「なんか…、変わっちまったよなァ、俺達」
崩れゆくこの世界で幼馴染の男女はただ剣を交える

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崩れゆく世界で

崩れゆく世界の中心で、二人の剣士が相対する。

 

「なんか…、変わっちまったよなァ、俺達」

 

無骨な大剣を構える男と、

禍々(まがまが)しい刀を携える女は幼馴染であった。

 

「あの頃は二人で木登りしたり、山に行って飯を食ったり、それはまぁ色々遊んだもんだ」

 

ある日強大な魔神が出現し、世界は闇に包まれた。

魔神は男の手によって辛うじて(たお)されたが、世界の崩壊は防ぎようがなかった。

そして、その魔神を呼び出したのは、他ならぬ目の前に佇む彼女であった。

 

「それが今ではどうだ?崩壊する世界を尻目に二人っきりで決闘だ。」

 

ハッと笑う男に対し、仏頂面(ぶっちょうづら)の女はいとも嬉しそうに目を笑わせていた。

 

「いつからだっけな、お前と俺が好敵手(ライバル)になったのは」

 

幼い頃から剣士に憧れていた男は早々に村を出て修行の旅へ出た。

そして旅を続ける中で多数の人と出会い、数多の敵を倒し、精神的にも成長していった。

そうして男が村へ戻ると、幼馴染の女が剣の仕合を申し出てきたのだ。

 

「一回目は双剣だったか?」

 

女との仕合は男の圧勝………とは言い難かった。

数々の困難を乗り越えてきた筈の男は、二振りの剣を手にした幼馴染を相手に苦戦し、やっとのことで勝つことができたのだ。

 

「動きの重い両手剣に対して双剣で翻弄するというのは安易だが良い発想だと思うぜ?」

 

久々に相対した強敵を前に男は再度修行の旅へ出た。

力を付け、新たな戦闘技術を会得した男が村へ戻ると、やはり女が仕合を申し出てきた。

 

「二回目は銃だったな。あの時は驚いたぜ」

 

男が両手剣を構え、新たに会得した技を繰り出そうとすると、女は二丁の銃による銃弾の嵐を遠慮なしに浴びせてきた。

 

「そりゃな、銃は剣より強いわな。しかもお前の銃撃は剣士の弱点を的確に突いてくる」

 

新技を披露する間もなく男は銃撃から逃げ続け、

ついに女が弾丸を撃ち尽くした時に男は疲労困憊の身体に鞭を打って女を倒した。

 

「というかその華奢な身体によくもあんだけの弾薬をしまえたよなァ…」

 

またしても苦戦を強いられた男は、再度修行の旅へ出ては村へと戻り女と戦った。

 

「鞭、槍、弓、ナイフ、よく分からん分厚い本………。俺が必死こいて剣を極めている間にお前は新たな武器の扱いを学んで、しかも修行を積んだ俺に食らい付く位には物にしてやがる」

 

ちなみに女が涙目になりながら振るった分厚い本は、

男が少年時代に隠し持っていた卑猥な本を切り刻んだ後に怨嗟を込めて貼り合わせた物である。

 

「いつだってそうだったよな?お前は俺を超えてくる。今回だってそうだ。」

 

男は自分が握り込んでいる骨の大剣と、女が携えている禍々しい刀剣を見比べて言った。

 

「俺は魔神を倒す為に必死こいてこの大剣を手に入れた。これまで使っていた相棒の両手剣を犠牲にしてまで暴竜(ぼうりゅう)を倒し、その竜の骨を王国の職人に削り出してもらってこんな不恰好な剣にしてもらった訳だ。」

 

かの魔神を(ほうむ)る程の威力を持ったその剣は、無骨ながらも世界最強の剣と評された。

 

 

 

女がその禍々しい刀を手にするまでは。

 

 

 

「なんだ?その刀は。魔神の剣ってとこか?」

 

男が全身全霊を込めて魔神を倒したところで、女は現れた。

女は魔神の(むくろ)へと歩み寄ると、見たこともない術を用いてその死骸を一振りの刀へと変えたのだ。

 

「今回ばかりは俺も死を覚悟するぜ?」

 

そこまで言って、男は息を吸って言葉を直す。

 

「………いや、違うな。俺は死ぬ覚悟でお前を倒す。お前に負けてられねぇんだ。」

 

全身に力を込め、強力なオーラを身に纏う。

女もそれに呼応するように、魔神の刀を(さや)から抜く。

 

「まァ、勝っても負けてもどうせ世界は滅びるんだろうけどな。」

 

竜のオーラを身に纏った男は力を篭めて地を走り、女へと大剣を奮った。

しかし、女は刀を振り(かざ)し、眼前に迫る大剣へ刀の刀身を這わせると、その攻撃を払うかのように刀を(ひるがえ)した。

 

あっけなく剣を払われた男は、よろめきながらも女へ向き直り、大剣を構え直した。

 

「ハハハ、、、重てぇな。ああ、重いよ。お前の剣は」

 

女は刀を構え直し、次の攻撃を待つかのようにただジッと男の眼を見ていた。

 

「なんなんだろうなァ、この重さは。覚悟って物を感じるぜ。」

 

男が全力で放った大剣の一撃を受け流せたのは、単なる技術による物ではなかった。

修行を積み魔神を斃した男の一撃は、そんな単純な物ではない。

 

「そのドス黒い剣にしてはやけに純粋で、汚れのない重さを感じたよ。お前、さては今までの凶行も闇に呑まれてやらかした訳じゃないだろう?」

 

女が魔神を呼び出し、そしてその骸を剣に変えた時、それはこの女が力に取り憑かれたが故の凶行だと男は思っていた。

だが、一度、たった一度剣を交えただけで、その考えが間違っていたことを男は思い知らされた。

女の剣から伝わってきたのは、まるで子供のような、汚れのない純粋な思いだった。

まるで幼い頃一緒に遊んだあの頃から変わっていないかのような。

 

 

 

男は大剣を逆手に持ち変え構え直す。

 

「出しな、お前にもあるんだろう?隠し球がよォ」

 

魔神を斃すその時さえも繰り出さなかった最後の大技を男は放つ気でいた。

 

「俺は出すぜ?正真正銘最後の技、俺の人生の中で最大最強の大技だ。」

 

世界が崩れる時は近い、この一撃を持って勝負を終わらせる。

そんな男の意図を察し、女も刀を逆手に持ち変えると、刀身を鞘へと戻した。

 

「ハッ、居合斬りかい、俺が力を込めて最強の技を出そうとする時に、お前は技術の技で挑むのかい?やっぱりお前にゃ敵わないねぇ」

 

男は自身が纏う竜のオーラを大剣へと流し込む。

竜の骨で作られた大剣は、その力を受け取ると同時に猛烈な音を立てながら変形し、竜の顎を思わせる攻撃的な形へと変化した。

 

「これを使っちまうともうこの剣は持たねェ。次の一発がこの剣の最後の一撃になっちまうのさ」

 

最強の剣の最強の一撃、

その一撃を放つとこの剣は自壊し塵となる、文字通り最後の一撃だ。

 

「最後の大勝負だ。読み合いはいらねぇ、せーのでぶつけるぞ?」

 

男は自身のできる最大限の力を込めて剣を握った。

暴竜の骨を削り出したその剣がメキメキと音を立てて握る力に応えている。

 

「せー………のッ!!!」

 

男は地を蹴り、剣を振った。

女も鞘から刀を抜き、強大な一撃を放った。

が、

 

「すまねぇなぁ、何度もお前に出し抜かれた身だ、最後の最後くらいこっちが出し抜いても大目に見てくれや」

 

竜の顎のように変化した大剣が、意志を持ったかのように女の刀身に噛み付き、その一撃を喰らった。

男は跳躍し、魔神の刀を折られた女へトドメを刺すように宙で大剣を構え直す。

だがしかし、女を睨み付け狙いを定めた時、女は先程と同じ居合の構えを取っていた。

 

「二回目………?違ぇなぁ!こっちが本体って訳だ!」

 

先程男の剣が喰らった筈の一撃は、魔神の刀が作り出した“(ビジョン)“だったのだ。

 

「泣けるよなァ!こっちは恥を捨てて最後の大勝負に出し抜いたってのに、お前は平然と出し抜くつもりだったなんてなぁ!!」

 

女の刀が禍々しく光ると、宙に居る男へ向け数々の像が現れ、その一つ一つが刀身を翻して斬り込んでくる。

女の一撃を喰らって強化された筈の男の一撃は、連続して放たれる像の斬撃によって衝撃を殺され、もはやその威力は毛程も残っていなかった。

 

 

 

女が刀を抜く。

像ではない、正真正銘の必殺の一撃が男へ繰り出された。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

女の一撃を受け、砕け散る大剣と共に男は走馬灯を見た。

それは、男が初めて旅に出る前、女と交わした他愛もない会話だった。

 

「貴方は…………貴方は、どんな人がお好きなのでしょうか」

「そうだなァ…………、俺より強い奴、なんつってな」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

宙を舞っていた男の身体が地へ叩きつけられ、意識が現実へと引き戻される。

最後に崩れゆく空でも見ようと満身創痍の身体で目を開けると、女が自分の顔を覗き込んでいるのが見えた。

 

女の剣から伝わった純粋な想いの正体に気付いた男は笑いながら言葉を発した。

 

「俺の、負けだよ」

 

その言葉を聞いた女はパァッと目を輝かし、こう応えた。

 

「初めて会った時から、貴方のことが好きでした。」

 

「ハハハ………初めて会った時からかい、そりゃ相当昔の話だなァ」

 

崩れゆく世界の中心で、男と女は結ばれた


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