鷲尾須美が家族となったのは実に二年前のことだ。ずいぶん前のことに感じられるが実際はそこまでの時間は立っていないらしい。
鷲尾夫妻は子供に恵まれなかった。
え?じゃあなんで俺がいるのかって?それは別に今はいい。
ある日、母親に妹ができると告げられた時はものすごく喜んだ記憶がある。
てっきり父親と母親との間に出来たものだと思っていたので次の一言で俺は混乱した。
「晴哉と同い年の子なんだけれど、私達の養子に来ることになったの」
ようし。ようしってなんだっけ。用紙?容姿…あぁ、養子か。となるまで少し時間がかかった。
あまり深く考えず、なんか大きい妹が出来るんだー。と漠然とした感覚でその時は捉えていた。
「で、その子はいつ来るの?」
「えーっと、来週くらいね」
「え、早くない?」
重要な話はもう少し早くしてほしいと初めて感じた。
1週間した頃。その子は本当にやってきた。
父親と母親が迎えに行き、鷲尾家の居間でご対面とあいなった。
「はじめまして。今日からお世話になります。鷲尾須美です」
鷲尾須美と名乗ったその子は深々と礼をして、やたら真面目な挨拶をした。その瞬間俺の中で鷲尾須美の印象は真面目の3文字に決定していた。
「鷲尾晴哉だ。よろしく…」
一応儀礼上挨拶をしないのは失礼なので形だけ取り繕う。このころからこう言った事は苦手だった。神樹に関することは特に。
須美の容姿は、日に焼けていないのか肌が白く、簡単に言えば人形みたいだった。別に悪い意味ではない。今なら表現の仕方がわかる。容姿端麗ってやつだ。
「…」
「……」
「………」
互いに緊張しており、沈黙が空間や支配していた。
「あー、好きなこととかって何?」
沈黙に耐えかねて必死に捻り出した質問がこれだった。もう少しあった気もするがそこは察してほしい。
「私は、その…れ、歴史が好きです」
好きなものが何と聞かれて出てくるのが歴史とは。流石に面白かったので笑ってしまった。
「わ、笑うなんて失礼ですね」
「ははは、ごめん。少し不意打ち食らっただけ」
むうっと須美は頬を膨らませて拗ねた。
「歴史って言っても広いだろ?どこの時代とかってあるのか?」
ちなみに言っとくと俺もこの時既に歴史が好きだったので、攻め込むにはここしかないと思ったのをよく覚えている。
すると須美は目を輝かせ、これ以上ないくらいに食いついた。
「私は昭和です!特に日本軍が世界を敵に回し、御国のためにその身体や魂を捧げる姿にとても惹かれます!」
「お、おう。OK」
「あ、ごめんなさい。はしたなかったですね…」
「いや。気にしなくていいよ。俺さ、好きなことそんな風に語れないからちょっと羨ましい」
須美の熱量に押され俺は一瞬怯んだ。けど、好きなことでこういう風に語れる人が羨ましかった。それは素直な気持ちだった。
今思えば、俺は常に無い物ねだりをしている。
けれどそれを欲しがるだけで手に入れようと努力しなかった。
話を戻そう。
「そうだ。呼び方決めないと。えっと、家族?になるんだし名前で呼んでも大丈夫?」
「えっ、はい。お願いします」
「それじゃ、須美。これからよろしく」
「はい!あっ、じゃあ私は…晴哉さん?」
「家族になるのに硬くないか?」
「そうですか…確か晴哉さんって私より誕生日早いって聞いてますけど」
「確かそうだな」
「じゃあ、お兄ちゃん…とか?」
須美は恥ずかしいのか俯いてしまった。そりゃそうなるわな。急にこんな大きい兄ができたら。
「恥ずかしいなら無理して呼ばなくていいぞ?」
「えっと…それじゃあ。兄さん?」
俺の心の中でその呼び名が琴線に触れた。おお…悪くないぞこれ。
須美も先程までに羞恥心は感じてないようだ。
「ならそれでお願い。では…改めて」
俺は手を差し出した。須美も俺の手を握る。
「よろしく、須美」
「はい、兄さん」
須美と俺が今ほど親しくなるのはまだ少し先のお話。
鷲尾晴哉と鷲尾須美。不思議な兄妹が誕生した瞬間だった。