春、桜舞う日。 放課後のトレーナー室で… 俺は紅茶を飲みながら、担当バが来るのを待っている。 やる事もなく… 手持ち無沙汰になってしまい、窓の外を見ながら物思いにふける。
この二年で、俺はだいぶ変わったと思う。 いや、ファインに変えられた… というべきか。
俺の担当バのファインは… とても影響力のある子だ。 かく言う俺も、君が持ってきたものに影響を受け… 飲まず嫌いをしていた紅茶なんて、今では日常的に飲むようになっている。
ふと… この部屋を見渡してみると、君の持ってきたものばかりになっていることに気がついた。 茶葉や食器類を入れている棚の隣には… 色んな種類のカップ麺が鎮座していて。 ソファにはファインのぱかプチが座っており… 窓際はクローバーで飾られていた。
「…ったく、トレーナー室は秘密基地じゃないんだぞ…?」
なんて文句を垂らしつつ、壁にかかっているコルクボードに目を移す。 そこには… 今まで撮ってきたツーショットの写真が並んでいて。 どれもこれも… 大切な思い出だ。
「あと一年… かぁ……。」
ファインが、三年間のみ許された “ 走る ” ということ…。 そんな過酷な運命を背負っている君が… 何の後悔もせずにレースから離れられるのだろうか…?
……いや、むしろ最後まで後悔させないように… 担当トレーナーの俺が頑張らないとな…!
そんな決意を固く結んで、一気に紅茶を飲み干す。 その瞬間、トレーナー室のドアが開いて… 聞こえてくるのは耳によく馴染んだ声だった。
「トレーナー! 私… 好きなの!!」
「……は?」
ファインさんは好き好きモード?
「ファイン… とりあえず述語を入れて話してくれるか?」
「私… カップラーメンが好き…。」
なんだ、いつものか…。 切羽詰まった様子で言われるから、何か変なことでも言い始めるのかと思ったけれど… 杞憂だったみたいだな。
「キミと飲む紅茶も… この部屋の全てが好きっ…!」
「そりゃ… ファインが持ってきたものばかりだからな。」
「キミのことも… 勿論好きだよっ!」
「……っ!?」
いや、落ち着け。 カップラーメンとかと並列の好き… つまり “ like ” の方の好きであるのは間違いない。 それでも、その笑顔で好きって言われると… なんとも言えないくすぐったさに襲われるな…。
「ははは… 担当バに好かれるなんて、トレーナーとしてこれ以上嬉しい事はないな。」
「だけど… 急に伝えてくるなんて、何かあったのか?」
「ふふっ、スッキリした〜♪」
「好きって言っちゃえば… 心のモヤモヤも晴れる。 授業中に読んだ所に書いてあったんだけれど、やっぱり本当だったんだねっ!」
「なるほど…。 最近の授業って、そんな事までやっているのか……。」
「ううん、私が違うページを見てただけだよ?」
「授業ぐらいきちんと受けてくれ…。」
…にしても、好きを言葉に出す… か。 俺はむしろ、声にすると恥ずかしくなるタイプなのだが… ファインはそうじゃないみたいだ。
何にせよ、心のモヤをそのままにされるよりはいいだろうと考え… この時は特に、何も思わなかったのだが……。
⏰⏰⏰
トレーニングを終えた時はいつも…
「トレーナー… 今日もトレーニングありがとね。 …好きだよ♪」
「あ、あぁ… どういたしまして…?」
⏰⏰⏰
ラーメンを食べに行った時は確か…
「ふぅ… やっぱりここのラーメンは最高だね♪ 一緒に来てくれてありがとっ… 好きっ!」
「ははっ! 兄ちゃん達… ここのラーメンのスープに負けないくらい、アツアツだなっ!」
「は、はぁ…?」
⏰⏰⏰
この前なんて、廊下で姿を見せただけなのに…
「あっ、トレーナー! …好きだよーっ!!」
「ファイン…!!」
⏰⏰⏰
流石にこれは不味い。 屋内とかで、二人きりの時に言われる分にはいいのだが… やはり外で言われると、周りの人からの目線がやばい。
この前なんて、見知らぬウマ娘から…
『 もしかして、ファインちゃんと貴方って… 付き合ってるんですか…!? 』 …なんて言われたしな……。
あらぬ誤解を生んで… ファインが傷ついてしまう前に、何とかしなければ……。
「トレーナー! 今日もトレーニング、よろしくね♪ ……大好きだよっ!」 ガチャ !
「ファイン…。 今まで言い出せなかったが…… あまり人に対して… “ 好き ” を多用するのは良くない。」
「えっ、どうして…? 気持ちがスッキリするのに…。」
「勿論、物に対して “ 好き ” っていうのは構わない…。 だけど、人に対して “ 好き ” と言うことは… 時に色んな誤解を生むことになるんだよ。」
「この前だって、ラーメン屋の店主や… 他のウマ娘達に、付き合ってるって思われてただろ…?」
「………?」
あれ、特に何もリアクションがないな…。 説明の仕方が悪かったか…?
「つまり、“ 君と俺が恋仲なんじゃないか ” って思う人が現れちゃうんだ。」
「……それの何が悪い事なの…?」
「え…?」
「私はキミの事が好き…。 だから、結ばれる事は悪いことなんかじゃないよ…?」
「う〜ん…?」
「それに、もう記者のインタビュー… 答えちゃったし……。」
「えっ…!? どうして勝手に!?」
「だって… 熱量が凄くて。 断るのもなんか可哀想だったし…。」
「そういえば、今日放送されるって言ってたかも…?」
その言葉を聞き… 光の速さを越えてリモコンを取る。 適当に番組を変えて、それらしいものを探していると…。
『 ファインモーションさんに直撃インタビュー! 麗しさの裏側にはこんな素顔が…!? 』 という見出しと共に、今まさに隣にいるウマ娘の顔が映し出された。
『日本に来て… 好きになった物は何がありますか…?』
『そうですね。 やはり、食べ物も捨て難いのですが… 私をここまで導いてくれたトレーナーが一番… 日本に来て、好きになりました!』
『なるほど、やはり中央のトレーナーとなると… 相当な魅力をお持ちでしょうからね。』
『それでは最後に… そんなトレーナーさんに一言伝えるとすれば、何を伝えるか教えてください!』
『もちろん、好きということを伝えたいです。 すこしはしたないのですが… トレーナー、大好きだよ!! ……なんて。』
『はわわっ…! あ、ありがとうございました!』 ブツッ
な、なんだこれ…。 テレビでこれが流れているのか…!? もう… みんなに知られるってレベルじゃないぞ!?
「トレーナー、私…気づいたの。」
「好きって言葉にする度に… 私の心が高鳴っていく事に。」
「あ、あぁ…?」
「私… もうやめられないよ。 トレーナーの事が好きで好きでたまらないの…っ!」
「外に出さないと、どうにかなっちゃう程に……。」
「………。」
「お願い、私の “ 好き ” を拒まないで……。」
俺は… どうすればいいんだ……? もう、周りの人には付き合ってると思われているみたいだし… 今さらそれが事実になったところで、何も変わらないんじゃないか……?
それに… 好きを拒んで笑顔を壊すくらいなら、もういっそ……。
「ファイン…。 好きだよ。」
「トレーナー…!? それって!?」
「ははっ、やっぱり気分はスッキリしないけどさ…。 まぁ、君が笑ってくれれば… なんでもいいよ。」
「ふふっ…♪ トレーナー、大好きだよっ!」 ダキッ
……………あったかいな。 後ろに… SP達がカメラを構えてるのが見える気がするけれど、それ以上俺は… 考えるのをやめた。