花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第14話 緩やかに忍び寄る影

 あれからちょうど1週間経ち、俺のリハビリ期間が終了した。結局、左腕の義手は上手く扱えるようにはならなかった。精々軽い物を持つくらいだ。だが身体の体力などは以前と同じくらいには回復した。…と思う。

 

 今日は休日ということもあり俺は須美と共に調理場に立っていた。相変わらず和食を作るとのことで俺は人参を切る役目に没頭していた。何でも筑前煮のために必要らしい。須美は朝食用の味噌汁を作っていた。

 

「兄さん、切るの遅い」

 

 須美から開始数分でダメ出しを食らった。言われた通り、確かにかなり切る速度は遅い自覚はある。

 

「一回一回切るたびに農家の人の顔を思い浮かべてるからな」

 

「それは大切なことだとは思うけど、それは食べながらでもいいんじゃないかしら」

 

「感動が違う」

 

 須美の方は話しながらも俺の倍の速度で調理を進めていく。凄い手慣れていた。

 

「なんで今日に限って料理するなんて言い出したのよ」

 

 そう。何を隠そう俺は料理をそこまでしない。やっても家庭科の授業で少々かじる程度だ。馴れないことはやるべきでは無いなと反省も程々に俺は人参をようやく切り終えた。

 

「最近忙しくて兄妹水入らずの時間がなかったからな」

 

「だからっていつもと違うことする必要ないじゃない」

 

「新しいことに挑戦することで新しい何かを発見するかもしれないだろ」

 

「目的変わってるわよ。全く、本当に手のかかる兄さん」

 

 須美は呆れたような態度を取りつつも、その表情には笑みが含まれていた。

 

「兄が完璧過ぎても困るだろ」

 

「私としてはもう少ししっかりして欲しいわ」

 

「努力次第だな。投資するなら早めにしといた方がいいぞ?」

 

 ついでに期待値は多分一番高い。と自分の商品価値をアピールしたが軽くあしらわれた。

 

 二人で作った朝食を使用人さんに手伝ってもらいテーブルへと運んだ。

 メニューとしては、白米、焼き魚、卵焼きに味噌汁といかにもthe・和食という感じだ。

 俺の切った人参は果たしてどこに行ってしまったのだろうか。真相は闇の中となった。単純に煮る時間がいるのでこの場には出されていないだけだが。

 ちなみに言っておくと白米は俺が炊いた。米を研いでボタンを押しただけだけど。一応貢献したアピールをしておく。

 

「今日も美味しそうだな」

 

「ええ、そうね。暖かいうちにいただきましょ。いつもありがとうね。須美、晴哉」

 

「いえ、私にできるのはこのくらいしかないので。それに私、お母様よりお料理するの好きだから」

 

「まぁ、言うようになったわね。ふふっ」

 

 父親と母親は微笑むと箸を手に取り食事を始めた。俺と須美も二人が食事を始めたのを見てから手を合わせた。

 須美はこの恵を与えてくれている神樹に。俺はこの素材を提供してくれている農家に感謝した。自分の中にある神樹に対する気持ちは変わりそうになかった。

 

 家族四人は食後に使用人さんが出してくれたお茶を飲み、一服していた。こうして家族4人で食事を囲んで、ゆっくりと話す機会も本当に久しぶりだった。

 母親も同じ事を思ったのか、ホッと息を吐いて目を細めた。

 

「なんだかこうしてゆっくりするのも久しぶりね。落ち着くわ」

 

「晴哉の事もあったし、仕方ないさ」

 

「ご心配おかけいたしまして……」

 

 本当に迷惑をかけた自覚はあるので、このことのお礼はそのうち徐々にしていこうと思っている。

 

「今日は二人とも予定はあるの?」

 

「私と兄さんは今日お役目のことで大赦に行くことになってます」

 

「そういやそんなこと言われてたなあ」

 

 多分、須美が合わなかったら俺はずっと忘れたままでその場にいなかったに違いない。

 

「そうか。気をつけて行くんだぞ」

 

「ありがとう。お父様」

 

 俺は二人のやりとりを横目で見ながらお茶を飲みほした。

 

「ご馳走様でした」

 

 俺が立ち上がり、大赦に行く準備のために部屋に戻ろうとすると、「須美、晴哉」と母親が俺たちの足を引き止めた。

 

「何?母さん」

 

「貴方達、二人とも十分にいろんな事をやってくれてとても助かってるわ。けど無理しないでね。何があっても、貴方たちは私たちにとってとても大切な子よ」

 

「急にどうしたの?お母様」

 

「さあ、どうしちゃったのかしらね」

 

 そう言うと母親は俺たち二人に微笑んだ。その微笑みの意味を俺はこの時は理解することは出来なかった。

 

 

 俺と須美は二人で大赦に赴いた時には既に園子は到着していた。

 「待ってたら眠くなっちゃったよ。ふわぁ」とは園子の談。そんなに長いこと待たせていたのかと思うと申し訳なくなった。

 

「みのさんは、来てないね」

 

「やっぱり何か足りない感じするな」

 

 既に勇者ではない銀はこの場には呼ばれなかったようだ。集まる時はいつも四人だったので、銀一人居ないだけでかなりの空白があるように感じた。

 

「銀なら確か新しいお役目についてるって先生が言ってたわ」

 

「みのさん本人も言ってたしね〜」

 

 銀があのお役目の内容を話していないかだけが気になって仕方なかった。

 今にして思えば、あの時銀を助けることができていなかったら今以上の喪失感を抱いていたに違いない。須美も園子もこんな風に笑えているだろうか。彼女達は強い。けれど、身体の強さと心の強さはまた別だ。

 俺は自分の左腕を軽く握った。もしかしたらこの左腕は安すぎる代償だったのかもしれない。何せもっと大きいものを守れたのだから。

 当時の自分を我ながら良くやったと褒めてやり、園子にまだ言えていなかったことがあることを思い出し、園子に向き直った。

 

「そういや園子、まだ一個だけ礼を言えてなかった」

 

「なんのこと〜?私、何かしたかなあ」

 

「この義手、わざわざありがとう。お陰で日常生活も支障なしでいられるよ。本当に助かってる」

 

 ここ最近、園子と話す機会があまりなかったのでタイミングはここしかなかった。

 園子は突然のお礼にキョトンと首を傾げたが、徐々にその表情がいつもの穏やかな笑みを浮かべたものに変化した。

 

「いえいえ〜。私と、私たちの友達を守ってくれた、せめてもの感謝のお気持ちとお思いくださいな〜」

 

「ははは、ありがと。そうする」

 

 それから数分後に神官と巫女が数人やってきて、園子と須美の身体を神樹の近くに流れている神聖な滝で清めるためにと、二人を拉致していった。

 少女二人は、勇者システムが強力かつ新しいものへとアップグレードしたため、代表として神樹に"ご挨拶"することとなっていた。

 男性である俺はあの場に近づくことはできないらしい。それに俺は"守り人"だ。そのため、新しい勇者システムを受け取るのは別の儀式部屋であった。須美と園子はかなり前に受け取っている。俺の勇者システムは調整が難航したらしい。

 俺が新たなシステムを搭載した端末を神官から受け取ったその時、一人の神官が駆け込んできた。かなり急いできたのか肩で息をしている。

 

「鷲尾須美様が、倒れました」

 

「!?」

 

「原因は?」

 

 俺に端末を渡した神官が問う。

 

「わかりません」

 

 俺はその言葉を聞いた瞬間、端末をしまいその場から駆け出していた。

 待ちなさい!という神官の注意も無視して俺は、ひたすら来た道を戻っていった。

 それから俺は本来禁制とされているところに何の躊躇いもなく踏み込んだ。左腕を庇い、滝に打たれることなくその場を進み続ける。須美達はよっぽど奥に進んでいたのか走っても辿り着くのは遅れてしまった。

 息を切らして走り抜けると開けた場所にでた。そこには荘厳な雰囲気を纏う神樹本体があった。ただの木であるにも関わらず、そこにあるだけで自然と膝をついてしまうほどの存在感がある。

 

「今はお前に構ってる暇なんてないっての」

 

 俺は無理やり神樹を視界から引き剥がした。周りを見渡すと、神樹から少し離れた木陰に人が集まっているのが見えた。

 俺は須美がそこにいると確信した。

 

「須美!」

 

 俺は神官や巫女の間をかきわけ無理やり中央部へと割り込んだ。須美は円の中心で目を閉じて横たわっていた。

 

「ハルスケ?どうしてここに〜?」

 

「須美が倒れたって聞いて、居ても立っても居られなかったんだ」

 

「とりあえず鷲尾須美様をお運びしますのでお二人とも下がってください」

 

 その後、須美は巫女におぶられる形で医務室に運ばれた。結局そこでも目覚める兆しはなく、家に眠ったまま帰宅することになった。

 

「わっしー、なかなか目覚めないね」

 

 園子は本当に心配しているのが声でわかった。

 園子は須美のことが心配で家までついてきていた。今は二人で須美の部屋で須美が目が覚めるのを待っている。

 

「銀もすぐ来るってさ。園子、何があったのか説明してくれないか?」

 

「えっとね〜、わっしーと一緒に神樹様に触れたんだけど、わっしーが妙に眉間に皺を寄せて苦しそうだったから声をかけたら、急に倒れちゃったんよ〜」

 

「そっか…ありがと。教えてくれて」

 

「どういたしまして〜」

 

 俺は須美の寝顔を見る。特に苦しそうでもなく穏やかな顔をして眠っている。苦しんでいるよりマシだがそれでも不安であることには変わりない。

 原因は神樹と見て間違いなさそうだな。俺が以前、身体に負荷がかかりすぎて体調を崩したのと同じ原理だろうか。まあ、考えていても仕方ない。

 すると、自分のお腹が音を立てて鳴った。こんな時でもお腹は空くのだから呑気なものだ。

 

「なあ、園子。何か簡単なもの作ってくるけど…寝るんかい」

 

 園子は気づけば須美の手を握りながら寝ていた。

 起こすのも忍びないので勝手に須美の部屋にあった毛布を園子にかけ、俺は部屋を出た。

 

 俺がうどんを茹でていると使用人さんに連れられて銀が入ってきた。

 

「銀、ちょうどよかった。うどん作りすぎたからちょっと食わね?」

 

「ハルヤ、妹が倒れたって割には緊張感ないな」

 

 銀はうどんを入れたお椀を運んでいる俺を見て苦笑した。

 

「晴哉様は須美様が心配でお昼ご飯もお食べになっていないのですよ?」

 

 使用人さんが俺の方を見ながら微笑んだ。

 別にそんなことなかったのだが、折角なので美談にすることにした。

 

「須美は今どこにいるん?」

 

「部屋だよ。園子も一緒に寝てる」

 

「えっ!?園子も!?」

 

「あ、いや園子はただ寝てるだけ」

 

 銀は「なんだいつものか」と納得していた。銀の中では園子は寝てるのが通常状態だと思われているのか。少しだけ園子が不憫である。

 

「今すぐ須美の部屋行くか?」

 

 銀は早く須美と園子のもとに行きたいのではないかと思った。

 

「あとでいいよ。園子を起こすのも悪いし」

 

「了解。じゃあ、はい」

 

 俺は銀の前にうどんを差し出した。銀は目の前に差し出されたうどんに目を何度も瞬かせ、苦笑いを浮かべる。

 

「本当に出てくるとは思わなかったんだけど」

 

「量を間違えたんだ」

 

「どうやったら麺を茹でる量を間違えるんだ!」

 

 ケラケラといつものように笑いながら俺は銀に盛大に突っ込まれた。

 色々種類を作ってみたくなったんだから仕方ないと思って欲しい。

 風の噂で聞いたがこの四国の何処かに肉ぶっかけうどんを5杯容易く食べる人がいるとかなんとか。

 銀は笑いながら冷やしおろしうどんを一口啜ると、箸を止めて一言。

 

「あ、美味しい」

 

 お口にあったらしい。割りかし嬉しかった。

 

「さて、食べ終わった所で宴もたけなわという事で。家まで送ってくよ」

 

「アタシこれだとただうどん食べにきただけになるよ!?」

 

 自分のうどんの美味さに酔いしれていて完全に本来の目的を忘れていた。

 

「冗談、冗談。そろそろ園子も起きたくらいだろ」

 

 俺は席を立って食器だけ片付けると銀と共に須美の部屋に向かった。

 

「おーい、はいるぞー」

 

 ノックをしてから須美の部屋に入る。

 

「園子は…起きてたか」

 

 既に園子は起きていた。起きてからずっと何してたんだろうか。部屋を離れてからそこまで時間が経ってないとはいえ謎だ。

 

「よっ、園子」

 

「みのさんだ〜。おはよ〜」

 

「もうおはようの時間じゃないんだけど」

 

「ごめんね、ハルスケ〜。私寝ちゃってた〜」

 

「大丈夫。寒くなかったか?」

 

「うん。毛布かけてくれてありがと〜」

 

「なんか今日のハルヤ、母親みたいだな」

 

 うどんを作りすぎて振る舞う母親なんているのだろうか。ご近所さんにお裾分け。なんて時代はとうの昔に終わってそうである。あと、毛布くらい寝ている人がいたらかけてあげるだろ普通。

 

 それから銀が暇だ!と言うので俺の部屋からトランプを持ってきて暇つぶしをしていた時だった。ちなみに大富豪。

 

「ん…あ、れ?」

 

 俺の手札は最後の最後で残り4枚。全て2。そしていまだに俺のターン。革命でもして終わらせてやる。そうほくそ笑んでいた時に限って須美は目を覚ました。

 

「あっ、わっしー目が覚めた!良かった」

 

「そのっち」

 

「やっと起きたか須美。アタシのことわかる?」

 

「銀まで…二人とも…」

 

「おい、俺を忘れるな」

 

「あ、いたのね兄さん」

 

「酷いな。泣くのは後にするとして、体調はどうだ?」

 

 須美は起き上がって、ぐっと体を動かしてみる。見た感じは何も異常はないようだ。

 

「大丈夫よ。少しお腹がすいてるくらいかしら」

 

「ふぅ〜良かった〜。心配で心配で、隣に付き添って寝てたんだよ〜」

 

「寝てたのね…全然いいけど。兄さんと銀は何してたの?」

 

「うどん食べてた」

 

「右に同じ」

 

「もう少し心配くらいしてほしかったわ」

 

 須美がむっと頬を膨らませて拗ねた。

 

「心配はしてた。その心配が一周回って俺と銀をうどんへと駆り立てたんだ」

 

「相変わらず意味のわからないことばかり言って…。それで、私どうしたのかしら」

 

「あのね、わっしーは神樹様に触れていたら気絶しちゃったんだよ」

 

「えぇ…頭に何かが流れ込んできて…。星が数個降ってくるような、そんなイメージが…そしたらくらっとして」

 

「星?お空の星?」

 

 園子の問いに須美が頷く。

 

「それは神託ね鷲尾さん」

 

 部屋の扉が開くと、安芸先生が立っていた。

 

「先生、わざわざ家まで来て頂いたんですか。ご心配をおかけして…」

 

「鷲尾さんは、勇者になるだけじゃなくて、神樹様のお告げが聞ける"神樹様の巫女"の素質も極めて高いと言うことね。貴方達兄妹は全く不思議ね」

 

「私が…巫女…」

 

「うわぁ、わっしーすごすぎ!総合力の高さ、旧世紀の明智光秀を超えてるよ〜」

 

「お前、それ誰だか知ってるのか?」

 

「えへへ〜、なんとなく〜」

 

「ん?貴方達兄妹ってことは、ハルヤも巫女…え、あれ?アタシ今まで何か大きな勘違いしてた!?」

 

 なんでこんな時だけ鋭いんだ!

 先生は一瞬だけしまったと言う表情をしたが、すぐに立て直していた。

 先生には既に俺の身体が勇者システムに置き換わってしまっていることを話してある。本来死ぬ運命だったのにそうはならなかったので、大赦は俺の事を少々特別視しているようだった。正直、普通の人間で生きていたいので大きな迷惑だった。

 

「安心しろ銀。俺は男でお前は女。何も間違っちゃいない」

 

「じゃあ、どう言う事なんだ?」

 

「俺が男なのにお役目に選ばれたからって事だOK?」

 

 俺は銀に有無を言わせまいと無理やり押し通した。銀も一応これで納得したらしい。

 

「話を戻すわね。鷲尾さんの受けた神託は内容が大変な事を示しているわ。鷲尾さんは天から星が降ってきたイメージを見たのね?しかも降ってくる星の数は一つではなく、いくつも…」

 

「は、はい」

 

 普段は見せない、安芸先生の緊迫した様子に、四人はぞくりとしていた。

 

「星はどういう風に落ちていった?遠くとか、近くとか」

 

「凄い目の前まで来るような、怖い感じで」

 

「それはね、近日中に敵の襲来がある事を暗示している、緊急メッセージよ」

 

「「「「!!」」」」

 

 唐突な知らせに四人に緊張が走る。

 

「元々、今は敵が来るとお告げがあった期間内ではあるわ。最近は全然来ないと思っていたけど……まとめて来るというわけね」

 

「前々回の襲来でバーテックスも味を占めたってことか」

 

 銀が唸る。俺と銀がなんとか退けた時と同じパターンらしい。

 

「決戦ってことなんだね〜」

 

「怖くない…新しい勇者システムの訓練も、重ねているもの。武器も火力があるものに変更されたのだし」

 

 須美は自分に言い聞かせるように呟く。

 

「わっしーは大変だね武器の変更。私は槍のままだけど〜」

 

「確かスナイパーライフルになったんだっけ?」

 

 俺は須美に聞いた。

 

「ずっといじってるせいで"シロガネ"の扱い方は、体に染み付いているわ。大丈夫」

 

 須美はシロガネと自分の銃に名前をつけたらしい。

 銀と書いてシロガネと呼ぶらしい。その名の通り、銃身は白く輝いていた。友の名を持つ銃を持つことで、自分と共に戦っていると思え、勇気が漲るらしい。

 だから、その名を借りたと。その話をした時、銀はかなり照れていた。

 

「ハルスケの勇者システムは何か変わった〜?」

 

「そういや一回も見てなかった。ちょっと武器だけ出してみる」

 

 大赦は俺の怪我を考慮して当初はあらゆる武器を使い、勇者を援護する事になっていた俺の勇者システムは武器を片手直剣に固定することにしたらしい。固定したところでいくらでも武器は作り出す事はできるのだけれども。それに元々訓練するだけして実戦で使ったことなどゼロだった筈だ。宝の持ち腐れすぎる。

 

「よっと…」

 

 刀身が姿を現す。刀身は夜空のように暗く、剣の柄には桜の花がかたどられている。

 

「綺麗ね…」

 

「今まで使ってた武器よりカッコいいんじゃないか?」

 

 こういうものが好きそうな銀は目をキラキラさせていた。

 

「ハルスケも名前つけるの?」

 

「名前かぁ…」

 

 少々考え込む。すぐに一つの名前が思い浮かんだ。

 

「夜桜の剣にしようかな」

 

「お、いいじゃん!ハルヤにしてはネーミングセンスあるんじゃない?」

 

「俺、今まで何かに名前つけたことなんて一度もないんだが」

 

 俺は勇者システムを解除して、端末をしまった。

 

「で、決めた〜?決戦までの過ごし方」

 

 新しい神託を受けた大赦のはからいで、次の襲来まで、勇者たちは自由に過ごしてもいいと言われていた。

 

「私は、いつも通りに過ごしたいと思う、学校に行って、みんなと勉強して、話して、そのっちと銀と遊んで」

 

「それ私も思った〜」

 

「敵を退けたらまた同じ生活を続けて行くんだもの」

 

「うん、変に生活リズム崩したくないよね」

 

 二人の会話を銀はそわそわしながら聞いていた。安芸先生はそんな銀の様子をみて、微笑んだ。

 

「三ノ輪さん。貴方には敵の襲来まで、今のお役目は休暇とします」

 

「よしっ!やったー!!」

 

「やったね〜、みのさん!」

 

 いつか見た時のように銀と園子はお互いの手を握って飛び跳ねていた。

 

「兄さんはどうするの?」

 

「俺?俺はちょっと果たさないといけない約束があるから、それだけは必ずやるかな」

 

 新しい勇者システムは嘗ての反省を受け、極力、勇者を死なせないように配慮された。

 大きな違いは、神樹の分身ともいわれている"精霊"の存在。

 勇者一人につき、一体がついて、勇者たちを致命的な攻撃から守ってくれる。

 さらに勇者としての力を振るっていくと、力が溜まっていき"満開"という力を手に入れることができるという。

 しかし、守り人の俺には"満開"は使えない。精霊はつけれてもそれが限界だった。身体が既に神樹の一部に成り代わってしまっているため、満開は行えない。そのかわり、俺は神器を作り出すことができる。以前の『いくたち』は中身のないハリボテだったが、今では足りなかったものが補われ、神器そのものを作り出すことが可能になった。

 作り出せる神器は4つ。

 

『布都御魂(ふつのみたま)』

『八握剣(やつかのつるぎ)』

『生太刀(いくたち)』

『天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)』

 

 この四つの神器が勇者達を、この国の人を守るための最後の手段。

 満開と神器の威力は、まさに神の一撃といえるまでに昇華されている。

 おまけに基礎能力まで向上されている。

 そんな機能を使いこなせるよう、毎日鍛錬をして過ごしてきた。

 到底、バーテックスに負ける気はしなかった。

 

「なんかアタシの知らないところで色々変わってんだな。なんか置いてかれた気分」

 

「気にすることなんてないわ、銀」

 

「ところでわっしー、わっしーの部屋って漫画とか置いてないよね。ハルスケの部屋には置いてあったのに」

 

「確かに須美って漫画読んでるイメージがアタシにはない」

 

「置いてあるわよ?ほらあそこ」

 

「旧世紀の戦記ばっかりだろ。あれ、ほぼ教科書だわ」

 

 四人の会話は日常のものへと変わっていった。

 

 バーテックス襲来まで、残りわずか。

 

 

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