やばいやばいやばいやばい!!
小鳥もさえずるような、なんてことも無い放課後の… トレーナー室のロッカーの中。 俺は今… 落ち着くことを知らない心臓に抗いながら、息を潜めている。
何故、こんなところに隠れているのか……。 その理由を知るには、少し時をさかのぼる事になる─────
愛し方を教えてよ
「よし、今月の練習スケジュールは… こんなもんでいいかな。」
昼ご飯も食べ終わり、そろそろおやつが恋しくなる時間…。 ファインモーションの専属トレーナーである俺は、月初めという事もあり… 今月のトレーニングの予定を立てていた。
ふぅ、ファインが来るまで少し時間があるし… 何か飲み物でも買ってくるとするか。
────────────────────
「あら? お疲れ様です、トレーナーさん!」
「たづなさん! こんにちは!」
「この前はラーメン… 奢っていただきありがとうございました!」
この、緑の特徴的な服を着た女性は… たづなさんだ。
ウマ娘のことにとても情熱的な… 俺の “ ウマ友 ” とも言うべき存在で… ウマ娘の事でひとたび会話が盛り上がると、朝まで話し込んでしまうこともあった。
それに、ラーメンの美味しい店を知っているため… 担当バのファインと行く店を選ぶ時の参考にしている。
「そう言えばトレーナーさん、そろそろ予定が空いてきたんですよ!」
「それは良かったですね。 何かするんですか?」
「ふふふ、そろそろ… トレーナーさんと話がしたくなってきたなって思いまして。」
「今週末とかどうでしょうか?」
今週末は… さっき作った予定では空いていたはず。
「はい、行けまs………… !!??」
な……!? ファイン……!?
廊下の向こう側から、ファインが近づいてくるのが見えるのだが… 何か様子がおかしい。
ただならぬ威圧感を感じるし… 目に光が入ってないように見える。
目が… 合った……!? その瞬間、さっきより強い威圧感が… はっきりと感じられるようになり、身体中が悲鳴をあげる。
どこか、生命の危機を感じた俺は… 一旦その場を去ることにした。
「すす、すみません! 今月まだ予定組んでなくて! 組み終わったら連絡しますね!!」
「トレーナーさん…? 急にどうしたんですか?」
「い、いえ… スケジュールのことを考えてたら、急いでやらなきゃいけないことがあったのを思いだして… はは… ではまた!」
「……? はい、また今度……?」
────────────────────
いやいやいやいや、なんであんな威圧感出してたんだ……!? たづなさんと出掛けてる事に関しては、この前伝えておいたはず…。
何か… 怒らせるような事をしてしまったんだろうか。
何はともあれ、今の状態のファインを相手にするのは… 絶対に危険だ。 本能がそう告げている。
ほとぼりが冷めるまで… この “ 消臭ロッカー ” の中でウマホでもいじるとするか……。
『未読通知… 126件』
……やっぱ寝てようかな。
「トレーナー? いる〜?」
っ!? ファインが来てしまった。 まぁ、そろそろミーティングの時間だから… 当たり前と言えばそうなのだが。
一応さっきのが見間違いで、すごく怒っているというのは… 俺の勘違いの可能性もある。
もしそうであるならば、すぐロッカーから出ていって… いつも通りミーティングを始められるのだが…。
「いないの…? 入るよ!」 バギッ!! ドゴッ!!
あれ〜…? ファインさん? ドアって蹴破るもんじゃなくて開けるものなんだけどな…。 いつもの優雅なファインを返して欲しい。
これは無理だ。 耳もバッチリ怒ってるし… 何の罪もないドアが犠牲になってしまった。 仮にここで俺が出ていったら、あのドアの二の舞になるだけだし… 今日はもう会わない方がいいだろう。
「まだ、来てないのかな?」
今日…… もう来ることは無いかな。
「う〜ん… そろそろミーティングの時間なのに……。」
うっ、形容し難い罪悪感が…… でも、命と引き換えのミーティングなんて到底出来ない。
「でもおかしいなぁ……。 トレーナー室の方向に行くのは見えたのにな……。」
やっぱりファイン… こっち見てたじゃないか……! でも、トレーナー室に入るのは見られていなさそうで… 少し安心する。
「あっ、そうだ! 電話… かけてみようかな♪」
まずいまずいまずい! マナーモードにするの忘れてた! やば、今なるt
『キミノアイバガ! ズキュンドキュンハシリダシー♪』
「あれ……? ふふっ、そこにいたんだね……。」
終わった。 ファイン… 笑顔怖いよ…。
「ねぇ、出てこないの? いるのは分かってるんだよ…?」
「もうっ、開けなきゃ話してくれないの…?」 ガチャ…!
「や、やぁファイン… 少し寝てたんだけど… 気がついたらロッカーの中に居たみたいだ……。」
「嘘… つかないでよ。」 バタン! ガチャ…
え、ロッカーの中に閉じ込められたのか……? でも、ファインも中にいるし…… 何この状況……?
「え〜っと… まずは、何に怒ってるのか教えて欲しいんだが……。」
「先に私が質問するね? さっき… たづなさんと何話してたの?」
「いや、次のお出掛けの予定だけど…… それはファインも知ってるだろう?」
「そこじゃなくて…… 他に何か言ってたよね……!」
「な、なんだ……? 他には何も話してないんだが……。」
「もうっ…… たづなさんと! ラーメン食べに行ったって…! どういう事なの!?」
え、えぇ〜……。 それは別に良くないか……?
「いや、お出掛けの時… 割と毎回通ってたぞ?」
「それが何かいけなかったのか…?」
「毎回!? ふふっ…… 極刑だよ!!」
「えぇ!? 本当に何がいけないんだ…?」
「分からないの…? トレーナーとラーメンを食べていいのは… 私だけなんだよ?」
「いやいやいや、たづなさんにも人権はあるから…。」
「私が法律になるもん! っていうか作るもん!」
何を言ってるんだこの頭ラーメンウマ娘は…。 私以外とラーメンを食べたからロッカーに閉じ込めます…… って普通はならないからな……?
「むっ…… 驚愕ッ! ドアが真っ二つに割れている!!」
って、この幼さの残る特徴的な声は… 理事長……! もしかしたら助けてもらえるかも……!
「りじt…… んむっ!?」
……っ!?!? 口が… 塞がれてる!?
「ん〜っ♡」
いや、キスされてるな… これ……。
ファーストキスなのに… ロマンのロの字も無いキス…… されてるな……。
「減給ッ! 器物破損はきちんと報告が基本ッ!」
違うんです… ファインがやったんです……。
そう言おうにも、口の中は… 君に侵食されていて。
「用務員ッ! 直しといてくれ!!」
「ウス。」
「ん…… ん〜っ♡」
息が…… そろそろ離して……っ…。 目の前が…… ファインっ─────
「ぷはっ…… ふふっ、ファーストキス…… キミにあげちゃったね♪」
「って、あれ……? 気を失っちゃったの……?」
「あっ、そうだ! この前建てた…… うん、隊長… よろしくね♪」
「ふふっ……♪ トレーナー、隙を見せたキミが悪いんだよ……?」
────────────────────
なっ……。 なっ………!!
「ここは何処なんだ!?」
目を覚ますと、知らない天井。 とても豪華で…… まるで王様のベットで寝てるみたいだ。
「ふふっ♪ やっと起きたんだ?」
「なっ…… ファイン! どうして?」
「どうしても何も、キミと私は… 今日からここで暮らすんだよ?」
「なっ…… 俺に拒否権は……っ!?」
「あるけど…… 断っても意味ないよ?」
「どういう事だ……? まぁ、断れるなら断らせてもらうが……。」
扉は…… あそこか。 とりあえず家に帰ろう…… ここの雰囲気は豪華すぎて、俺の目には少し悪い。
「あ〜あ、出て行っちゃうんだ。」
「当たり前だろ? 君は未成年だし、俺はトレーナー… いわば教師のようなものなんだ。」
「そんな関係の二人が同棲なんて… 日本では許されないことなんだよ。」
「………。」
そんな言葉を口にしながら… 扉を開け、外に出ると…
「いや… 嘘だろ……?」
まず、大勢のSPが出口前に待機しているのが見えた。
さらに、出口の扉には厳重なロックがかかっており… 人である俺には絶対に開けられないようになっている。
「私はトレーナーのこと… 絶対に逃す気は無いから。」
後ろから、冷たい空気が流れ込む。 どうやら、抵抗するのは無駄みたいだ。
「トレーナー、好きだよ。 だから、ここで一生暮らしてくれないかな……?」
「こんな愛し方… 間違ってる……。」
「ふふっ、私… 他の人にキミが取られたくなくて……。 この建物も、キミが絶対に出ていけないような造りでお願いしたの。」
「キミを手に入れる方法…… これしか思いつかなくて……。」
「だからと言って… 実行していい理由にはならないはずだ……。」
「でも、正しいやり方なんてないでしょ? 私はキミが、キミの心が欲しいの。」
「正しさなんて関係ない、結果が全てなんだよ?」
「これは… 俺の心を手に入れてるんじゃなくて、抵抗出来てないだけなんだよ!」
「じゃあ… 私に正しい愛し方を…… 教えてよ。」
「結果は確定してるけど… 今からでも間に合うよね……?」
そういって、君は俺を見上げる。 いつものワガママは… 可愛い方だったんだなと、今更ながら思う。
もう、逃れられないのだろう。 変えられるのは… そこに行くまでの選択。 ならせめて…… 後味が悪くならないように……。
「一緒にここから… 頑張ろうな……。」