花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第13話 再出発

 俺と銀は新たなお役目として俺の身体が本調子に戻るまでの数日間、大赦の施設で行われている勇者システムを引き継ぐために選ばれた選抜者に、戦闘での立ち回りや心構えを教えることとなった。

 武器は銀の両斧を改造し、刀の二刀流へと変わるらしい。そのためにこの施設では二刀流の訓練が行われる事になっている。

 さて、教えると言っても何をすればいいのか。そもそも俺たちはまだ小学六年生だ。いくつもの戦場を越えてきたとは言え、実際に自分で動くのと言葉で動きを説明するのはかなり違い、なかなかに難しい。安芸先生からも事前に説明を受けていた。

 

『あの場に選ばれている者達は、武器も握った事がない普通の人間です。なのでまずは武器の握り方、振り方を中心にするといいでしょう』

 

 その安芸先生といえばこの施設にいるはずなのにどこにいるかわからない。それは何故か。

 

(……同じ仮面が多すぎる!!)

 

 怖い。夢に出てきそうなくらい怖い。

 銀も同じことを思ったのか、若干顔が引き攣っているではないか。銀に心の奥底から同意しつつ、俺は軽く咳払いをした。

 

「気を取り直してっと。さて、何をしますかね」

 

 時間は午後4時。普通に考えれば放課後だ。この施設は一応、教育機関も兼ね備えているらしい。

 今、俺と銀は施設内のトレーニングルームにいる。

 今は自由時間なのかトレーニングルームにいる人の数はまばらだ。真面目に取り組む者、誰かと話しながら軽くトレーニングに取り組む者とその様子は三者三様だった。

 

「ハルヤとアタシは別れた方が良さげな感じ?」

 

「どうなんだろうな。最終的にはその方がいいかもしれないけど、今日はいいんじゃないか?」

 

「了解。それじゃあアタシ、暇だし適当に声かけてくる」

 

 そう言うなり銀はトレーニングルームにいる人たちを片っ端から声をかけ始めた。

 おおぅ、すごいコミュ力。間違いなく俺にはないものだ。

 その光景に感動して見入っていたが直ぐに目的を思い出し、リハビリついでに何かやろうと思ったその瞬間ーーーーーー。

 

 背後から何かを突きつけられる。横目に映るそれは木刀だった。

 

「えっと…?」

 

「あんた、誰」

 

「通りすがりの小学生ってところかな」

 

「通りすがりの小学生がこんな場所知ってる訳ないでしょ」

 

 何故かかなりこの背後にいる人物には警戒されているらしい。それもそのはず。基本、ここには女子しかいない。そこに神官でもない野郎一人突っ立ってたらそりゃ警戒する。

 

「あー、じゃあそうだな。何かしらの業者ってのはどう?」

 

「こんな小さい業者本当にいると思ってる訳?」

 

「おい、小さいとか言うんじゃねえよ。気にしてんだよこっちは」

 

 身長が他者に比べて低いと言うコンプレックスを刺激され、狼狽えてしまったのもあるからか全然打開策が見つからない。木刀なので殴られたところに痣ができるくらいと思われるけど、怪我が治って早々に別の怪我をするのはなんとも悲しいことか。

 

(銀は…あいつどこに消えた…)

 

 こういう時な身分証明で頼りになる銀はどこかに行って消えてしまった。肝心な時に隣にいてくれない子である。

 

「そろそろ神官か誰か呼ぶわよ」

 

 本気で俺を怪しんでいるらしい。

 

「わかったわかった。ちゃんと説明するってば」

 

 俺は振り返ってその人物を見る。俺の目の前に居たのは茶髪の髪を持ち、少々人当たりが厳しそうな少女だった。

 しかし、彼女はどことなく雰囲気が銀に似ている気がした。なのでついつい反射で聞いてしまった。

 

「…君、姉か妹いる?」

 

「はあ?兄貴ならいるけど姉や妹はいないわ」

 

 どうやら勘違いだったらしい。痺れを切らしたのか彼女の語気は強まっていた。

 

「で、あんた誰なの。不法侵入者なら容赦はしないから」

 

「俺は鷲尾晴哉って言うんだけど、知らない?保身のために言っとくが不法侵入者じゃないから。証明してくれる相方が消えちゃったけど」

 

 早く戻ってきてくれよと心の中で祈りつつ会話を進めていく。俺は貰ったはずの身分証明書をどこにやったかと探りながら。

 

「鷲尾晴哉って、あの鷲尾晴哉?」

 

 何故か目の前にいる彼女は驚いていた。まるでアイドルでも見つけたファンのようだ。

 なんて事もなく凄く冷ややかな目を向けられている。

 

「おっと、俺もいつのまにか有名人だったか。サインいる?」

 

「いらないわよ」

 

「そりゃ残念」

 

 彼女は軽くため息をつくとようやく眉間に寄っていた皺がなくなり表情が柔らかくなった。もしかしたら彼女はここにいる人達を安心させるために俺が誰だかはっきりさせたかったので、このような行為に及んだのだろうか。

 

(…俺ってそんなに変な人に見えるのか。なんだかショック)

 

「なんでこんな所に勇者がいるのよ」

 

「厳密には"守り人"だけどな。ちょっとしたお役目だよ。君も候補生なのか?」

 

「そうよ。今はまだ二刀流の扱いになれないけど、直ぐに会得して見せるわ」

 

「へぇ…」

 

 並々ならぬ覚悟がその目に宿っているように見えた。

 俺は彼女のことが気になった。上から目線ではあるが、お手並み拝見といこう。

 確かこの選抜が始まって数日だ。そこまで彼女は上手く動くことはできないだろうけど、もしかしたらリハビリ兼指導が出来るかもしれない。

 振り方。立ち回り。動きの癖。どれか一つでも良い。何か教えてあげられることがあるのなら御の字だ。俺のこの期間限定の『御役目』にも意味が伴うはずだ。

 俺は木刀を彼女が持っているのと同じものを右手に編み出した。

 

「あんた、今それどこから」

 

「細かいことは気にするなよ。一戦どうだ?」

 

 俺は少し挑発気味に一戦申し込む。

 

「っ!望む所よ!」

 

 あと一つわかったことがある。この子、間違いなく極度の負けず嫌いだわ。

 

 場所を変え、俺と彼女は相対していた。

 

「私は二刀流であんたは一本。ハンデのつもり?」

 

「いや、全く。単純に左手が動かせないんだよ」

 

 俺はほんの少しだけ動く乃木製の機械仕掛け義手を、つけていた手袋を外して見せた。それを見た彼女は面食らっていた。

 

「なんかごめん」

 

「気にするなよ。ま、全力で来てくれ」

 

 構えはかなり忠実にできていた。一寸の隙もない構え。

 もしかして元から何かしらの武術的なことはやっていたのかもしれない。けれどそうでなければ、そのたった一つの基礎を固めるための努力を日々してるのであろう。その努力する。と言う才能に俺は思わず憧れを抱いた。

 

「それじゃあ私の方からいかせてもらうわ。はあ!」

 

 彼女は躊躇うことなく踏み込み、まずは右に持つ剣を振り下ろした。俺はそれを身体をそらすことで受け流すと、すぐにもう一本の剣が横から襲いかかる。

 攻撃の速度速い。二刀流の利点は手数の多さにある。それをもう既に把握してるのか。だが、一回一回の打ち込みが弱い。特に左側が。

 

「よっと」

 

 俺は左手から繰り出される攻撃を狙い、下から跳ね上げるように振り上げた。

「しまった!」

 

 左から繰り出された剣は威力が弱く、彼女の剣は力負けをし、手から離れ後方へと飛んだ。すぐに態勢を立て直そうとするがーーーーーー。

 

「ここまでかな?」

 

 既に俺は彼女に剣を突きつけていた。

 

「降参よ。まだ私には実戦は早かったみたい」

 

「そんなことないよ。数日でこれならかなり凄い」

 

「まだまだよ。こんなんじゃ駄目」

 

「志がお高いようで…」

 

「私にはこのチャンスしかないの。絶対、ここで成果を出さなきゃいけないの」

 

 先程も思ったが彼女には並々ならぬ覚悟があるようだ。この機会に全てを捧げているかのように見えた。

 あまり贔屓とかはするべきではないとは思うが俺は、仮に銀の勇者システムを引き継ぐのであれば彼女に任せたいと思ってしまった。

 だが、結局選ぶのは神樹らしいので神様の裁量次第なのだろう。

 

 ◇      ◇ ◇

 

 場所を休憩室に移し、俺は何かアドバイスできることがないかと天井を眺めていた。そんな俺の視界に見慣れたペットボトルがヒョイっと侵入してきた。

 

「はい、飲み物。これ飲める?」

 

「ありがと。助かる」

 

 彼女は飲み物を渡すと、俺が座っている長椅子からまた一つ別の長椅子へと腰掛けた。

 まだ警戒されているのかと思うとへこむものがある。そんな気持ちを誤魔化すようにキャップを外して貰った飲み物を体の中に流し込んだ。

 一息ついてから俺は戦いながら気になった事を彼女に伝える。

 

「利き手の右での攻撃に意識が行き過ぎて、左手がおざなりになってる。そこさえ気をつければもっと強くなれると思うよ」

 

「……ありがと。そうする」

 

「そうしてくれ。それと、俺のお気持ち表明だけどさ」

 

「なに」

 

「俺は君に『勇者』を引き継いで欲しいと思ってる。たった一回の模擬戦でそう思ったんだ。だから、頑張って」

 

「偉そうに……。当然よ。私は『勇者』になるためにここに来たの。だからーーーーーー」

 

 彼女は言葉を区切ると一気にスポーツドリンクを飲み干すと立ち上がり、こちらを見る。

 

「?そんなに見つめられると照れるんだが」

 

「は?何言ってるの?」

 

「ごめんて」

 

 彼女は軽くため息をついた。何か諦めたような感じだった。須美のため息とほぼ同種。

 

「なんだか調子狂うわ。でも、アンタのお陰で益々気持ちが強くなったわ。ありがとう」

 

「どう致しまして。ま、あまり気負いせずにやってほしいな。君が勇者になるまでは俺たちが踏ん張るから」

 

 そして君たちが戦わなくて良いように、俺たちで決着をつける。

 そんな決意にも似た想いは心の奥底に収納した。

 

「ところで、『勇者』が何する御役目なのかは知ってるのか?」

 

 ふと、抱いてしまった疑問を俺は素直に口にしていた。

 

「もちろんよ」

 

 迷いのない口ぶりからして、本当の事はまだ聞いていないのではないかと思った。俺は「そっか」とだけ呟いた。

 

「私からも最後に聞いて良いかしら」

 

「ん?」

 

「アンタにとって『勇者』って何?」

 

「そうだなあ……。誰かのために自分を犠牲にできてしまうほどに心優しくて強い人たち、かな」

 

 考えた末の結論。自分で言っておいてこれが正解だとは思いたくなかった。戦って、傷ついて。そんな辛い想いをしているのはあの普通の少女達なのだから。

 だけど、心優しくて強いからこそ彼女達は辛さを糧に友情やかけがえの無い思い出を紡いで行っているのだろう。

 

「そう。ありがとう。変な事聞いたわね」

 

 彼女は俺の答えに満足したのか、頷くと立ち上がった。

 

「私、そっちにだけ名前聞いといて自分の名前言ってなかったわね。私は三好夏凛」

 

 それだけ言うと三好夏凛と名乗った彼女はトレーニングルームへと向かう道を戻っていった。

 

 

 俺もトレーニングルームへと戻るとようやく銀が戻ってきていた。

 

「銀、お前一体どこまで行ってたんだよ」

 

「それはアタシの台詞だ。こっちこそ探したんだから」

 

「じゃあお互い様って事でチャラだな」

 

 そんな事を話していると一人の巫女が近づいてきた。仮面をかぶっていて誰だかはわからないけれど。

 

「お二人ともお疲れ様でした。これから、次期勇者が決まるまで、三ノ輪銀様にはここで助言などを彼女達にしてもらいます。鷲尾晴哉様は1週間、ここに来ていただき三ノ輪銀様の補助をしながらリハビリに努めてもらいます」

 

「あのー、1ついいっすか」

 

 銀はその説明でどこか気になる箇所があったみたいだった。

 

「アタシ、ここに来るのはいいんだけど学校はどうなるんですか?」

 

「ここには放課後に来てもらうことになります。貴方の親御さんには既に話は通してあるので気にすることはありません」

 

 それを聞いて銀はホッと胸を撫で下ろした。

 前、暇な時に家族の話をして弟の世話が楽しいとか言っていたのでそれが気になったのだろう。勇者の選抜を受けている人は大赦が用意した宿舎にいるとのことなので、自分もそうなるのかと不安になったらしい。

 

「他に質問はありませんか?」

 

「俺は大丈夫です」

 

「アタシも大丈夫です」

 

「なら、今日はここまでです。外に車が用意してあるのでそちらへ。あと、分かってはいると思いますが、絶対この事を外部に漏らしてはなりませんよ」

 

 以前受けた忠告を再度され、俺と銀は強く頷いた。それをみて巫女は安心したのかその場を去っていった。

 

 秋になり、外が暗くなるのが早くなっていた。

 安全のためと俺と銀は大赦の方に家まで送ってもらった。家に着く頃には空が完全に闇に包まれていた。

 自宅の庭から見上げた夜空には星々がその存在を主張するために幾億光年先から光を届けている。じっと見つめているとその星々が段々と自分自身に近づいてきているかのような錯覚を覚えた。

 その様子から目を離せなくなっていると、玄関の方角からこちらに向かって芝を踏み締める音が耳に届くと、自然と意識はそちらに向いた。

 

「兄さん。何してるの?」

 

「こうしてれば須美が出てきてくれるかなって」

 

「なにそれ」

 

 俺の冗談に須美はクスッと笑った。

 

「兄さんは本当に変な人」

 

「それ、お前が言う?」

 

「わ、私は至ってまともよ」

 

「どうだか。まあ、可愛いからOK」

 

 俺は右手で須美の頭を軽く撫でてから、背を向けて屋内へと向かった。

 そういえば勇者システムがアップデートされるとか言う話を小耳に挟んだがどのような強化が施されるのだろうか。

 

 

 

神託はまだないーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

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