ファイトレつめ合わせ   作:Takosan007

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明けの明星

 

 

「Today , we are going to do tempo run ……。」

 

 

3月。 少し肌寒さが残りつつ、春の訪れを感じ始めるような日の中で。 俺はトレーナー室で一人、誕生日にもらった紅茶を飲みながら、英語やアイルランド語を学んでいた。

 

それも、先日の事があったからだ。

 

あの日、担当バであるファインに気持ちを伝え、アイルランドに行く事を決めた日から。 “ 君の夢を叶える ” と決めたから。 絶対に、口だけの約束で終わらせるわけにはいかない。

 

理事長にこの事を話したら、向こうのトレセンでも俺が仕事に入れるように取り合ってくれた。 そんな理事長の顔に泥を塗らないよう、俺がちゃんとしなければいけない。

 

そんな決意を再度固め、言語学習の方へと戻る。

 

 

「You got 1 minute rest between each set… 」

「うわっ!?」 ガバッ

 

 

すると突然、目の前が真っ暗になった。 いったい何が起こってるんだ…? 確認しようとするよりも早く、聞こえてきたのは聞きなれた声だった。

 

 

「サプラーイズ! トレーナー、Happy St Patrick's day♪」

 

「なんだ、ファインだったのか。 …って、その服はいったい…?」

 

 

視界が開け、目に映った愛バの服はいつもと異なり、彩度の高い緑のリボンに、鮮やかな緑のスカート。

 

極めつけに大きな緑の帽子をかぶり、胸ポケットには三つ葉のクローバーが入れられている。 さらに首には、誕生日にあげたシャムロックのネックレスも煌めいていた。

 

 

「ふふっ、今日はセント・パトリックデーだからね♪」

「緑色のものや、シャムロックにちなんだものを身につけないと… レプラコーンにいたずらされちゃうんだよ…!」

 

「セント・パトリック…? レプラコーン……?」

 

「……もしかして、知らない?」

 

「どこかで聞いたことがある気がするんだが…。 全然思い出せないな。」

 

「もうっ、言葉の勉強をしてくれてるのは嬉しいけどさ……。 文化の勉強をおろそかにしているのはいただけないな〜?」 ツンツン…

 

 

そう言い、ファインは人差し指で俺の頬をつつく。 文化の勉強…? もしかして、アイルランドと関係のある日なのだろうか?

 

そう思った俺は、今もなおつつき続けている手を払いながら、ファインに質問を投げかける。

 

 

「…ファイン先生?」

 

「むっ、その呼び方…。 悪くないね♪」

 

「今日はどんな事をする日なのか知らないからさ…。 俺に教えてくれないか?」

 

「ふふふ… よかろうっ! 祖国の文化にうといキミのために… この私が直々に教えてあげるね♪」

「それじゃ、まずは服装から整えてあげるよ!」

 

「……え?」

 

 

ファインが合図をし、SP達が一斉に入ってきた。 それはいいのだが、SP達の服装がおかしい。 いつもの黒服ではなく、緑のスーツに緑のサングラスと… 全てが緑色に染まっている。

 

異様な光景を目にし、少したじろいでいると、SPの内の一人から何かを手渡された。

 

何を渡されたのかを見てみると、緑のネクタイに、ファインがかぶっている物と同じような大きな帽子、三つ葉のクローバーの三つがあった。

 

 

「……これは?」

 

「緑の物を身につけること… さっきはレプラコーンにいたずらされない為って説明したよね?」

 

「あぁ…。 だが緑の物を身につけて、いったい何が変わるんだ…?」

 

「レプラコーンって言うのは、アイルランドのお話に出てくる、小人のような妖精の事なのだけど… 凄くいたずらが好きな子たちなんだよね♪」

「緑のものを身につけている人は、その子たちから見えなくなるから… いたずらをされなくて済むんだよ!」

 

「なるほど、そんな理由が…。」

 

「他にもね… セント・パトリックデーの名の通り、聖パトリックっていう宣教師の方が、シャムロックを使って教えを広めたからって言う理由もあるの。」

「だから… ねっ! ほら、それつけてよ♪」

 

「うわっ、近いな! つける、つけるから一旦離れてくれ…!」

 

「……私がネクタイを結んであげてもいいんだよ?」

 

「今まで俺が何回ネクタイを締めてきたと思ってるんだ…。 これぐらい楽勝だよ。」 キュッ…

 

「ちぇっ、新婚さんみたいな事が出来ると思ったのにな〜。」

 

 

そんな事を企んでたのか…。 拗ねているファインを横目に、帽子をかぶり、胸ポケットにクローバーを入れる。

 

鏡の前に立ってみると、自分もSP達と同じように、緑の世界の住人となっていた。

 

 

「うん、これで外に出る準備はバッチリだね!」

 

「ん…? 外出するのか?」

 

「当たり前だよ! 今日はキミに、セント・パトリックデーの楽しみ方を教えるんだから♪」

「それじゃ、街中で行われてるイベントに参加しに行こ♪」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「おお… 本当にみんな、緑の服を着てるんだな。」

 

「ふふっ♪ ここではね、毎年パレードをしてるんだよ!」

「参加するなら、もちろん緑じゃないといけないからね♪」

 

「なるほど、だからなのか。 緑の上着に… 緑のズボン……。」

「ん…? アレはなんだ……?」

 

 

見回してみると、明らかに他とは違う、大きなシルエットの何かが目に映った。 俺がかぶっているような大きな帽子に、緑のジャケットや赤い短パンを身につけ、濃いヒゲをしている。

 

 

「あれがレプラコーンだよ。 ほら… 私達がかぶってる帽子も、あの子達がかぶっている物がモチーフになってるんだ♪」

 

「なんか… マスコットみたいだな。」

 

「ふふっ、アイルランドのシンボルだからね♪ その認識も間違いじゃないのかも。」

「あっ、そろそろ何かが始まるみたいだよ?」

 

 

ファインにそう言われて、再び前を向く。 すると、パレードをしていた人々が止まり、男女の二人組に別れ始めていた。

 

何が始まるのだろう… と眺めていると、軽快な音楽が流れ、社交ダンスのようなものが始まった。

 

 

「まぁっ… ダンスまでするのね! お城で開かれたパーティーが懐かしいな〜…。」

「そうだ! 私達も参加してみない?」

 

「えっ… 俺も!? ダンスとか小学校以来、1mmもふれてきてないんだが…。」

「大丈夫! 絶対に楽しい思い出になるから♪」

 

「ちょっ… 引っ張らないで、分かったから!」

 

 

あー、マズイ…。 勢いで乗り切られてしまったが、本当にダンスに関しては経験がない。 ましてや、社交ダンスとなれば尚更だ。 ええい、何とかなってくれよ…!

 

 

「それじゃ、基本だけ教えるから… 手を貸してくださる?」

 

「あぁ、分かった。」

 

「手の位置は、こことここ。 で… ステップは基本こんな感じで踏むの。」

 

「えーっと… こうか?」

 

 

見よう見まねで、足を動かしてみる。 曲のリズムに合わせるようにすると、上手くいくな…。

 

 

「そう、上出来! この曲の場合は、基本このステップだけだから… 後は動きなのだけれど……。」

「動きはちょっと複雑だから、教えるのはまたの機会かな。 今日は、私の動きに合わすように頑張ってね♪」

 

「それが一番難しいんじゃないか?」

 

「私の方が、力が強いから… 足だけ動かしてれば大丈夫だよ♪」

 

「さらっとえげつない事を口走らないで…。」

 

 

 

⏰⏰⏰

 

 

 

♪♪~

 

曲に合わせ、ステップを踏み続ける。 だんだん体も慣れてきた。

 

 

「にしても、社交ダンスのわりには激しく動くんだな。 もっとゆったり動くものだと思ってたんだが…。」

 

「まぁ、音楽が音楽だからかな…。 かなり軽快な曲でしょう?」

 

「もしかしてこの音楽も、アイルランドの物だったりするのか?」

 

「ふふっ、もちろん! アイリッシュミュージックは、基本はダンスのための音楽だからね。 リズムが速くて… 明るい曲調のものが多いんだよ♪」

 

「なるほど… って、曲が変わったぞ…!?」

 

「この曲の場合も、基本は変わらないから… 曲に合わせるように!」

 

「って言われても、初めて聞く曲なんだけど!?」

 

「…頑張って?」

 

「はい……。」

 

 

 

⏰⏰⏰

 

 

 

「はぁ〜♪ 楽しかったね!」

 

「ぜぇ… 少し疲れたけれど。 まぁ、楽しかったな…。」

 

「ふふっ、それなら良かった♪ また今度、詳しく教えてあげるからね!」

 

「その時は、お手柔らかに頼むよ…。」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

パレードも終わり、みんなが散り散りになっていく。

 

 

「今日は… これで終わりなのか?」

 

「パレードはおしまいかな。 後は夕方あたりに、観覧車に乗りたいんだけれど…。」

 

「少し時間があるんだな。 …喫茶店でも行って、暇を潰すか?」

 

「…う〜ん、それでもいいんだけれど……。」

「あっ、そうだ! 来年のセント・パトリックデーの為に、緑色の物をお互いに買ってこようよ!」

 

「プレゼント交換って事か?」

 

「うん♪ それじゃ、買ってきてね〜!」

「買い終わったら、〇〇ワールドの観覧車前で待ってるから!」

 

「えっ、俺まだ何も言ってないんだけど!?」

 

 

そんな叫びも虚しく、ファインは既に角を曲がっていた。 …仕方ない。 何か俺も買ってこなければ…。

 

 

 

⏰⏰⏰

 

 

 

「にしても、何を買えばいいんだ……?」

 

 

ファインの服装は、既に緑の物が多すぎる。 大きな帽子に、リボン、スカート… 靴なども緑色だった気がする。

 

来年のセント・パトリックデーの為と、ファインは言っていた。 ならば、今つけている物と被るような物はダメだろう。

 

 

「尚更難しいじゃないか……。」

 

 

何か良い物が無いかと、適当にデパートの中を歩く。 こうして見ると、緑の物が見出しをつけられて売られていることに気づく。

 

ズボン… はないよな。 ニット帽… いや、大きな帽子があるし……。

 

 

「ん……?」

 

 

これは… なかなか良いかもな。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「ふんふ〜ん♪」

 

 

プレゼントも買い終わり、〇〇ワールドの観覧車の前で、トレーナーを待つ。 日も落ちてきて、そろそろいい時間になってきた。

 

私が買ってきたプレゼントは、クローバーの腕時計。 どうせなら一日だけの物じゃなくて、日常生活の中でも身につけていて欲しかったからだ。

 

誕生日プレゼントとしてあげたシャムロックのブローチも、あれ以来ずっとつけていてくれている。 見る度に嬉しくなって、もっとキミを私の物で染めたいな… なんて事も思ってしまう。

 

ふふっ、いけない。 キミと想いが通じあっただけでも恵まれているのに。 これ以上を望むなんて、少しわがままかな…?

 

 

「ファインー! 待たせたか?」

 

 

そんな事を考えていたら、キミがやって来ていた。 セント・パトリックデーも、もう終わる。 最後までキミに楽しんでもらえるように頑張らなきゃ。

 

 

「ううん、私もさっき来たところ♪」

 

「それなら良かったよ。 結構悩んじゃってさ…。」

 

「ふふっ♪ 真剣に考えてくれたんだね!」

 

「まぁ… そうだけどさ。 なんか言葉にされると恥ずかしいな…。」

「ところで、観覧車に乗るのは何でなんだ?」

 

「その理由はね… あと少し経てば分かるよ♪」

 

 

そう私が言った瞬間… 観覧車のライトアップが始まった。 セント・パトリックデー仕様に染まる観覧車。 緑色の光はとても綺麗で。

 

 

「ふふっ、綺麗でしょ?」

 

「あぁ… 観覧車まで緑に染まるとは思わなかったな……。」

 

「場所によってはね、川まで緑に染める所があるんだよ?」

 

「そんな大規模な事までする所があるのか…!? いつか見てみたいな…。」

 

「ふふっ、いつまでも一緒に居てくれるんでしょ? だったら見に行けるよ。」

 

「………そうだな。」

 

「ほら、乗ろ? 日本でも緑に染まってる物が見れるかもしれないし… それに、プレゼントも用意したからさ♪」

 

 

 

⏰⏰⏰

 

 

 

「おお、〇〇ツリーまで緑色になってるのか…!」

 

「ふふっ、アイルランドのイベントだけれど、世界的な物だって分かったかしら?」

 

「あぁ、今日だけで十分理解したよ。 店でもほとんど緑の物を売り出してたしな。」

 

「店と言えば… プレゼント交換! そろそろ始めようよ♪」

 

 

そう言い、緑のラッピングに包まれている時計を取り出す。 キミもそれを見て、黒のラッピングの物を取り出す。

 

 

「黒のラッピング… まだまだ意識が足りないね〜。」

 

「中身には自信があるからさ、開けてみてくれよ。」

 

「ふふふ、は〜い♪」

 

 

ラッピングを綺麗に取って、中を見てみる。 すると中からは、もう一つ小さな箱が現れた。

 

 

「…ん? 小物なのかな?」

 

「それは、開けてみてからのお楽しみだよ。」

「こっちは… 時計か! ストップウオッチ機能もついてるし、普段使い出来そうだな!」

 

「ふふっ、いつもつけてくれるなら… 私も嬉しいな。」

「それじゃ、開けてみるね?」

 

 

開けてみると、中からは緑の宝石のついた指輪が出てきた。 これって… そういう事だよね…?

 

 

「………っ!!」

 

「その指輪、グリーンガーネットを使ってるって書いてあったからさ。 少し高かったけれど、衝動買いしちゃったよ。」

 

 

…まぁ、キミはそんな人だよね…。 男性から女性に指輪を送る事、意味なんてほぼ一つに限られるのに。

 

 

「それじゃ、キミがはめてくれる?」

 

「それはいいが… どの指にはめるんだ…?」

 

「もうっ、左手の薬指以外ないでしょ? 婚約指輪なんだからさ。」

 

「あっ……! いや、そういう意味で送ったんじゃなくて…!」

 

「ふふっ、それぐらい分かってるよ♪ でも、キミと私の関係は言葉だけのものでしょう…?」

「だからって崩れ去る訳じゃないのは分かってる。 それでも、証明して欲しいの。」

 

 

なんて、少し重いかな? 怖くなり、キミの目を見つめ直す。 ………心配する必要はなかったみたい。

 

 

「…分かった。 約束したもんな。」

 

「ふふっ…… ありがとね。」

 

「じゃあ… つけるぞ?」

 

 

目を閉じて、指先だけに感覚を集中させる。 ゆっくりとはめていくキミの手が… 私の指に確かな証明を残していく。 目を開けると… 指には緑の宝石のついた指輪が輝いていて。

 

 

「私… やっぱり幸せだな……。 キミのおかげだよ…♪」

 

「俺だって、セント・パトリックデーという日をさ… 君のおかげで楽しめたよ。」

 

「ふふっ、来年も再来年もずっと… 一緒に楽しもうね?」

 

「もちろんだ。 まだまだ知らない文化もあるだろうしな。」

 

 

当たり前のように、来年の話が出来る。 一ヶ月前の私には想像もできなかったことだけれど。 今はキミが隣に居てくれる。 証明だってしてくれて…。

 

私は、今日という日を忘れないのだろう。 キミが証明を残してくれた… 記念すべきその日を。

 

 

 

 

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