拠点である場所へと戻ってきたアンジェ。
アンジェを下ろすと、ISは解除される。
「ありがとね、シェンちゃん」
「...」
いつもの如く、シェンは喋らない。しかしアンジェには伝わっているようだ。
拠点に入り、アンジェは自室へ戻る。
ベッドへと寝転がると、アンジェは溜息をつく。
「はぁ...まさかあれに巻き込まれるとは思わなかった」
アンジェは自分の掌を見つめながら呟く。
「ごめんね、一夏君。私、偽名教えちゃった」
そう、アンジェは偽名だ。本名は言う訳にはいかない。何故なら、私はもう
それから幾年か経ち、アンジェは自室でパソコンにかじりついていた。タイピング音が静かな自室に響く。
「...チッ、またやってんのか、あいつら」
アンジェが珍しくイラついている。それもそのはず、ドイツでIS適正を上げる為の非合法の人体実験を行う外道な輩がいるのだから。
アンジェはそういう輩が、蛇蝎のごとく嫌っている。なぜならそれは、シェンと似た境遇なのだから。
自分の可愛がっている娘同然の子と同じような仕打ちを受けていると知れば、誰もが怒るはずだ。
「...シェンちゃんには酷だけどこの研究所、潰してもらうか」
アンジェはポケットから携帯端末を取り出すと、シェンにかける。
「シェンちゃん、ちょっと部屋に来てくれる?」
『...分かった』
「シェンちゃんが喋った!?」
『...悪い?』
「ご、ごめんなさい」
とても可愛らしい声だがどこかドスが効いている気がしたアンジェは素直に謝る。
「...」ムフー
数分もしないうちにシェンが部屋に入ってきた。腕いっぱいのポテチの袋を抱え、リスのように頬を膨らませポテチを頬張っている。こころなしか幸せそうな顔をしている気がする。というか幸せそうなオーラが滲み出ている。
「...美味しい?」
「...」コクリ
(かわいい)
ほっこりしたが、こんなことをしている場合ではない。可哀想だが、任務を伝えなければならない。
「実はね、シェンちゃんと同じ事をしようとしてる奴らがいてね、そいつらを潰してきて欲しいの。」
「...」
シェンは何も喋らず、俯いてしまった。そのため表情は伺えず、どんな思いなのか分からない。
「シェンちゃんが出来ないって言うなら、私がやるよ?無理しなくていいからね」
「...やる」
「大丈夫?」
「...」コクリ
シェンは頷く。それを見たアンジェは少し不安になったが、やると言ったのだ。行かせてあげたいと思った。
「じゃあ、頼むね」
シェンはISを展開し、カタパルトに機体を固定する。出撃準備は完了したようだ。
「行ってらっしゃい、シェンちゃん。頑張って。」
と同時にブースターを吹かせ、轟音とともに目で追えぬ程の速さで飛び去った。
ドイツの研究所。そこではISの適正を無理矢理上げる実験をしていた。研究員が被検体の少女をコードに繋げ、脳に負荷をかける。
「あああああああああああああ!!痛い!痛いよ、助けて!」
少女が痛みに叫ぶ。しかし止まりはしない。実験は続行され、少女の体が痙攣し、目が虚ろになっていく。
痙攣が収まると、少女はピクリとも動かない。
「失敗か、被検体を処分しろ」
少女はそのままどこかへと持ち去られていく。
「クソ、全然成功しない。計算上では成功するはずなのに!」
バン!と机を叩く。振動により、書類が少し浮き上がる。
しかし机を叩いていないのに、振動が続く
「...?なんだ?」
突然警報が鳴り響く。
「侵入者だと!?」
研究員の後ろのドアが開く。そこにはシェンが立っていた。シェンは研究員の男を見つめる。
「なんだ貴様」
「...この研究で生き残っているお前たちが連れてきた子達は?」
「何?」
「...早く言え」
「ふん、貴様のようなガキには分かるま...」
轟音と共に研究員の男の体が壁に叩きつけられる。下を見ると、大きな槍で腹部を貫かれた己の体があった。
それに気づくと共に、胸からせり上がる異物感と耐え難い苦痛が襲いかかる。
「ぎゃああああ!」
「...黙れ」
シェンが男に顔を近づける。その顔は無表情であったが、男には憤怒に染まる幽鬼の顔がシェンの後ろに見えた。
カヒュッ...と男の息が詰まる。そして痛みは消え、恐怖だけが男の頭を埋め尽くす。
「...もう一度聞く。連れてきた子達は?」
「...こ、この奥の収容室。だ、が何人、居るかは知らない...。連れてこられた奴を、研究していた...から」
「...」
ISを部分展開すると、左手を男にゆっくりと近づける。
「な、何をする気だ!?」
「...」
「や、やめろ!」
「...それをあの子達に言われて、お前は止めたか?」
「ヒッ...」
『というより、この計画に関わった時点で、貴様を殺すのは確定している』
アンジェの声が聞こえてくる。アンジェも相当頭にきているようで、低い声でそう言う。
「...だそうだ」
「あ、あああ...」
「...」
グシャリ、と男の頭を握りつぶした。飛び散る血と脳漿が、ISの左手を赤とピンクで彩る。
シェンは無表情のまま、ISを解除し、奥へ進む。収容室と呼ばれた部屋に入ると、数人の少女と三人の男がいた。少女の1人は、服を破られており、男に組み伏せられている。この後は、予想できるだろう。
「何だ?このガキ」
「さあな」
「ていうか、コイツ、結構可愛くね?いや結構どころか超上玉じゃん!」
「ホントだな!」
三人の男が下卑た目で、シェンの体を舐め回すように見る。
シェンは無表情だが、心の中では嫌悪感をむき出しにしていた。
「...」
一人がこちらに手を伸ばす。
「ヒヒッ、怖がらなくていいぜー、すぐ気持ち良くなれるからなぁ」
手がシェンに届くと思った瞬間、シェンが姿を消す。
「あ、あれ?」
男の手は空を切る。と同時に自らの腕に違和感を感じる。それもそのはず、男の手は肘から先が無かったのだから。
「...へ?」
「「は?」」
惚けた声を出す。そして気づいたかのように吹き出る血。肘から先は収容室の隅の方にすっ飛んでいた。
「うぎゃぁぁぁぁああああ!、お、俺の腕があぁ!」
シェンはさらに返す刀で男の首を落とした。ばちゃりと水音を立て、血溜まりに男だった肉塊が転がる。
「...あと二人」
シェンは男二人に向き直りゆっくり歩いて近づく。
「おっと、動くなよ、嬢ちゃん。こいつの頭に風穴が空くぜ」
男は隠し持っていた銃を近くにいた少女に突きつける。シェンは動きを止め、唇を噛み締める。力を込めすぎて血が滲んでくる。
「よし、手に持ってる剣を捨てな。」
シェンは剣をその場に落とした。もう一人の男がニヤニヤと笑いながらシェンの元に近づく。
「よくやったぜ、リベル」
「おうよ、お楽しみの時間だぜ、ルベル」
リベルはシェンの太ももを撫であげる。ピクリと動く。
「こいつ、いい反応するぜ」
リベルはシェンを押し倒す。
そして服に手をかける。
ルベルは少女を抱え銃を突きつけつつ近づいてくる。
「こんなちっこい体だけど持つものは持ってんなこいつ」
「マジか?」
「アガるぜこれ」
リベルがズボンを下げようと右手を話した瞬間、シェンは袖から飛び出しナイフを出し、首を掻っ切る。そしてルベルの方を向き、飛び出しナイフを射出する。それは見事にルベルの喉元を貫いた。
「...」
もの言わぬ骸を底冷えした目で眺め、乱れた服を整えると少女たちに向き直る。
少女達は皆怖がるどころかどこか崇拝したような目をしている。
「私達を貴方の元へ行かせてくれませんか?」
少女達の中でも最年長だと思われる少女がそう言う。
「...だそうだけど」
『うーん、まあいいよ。その覚悟があるならだけど』
「「「それが恩人のためなら」」」
『...すごいねこの子達』
『まあ、回収機そっちに送るからその子たち連れてきて』
「...了解」
回収機が到着し、少女達を乗せ、その場を後にしようとする。
「...その前に」
シェンは事前に用意していた爆弾を設置し、タイマーを起動する。
「...帰投する」
今度こそその場を後にする。そして数分後、研究所は大爆発を起こし、跡形もなく消し飛んだ。
翌日、この件は大きく取り上げられたのであった。
爆発オチなんてサイテー!