あの出来事からはや3年。原作介入ルートを早々に却下し、己の肉体の強化に月日を費やし、ヒーロー免許をとったり…と、なんやかんやしていた。
今はフリーのヒーローとして活動中だ。正直なところ、金は入ってこない弱小ヒーローなので今を生きるので精一杯ではあるが。お陰でコスチュームも普通に売ってるジャージに少し自分で細工した程度のものである。
仮に俺のこの人生をある種の物語だとして、そして語り部を俺としたときの読者はこう思うであろう。
無個性がヒーローになれるのか?と
その問いにはこう答える。あの日からちょうど一年経った頃に個性があることが判明した。
奇遇にも、あの錬鉄の英雄と似通った個性だった。
起動条件は詠唱。
カッコつけて全文詠唱の後に展開できた。ヒーロー免許を取っていなければ個性の無断使用で逮捕されていた。
まあ、簡単に言えば俺の個性は"無限の剣製"だ。
だが、厳密には仕様が違うのだ。マイナス面で言うと、宝具という概念がこの世界ではあやふやなせいで、使用できる宝具の種類が少なかったりスペックを出しきれないものが多いこと。
そして俺のこの個性は、本来の彼らが用いる無限の剣製及び投影と違い、「創造理念」、「基本骨子」、「構成材質」、「製作技術」、「憑依経験」、「蓄積年月」などの過程の内、憑依経験と蓄積年月が完全ではなく、ガワと能力のみが完全に再現できたものであるようだ。その結果、もととなっている使い手レベルにまで俺の技量を昇華できないのである。一応、達人一歩手前までは技量も投影できるが、英霊には届かない。
纏めると、干将・莫耶の投影はでき、夫婦剣としても機能するが、鶴翼三連は使えない、ということだ。
逆にプラスの方向性であれば、型月時空における宝具を──勿論量は限られてくるが──知ってさえいれば投影できたことだ。それもなんと、武器のみに限らず、英霊固有の宝具──例えば、
剣以外の投影は魔力消費が大きい、という設定も遵守されており、剣以外の投影は体力がより持っていかれるような気がする。
さて、今ここで個性の詳細は語ったが、それは何故か?理由は簡単、これより始まる防衛戦のために、今一度己の能力を解析しておきたかったからだ。
防衛戦、と言われてもなにがなんだか分からないだろう。纏めると、大規模なヴィランの団体にがこの医薬品メーカーへの襲撃を企てている可能性があるため、近所のヒーローに緊急招集がかかったのだ。
とは言え、俺はさほど有名ではないどころか、全くの無名である。というか、それを売りにした初見殺しに特化している。
よって俺は、要請がかかってはいるが参加していない者、として
俺の片手に握られているのは勿論宝具、太陽の聖剣たる
そんなことを考えながら早10分、ヴィラン団体が見える。大柄の男から異形の女。様々なヴィランの存在が確認できる。恐らく、裏で知らないものはいないようなレベルの者も居るのではなかろうか。
「──正面から堂々と、とはな。まさしく殴り込みというやつだ。それなら──」
ガラディーンをより強く握る。
「先手は頂くぞ、ヴィラン。真名解放──この剣は太陽の映し身。もう一振りの星の聖剣、あらゆる不浄を清める焔の陽炎。
焔がヴィランに向かって放たれる。比較的見かけ倒しになるように出力を調整したものだが、それでもそこそこ重めな火傷はする。ヴィランに対しては仕方がないと思って欲しいものだ。これが大軍戦で強力なのは、10秒程度であるが
「何者かは分からないが、今問う必要は無いな。この機会、使わせてもらうぞ──俺に続けぇ!」
ヒーロー達が進軍する。本格的な戦いが始まる──その前に、1人、確実にヤバいと目星をつけているやつがいる。
一見、ただの学生に見えるが、やつだけはここで俺が足止めをしなければ単騎で殲滅させられる。潜伏していたビルの上から
恐らく奴の個性は大軍に対して効果を発揮するような個性だ。であれば、足止めは俺がした方が、絶対に外部に出ることが出来ないので適切だろう。
奴に向けて疾走しながら、唱える。
「──体は剣で出来ている。」
右手に
「──その体は鉄と炎」
三発、眉間を狙って放つ。が、簡単に避けられる。
「──戦場を選ばず」
リロードと同時に左手にも投影。両手から三発、計六発の銃弾を放つ。
「──折れることはなく」
ものの、ナイフのようなもので切り捨てられる。
「──築くことはなく」
干将を投影。ナイフを側面から切り捨てようとするものの、バックステップで避けられる。
「──勝利を分かつこともなく」
即座に莫耶を投影し、干将莫耶両方を投擲する。頬を掠めるだけでさほどダメージは入っていなそうだ。
「──故に、生涯に意味はなく」
ここまで捌かれるとは思っていなかったが、これで最低限の役割は果たせるだろう。
「──その体は
きっと剣で出来ていた──!」
直後、ヴィランと俺を突風が襲う。
思わず目をつむりそうになるが、前を見据える。
「ここ、は──」
目に見えて動揺しているヴィラン。それもそうだろう、世界が変わったのだから。
「こと世界。空想と現実。内と外とを入れ替え、現実世界を心の在り方で塗りつぶす。そう言ったもんだ、俺の個性は。──悪いが付き合ってもらうぞ、俺もヒーローなんでな。」
「まさか見抜かれるとは思っていませんでしたが──上等です、受けて立ちましょうかァ。」
距離は30メートルほど。ヴィランは両手にナイフを、俺は完璧に投影できる宝具の1つ、
「──死ね」
先に仕掛けてきたのはヴィラン。距離を一瞬で詰められナイフで首を取られる──その前に、アロンダイトでナイフを打ち払う。アロンダイトの能力で、全てのパラメーターが1ランク上昇している俺は、余程の事がなければ打ち負けないだろう。だが、アロンダイトでナイフを切断できないとは思いもしなかった。まだアロンダイト及び投影に制約があるのか、それともナイフが特殊なのか。
このヴィランのナイフの腕前も高い。達人クラスまで強化されている俺と同等に打ち合うとは思わなかった。
「仕掛けてみるか──
本来のものとは違うものではあるが、それとほぼ同じように俺の背後に無数に剣が展開される。流石に魔力消費の観点から見て宝具ではないが、むしろ制約のないただの剣なので殺傷能力はかなり高い。
「──正気か!?」
ここ、日本ではヒーローがヴィランを殺すことを禁じられている。なのに、俺が殺意全開で戦っていることに対しての言葉だろう。
「生憎と、そこまで手加減して勝てる相手ではなさそうだからなぁ!」
着弾によりできた砂煙の中、ヴィランに向けて突進し、アロンダイトを振り上げる。
「最果てに至れ、限界を越えよ。彼方の王よ、この光を御覧あれ!
相手の全力の回避行動により、左手を掠めるだけに終わった。が、
「この程度の傷──!?」
宝具の効果により、切断面が爆発する。とある特異点では
「──不味いなァ。これは、出し惜しみしてる場合じゃあなさそうだ…」
直後、ヴィランの姿が消える。適性があり、少しランスロットに近い剣技を繰り出せるようになっている俺──ではなく、そのランスロットが呼び掛けてくるように危機感を抱く。
「──
左手に干将を投影し、地面に投げつけ爆破。ローアイアスで爆発を受けその衝撃を移動に利用しその場から退く。
「惜しいなァ…首を取れると思ったんだけどなァ…」
霞のようなものを纏いながら接近してくるヴィラン。瞬間移動系の個性だろうか。非常に厄介な攻撃にも防御にも使える個性だ。ヒーローなどになっていたらきっと有名になっていたであろうに。何故ヴィランになどなるのだろうか。
「考え事をしている暇は無いぞヒーローさんよぉ!」
「!?」
突進してくるヴィラン、ナイフ程度アロンダイトで切断できる筈だが、ただのナイフでは無いようで先ほどと同様打ち合うことしか出来ない。その最中、目の前の空間が歪み、辺りが霧に包まれる。
──霧程度、ガラディーンで──
そう思い左手に投影しようとした刹那、背後に気配を感じアロンダイトを振り抜く。
「残念、こっちなんだなァ!」
直後、正面に現れるヴィラン。名もないただの剣を投影し、突きを防ぐ。投影した剣が砕けたことから、ナイフが特殊なのだろうと結論付ける。
「あんたに!これが!防げるかァ!」
次は左か──と思えば右に、上に、様々な方向に即座に転移し続けながら攻撃してくるヒットアンドアウェイ戦法を取っているせいで捉えられない。
しかも、両手同時に攻撃してきたりする所も見ると、左手の傷も直っているのであろう。全く頭がおかしくなるほど強力な個性である。
一方俺は治癒系の宝具はかなり多くの魔力を消費するためこれは奥の手。防戦一方であるためこのままでは埒が明かない。
「我は王に非ず、その後ろを歩む者。彼の王の安らぎの為に、あらゆる敵を駆逐する──
無限の剣製の過程で習得したなんちゃって魔力放出と組み合わせて霧を払う。奴の個性は霧がキーの筈だ。
「──そんなん、アリかよっ!」
予想道理、弾かれた霧の中からヴィランが飛び出してきた。ダメージを負っている様子はないが少なからず体力は消費しているのか、少し息が上がっている。
「どうする?投降するなら今のうちだ。」
「ほざいてろ、僕はまだ負けちゃいない。」
再びナイフを構えながら霧を生成するヴィラン。戦う意思しかない、と。ならば、その戦意を折らせて貰おう。
「光よ、螺旋となりて──全力で行かせて貰う。
本来なら気絶判定を強要するアトラント──俺の剣製では数秒視界を封じるのが限界だが、これでいい。
「──人間の一生は彷徨い歩く影法師、哀れな役者に過ぎぬ。己の出番の時は、舞台の上でふんぞり返って喚くだけ!──
相手に幻覚を見せ、心を折る宝具。本当に悪質だが、一般人相手には
写すのは、自らの親の幻覚でも見せておこう。
その内に俺は大技の用意をする。
「──殺す!殺すゥ!」
幻覚に対して──と言うよりか、親に対してなにか恨みでもあったのだろうか、ナイフで切り刻んでいる。
その様を見ながら、奥の手を投影。
「──真名偽装登録、投影装填。偽装宝具・無銘剣製──
千字村正の宝具、
「あんたは、今は休むべきだ。」
短剣を突き立てる。それと同時に正気に戻った様子のヴィラン。
「──個性が、使えない?」
「俺がそうしたからな。どうする?勝ち目は万に1つも無くなったと思うが。」
「うるさい…うるさいウルサイウルサイウルサァイ!僕がァ…欠陥品な訳がァ…ないだろうがよぉ!」
どうやら何か抱えているようだが──俺はそれを救わない。お前が何を抱え込んでいようと、犯した罪は変わらない。
ナイフを構え突進してくるヴィラン。右手に再度アロンダイトを投影し、真っ向から打ち払う。
「──
ナイフを真っ二つに折り、蹴りを腹に入れる。さらに疾走し、拳を更に叩き込む。
「──カ、ハッ」
肋が折れる手応えもした。もう立ち上がるのも難しいだろう。
「お前はやり直せ、まだ償えるだろう。」
固有結界が解除され、こちらも戦闘が終わったのであろう。警察が到着しヴィランを連行している。こいつも警察に回収されるだろう。
「これで一件落着ってか。やれやれ、ったく…」
とある日の、で済ませるにはなかなか疲れるものだった。いつになっても命のやり取りは緊張するものだ。