蒼空の乙女達 ―Maidens in the blue sky―   作:ミヤフジ1945

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需要ってあるんですかね……これ















第11話 入港 中編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高後崎信号所からの迷惑な返信、という名の通峡許可を貰い、アサマはゆっくりと高後崎水道へと進入して行った。

 

 

 

『英雄ノ凱旋ヲ祝福ス。』

 

 

その言葉の意味をどう解釈したら良いのか、アサマ艦橋内の八江達はただただ首を傾げながら悩んでいた。

 

実際の所、高後崎信号所の職員達は一切の悪意等は無く、純粋に佐空の久しぶりの朗報に対して祝いの言葉を送っただけなのだが、颯華にしては溜め息を吐いて頭を悩ませるには十分であった。

 

祝電………といって良いのかは怪しいが、祝いの言葉自体は嬉しいモノである。颯華もその事に付いては素直に受け取っているし、嬉しくも感じているが、それ以上に頭を悩ます問題なのが話の出所だった。

 

颯華を始めとしたアサマは佐世保女子飛空士学校航路管制塔(SRCT)及び、サワカゼの曳航作業で合流したアルメの乗るヨイツキ以外とは、こと福連との顛末について言葉(実際には無線であるが)を交わしていない。

つまり、アサマから外部へと情報が流出する事は無いと断言出来る。

 

 

つまり、残る選択肢はアルメ達が情報をばらしたか、佐世保女子飛空士学校航路管制塔(SRCT)から情報が流出したかの二択になってしまうが、そもそもアルメ達は曳航作業の秘匿性から無線封止中であるし、先に佐世保へと入港しているならば佐世保女子飛空士学校航路管制塔(SRCT)経由でアサマへと情報が入るはずである。

 

つまり、残る選択肢はあと1つ。そして、颯華には情報を流出させうる人物(バカ)を1人知っていた。

 

 

情報とは、戦術的、戦略的において最も重要性の高いモノである。

だから、佐空を始め多くの飛空士学校が情報を求め、また自分達の情報を漏らすまいと日夜見えない攻防を繰り広げている。

 

つまり、自分達から情報を流す(欺瞞工作を覗けば)事は巡り巡って自分達の首を絞めることに繋がるのだ。

 

だから颯華はその情報を漏らした人物(バカ)を思い浮かべ溜め息と共に頭を悩ませたのだ。

 

 

 

 

「………まぁいい。両舷前進原速。進路このまま。」

 

 

 

 

「両舷前進原速、進路このまま。了解」

 

 

 

 

白い引き波(ウェーキ)を艦尾へと流しながら、アサマは時速12ktで高後崎水道を通峡する。

甲板ではアサマの第1分隊(砲雷科)が入港作業を行うために右へ左へと忙しなく動いている。

 

艦長席に座ったままでガヤガヤと慌ただしく動くアサマの艦上を艦橋の窓から颯華は眺める。普段と変わらない光景のはずなのだが、今日の出来事の所為で皆どこか疲れた雰囲気だった。

 

 

 

 

「艦橋こちら前部。前部最狭部通過。」

 

 

 

 

「艦橋こちら後部。後部最狭部通過。」

 

 

 

 

 

「了解……航海指揮官。前後部それぞれ水道最狭部通過しました。」

 

 

 

 

アサマの前部甲板、後部甲板で入港作業件見張りをしている乗員からその報告を受けた艦橋伝令員が航海指揮官たる八江にそう報告した。

艦橋中央の窓際、羅針盤の置かれているそこが航海指揮官たる航海長、八江のポジションである。

 

 

 

 

「了解。艦長、水道最狭部通過しました。速度を#強速__15kt__#とします。」

 

 

 

 

「了解。八江、両舷前進強速。」

 

 

 

 

「両舷前進強速!」

 

 

 

 

甲高いテレグラフの音と共に、高後崎水道の最も狭い水域を抜けたアサマは入港する佐空の入渠ドックを目指しその船足を15ktに上げる。

ウェーキがより一層強く尾を引き、それに伴って艦橋内に響く波の音も徐々に強くなっていく。

 

 

 

 

「両舷前進強速、赤黒なし。」

 

 

 

 

「ヨーソロー。」

 

 

 

 

増速したアサマは高後崎水道近くの俵ヶ浦町を通り過ぎ、まもなく米軍敷地のある庵崎に差し掛かろうとしている。

 

 

 

 

 

「入港まであと5海里。艦長、艦内に入港用意を令します。」

 

 

 

 

 

「了解。」

 

 

 

 

颯華に許可を貰い八江が令しようとした時、庵崎方面から一隻の船が姿を見せた。

 

やや小さめの、そしてずんぐりとした印象の灰色の船体に、後部に一際目立つ大きな折り畳み式のクレーン。

艦首にはブルワークと呼ばれる波除がついており、側面には白字で『4303』の文字……

 

 

 

 

 

「艦橋こちら前部。自衛艦1隻。右10度5.0(ごーてんまる)(50メートル)面舵とって反航体制。」

 

 

 

 

 

「了解。」

 

 

 

 

アサマの前に姿を現したのは海上自衛隊佐世保地方隊佐世保警備隊所属の多用途支援艦『あまくさ』だった。

 

護衛艦やアサマのような戦闘艦とは違い、武装は殆ど無い主に訓練の支援や故障した際に港まで曳航するなど、戦闘艦を陰ながら支える数少ない裏方の艦である。

 

 

 

 

「艦長、前方の自衛艦はあまくさですね。衝突予防のためやや面舵を取って間隔を広めに取ります。」

 

 

 

 

「間隔は八江に任せる。」

 

 

 

 

「了解。面舵15度!」

 

 

 

 

そうして面舵を取ったアサマだったが、どうやらあまくさも同様に面舵をとったようだった。

おたがいが面舵をとったために約100メートルほど開いた間隔を保ちつつすれ違う2隻。アサマより一回りも二回りも小さいあまくさを艦橋から眺める颯華達だったが、ふとあまくさの艦橋へと目をやった時、あまくさのウィングでこちらに向かって敬礼している人影が見えた。

 

 

 

 

「艦長!」

 

 

 

 

慌てて見張り担当の子が叫ぶ。

船体はアサマの方が何倍もでかいとはいえ、あちらは本職の自衛官。颯華達飛空士候補生も階級社会とはいえ、その肩につけている重みは遥かに違う。颯華は慌ててアサマの左ウィングへと出て答礼(敬礼に対して敬礼を返すこと)をした。

 

答礼を双眼鏡で確認したあまくさの見張り員が相手の敬礼者にそれを伝えると、相手は満足そうに頷いて艦橋へと入っていった。

 

敬礼を解いた颯華は冷や汗をぬぐった……

 

普通敬礼をする場合において下位の者が先に敬礼をおこない、上位者がそれに対し答礼をするものである。この場合においても、本当ならば上位者は自衛官たるあまくさの艦長であり、学生の身分である颯華が先に敬礼をしなければならなかった。

 

しかし、颯華に完全に非があるかと言われればそうとも言えない。普段の実習において佐空の学生艦が全く関係のない自衛艦に対し敬礼することなどはまず無い(相手の任務の邪魔をしない様に教師から指導されている)のだ。

ましてや、自衛艦の方から敬礼されることなど一度としてなかったのだから。

 

 

 

 

(なんでこう……あぁもう……なにも考えたくない……)

 

 

 

 

颯華の脳はもはや思考放棄気味だった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideあまくさ

 

 

 

 

 

 

「艦長、よろしかったので?」

 

 

 

 

 

「なにがだね、副長?」

 

 

 

 

 

あまくさ艦橋にて齢50近い艦長に対して、いまだ少し若さの残る女性士官が話しかけた。

 

 

 

 

「先ほどの敬礼のことです。私も艦橋内で見てましたが、相手の娘…………かなり焦っていましたよ?」

 

 

 

 

どうやら先ほどの慌てて艦橋からウィングに出てきた颯華の姿を内から見ていたらしい副長は流石に不憫に思ったのか、先ほどの行為に対しての真意を艦長に伺った。

 

 

 

 

「君は先ほどの彼女を見てどう思ったかね?」

 

 

 

 

「はぁ?…………まぁ、気づいて艦橋から出てくるまで大体20秒ってところでしょうか。本職なのに気づくのに遅れる新米(見張り員)もいますし、敬礼の姿勢も悪くなかったのでおまけで及第点ってところです?」

 

 

 

 

「中々手厳しいなぁ」

 

 

 

 

「後輩ですので……先輩として甘くはしてあげれません。」

 

 

 

 

どうやら佐空OGだったらしい副長の言葉を聞きつつ、艦長は後方へと通り過ぎたアサマを一瞥した。

 

 

 

 

「あの娘達は他校の飛空艦を守るために3隻相手に戦ったそうじゃないか。」

 

 

 

 

艦長の目に何が写ったのか、副長にはわからなかったがどこか遠いところを見ているように見えた。

 

 

 

 

「私の父はかつての戦争で輸送船に乗っていたらしい。」

 

 

 

副長は黙って艦長の言葉を聞いている。副長だけじゃなく、艦橋内の隊員皆が作業の中艦長の言葉に耳を傾けていた。

 

 

 

 

「アメリカの潜水艦の攻撃で乗っていた船を沈められ、父は暗い海に投げ出された。

 

父の船だけじゃない。ほかの輸送船も、輸送船を守るための護衛の駆逐艦すら魚雷で1隻、また1隻と沈んでいった。

 

父は運よくサメに食われることもなく救助されたそうだが、助からなかった命が大勢いた……」

 

 

 

 

最早独り言に近い艦長の言葉を、副長は黙って聞いていた。

 

 

 

 

「父のような人を増やしたくなくて自衛隊(ここ)の門をくぐったが嬉しいことに未だそんなことに出会ったことがない。

 

場所やスケールが違っているとはいえ、私の志した原点()を彼女達が成し遂げたと思うとつい……嬉しくなってしまった。」

 

 

 

 

陽光を遮るかのように、艦長帽を深く被り直す艦長を見て副長は自然と口角が上がるのを自覚した。

 

まぁ、無理もない。彼女もまた、佐空の門を叩き、学び、育って巣立った者である。尊敬する艦長に面識がないとはいえ愛着ある母校の後輩達を褒められて嬉しくないわけがなかった。

 

 

 

 

「では、彼女達が自衛隊(私達)の門をくぐった時のために艦長にはずっと現役でいていただければなりませんね。」

 

 

 

 

「おいおい…………年寄をこき使い過ぎだろう?」

 

 

 

 

「まさか!艦長にはまだまだ指導して頂かねばなりませんから!」

 

 

 

 

そういって副長が笑うと、つられて艦長も笑った。航海指揮官も、レーダー員も、操舵員も見張り員も艦橋内の人員が笑っている。

それでも作業をつつがなく進めているのは流石自衛官と言った所か。

 

 

 

 

「彼女達の航海に幸運の女神のキスがあるといいね、副長。」

 

 

 

 

「そうですね。しかし、先んずは我々も任務を全うしませんと後輩に示しがつきませんが?」

 

 

 

 

「無論だとも。今回の任務も皆頼んだぞ?」

 

 

 

 

艦長はそういって艦橋内を見渡した。

 

 

 

 

「「「「了解。」」」」

 

 

 

 

頼もしい返事を受け満足そうに頷く艦長。

 

艦長席に座る前に改めて、艦長は後ろを振りむいた。

 

アサマ()は小さくなっていたが、それでもまだ彼の目には見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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