クローバー。 シャムロックとも呼ばれるそれは、幸運の象徴として… 人々に愛されてきた。 アイルランドの国花にもなっているらしく… 担当バのファインも好いている。
「 “ 幸運の象徴 ” か……。」
そういうスピリチュアルなものは… あんまり信じてはいなかったが、ファインと出会ってからの日々は… 本当にキラキラしていて。
楽しそうに走る姿も、楽しそうに笑う姿も… 輝いていて。 それを見る度に… トレーナーになれて良かったと本当に思える。
そう思うと… やっぱりファインは、俺にとっての “ 四つ葉のクローバー ” なんだろう。
そんな事を考えながら… 担当バを待っていた。
⏰⏰⏰
「トレーナー! サプラーイズ!! 今日はいつもより早く来てみたよっ♪」
「あぁ、ファイン。 待ってたよ……って ……んんっ!?」
いつもより早い時間に現れたファイン…。 それはいいのだが、服装がいつもと違う。 何故… 勝負服を着てトレーナー室に来たんだ…?
「いったいどうしたんだ…? それ…。」
「この服装の事…? ふふふ、それはね… 今日早く来た理由とも関係があるのです!」 ドヤァ…
「は、はぁ……。」
そんなドヤ顔で言われても…。 ファインがこういう事を言い出す時は… トラブルが生じるか、ハプニングが起こるか…。 要するに、何かが起きる時で。 少し身構えつつ… ファインの次の言葉を待つ。
「ふふっ♪ トレーナーには今から “ ゲーム ” をしてもらうよ!」
「 “ ゲーム ” …? 何をやらされるんだ…?」
「それはね… “ ファインモーション検定 ” だよ!」
「限られていた三年間を走りきり… もはや “ 一心同体 ” と言っても良いくらい、私達は濃い時間をすごしてきたと思うの…。」
「そこで、キミの愛を確かめるために… ちょっとしたクイズを用意してみました!」
「ははは、えらく急だな…。 にしても、クイズか…。」
身構えていた割には… 案外普通の事を言われたため、体に入れていた力が抜ける。
クイズ。 最近ではトレーニングの一環でやる事もあったが… 答える側に回るのは久しく無かったな…。 頭の回転は早い方ではないから… 少し苦手な部類ではある。
「勿論、答えられたら報酬も用意してるよ…!」
「報酬…?」
「うん! 報酬は… 私♪」
「バ鹿っ!」
………前言撤回しよう。 ファインは、“ 幸運の象徴 ” なんかじゃなくて… ただのトラブルメーカーだった。
「きゃっ…♪ トレーナー、何を想像してるの…? 別に、クイズに答えられたら… なんでも命令を聞くってだけだよ?」
「まぁ… キミが望むなら、あんなことやこんなこと… してもいいけどね…?」
「ファイン…!」
「……なんでもって言ったよな…? その勝負、受けて立つぞ…。」
「トレーナーって… そんなに私の事が好きだったの…? ふふっ、嬉しいな♪」
「いや、断じて違うからな?」
そう。なんでもという事は、ラーメンを食べすぎて起きている体重の増加を… 合法的に止める事が可能なのだ。 ついでにファインの体重もコントロールしやすくなるし… この “ 一石二鳥 ” の提案を受けない訳にはいかない。
「ふふっ… 照れちゃって〜!」
「うるさいうるさい。 ほら… 付き合うから、早く問題を出してくれ。」
「は〜い♪ それじゃ、一日目の問題は… “ 私の勝負服について ” だよっ!」
「私の勝負服は… 想いとか、色々なものが込められてるものだっていうのは知ってるよね?」
「あぁ、その服を見るだけで… 今までの激戦が思い起こされる…。 もはや、想いだけがつまったものでは無いのは確かだな。」
「ふふっ! だからね… この服を着ると、調子も上がるんだ…♪ 私の好きな “ シャムロック ” も、いっぱい散りばめられてるしね♪」
「そこで、問題だよ! 私の勝負服には… シャムロックがいくつあるでしょう?」
「…いくつ、か。」
そう言われて、ファインの今の服装を見直す。 パッと見たところ… 手袋に各一つ、胸の紋章に一つ、リボンの上部分に一つ、後は髪飾りの四つが目に入るが…。
「勝負服…っていうのは、髪飾りや靴とかも含めるのか…?」
「もちろん! それも、私を形づくる… 大事な要素の一つですもの!」
「なるほど…。」
ファインの裏に回り、他にないかどうかを確認する。 よく見ると、尻尾の部分に… 二つのクローバーがあるのを見つけた。 また、手袋にもボタンがついており… そこにも各一つのクローバーがあった。
次に、靴を見る。 靴の模様が… クローバーのように見えたが、ただの刺繍であることに気づき… 踏みとどまる。
「靴の模様は… ただの刺繍なんだよな?」
「ふふっ、それを教えたらクイズにならないでしょう?」
「……それもそうか。」
こんなもんかな。 髪飾り、リボン、紋章、手袋、尻尾… 累計で12個のクローバーがあるってところだろうか。
「そうだな…。 答えは…」
「ちょっと待って…! まだ全部見てないでしょ?」
「上着の中とか、スカートの中とか…♪」
「……っ!?」
「いやいやいやいや、上着の中はまだしもスカート覗いたら逮捕されるんだけど!?」
「大丈夫、いつもは下に穿いてるから♪」
「いや、“ 成人男性が未成年女子のスカートの中を見る ” ってだけで字面がヤバいの。」
「いいの? 間違えたら… “ 罰ゲーム ” だよ…♪」
「………っ!?」
……まずいな。 当初の目的さえも達成出来ず… 更に不利な状況になってしまうなんて…。
確かに、罰ゲームが無ければ “ なんでも聞く ” という事の対価が取れない…。 よく考えれば分かったことなのに…。 勢いだけで戦いに挑んだのを後悔する。
幸い… この部屋にいるのはファインと俺だけ…。 俺の中の “ 何か ” を捨てて、全てを確認するべきか…?
「…とりあえず、上着を脱いでくれ。」
「脱がしてくださる?」
「………。」
俺は… 何をやっているんだ……? そんな思考に浸りながら、無心で上着を脱がしていく。 すると、緑のベストの下に… 黒のドレスシャツを着ている姿が出てきた。
「う〜ん、この様子じゃ他には無さそうだな。」
「ふふっ…♪ 本当に?」
「………いや、まずいだろ…。」
「穿いてるよ…?」
「………本当にいいんだな?」
「どうぞ♪」
三回深呼吸をして、ふわりと広がっているスカートのすそをつかむ。 ゆっくりとめくり… 中を確認してみると…
「………っ!?!?」
そこには、本来あるはずのものが無く。 一瞬目に入ったのは… スカートの表地とは対照的な… 白のレース。 そのまま無心で窓の外を見ようとしたが… 黒服のウマ娘がこちらを覗いていた。
「………答えは “ 12 ” だ。」
マジでどうしようかな、この先……。
「ふふっ、正解だよ♪」
「……トレーナーのえっち。」
……全ての原因はファインにあると弁護側は主張します! そんな脳内裁判も虚しく、事実だけがそこには転がっていて。
「ファイン…。 あまり大人を無礼るなよ…?」
「正解したということは… 命令が出来るという事だよな…?」
「うん、なんでも! あんなことやこんなことも… し放題だよっ♪」
「それなら…! 今日から一週間… ラーメン抜きだ!」
「そ、そんなぁ〜…。」
そんなこんなあって、一日目は俺の勝利で終わった。 果たして勝ちと言えるかは分からないけれど… 目的は達成したから良しとしよう…… うん。
ファイン 「間違えたら…結婚だよ♪」
それから、二日ごとに… ファインから問題を出される日々が続いた。
二日目は… 誕生日を答える問題だった。 これは祝ったことも何度もあるし、余裕で答えられ… それに一昨日のような危険性も無かった。
命令も特に思いつかなかったため… 俺の誕生日も覚えていて欲しい… 的なことをお願いした気がする。
三日目は… 尻尾のことについて答える問題だった。 確か以前、ロイヤルテール…? って言ってたのを思い出し… 何とか答える事が出来た。
ラーメンのこと以外の命令は、何も考えていなかったから… “ 次のクイズからは報酬と罰ゲームは無し ” にしようとしたのだが……。 想像よりも落ち込んでいたので、トレーナー室に… 茶葉を持ってきて貰うことにした。
だけど… やっぱりここで、情に流されるべきじゃなかったんだ。
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四日目。 …三回もやれば流石に慣れてくる。 ファインのことについては、グルーヴやシャカールなどに聞き… 事前にリサーチをしておいた。
「トレーナー! 今日も始めるよ♪」
「今日は勝負服なんだな……。」
「ふふっ、本気だよ!」
「今日の問題は… “ 私の好きな人 ” だからね!」
「………!?」
リサーチ外の問題が来てしまった。 ……好きな人と言われても、色々な種類がある。 波長が合うとか… 惹かれるものがあるとか。
シャカールは、初期の方からファインに絡まれてる… とか言ってた気がするな。 確かにあの二人は、合宿とかでは一緒にいるイメージが強い。 そうなると最有力候補は… やはりシャカールか。
「……答えは “ シャカール ” だ。」
「………う〜ん、シャカールも大好きだけど… 不正解!」
「なっ……!?」
シャカールは一番の親友のはず…。 他に誰がいるんだ…? やはり、同部屋のグルーヴの方が親しかったのか……?
「正解は… “ キミ ” だよ!」
「ふふっ、間違えたトレーナーには… 罰ゲームだね…♪」
罰ゲーム。 どう考えても悪い事が起こる予感しかしない。 拒めばおそらく… 窓の外のSP達が加勢に来るだろう…。 ここは、何とかファインを言いくるめないと…!
「ま、待ってくれ! シャカールのことも大好き… って言ってたよな!?」
「え…? 勿論シャカールも… 私の憧れで、大好きな人だよ…?」
「それなら不正解っていうのはおかしいんじゃないか?」
「でも一番好きなのはキミだし…。」
「だとしたら、お題は “ 一番好きな人 ” にするべきだ。」
「……分かったよ…。 今回は無効試合って事にする。」
とんでもない屁理屈をこねた気がするが… 罰ゲームを受けるよりはマシだろう。 ファインが純粋な子で助かった。 だが、胸を撫で下ろしていると…
「でも、何も無いってのもつまらないし… もう一個、問題を出すね♪」
「あ、あぁ…。」
次弾装填が早すぎる…。 次はどんな問題が来るのだろうか。 さっきのような爆弾問題じゃなければ良いのだが…。
「ふふっ、折角勝負服を着てるから… 私の勝負服には、四つ葉のクローバーはいくつあるでしょう… にしようかな!」
「……俺が忘れたとでも思ったのか…?」
「あれ? もう出した問題だったっけ…?」
「ははは、答えは “ 12 ” だ。」
「わぁっ、即答だね…。 本当に良いの?」
「もう… その罠には引っかからないからな。」
前回の二の舞にはなりたくない。 というか、あんなことを2回やらかすとなると… 下手したらトレーナー人生が終わるしな。 それに… クイズのために勝負服のデザインを変えるほど、ファインは小さい人じゃないのを俺は知っている。
「残念だけど、不正解だよ♪」
「……えっ?」
「トレーナー…。 私の発言を思い返してみてよ♪」
何故…? 勝負服のデザインを変えたのか…!? パニックになりながら… 発言を思い返してみる。
『私の勝負服には、四つ葉のクローバーはいくつあるでしょう!』
「はっ……!?」
「ふふっ、気づいた?」
「まさか… 四つ葉のクローバーに変わっていたのか!?」
「正解♪ でも、こっちはクイズじゃないから…。 当てても意味ないんだけどね!」
ぐっ… 姑息なやつめ…っ! まぁ、こんな子供騙しに引っかかった俺も悪いけれど…。
「………何を命令するつもりだ…?」
「ふふっ♪ 報酬として… キミが欲しいな。」
「さっき言ったけれど… 私はキミが一番好きなの。」
「……断るって言ったら?」
「あ〜、私… ラーメン我慢してるのにな〜…!」
「キミの誕生日だって… 紅茶だって持ってきたのにな〜っ!」
「何が言いたいんだ…?」
「………勝者は絶対なんだよ…♪ もしかして、逆らえると思ってたの?」
その言葉と共に、ファインが合図をする。 すると、たちまち部屋にSPが入ってきて… 逃げ道が塞がれた。
「………第一、君と俺は生徒と教師… それに、身分の差だってある。 俺たちは結ばれちゃいけないんだよ…!」
「私に任せて…! キミと結ばれるためなら、なんだってするから!」
「キミは何も考えず… この紙にサインしてくれればいいの…!」
「…良くない、こんなの……。」
「断るんだったら… 私も容赦しないよ。」
SPの内の一人が、ファインに写真を渡す。 よく見てみると… それは、俺がスカートをめくっている写真だった。
「バラ撒かれたら、トレーナーも大変でしょう? どっちの罰ゲームが良いか… 選ばせてあげる。 」
「この紙にサインして… 私と共に歩むか、社会的に詰んでから… 私に助けられるか。」
「ふふっ…♪ キミならどっちが良い?」
あぁ…… このゲームに足を踏み入れた時点で、こうなる運命だったのだろう。 せめて、一昨日の報酬を強行していれば……。 そんな後悔も、もう遅い。
俺が出せる答えは… 一つしか残されていなかった。