蒼空の乙女達 ―Maidens in the blue sky―   作:ミヤフジ1945

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第2話 救難信号

 

佐世保女子飛空士高等学校(SGSHS)所属の1等特務飛空巡洋艦 アサマは飛空商船改装巡洋艦である。

元々は佐世保、鹿児島間の生徒通学便として運用されていたアサマであったが、生徒数の減少、領内航路の規模縮小に伴って生徒通学便の運航を減らすことが計画され、#佐世保連合艦隊司令部__生徒会__#からの命令により生徒通学便として除籍され、その役目を終えた。

 

しかし、先の敗北により在籍艦の少なくなった佐空において、1隻でも飛空艦が減るのは大変困ることである。

 

よって、アサマは佐世保女子飛空士高等学校工廠科の生徒達の教育実習もかねて飛空巡洋艦へと改装される事になった。重要部位(バイタルパート)の装甲化や速力の向上、武装の設置や艦橋構造物の一新。

ハッキリ言えば、中古の2等飛空巡洋艦(軽巡洋艦)程度なら買えそうな予算を投入され、約1年半の歳月をかけて晴れて1等飛空巡洋艦(重巡洋艦)として就役した。

 

そうして就役したアサマであるが、1等巡洋艦としての性能は中途半端な物である。

 

最大速力は240ノット。他校の一般的な1等巡洋艦は270~280ノットなのを考えると鈍足であるし、装甲も元々が生徒通学便の商船だった為に多少の装甲を施した所で防御力は巡洋艦として不安の残る結果だった。

 

火力面は、当時としては一般的な50口径20cm連装砲を4基8門搭載、53cm4連装発射管を片舷1基の計2基を備えているが、今では旧式になってしまい火力面でも心許ない。

 

 

正直に言えば扱いにくいアサマであるが、元が生徒通学便だったこともあり、居住性は他の飛空巡洋艦よりも圧倒的に良かった。一般的な飛空巡洋艦の飛空士が5~6人部屋なのに対し、アサマは飛空士は3人部屋と同じ面積で半分、士官要員に至っては2人部屋となっている。

 

艦長室に至っては他の巡洋艦より圧倒的に広く、アサマに乗る為に他艦から転属する艦長がいた程である。

 

そんな商船時代から変わらない木材で彩られた落ち着いたクラシカルな艦長室の部屋の中、1人の少女がベッドで寝ていた。

深夜の当直(ワッチ)明けで今やっと寝ている彼女こそが、1等特務飛空巡洋艦 アサマの艦長である。

身長は159cmと一般的で、暗めのダークブラウンの髪をボブカットにしつつも、腰まである後ろ髪を三つ編みでおさげにしている。

 

 

 

宮藤 颯華(みやふじ そうか)

 

 

 

それが彼女の名前であり、『第4代1等特務飛空巡洋艦 アサマ艦長』の重責を背負っている少女である。

 

 

 

 

 

『士官要員集合、艦橋!

Situation Yellow!ケースR-02!』

 

 

 

 

彼女の眠っている艦長室に、八江が艦内マイクでかけた号令が響いた。

ワッチ明けでまだ2時間も寝ておらず、爆睡している彼女であるが、それなりに大音量のマイク(単に八江の声量がデカかったせいもあるが)が聞こえては、直ぐ様夢の世界から呼び戻された。

 

 

「はぁ………R-02…面倒事にならないといいけど。」

 

 

ゆっくりと、名残惜しむかのようにベットから這い出し、寝間着を脱いで壁に掛けていた佐空のセーラー服に手をかけた。

佐空のセーラー服は特に目立った所の無いシンプルな物で、襟は紺色の下地に白のラインが一本、バタフライは白地に紺のラインが1本入っているだけの物だ。

士官要員には黒い袖に細い黄色のラインが入っているが、颯華のセーラー服には艦長職を示す為に、黄色のラインが細いのと太めのが1本づつ入っているのが特徴と言えば特徴だろうか。

 

 

 

ピピピッピピピッピピピッ

 

 

 

丁度颯華が着替え終わった所で、艦橋と艦長室を繋ぐ直通電話の電子音がなった。

 

 

 

「状況は?」

 

 

 

「0923iにコクブイ16チャンネルにて救難信号(メーデー)を受信しました。国際飛空士規定に基づきR-02を発令、0926iに予想現場空域真方位039°へ向け進路変更しました。」

 

 

 

電話の相手は八江や夏美ではなかった。どうやら既に士官要員は艦橋へと集まりつつ有るようだ。

 

 

 

「わかった。詳しくは艦橋で聞く。」

 

 

 

 

受話器を置くと、颯華は椅子にかけていたカーキ色のロングコートに袖を通し、艦長帽を被ってから艦長室を後にした。

 

アサマの艦長室は艦橋の直ぐ下に有る為艦橋まで行くのに殆ど時間は掛からなかった。

 

 

 

「艦長入られます!」

 

 

 

既に集まっていた士官要員の1人が颯華に気づいて号令をかけた。それに従う様に手すきの士官要員は颯華に対して敬礼を行う。

 

 

 

「詳細は?」

 

 

 

艦橋右舷側にある艦長席に座りながら、颯華は事の詳細を確認する為に先に艦橋へと上がっていた副長へと話しかけた。

 

 

 

「0923iに救難信号(メーデー)を受信

0924iに音声記録開始

0925iに所属不明艦(unknown)との通信途絶

0926iに予想現場空域だと思われる進路039°へと変針しました。」

 

副長と呼ばれた身長145cmの小柄な少女、『初正郷 アルマ(しまさと あるま)』はどうやら今までの状況を八江から聞いてメモしていたのだろう。手元の手帳を見ながら報告した。

 

「その後の受信状況は?」

 

 

受信出来ません(No signal)です。艦長」

 

 

「本艦の速力と到達予定時刻は?」

 

 

「現在第2戦速(210kt)で、30分ほどです。」

 

 

「ありがとうアルマ。」

 

 

颯華はアルマに礼を言ってから少しの間無言になった。と思えば何度か録音された通話記録を聞き、目を閉じては再び無言で、考え始めた。

 

 

アルマを始めとした士官要員にとって、颯華のこの行いは珍しい物では無かったが、ここまで長く考えているのは初めて見るものだった。

 

時間にして1分位だろうか。

 

何かに頷いたかと思えば、颯華は1度帽子を深く被った。

 

 

「機関長!最大戦速は発揮できるか?」

 

 

「先週浮遊機関もボイラー、タービンも整備したばっか。もーまんたいさ。」

 

 

 

機関長、『龍図 圭(りゅうず けい)』は黒いレインコートを軽く叩きながら、最大戦速を出しても大丈夫だと太鼓判を押した。

 

 

「わかった。

 

航海長、最大戦速。」

 

 

「最大戦速、ヨウソロー!」

 

 

 

航海長、八江は直ぐ様テレグラフ(速力通信機)を操作してメモリを最大戦速へと操作を行う。テレグラフは機関制御室に信号を送り、配置についていた機関科員が素早くアサマを最大戦速を出せるように機関を制御した。

 

ボイラーの圧力が上がり、推進機関を回すタービンもそれに応じてドンドン高速で回っていく。回転率の上がった4重反転のプロペラが空気を引っ掻き回し、速力が上がり始めたアサマは僅か1分も経たずに彼女自身の限界たる240ノットを発揮させた。

 

 

「んじゃ、俺は機関の面倒を見てくるよ艦長。」

 

 

釜焚き達の長(機関長)たる圭は、少しでも長く機関が最大戦速を発揮出来るよう機関室に移動するようだ。

 

 

「すまない圭。」

 

 

「いいってことさ。釜焚きは釜の前こそが戦場なんだからさ。」

 

 

颯華に軽く手を振ってから、圭はラッタルから降りていった。

 

速力を最大戦速の240ノットに上げた為、おそらく当初の予定より10分ほど早く到着出来るだろう。それだけでも、救難信号(メーデー)を発した所属不明艦(unknown)の生存率は跳ね上がる。

 

しかし、それでも八江を初めとしたアサマ艦橋に集まった士官要員の顔は不安で一杯だった。

 

何せ今まではずっと教育実習訓練と領内航路の警備演習(と言う名の実任務だったが)だけで、実際にこういった事態に遭遇したのは今回が初めての事だった。

 

 

「ほら、ボサッとするな。

お前達が不安がると下の者も不安になるぞ、各科長は各科飛空士要員に情報伝達を行え。」

 

 

パンパンと手を叩きながら、颯華は士官要員達に行動を促す。それに伴って八江や夏美、アルマを初めとした各士官要員もバタバタと動き始めた。

 

ある者は艦内電話を使い、また別の者は部下の飛空士要員に伝令をさせた。

 

八江にとっても、初めは助けなきゃと言う使命感に心が熱くなっていたが、時間も経ち心に余裕が生まれると次第に不安の方が強く感じるようになった。

 

 

(行った所で、私達に何が出来るんかな……)

 

 

演習として救難活動を行ったことはあれど、やはりそれは訓練以上の何物でもない。実戦で訓練通りやれるのか、八江は不安だった。

 

そんな中で、普段と何1つ変わらない態度でいる颯華の姿に、少なくとも八江は安心感を覚えた。

 

 

「………大丈夫、私達なら訓練通り出来る。」

 

 

 

「八江?」

 

 

 

「な、何でもないよアルマ!」

 

 

 

自身を勇気付ける為に小さく漏らした言葉だったが、どうやら幼馴染のアルマに聞こえてしまっていたらしい。八江は少し恥ずかしくなって慌てて否定した。

 

 

「大丈夫だ八江。

お前なら出来る。」

 

 

「も、もう!艦長まで何を言うんですか!?」

 

 

艦橋の中で小さくない笑いが溢れた。

八江は恥ずかしさで顔を赤くしたが、それと同じく皆の不安が減っていくのを心で感じた。

 

 

(……なんだ。皆も私と同じだったんだ。)

 

 

 

自分だけではないと少しだけ嬉しくなったのは消して口には出さなかった。

 

 

 

「それじゃあ……少しウィングに出てくる。」

 

 

 

「艦長………また煙草ですか?」

 

 

 

「何度も言っているだろうアルマ副長?

これは煙草じゃない、ハーブシガレットだ。」

 

 

 

どっちでも同じような物です!とアルマは不満顔をしたが、気にも止めずそそくさとウィングへと出ていった颯華の姿に、艦橋内は先程とは違う笑いで溢れた。

 

 

 

「あの癖さえ無ければ良い艦長なのに……」

 

 

 

「そうは言ってもねぇ……まぁ、煙草?を吸ってる艦長の姿って結構絵になるし。」

 

 

そういう問題じゃないですよ夏美さん!

 

 

正義感の強いアルマにとって、煙草っぽい物を吸っている颯華は不良に見えてしまいつい注意してしまう。

 

まぁ、それを颯華が聞き入れた事など1度として無いが………

 

 

 

 

皆の不安も小さくなり、アサマは大急ぎで予定空域へと向かっていく。アサマの速力と合わさった合成風が強く服越しに肌を刺し、体感温度が下がった外は酷く寒い。

そんなウィングで、颯華はコートのポケットから潰れたハーブシガレットを取り出すと、1本を口に含みマッチで火を着けた。

 

喫煙は普段から頭をリセットする時にしてしまう、最早癖のような行為であったが、それでも拭いきれない不安を、ハーブシガレットを吸いながら颯華は内心感じていた。

 

 

(無事に何事もなく終われば良いがなぁ……)

 

 

 

 

吐き出し空中へと揺らめく紫煙は、240ノットではるか後方へと流れていった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、ハーブシガレットは未成年者の喫煙が許可されているニコチンの入っていない漢方やサプリメントの1種である。

 

お求めは近くのコンビニまで(そんな物ありません)。

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