「貴様こそ何者だ、坊や。ただの人間のようだが、何故悪魔に加担する?」
「一応仲間だしな。そうでなくとも、目の前で殺されそうになってる奴をほっとけるか!」
「なるほど。くだらん正義感で死ぬタイプか……放っておけないというのなら、せめてもの情けだ。一緒に死ね!」
女が、外灯から跳躍した。
同時に、その背中から漆黒の翼が広がる。だがそれはコウモリに似た悪魔の羽とは違う。カラスのような鳥の翼と同じ形だった。
闇夜に舞う大鴉めいて、女は飛翔して二人の真上に来ると、手中の槍を投げつける。
それを横薙ぎに叩き落とすものがあった。
勇一の左腕の盾だ。左右についている刃が伸びて、ブーメランとなって槍を叩き落としたのだ。
勇一は盾を投擲した直後に、次の攻撃に移っていた。
槍自身も、ある程度長さを変える事が出来る。五メートル近くにまで伸びた槍を、勇一は女目掛けて振り抜いた。
菱形の刃が月光を受けてギラリと光り、女の胸元に銀色の軌跡を描く──が、その一撃は、切っ先が背広の前を切り裂くにとどまった。
勇一の中に、まだ躊躇いがあった。
はぐれ悪魔のクリードやバイサーのような怪物じみた見た目ならともかく、背中から黒翼を広げた以外普通の人間と変わらないこの女に槍を振るうのは、躊躇われたのだ。その躊躇いが、踏み込みを浅くした。間合いを実際よりも近くに見誤らせた。
女は翼をはためかせて、更に高度を取る。
切られた背広がその拍子に広がって、その下の白い胸をあらわにさせた。この女、下にインナーウェアどころか下着すら着けていなかったらしい。勇一の後ろで一誠が、その丸出しになった豊かな膨らみを少しでも目に焼き付けようと、大きく目を見開いていた。
女はその視線を胸元で感じて、眉間に小さくシワを寄せた。
新たに光の槍を次々と生み出して、投擲する。
勇一はそれを槍で払い落としながら、一誠を連れて公衆トイレの裏に逃げ込む。その途中で、槍を打ち落とした後地面に突き刺さっていた盾も回収した。
「おいチビ。こんなとこに隠れても意味ねーだろ。あのオネーサン空飛べるんだぞ」
「植え込みの木が邪魔して、そう簡単には攻撃出来ねーよ」
実際、勇一の言う通り攻撃は止んでいた。敷地の外周を囲むフェンスに沿って植えられた木々の枝が伸びていて、トイレの屋根にまで掛かっているため、空からでは二人を捕捉しにくいのだろう。
「それより兵藤。《
「どうすんだよ?」
「俺の武器じゃ空飛ぶ奴には分が悪い。時間を稼いでやるから、お前が魔力ビームぶっぱなしてやっつけろ」
「無茶言うな! 俺の魔力はへなちょこ過ぎて、召喚魔法陣での移動も出来ねえんだぞ!」
「だから《
──たぶんな!
心の中でそう付け加えた。
とは言え、現状あの女の脅威は、弾数無制限の飛び道具と飛行能力くらいだ。一分間くらいなら時間稼ぎも出来るだろうし、一誠の倍加した魔力での撃退も可能だろう。そう判断した。
「……よし、やるか!」
一誠も同じように考えたのだろう。
左拳をグッと握った。
「出ろ! 《
呼び掛けに答えるように、一誠の左腕から光が生まれ、刺々しい外見の籠手が現れた。燃えるような赤に彩られたこの防具こそ、一誠に宿る異能の器──そして、一誠が一度はその命を落とす原因にもなった──
「頼むぜ、兵藤!」
勇一はトイレの壁に設置された
すかさず槍が飛んでくるが、盾で受け止める。
更に立て続けに飛んでくる槍を打ち払い、攻撃の間隙を突いて、反撃した。
槍の伸縮機能をフルに使っても、やはり自在に空を飛べる相手には届かない。しかし女の光の槍は射程距離が短いのか、勇一の槍をかわした後、わずかながら間合いを詰めてから攻撃してくる。そうやって間合いを調整する分、時間を稼げた。
女は、人間の小僧一人倒せない事に苛立ち、知らず知らず一誠の存在を忘れて、勇一に集中し始めていた。
勇一は女の攻撃を捌き、届かぬとわかってなお反撃しつつ、『Boost』という音声が間隔を置いて響いてくるのを聞き取っていた。それは一誠が《
「うおおおっ! くらいやがれぇえええっ!」
『Explosion!』
赤い籠手から音声が響き、一誠は手中に生まれたゴルフボールほどの大きさの魔力弾を、上空の女目掛けて投げつけた。
最初その小ささに呆れかけた勇一だったが、魔力弾がすぐに人間一人呑み込めそうなほどの大きさに膨れ上がったのを見て、「うおっ……」と小さく呻いた。
巨大化した魔力弾はそのまま女を直撃し、爆発。辺りに目映い光を放ちながら、着ているスーツを千々に引き裂き、弾き飛ばしていく。
閃光が収まると、着衣を消し飛ばされた女がその裸身を、あらわにしていた。白い肌が月光に照らされて、夜空に映える。
「くっ……これほどとは……!」
全裸を隠しもせず、女──堕天使カラワーナ──は、空中で呻く。
(レイナーレ様が奴を殺したのが、二週間前だった……悪魔に転生してから能力に目覚めたとしても、その二週間程度で、これだけの魔力弾を撃てるようになるとは……!)
分が悪い。
そう感じた。
ただ服を消し飛ばされたのみならず、着弾の衝撃が全身に響いていた。
あの槍使いの坊やと連携されると、不覚を取りかねない。
「覚えておけ!」
そんな捨て台詞を残して、カラワーナは黒い翼を羽ばたかせて、その場から飛び去った。
「ありがとうございましたぁっ!」
一誠がその後ろ姿に向かって、深々と頭を垂れる。
(コイツ、自分を殺そうとした女でも、裸が見られたらそれでいいのか……?)
ちょっと引いてしまう勇一であった。
【2】
一誠と別れて帰宅した勇一は、バスルームでリアスに体を洗ってもらいながら、帰りが遅くなった理由を話した。
「そうだったの……無事で良かったわ。それに、一誠を守ってよく戦い抜いたわね……とても立派よ、勇一」
勇一の体を洗い終わった後、一緒にバスタブに入り、後ろから抱き締めるようにして湯に浸かりながら、リアスは少年の健闘を讃えた。
「それで兵藤の話だと、その女はアイツを殺したのとは違う堕天使みたいで……」
「複数の堕天使が、駒王町に潜入しているという事? でも変ね。一誠が狙いなら、彼女たちの目的は、少なくとも彼女たちの視点では果たされたのだから、いつまでも潜伏しておく理由なんてないはずだし……この町で、他に何か良からぬ事でも企んでいるのかしら……」
リアスは熟考しながら、勇一の身体を愛撫し始めた。
最初は胸板をまさぐっていた手が、腹部のシックスパックを撫で回し、そして何の躊躇いもなく、当たり前のように、更に下へと下降して湯の中に潜り、妖しくうごめき始めた。
勇一はリアスに後ろから抱き締められる形で、彼女の腕の中で小さく身悶えする。
「まぁその辺はグレモリー家の調査員を使って調べてみましょう。部活もしばらくはお休みにするわ」
「だ、堕天使って、そんなに、ヤバいんですか?」
「堕天使や天使の操る光は、私たち悪魔にとっては猛毒なの。浅い一撃でも命取りになりかねないわ。攻撃力だって普通にあるから、人間のあなたでも同じ事よ……あなたの身に何かあったらと思うと、私どうにかなってしまいそう……」
湯の中で両手をうごめかせながら、リアスは言う。
「あ、あの……いつまでも変なとこ、いじらないでほしいんですけど……」
「あら、そんな言い方をするものではないわよ、勇一……男の子の大切なところでしょう? それに、あなたの身体はこんなにも喜んでるじゃない……ああ、本当に可愛いわ勇一……もっと私の手で感じさせてあげる……」
湯の中で、リアスの手の動きが激しくなる。
そして、自分の腕の中で少年が更に身悶えするのを、幸せな気持ちで見詰めていた。
【3】
「あら一誠。こんな所で何をしているの?」
勇一と一誠が堕天使カラワーナの襲撃を退けてから三日後。
旧校舎を訪れたリアスは、ジャージ姿の一誠が玄関前の空き地で腕立て伏せをやっているのを見掛けた。
「あれ、部長。部活は休みなんじゃないんですか?」
声を掛けられて、一誠は腕立て伏せを中断して立ち上がった。
「ええ。体育で汗をかいちゃったから、部室でシャワーを浴びようと思って。あなたはどうしたの?」
「見ての通り、トレーニングです。俺が生きてるってのがバレたから、また堕天使が襲ってくるんじゃないかと思って、その時に備えてちょっとでも力付けとかないと……」
「そうね。でも筋トレならお家でも出来るでしょう? 堕天使は日光が苦手という訳ではないけれど、それでも白昼堂々襲うような真似はしないわ。明るいうちに早く帰宅するのも、護身術の一つよ?」
「うーん、確かに……わかりました。それじゃ、俺はお先に失礼します」
一誠が納得した様子を見せて、リアスは内心ホッとした。
汗をかいたのでシャワーを浴びに来たのは事実だが、一人ではない。勇一も呼んである。シャワーを浴びてサッパリした後、そのまま存分に睦み合う予定なのだ。
「──ところで、部長。前から聞きたい事があったんですけど」
「あら、なぁに?」
「部長は毎朝チビと手を繋いで学校に来てるし、俺たちが部活で出払ってる時も二人で部室に残ってるし……もしかして、チビと付き合ってるんですか?」
「ええ、そうよ?」
リアスはあっさりと即答した。
(チビのハッタリじゃなかったのか……ッッ!)
わずかに残っていた可能性を打ち砕かれて、一誠は思わずその場にうずくまった。
「ど、どうしたの一誠? どこか痛いの?」
「はい、心が……っ!」
と言われても、リアスには何の事やらさっぱりである。
「あの……それじゃあ、チビとはどこまで行ってるんですか? やっぱりキスとかしたりおっぱい揉ませたりとかふがふがっ!」
一誠の言葉を遮るように、リアスは彼の頬をつねり上げた。
「あのね一誠、そこまで踏み込んだ質問をするのは立派なセクハラよ?」
「ふ、
「それともなぁに? 私と勇一は毎日最低三回はエッチしてる──とか、そういう話が聞きたいのかしら?」
「うぁあああっ! やめて、聞きたくない! そんな邪悪な日本語は聞きたくなぁぁあああいっ!」
一誠は両耳を手で押さえて、首をブンブン振った。目には涙さえ浮かべている。
「他人を羨ましがってる暇があったら、あなたも女の子に好かれる努力をなさい。せっかく一度死んだのだから、本当に別人に生まれ変わったつもりで頑張れば、あなたにだって彼女が出来るはずよ。見た目はそんなに悪くないのだから」
そう言って旧校舎に入っていくリアスの頬が、少し赤らんでいた。
はぐれ悪魔クリードを討伐した夜、勇一を慰めて奮い立たせるために、リアスはぎこちないながらも自分の肉体を捧げた。それ以来、逆にリアスの方が勇一の肉体に耽溺している始末なのだ。
それはそれとして、一誠の取り乱しようにはちょっぴり引いた。
(同棲してるなんて言ったら、あの子自殺してたのではないかしら……)
そんな事を考えながら部室に入ると、隅のシャワールームのバスタブに湯を張る。
その間に、一階の奥にある保健室を改装した仮眠室の鍵を開けて、昼休みに勇一と一緒に使ったベッドのシーツの乱れを整える。
そして部室に戻ろうとしたところで、勇一と鉢合わせた。
「勇一っ!」
リアスは少年の姿を見るなり駆け寄り、思いっきり抱き締めて、顔中にキスの雨を降らせる。
「会いたかったわ、勇一……」
「昼休みにここで会ったばかりですけど……」
「それでもとても寂しかったわ……さぁいらっしゃい? 一緒にシャワーを浴びて、それからお昼休みの続きよ」
「……うっす」
勇一は頬を赤らめ、うつむきながら返事をする。
その仕草がたまらなく可愛らしくて、リアスは部室に入るのも待ちきれず、その場で少年を脱がしに掛かるのだった。
【4】
その頃一誠は、リアスと勇一が付き合っているという残酷な現実を突き付けられ、意気消沈していた。
家路につく足取りも、いつになく重く感じる。
公園のベンチで休憩していると、
「はわっ?」
と、すっとんきょうな声が聞こえてきた。
思わず振り向くと、女の子が倒れている。
ストレートロングの金髪を日光に輝かせたその少女は、転んだ拍子に荷物もぶちまけていた。
「大丈夫?」
一誠は思わず駆け寄り、助け起こしてやる。
「はう……ありがとうございます……」
少女は感謝の言葉を述べながら、自分の荷物を拾い始めた。一誠も手伝ってやる。
(……あれ?)
ふと一誠は、違和感を覚えた。
ゆったりとした服装のこの少女、見たところ外国人のようだ。しかしたった今、流暢な日本語で礼を言った。
(日本語上手いな、この子……)
最初はそんな風にしか思わなかったが、彼女が自分の事情を語り始めて、そうではないとわかった。
アーシア・アルジェントと名乗ったこの少女はシスターで、駒王町にある教会に赴任する事になったのだが、道に迷った上に言葉もわからず困っていたと言う。
しかし一誠には、彼女の言葉は全て日本語に聞こえるのだ。
(そう言えば部長が言ってたな、悪魔になると言語関係なく言葉が通じるようになるって)
リアスからのレクチャーを思い出して、改めて悪魔という種族の凄さを思い知った。
(でも、教会に赴任って……)
一誠の知る限り、町内の教会といえば一つしかない。だがそこは何年も前に閉鎖され、心霊スポットとして噂された事もあったほどだ。
「あそこ、また開業したのか?」
思わず声に出た。
「知ってるのですか?」
一誠の呟きに、アーシアが食いつく。
「でしたら、案内してもらえないでしょうか」
「うーん……」
一誠は迷った。
アーシアはこうして見ると、とても愛らしい少女だ。一つ良いところを見せて格好をつけたいのは山々だが、今の自分は悪魔である。リアスや朱乃から、教会や神社などの神聖な場所へは近付くなと厳しく言われている。その場所に宿る神聖な力は悪魔にとって有害であり、そういった場所は大抵が悪魔に敵対する勢力の拠点である事も多く、警告もなしに攻撃される事すらあるという。
(でもまぁ、近くまでなら……)
建物が視界に入らない範囲でなら問題あるまい。
アーシアに良い顔をしたい下心から、そう考えた一誠は、道案内する事に決めたのだった──。