私とキミの誕生日が終わった後のこと… 結局あの日から一回も、キミに想いは伝えられないままで。
16歳になり、私も大人の仲間入り。 年に一度の健康診断も… 大人になったから、検査する項目が増えるらしい。
今日はその健診の日。 トレーナーに、『健康診断で少し遅れるかも』とLANEをしてから… 検査に向かう。
まさか、あんな事を言われるだなんて… 夢にも思わずに。
ファインの気持ちを知ってから、数週間が経った。 あれ以来も君は… 変わらず接してきて。 自分だけ、変に君のことを意識してしまう。
……いつか君に、この気持ちを伝えるという誓い。 勝手にした誓いではあるが、重くのしかかってくる。
ただのトレーナーである俺に… 何が出来るのだろう。 君を取り巻く環境に影響を及ぼせるとは… 到底思えない。 だけど、君への気持ちだけは大きくなっていくばかりで。
「はぁ…。 こんなんじゃ… トレーナー失格だよな…… 俺…。」
そんなことを思いつつ、ウマホを見ると… ファインからのLANEが来ていた。
『健康診断で少し遅れるかも』……か。 そういう事なら… 先に用具のチェックから始めるとしよう。
⏰⏰⏰
結局その日は、ファインがトレーニングに来ることは無かった。 少し… なんとも言えない違和感を抱きつつ、俺は寮に帰った。
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「昨日は行けなくてごめんね!」
「あぁ、健康診断だったんだろ? 仕方ないさ。」
次の日、君は普通にトレーニングに来た。 どうやら… サボり癖とかでは無いようで、少し安心する。
しかし… 健康診断で一日が潰れるなんて……。 いくら検査する項目が増えたからとはいえ、そんな事が起こり得るのだろうか。
「とりあえず、流しとかでアップしておいてくれ。 ストップウォッチを取ってくるから、俺が帰ってきたら… タイム計測から始めるぞ。」
「うん、分かった♪」
少し感じた違和感には見て見ぬふりをして、トレーニングを始める。 数日後に迫ったレース…。 それに向けて… 調整しなければならないからだ。
タイムはいつもと変わらなかった。 だから… 俺も安心しきっていたんだ。 それがほころびであるとも知らずに。
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「GIIではあるが… GIを制した事があるファインなら、きっと勝てる。」
「ふふっ、信頼されてるんだね。」
「私も、キミと… みんなの期待に応えられるように……。」
「…………。」
「ファイン……? どうしたんだ?」
「ううん、大丈夫…。 なんでもないよ♪」
そう言って、君は俺に笑いかける。 何故か、いつもの笑顔と違って見えた。
「じゃあ、行ってくるね?」
「あぁ、頑張って来い。」
先日感じた違和感もあってか、不安が募っていく。 けど今は… 君を応援する事に全力を注ごう。
⏰⏰⏰
結果は… クビ差の二着。
前から垂れてきた逃げウマ達に進路を塞がれ、途中で何とか抜け出すも… 大外を通った追込バの末脚にあと一歩及ばなかった。
相手の実力もあっただろうが… 運が悪かったと感じる一戦だった。 ファインに労いの言葉をかける為、待機室へと向かうと……。
「トレーナー様っ…! 殿下が…… 殿下が居なくなりましたっ……。」
「え……?」
見慣れたSPの内の… 一人だけが、そこには居た。 どういう事か認識出来ず… 固まっていると、スマホの画面を見せられる。
「正確には… 殿下は今、ここに居ます。 ですが、少しデリケートな問題を抱えてまして……。」
「デリケートな問題…?」
「あぁ、もう! とにかく、行ってあげてください! ライブの関係者の方々には私の方から伝えておきますので!」
「おそらく、トレーナー様なら… 殿下が抱えている問題も、解決出来ると信じてますから…!」
よく分からないが… 迎えに行かなければ。 ファインが困っているのなら… 担当トレーナーの俺は動かなければならないだろう。
それに、君には笑顔でいて欲しいんだ。 それだけでみんなが幸せになるって… 俺が一番知ってるから。
「分かりました、そちらは任せましたよ!」
吹き付ける風は冷たかったが、そんなの… 気にしてられない。 送られた位置情報をもとに、冬の街を駆ける。
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走って… 走って走って走って……。 街中が見渡せる高台へと辿り着く。 逃げてきてしまった自分に嫌気がさしながら… 街を見渡す。
街は大きかったけれど… 私の今抱えているものに比べれば、ずっと小さく思えて。 先日… 校医に言われたことを思い出す。
“ 君はもしかしたら… 子供を産めない体かもしれない。”
“ 私もこちらのことは専門ではないから、詳しいことは分からないが… 血液検査の結果、染色体に異常が確認できた。 ”
“ この専門医の所で再検査をしてみれば、詳しい事が分かるだろう。 ” ……と。
私の心を揺さぶるのに… その言葉は十分すぎて。
子どもが産めないかもしれないということ。 それはつまり、私の使命と夢が同時に崩れさったという事で……。
『 いつかキミに気持ちを伝えて、一緒に国に帰り… キミとの子どもと幸せな日々を送る……。』 そんな私の “ 夢 ” は、本当に夢物語だったみたい。
あれ、どうしてだろう。 涙が止まらないや……。 心を抑えるのは得意だったはずなのに。
やっぱり私も普通の女の子みたいに… 好きな人と結ばれて、好きな人と愛し合って…… 好きな人との子どもが欲しかったんだ。
後ろの方から足音がする。 心をさらけ出せる時間ももう終わりみたいだ。 涙を拭い… 後ろを振り返ると、想像していた人物とは違う人が来ていて。
「ファイン… ここにいたんだな。」
「トレーナー……。」
「帰ろう、もう日が沈むし… みんなが待ってる。」
「ごめんね、トレーナー…… 勝てなくて。 ライブもすっぽかして… 私、本当に悪い子だよね……。」
「ファイン……。」
ダメだ。 キミが相手だと、嫌でも思い出してしまう…。 私が見てしまった、儚い “ 夢 ” を。 ……もう、叶わないかもしれない “ 夢 ” を。
「別に勝てなくたっていいんだよ。 全力を出して負けたのなら… それは相手が強くて、運に恵まれてた。 それだけなんだ。」
私には、キミがくれた功績がある。 それが今の私の… 唯一の心の支えで。 だけど、勝てなくなってしまったら? 功績が無くなった私には… いったい何が残るの?
「それじゃダメなの…! 私は勝たなきゃ… 勝たなきゃダメなんだよっ!!」
「なんで… 何が君をそこまで追い詰めさせてるんだ……?」
「トレーナー………… 私ね、子どもが産めない体かもしれないんだって……。」
「……っ!?」
「王族の務めは… 繁栄。 それなのに子どもが産めないなんて知られちゃったら…… どうなるかな。」
「 “ 無価値な姫 ” …だなんて言われちゃうかな……。」
…やだな。 悪いことしか考えられない。
「そんな事ない…。無価値なんかじゃないよ。」
「第一、数々のGIを勝ってきたじゃないか。 それだけで君は… 凄い子なんだよ。」
「それは、トレーナーがくれた価値でしょ…!?」
「私、キミが居なかったら… 走る事も出来ず、功績も何も無い “ 無価値な姫 ” のままで終わってたの。」
「ファイン……。」
「だからね、キミが居てくれて本当に良かった… って思う一方、今日のレースで勝てなかった自分に嫌気がさしてるんだ。」
「こんなにも、キミは私のためにいろいろしてくれてるのに… 私は何も出来ないままで。 これじゃ、国のみんなもきっと許してくれないよ……。」
そう、今の私に残った輝きは… 全てキミから貰ったもので。 私自身で輝けたことなんて、一度もなかった。 こんなんじゃダメだって思ってたけど…… 何も出来なくて。
「………ファイン、俺がどうして… 君のためにいろいろ動けるのか分かるか?」
「キミは… 優しいから。 今日だって、放っておけばSPに捕まるのは分かってたのに… 迎えに来てくれたでしょ?」
本当に… キミは優しすぎる。 その優しさが、今は毒となって私を蝕んでるの。 決して解毒なんて出来ないままで。
「そんな小さな理由じゃない。 俺は、ファイン… 君の事が好きなんだ。」
「……っ!」
夢の中で… 何度も聞いたその言葉。 ずっと夢見ていたはずなのに、全く嬉しくなれなくて。 どうして… どうして……。 私の心は… 今も冷えきったまま。
「ごめん、もっと早く伝えるべきだったよな。」
「俺、ずっと言おうって思ってたのに… 全然覚悟出来なくて……。」
「どうしてかな。 ずっと欲しかった言葉のはずなのに…… 全然嬉しくなれないや…。」
「やっぱり、キミに私はふさわしくないよ…。」
「俺に出来ることならなんでもする! 身分の差だって埋めてみせるから…!」
「違うの…… 私の方がキミにつり合ってないの……っ!」
「私は無価値で… 一丁前に身分だけはプリンセスで! ただのお飾りなのにっ……!」
こんな見かけ倒しの姫に… みんなが気づいてしまったら? そう考えるだけで、胸が締め付けられるような痛みに襲われる。
みんなのおかげで暮らせたり… 留学出来たりしてるのに。 実際はただのお飾りだなんて…… 到底許されない。
「俺は十分、君には価値があるって思ってる。 人に優しくできて… 幸せを分けることが出来る人間なんて、この地球にひと握りもいないから。」
「それでも価値がないって思うなら…… また二人で創っていけばいいじゃないか。」
「でも、あと一年で私… 祖国に帰らなきゃいけなくてっ!」
「俺でいいなら… ずっと一緒に居るから。」
「いや、居させてくれ! 俺だって… 君の隣じゃなきゃ嫌なんだ……!」 ダキッ
「トレーナー……。」
キミに抱きしめられる。 伝わってくるキミの体温が… 私にはとても暖かく感じて。
そのぬくもりで、さっきまで襲ってきていた不安が… まるで最初から無かったかのように溶けていく。 キミのぬくもりが、冷えきった私の心を溶かしてく。
キミが隣に居てくれるなら… それで十分じゃないか。 なんでこんな簡単な事に気付かなかったのだろう……。 自分の盲目さに困惑する。
「ふふっ、あったかいね。」
「君が心配で、ここまで走ってきたからな……。」
「あのね、トレーナー。 私… キミにこうされてると、悩みも… 不安も…… ぜんぶ無くなっていくんだ。」
「ねぇ、どうしてだか分かる?」
「それは… なんでだろうな?」
「……キミが私の初恋の人だからだよ。」
「私、キミが居てくれなきゃ…… もうダメみたい。 こんな私だけど… ずっと隣にいてくれるかな?」
「俺も… ファインのそばに居たい。 君の事が好きになっちゃったんだ。」
「ふふっ、嬉しい……♪ もう… 絶対離さないからね。」
そう、絶対離せない。 キミが居ないと、私はきっと… 壊れちゃうから。 キミに私は必要ないかもしれないけれど、私にキミは必要不可欠だから。
「ははは、お手柔らかに頼むよ……?」
君と気持ちが通じ合ったあの日から、数日が経って… 今日は専門医の所に来ている。
かなり無理を言って連れて来たけれど、染色体異常って… 他にも悪い事が起こっているかもしれないしな……。
今は検査も終わり… 結果を待っている状態だ。
「トレーナー… もし、また悪い結果だったとしたら…… また抱きしめてくれる?」
「もちろん、それぐらいならいつでもするさ。」
「ふふっ、ありがとね。」
「…………。」
また、静寂が訪れる。 君が強がっているのが… 嫌でも分かる。 すると、専門医の人が戻ってきた。
「ファインモーションさん。」
「は、はい!」
「検査の結果…… やはり貴方は、“ ウマ娘を産めない体である ” …という事が分かりました。」
「そう… ですか……。」
重く… 辛い現実がそこにはあって。 君にかける言葉を探すが、ひとつも見つからない。
俯く君の頭を撫でる。 これで少しでも、君の重みが和らぐなら……。
「ですが、“ ヒトの子どもなら、産むことが可能である ” という事も分かりました。」
「それって……! 嘘……!」
「では、私はこれで失礼します。」
「ファイン…! 本当に良かったな……!」
「うん…!」
⏰⏰⏰
病院を出て、帰路に着く。 不思議と… 前よりも景色が綺麗に感じた。
「トレーナー、私… 叶えたい夢があるんだ。」
「……レースか?」
「ううん、別の事。」
どこかでした様なやり取りを、もう一度。 あの時と違うのは、君と… 思いが通じ合っている事で。
「私、キミとの子どもが欲しいの。」
「いや… それは……。」
「何人が良いと思う……? やっぱり2人以上は欲しいよね…♪」
「そういうのは… 20歳になってからな?」
「20人!? そんなに産めないよ〜っ! でも… キミが一生愛してくれるなら… いいよ……?」
「ファイン……!」
「ふふっ、分かってるよ♪ 私だって… キミとの三年間を、棒に振るような事はしたくないから。」
「でもいつか… この留学が終わって、国に戻ったら…… “ 私の夢 ” を叶えてくれる?」
「あぁ、勿論だ。」
「ふふっ、約束だよ?」
そう言って笑う君は、いつもの笑顔に戻っていて。
やっぱりこの笑顔が… 一番好きなんだと実感する。
いつでも君が笑ってくれるように、俺も出来るだけの努力をしよう。 君の “ 夢 ” を叶えるその日まで。