悪魔姫と魔槍騎士   作:松山主水末吉

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何か出た第五話

【1】

 

「──それで、あとは角を曲がって道なりに進めば見えてくるって辺りでその娘と別れて引き返しました。途中で駄菓子屋見付けたんで立ち寄って、そこのおばちゃんに教会の事聞いてみたんですけど、やっぱり何年も前から閉鎖されたまんまだそうです」

 

 アーシア・アルジェントと出会った次の日、一誠は朝から部室に呼び出され、教会のシスターと一緒に歩いていた理由を問い質された。

 堕天使の動向を探るために教会の周辺を監視していたグレモリー家の調査員が彼の姿を見掛け、リアスに報告したようだ。

 

「まぁそんな事だろうとは思っていたわ。迂闊に教会に近付かなかったのは良い判断ね」

 

 リアスはそう言った。

 

「でも部長。なんで悪魔が管理してる町に教会なんてあるんですか?」

「この町が出来た時から管理していた訳ではないから、教会が建てられた理由としては『そんな事もある』としか言えないわね。でも、取り壊さない理由ならわかるわ。要するに囮よ」

「おとり?」

「前にも言ったように、教会や神社のような聖域には、悪魔は近付く事すら出来ないの。だから天使や堕天使が侵入すれば、必ずその教会を拠点にするはずでしょう? 変に地下に潜られたり市井に紛れ込まれるより、動向を掴みやすくなるから、敢えて放置してあるの」

「なるほど~……」

「そのアーシアというシスターについても調べてみるわ。あなたは今後もそのシスターや教会には絶対に近付かないように。良いわね?」

 

 リアスは釘を差して、一誠を下がらせた。

 言われるまでもなく、一誠も教会に近付こうなどとは思ってもいない。何せ曲がり角の向こうからでも聖なる波動を感じて、足がすくみかけたほどだ。

 

(でも、あの娘は可愛かったよなぁ……おっぱいも結構大きかったし……)

 

 リアスや朱乃のようなド迫力サイズとまではいかないが、一誠の好みのラインに充分到達していた。その豊かな胸元と、あどけない顔立ちや幼さの残る仕草とのギャップも実に良い。

 

(教会のシスターじゃなかったら、付き合えるんだけどなぁ~……)

 

 一誠は重い溜め息をつかずにはいられなかった。

 

【2】

 

 数日後。

 リアスは部室でソファに足を組んで座り、部員たちと向き合っていた。

 側近たる《女王(クイーン)》の朱乃だけは、彼女の背後に控えている。

 

「この前話した、一誠と接触したシスターについて、色々とわかったわ」

 

 言いながらリアスが足を組み換えた瞬間、勇一は思わずヒヤリとした。

 何故なら、今リアスは下着を着けてないからである。

 そして、何故勇一がそれを知っているのかと言えば、部員に召集を掛ける前まで、旧校舎内の保健室に彼女と二人きりだったからだ。リアスの下着は今、そこのベッドの、乱れたままのシーツの上に置かれてある。

 

「アーシア・アルジェント。回復系の神器(セイクリッド・ギア)の所有者で、その力で負傷者の治療を行っていたため『癒しの聖女』として讃えられていたようね。だけど一年前、教会の敷地内に侵入した悪魔の傷を癒したために、教会を追放されたらしいわ」

「そんなっ……!」

 

 一誠が思わず声を上げた。

 

「……可哀想な話だけれど、その悪魔の侵入や逃亡の際に、教会のエクソシストが何人か負傷し、死者まで出たそうよ。それを鑑みれば、追放処分はむしろ恩情措置とさえ言えるわ」

「追放されたという事は、そのシスターに天使は関わってはいないという事ですか?」

 

 祐斗が質問する。

 

「そうね。追放処分の撤回なんて、教皇からの恩赦でも出ない限りまず有り得ないし、行く宛もなくさまよっていたところを堕天使に拾われた──と見るべきでしょう。その堕天使がこの町に複数侵入し、更には癒しの力を持つシスターまで呼び寄せる……ギャスパーからの報告によると、はぐれエクソシストも何人か町内に侵入してるようね。さすがに戦争を仕掛けるつもりはないでしょうけれど、みんな、もうしばらくは身の回りには気を付けてちょうだい──特に一誠」

「は、はい!」

 

 リアスの凄味のある声色に、一誠はすくみ上がった。

 

「私が釘を差しておいたのに、またあのシスターと会ったそうね」

「あ、あれは、たまたま出会っただけと言うか……そ、それに、上手く近付いて情報を引き出してやろうと思いまして……」

 

 しどろもどろに答える。

 昨日、町中でアーシアと再会した一誠は、町内を案内してあげたのだ。

 その時に、彼女の持つ神器(セイクリッド・ギア)の力も目の当たりにした。公園で休憩している時に、転んで泣いている男の子の怪我を治してやったのだ。かざした右手の中指に光と共に顕現した指輪から放たれる、緑色の柔らかな光が、早回し映像めいてたちまちの内に男の子の膝の擦り傷を完治させてしまった。

 その直後、男の子の母親が駆け寄り、子供をアーシアから引き離して逃げるように去っていった。

 礼も言わないその態度に頭に来た一誠だったが、アーシアは笑っていた。

 

「知らない外国人が子供に近寄れば、警戒するのは当然です。むしろあの子がお母さんに愛されてる証拠ですよ」

 

 とまで言った。

 その優しさに、一誠は感激したものである。

 

「──まぁ、そういう事にしておきましょう。けれど、改めて言っておきます。二度とあのシスターには近付かないように。わかったわね?」

「はイッ!」

 

 鋼鉄のような暗く冷たい眼差しで睨まれて、一誠は半ば裏返った声になった。

 

「ところで部長」

 

 勇一が小さく手を上げる。

 

「なぁに、勇一」

 

 途端にリアスの雰囲気が柔らかくなった。その変わり身の早さに、一誠はおろか他の眷属たちまで驚く始末だ。

 

「今言ったギャスパーさんって、ひょっとして例の一年生ですか?」

「ええ、そうよ。僧侶(ビショップ)のギャスパー・ヴラディ。スマホやパソコン等のネット回線を通してたくさんの契約を結んでいる、新鋭悪魔の眷属全体で見ても、上位の稼ぎ頭なの。彼が町内の防犯カメラをハッキングして、侵入者を見付けたのよ」

 

 リアスは自慢気に説明する。

 

「今の一件が落ち着いたら、あなたと一誠にも紹介してあげるわね。それじゃあみんな、気を付けて帰るのよ?」

 

 それでこの場は解散となった。

 

【3】

 

 その日、勇一は一誠の護衛も兼ねて、一緒に帰る事にした。木場祐斗も一緒だ。

 雑談の話題が、キャラクターを操作して無数に押し寄せてくる敵を薙ぎ払っていく、いわゆる無双ゲームに移り、そこから更に『戦国武将で最強は誰か?』へと移行する。

 

「最強と言っても、何を以て最強と呼ぶかにもよるよね……合戦の勝率で言うなら、僕は最高勝率を誇る長尾景虎を推したいけど……」

 

 と、最初に祐斗が候補を挙げる。

 

「一騎討ちの強さなら、俺は断然、本多平八郎忠勝を推すね。何度も一番槍を務めたのに怪我ひとつしなかった不死身の男だぜ」

 

 勇一はそう答えた。

 

「イッセーくんは?」

 

 祐斗が話題を振るが、一誠は足を止めて、あらぬ方向を見ていた。

 

「どした? お化けでもいたのか?」

「夕麻ちゃん……」

 

 勇一の問いにも答えずにポツリと呟くと、突然走り出す。

 

「おい兵藤!」

「イッセーくん、一人になっちゃダメだ!」

 

 勇一と祐斗も、それを追って駆け出した。

 

「夕麻ちゃん! 待ってくれ夕麻ちゃん! 俺だ、イッセーだよ!」

 

 一誠はそう叫びながら、何かを追うように走り続ける。

 そして人気のない、やけに静かな公園にたどり着いた。一誠には見覚えのある公園だ。

 

「ここは、確か……」

「そう。私たちがデートした場所よ、イッセーくん」

 

 答えたのは、長い黒髪の少女。

 胸元が大きく開いた、藤色のブラウス。

 黒のフレアミニスカート。

 

 天野夕麻。

 

 一誠に告白してきた少女。

 そして、初めてのデートの日の夕方、その本性を現して一度は一誠を殺した堕天使。

 その忌まわしい運命の日と全く同じ服装で、堕天使は一誠の前に再び姿を現した。

 

「ゆ……夕麻ちゃん……」

「久しぶりね、イッセーくん……元気そうで何だかガッカリだわ……」

「えっ?」

「だって死んでほしいってお願いしたのに、まだ死んでないんだもの。それどころか悪魔に転生してたなんてあんまりだわ」

「いや、でも、あれは」

「ううん、いいの。怒ってなんかないわ。あれは私がいけなかったのよ。だってまだキスもしてなかったんだもの。何のお礼もせずにただ言うこと聞いてもらおうなんて、虫が良すぎるわよね」

 

 天野夕麻はそう言って歩み寄り、一誠の手を取った。

 そしてブラウスの襟口から、一誠の手をその中に潜らせる。一誠の掌に、吸い付くような柔らかな感触が広がった。

 ほんのりと漂う香水の香りが、一誠の嗅覚を妖しくくすぐった。

 

「どう? デートの時もイッセーくんったらずーっと私のお胸ばかり、物欲しそうな目で見てたわよね? 欲しくて欲しくてたまらなかった、私のおっぱい、好きなだけモミモミしてね……イッセーくんのために──とっても恥ずかしいけど──今日は、ノーブラで来たの」

 

 ほら、と夕麻はブラウスの襟を引っ張る。その陰から、桜色がチラリと見えた。

 夕麻は一誠のもう一方の手も自分の胸元に潜り込ませ、その上に自分の手を重ねて揉ませる。

 一誠は目の前の相手がつい最近自分を殺した相手である事も忘れて、自ら無我夢中で揉み始めた。

 しかし表情は半ば虚ろだった。

 それもそのはずで、一誠は天野夕麻こと堕天使レイナーレの、香水を使った魅了の術に掛かっているのである。

 

「ふふっ、すっかりおっぱいに夢中ね……可愛い……」

 

 夕麻は胸を揉まれながら、一誠の両頬を撫で、ゆっくりと唇を重ね合わせた。

 舌がニュルリと一誠の口腔内に潜り込み、一誠の舌に絡み付いてくる。

 クチュクチュと音を立てて、胸を揉まれながら唇をついばみ、舌を貪った後、唾液の糸を引いて夕麻は唇を離した。

 

「ねぇイッセーくん……今度こそ、私のお願い聞いてくれるわよね? 今度こそ──死んでちょうだい」

 

 夕麻の右手に光が生まれ、それが短剣を形作った。

 それを一誠の脇腹に突き立てようとするよりも早く、一陣の風が吹き、黒い影が一誠をかっさらう。

 木場祐斗であった。

 

「大丈夫かい、イッセーくん」

「え? 木場? あれ? おっぱいは?」

 

 一誠は夢から覚めたように辺りをキョロキョロ見渡す。

 

「もう少しだったのに……」

 

 夕麻──レイナーレはブラウスのはだけた胸元を直しながら、ぼやいた。

 

「まぁいいわ。その子、こちらに渡してもらえるかしら? ハンサムな悪魔さん」

「それは出来ないな。イッセーくんはもう僕たちグレモリー眷属の仲間だ」

「そうでなくても、命を狙われてる奴を、その命を狙ってる奴に渡す訳ないだろ」

 

 レイナーレの後ろから声がした。

 勇一だ。手には鎧の魔槍を携えている。

 

「君こそ、おとなしくこの町から立ち去った方がいいんじゃないかな? 悪魔の領地内でその悪魔の眷属に危害を加えたりすれば、それこそ君たち堕天使にとっても良くない事になると思うんだけどね」

神滅具(ロンギヌス)所有者が悪魔の眷属になった時点で、もう良くない事になってるでしょう? 多少の危険を冒してでも始末しておくべきだわ」

 

 レイナーレは祐斗にそう答えると、パチンと指を鳴らした。

 途端に、空の色が毒々しいオレンジ色に染まる。結界が張られ、公園が外界から隔離されたのだ。

 同時に、周囲からたくさんの光の槍が飛んでくる。

 祐斗は《魔剣創造(ソード・バース)》で両手に剣を造り出して、それ等を払い落として一誠を守る。

 

鎧化(アムド)!」

 

 勇一は魔槍を鎧に変えて装着し、盾と装甲で防御する。

 いつの間にか、公衆トイレの屋根や外灯の下、噴水のそばのベンチに堕天使が立っていた。

 一人はコートと帽子をまとった男。

 もう一人は金髪をツインテールに結い、黒いゴスロリ衣装をまとった女の子。

 もう一人が先日、勇一と一誠を襲ったあのカラワーナだった。

 それだけでなく、手に銃や金属製の筒を手にした、神父のような服装の男たちも大勢現れる。

 

「多勢に無勢では勝ち目はないわよ? でもイッセーくんをこちらに渡してくれれば、あなたたちは見逃してあげるわ」

「断る」

「同じく」

 

 勇一が即答し、祐斗も同意した。二人の迷いのない態度に、一誠は胸が熱くなる思いだった。

 

「あらそう……なら、仕方ないわね。三人仲良く、ここで死になさい」

 

 レイナーレは冷たく言い放ち、再度指を鳴らした。

 それを合図に、神父然とした男たちが前に出る。手にした金属製の筒から光が放射され、刃を形成した。

 

「二人とも気を付けて。彼等ははぐれエクソシストだ。人間だけど戦い慣れた連中だから、決して侮れないよ」

 

 祐斗が勇一と一誠に忠告する。

 

「へいへーい! 男同士で内緒話とはヨユーですなー!」

 

 そこへおどけた口調でわめきながら、白髪の神父が手にした光の剣で襲い掛かってきた。

 勇一がそれを盾で受け止め、槍を突き出すが、白髪の神父はそれを軽やかにかわした。

 勇一は更に連続して、槍で攻撃を加える。刺突と斬撃を織り交ぜて、パターンを読ませないようにしているが、なるほど祐斗が忠告したように相手は戦い慣れているようで、落ち着いてかわしている。

 神父が剣とは反対側の手に持つ銃を向けた。

 とっさに勇一は身を捻る。

 銃口から光が走ったかと思うと、鎧の肩当て部分に、弾けるような衝撃が走った。撃ち込まれたのは、鉛ではなく光の弾丸だ。剣共々、堕天使の持つ光の力をエネルギー源としているのだ。

 

「イッセーくん、これを」

 

 祐斗が黒い幅広の刃を持つ剣を創造し、一誠に手渡した。

 

「光を吸収する『光喰剣(ホーリー・イレイザー)』。これで身を守って、ここから逃げ出す事を優先してくれ。僕は勇一くんと一緒に、何とか奴等の注意を引き付けるから」

 

 言い残して、祐斗は駆け出した。それはまさに一陣の風と形容出来る速さで、エクソシストたちの中に躍り込む。

 

「ほれほれ、どうしたよ! そのカッチョいい鎧は見た目だけですかぁ~っ!」

 

 一方、勇一は白髪の神父の攻撃にさらされて、防御に回っていた。

 光の剣は槍で捌き、光の銃弾は装甲で受け止める。

 そして隙を見ては反撃に移るが、神父はこれをかわすのみならず、ベーッと舌を出して嘲る余裕まで見せていた。

 余裕を見せているのは、四人の堕天使たちも同様だった。最初の光の槍での攻撃以降、手を出してこない。はぐれエクソシストたちに戦いを任せて、自分たちは公園の出入口に立ちはだかっている。

 勇一は白髪の神父の剣をかわして、後ろに大きく跳んだ。

 鎧の胸部に仕込まれた投げナイフを取り外し、相手の右目を狙って投げつける。

 神父がそれをかわすのを見計らい、槍の伸縮機能を利用しての突きを放った。

 

「うおっ!?」

 

 神父は声を上げて、しかしこの二段攻撃すらも回避した──が、完璧にはかわしきれず、槍の穂先で頬を切り裂かれる。

 

「ぐあああっ! テメェエエエッ! よくもよくもよくも俺様の顔おばっ!」

 

 罵声の途中で、伸びたままの槍の柄で横っ面を殴られて、神父は無様に地面に倒れた。

 その間に祐斗も、五人のはぐれエクソシストを斬り伏せていた。殺しはしない。両手に創造した剣で、相手の手や足を切り裂き、戦闘不能に追い込んでいた。

 

「ふぅん。イッセーくんのお友達って、結構強いのね」

 

 逃げ出す隙も見出だせず、ただ戦いを見守るしか出来ない一誠のそばに、レイナーレがやって来た。一誠は反射的に、祐斗からもらった剣を構えるが、レイナーレは余裕の笑みを浮かべていた。

 

「ひどいわイッセーくん、私にそんな危ない物を向けるなんて……もしかして、おっぱいを揉むだけじゃ物足りなかったから怒ってるのぉ?」

 

 わざとらしい、甘えた声色で言う。

 

「イッセーくんさえ死んでくれれば、お友達もあんなに必死になって戦う必要もなくなるし、私だって偉い人に怒られなくて済むのよ? ねぇ、だからイッセーくん。今度こそ、私のために死んでくれるわよね?」

 

 手中に光の槍を生み出し、レイナーレは歩み寄る。

 その度に一誠も後ずさった。

 しかしその背後に、帽子とコートを身に付けた堕天使の男が立ちはだかる。

 左右をカラワーナともう一人の堕天使が固めた。

 白髪の神父と斬り結んでいた勇一が、それに気付いた。

 神父の腹を蹴って突き放し、一誠の元へ駆けつけんとした時、装甲で守られていない太股が熱いもので貫かれた。神父の撃った光の銃弾だ。

 勇一は地面に倒れ込む。

 祐斗も他のエクソシストに囲まれて、身動きが取れない。

 

「くっそぉぉおおおっ!」

 

 勇一は悲鳴にも似た叫びを上げて、槍を振った。槍を最大限に伸ばしても、到底届かぬ距離だとわかっていても、それでも槍を伸ばして振った。

 

「レイナーレ様!」

 

 カラワーナが、レイナーレを庇うように立ち、光の槍を縦に構えた。

 そこに衝撃が走る。

 勇一の槍は届いていない。

 しかし、槍から放たれた光が刃となって、飛んで来たのだ。

 

「──はい?」

 

 勇一が、そして彼に追い討ちを掛けようとしていた神父が、奇しくも同じタイミングで間の抜けた声を漏らした。

 

(え? 何今の? 槍にこんな機能あるとか取説には書いてなかったぞ? ってゆーか、今のって何か……)

 

 勇一は戦いを忘れて、困惑していた。

 

 ズズン……!

 

 そこへ轟音が響く。

 オレンジ色の空に、ポッカリと穴が空いた。

 その穴から舞い降りたのは、リアス・グレモリー。

 姫島朱乃と塔城小猫も従えている。

 

「部長! 朱乃さん! 小猫ちゃん!」

 

 一誠が嬉しそうに声を上げた。勇一と祐斗も、援軍の到着に安堵の息を漏らす。

 

「こんにちは、堕天使さんたち。私はリアス・グレモリー。この駒王町を管理している悪魔よ。その駒王町内で、これ以上の狼藉は許さないわ。直ちに立ち去るか、この場で消滅するか、好きな方を選びなさい」

 

 レイナーレに向けてかざしたリアスの手に、赤黒い光が生まれ、渦を巻く。触れた物を消滅させる『滅びの魔力』だ。

 

「──仕方ないわね。今日のところは失礼させてもらうわ」

 

 レイナーレのその言葉を合図に、堕天使とその配下のエクソシストたちは潮が引くように後退していき、姿を消した。

 結界も解かれたらしく、空が元の色に戻った。

 

【4】

 

 帰宅した勇一は、ベッドの上に仰向けになっていた。

 Tシャツとトランクスだけの格好の少年の、銃で撃たれた太股に、全裸になったリアスが豊満な胸を押し当てている。傷口に魔力を流し込み、治癒を促進させているのだ。もちろん、わざわざ裸になって胸を押し付けるのは、愛する少年への性的サービスではあるが。

 そうやっていろんな意味で癒してあげながら、リアスは勇一から公園での戦いの詳細を、そこに至った経緯も含めて聞かされた──一誠を救おうとして放った、あの謎の光刃についても。

 

「槍から光の刃が、ねぇ……」

「今思い返すと、あの時、何か体が内側から熱くなるような感じがしたんです……それにあの光、何か部長の魔力と似た感じがしました」

「私の魔力と? うーん、どういう事かしら……」

 

 勇一の太股を自慢の胸で愛撫しながら、リアスは考え込む。

 そして不意に浮かび上がったある仮説に、思わず頬を赤く染めた。

 

「部長?」

「もしかして、なんだけど……ほら、私たち毎日いっぱいエッチしてるでしょう? その営みを通して、私の魔力があなたの肉体に宿ってるのかも知れないわ」

「──え゛?」

 

 変な声が出た。

 

「そ、そういう事って、あるんですか?」

「わからないけど、でも、今だってこうして魔力を流し込んで傷を癒してる訳だし、ひょっとしたらひょっとする、かも……」

 

 リアスは自分で言って恥ずかしくなったのか、最後は尻すぼみになった。

 

「あ、後は、そうね、隔世遺伝かしら。人間と交わった悪魔の血が、数世代後の子孫に目覚めたりする事も希によくあるとかないとか」

「どっちですか」

「と、とにかくグレモリー家のスタッフに頼んで、あなたの家系を調べてもらうわ。それで何かわかるかも知れないし……」

「はぁ」

 

 勇一は曖昧な返事をした。

 自分の先祖の誰かが、悪魔と交わった。そしてその悪魔の血が、自分の中で目覚めた──そのような事が有り得るのだろうか。有り得たとして、果たして自分はどうなるのだろうか。漠然とした不安が、少年の胸中を満たす。

 

「勇一、不安になるのも仕方ないけれど、今は私を感じて、私の事だけを考えて? 大丈夫よ、私はどんな時でもあなたの味方だから……」

 

 リアスは優しく語り掛け、勇一のトランクスに手を掛けた。

 

「手当ては済ませたけれど、今夜は安静にしておいた方がいいわ。だから今夜は、私が動いてあげる……あなたは何もしないで、私で気持ち良くなってくれればそれでいいわ……」

 

 トランクスを脱がして投げ捨てると、愛する少年の腰を跨いで、ゆっくりと腰を下ろす。

 

「──あっ」

 

 腰を落としきると、リアスは軽く仰け反り、ゾクゾクとするほど甘い声を漏らした。

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