花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第15話 決戦へ

 今日は珍しく朝の5時に目が覚めた。

 須美は既に起床している頃だろう。庭で水浴びをやっている頃か。

 俺はやることもないので庭に出た。案の定、須美は庭の専用スペースで水浴びをしている。

 

「おはよう、いつも思うけどそれ寒くないの?」

 

「今日は早いのね兄さん。朝に水を浴びると気が引き締まるわよ。兄さんもやる?」

 

「やめとくよ。寒いのは苦手だ」

 

「そう…」

 

 そんな残念そうな顔するなよ。つい、やっちゃおうかなーとか思ってしまう。

 俺は須美の水浴びが終わるまでフラフラと庭を徘徊していた。

 遠目に見て、やけに須美は機嫌が良さそうだった。園子や銀の事でも考えてるのだろうか。よっぽど2人のことが好きらしい。兄としてそういう友達が出来た事は心の底から感慨深いものがある。

 須美が夏休みの縁日で手に入れてきた金魚に餌をやったりしているとちょうど須美も水浴びが終わったようだった。

 

「一緒に神社行く?」

 

「折角だしそうする」

 

 俺と須美は二人で近くの神社へと歩く。その道中、須美は難しい顔をしていた。

 

「どうした、さっきまで機嫌良さそうだったのに」

 

「いえ、その、兄さん気づいてる?家にある食材とかが凄い高級なものに変わってること」

 

 そんな変化に俺は気づいていなかった。普段台所に立つ須美ならではの気づきだろう。

 

「知らなかった。それが本当なら好待遇なことで」

 

「それでいいのかしら…」

 

「いいか悪いかまでは流石にわからん。お役目の影響かな」

 

「でも、お役目があるのは私たちだけじゃないから…皆、色々なお役目があって、今の平和な状態に成り立っているなら、私たちだけ、そこまで特別視されるのも」

 

「それにも一理あるな」

 

 須美の話を聞いて、どこか引っかかるものが俺の中に生まれた。その引っかかりも直ぐには溶けてなくなった。

 俺と須美はお参りをした後、須美が神社の境内にいる猫に呼びかけている時、俺は神社のある場所が目に入った。

 神を奉る場所には米や酒などが置かれていた。なんだかそれが、今自分達の姿と重なってしまったのは何も不思議なことではないような気がする。気になって俺は須美に問いただした。

 

「須美、神社に置いてあるあれってなんていうんだっけ」

 

「あれは、供物ね。それがどうしたの?」

 

 俺の突飛な質問に、須美はとても怪訝な表情をしていた。

 供物。一度口の中でその言葉を転がしてみる。

 

(考えすぎか)

 

 俺は自分の言葉が口に出したら本当にそう言う意味を持ってしまいそうで。それが怖くて、口に出す前に飲み込んで自分の中だけでその言葉を消し去ったのだった。

 

 

「って言う話を兄さんとしたんだけど、そのっちの家はどう?食材届いてた?」

 

「どっさり届いてたね〜。なんかこれから着物とかも届くみたいだよ〜」

 

「銀は?」

 

「アタシの家ではそんな話聞いてないな」

 

 場所を移して今は神樹館6年1組。

 須美と園子、銀は談笑していた。先日席替えがあり、ようやく銀は園子と須美と近くの席になれて物凄い喜んでいたのを覚えている。

 俺は相変わらず須美の後ろだった。その安定した立ち位置に日常を感じているところである。

 

 昼ごはんも食べ終わり、昼休みとなった。次の授業までの息抜きであるからか、クラスメイト達は各々友人達と重い思いの遊びを繰り広げている。グラウンドからも賑やかな声が聞こえてきていた。

 その中で須美達三人はクラスメイトと黒板に絵を描いていた。

 

「乃木さんの描く絵って…なんというか、シュールレアリズムというか…」

 

「えへへ、そうかな〜」

 

「下手な訳じゃないのが分かるんだよね、なんというか、突拍子もない…うーん、乃木さんは神樹館のピカソね」

 

「範囲狭いけど嬉しいよ〜」

 

 と言う会話が聞こえてくる。

 俺は菅野と西浦とその光景を眺めていた。

 

「どうした?乃木さんが気になるのか?」

 

 菅野がニヤニヤしながら聞いてくる。

 

「あの絵は何を意味しているのかを考察していただけだよ」

 

「ところで、お隣の晴哉の妹さんは何を書いてるんだ?」

 

 俺は西浦の言葉に導かれ、園子の隣で絵を描いている須美を見る。器用に黒板に描かれていくその絵はとても見覚えがあるものだった。

 

「あれは翔鶴型航空母艦二番艦の瑞鶴だな」

 

「お前、詳しいな。それより鷲尾さんは何でそんなもの書いてるの」

 

「好きだからだろ」

 

「船が好きな小学六年生。変わってるな」

 

「今更だ」

 

 俺と菅野、西浦はその後クラスメイトに誘われて外でサッカーをすることになり、昼休みが終わる頃には黒板は元の状態に戻っていた。

 

(瑞鶴…写真撮りたかったな……)

 

 俺は家に帰ったら須美に「利根」を描いてもらうことを密かに決意したのであった。

 

 放課後、須美に誘われ他の二人と共にイネスに行くことになった。四人の中で日常の象徴はイネスになりつつある。

 銀ほどではないにしてもかなりイネスの内部構造に詳しくなっていた。

 イネス内の色々なお店を見て回る中で、園子の足が100円ショップの前で止まる。

 

「どした?園子。何か気になるものでもあった?」

 

「みのさん見て〜。おもちゃコーナーに新しい表品が入ってるんよ〜」

 

「本当だ!あれはパーティーグッズ?」

 

「『ご自由にお手にとりお試しください』だとよ」

 

「秋だからかぼちゃ祭りに向けて、こういう系の商品を充実させてるのかも」

 

「かぼちゃ祭りって須美。ハロウィンの方が良くない?」

 

 銀が苦笑しながら突っ込む。須美は「横文字は苦手で…」と謎の抵抗を見せていた。

 

「わっしーにはこのシルクハットが似合いそう〜。どうかな、この中に鳩を入れる芸を覚えてみるとか」

 

「できるかしら」

 

 須美と園子が何やら画策しているのを横目に、俺は銀と他の商品を物色した。銀は俺に合う物を探していたようだが、なかなか見つからないようだ。

 

「ハルヤは…合いそうなのないな」

 

「あった方が怖えよ」

 

「それならアタシに合うやつはある?」

 

「そりゃあるだろ。これとか」

 

 俺も他の3人も『ご自由にお手にとりください』という言葉に甘えて、互いにくっつけ合いながら遊んでいた。

 俺はひっそりと簡単にできるトランプマジックとやらを手に取って一つだけ技を習得したのだった。

 

 場所を移し、休憩も兼ねて俺たちはフードコートに降り立った。イネスのフードコートは、相変わらず家族連れや学生で賑わっている。

 フードコートで買う物は皆決まっている。いつものジェラートのお店で好きな味を買って、席につく。一口、二口食べすすんだところで銀がニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら俺たちに話しかけた。

 

「そろそろ諸君の中で、しょうゆ味ジェラートは一番美味しいものになったんじゃないか?」

 

「うーん。私はあまりしっくりこないかな〜」

 

「そんな…」

 

 なかなか理解を得られない事に銀は肩を落とす。

 

「銀、そろそろ諦めろ。多分理解されるの数年かかるぞ」

 

「とか言いつつ、ハルヤはしょうゆ食べてるじゃん」

 

 確かに俺は銀に乗せられてしょうゆ味ジェラートを購入した。だが、一言も美味しいとは言っていない。寧ろ俺は園子のバニラ味が欲しくてたまらないくらいである。

 俺の視線が園子のジェラートに釘付けになっていた事に気がついたのか、次は須美が不敵な笑みを浮かべ、凄まじい速度で園子のジェラートを掻っ攫った。

 

「そのっち、バニラ頂戴」

 

「わあ!わっしーにとられた〜!」

 

「じゃあ、アタシも!」

 

「みのさんまで〜!」

 

 自分のジェラートが減った事に絶望し、助け舟を出して欲しかったのか園子がこちらをみる。絶望している割にはその目は輝いていた。

 

「…とって欲しいのか?」

 

「なんとなく流れで来るかなーって」

 

「…俺はいいよ」

 

「ハルヤのヘタレ」

 

 容赦のない銀の言葉が俺の心に突き刺さった。

 

 帰り道のついでに四人は大橋近くの公園へと来ていた。今日は良い風が吹いていて、おまけに打ち付ける波もとても穏やかだ。

 

「夕日が綺麗ね」

 

「本当だね〜」

 

 この光景は地元の人から見れば見慣れたものだが、今の俺たちには心に沁みる光景だった。

 

「ねぇ、わっしー。みのさん。ハルスケ」

 

「どうしたのそのっち。急に改まって」

 

「お礼を言いたくって。ありがとう〜。私、三人に会えて、凄く楽しい。これからも宜しくね」

 

「お礼を言うのはアタシ達の方だぜ!な、須美!ハルヤ!」

 

「ええ、そうね。銀の言う通りだわ」

 

 須美や銀から出たのは、園子への、友への感謝だった。

 

「俺もみんなと同じ気持ちだ。園子。あり…」

 

 俺も皆に続いて感謝の言葉述べようと来た時、今まで四人の間を吹いていた爽やかな風が、潮風が止まった。

 

「…!空気読んでくれよバーテックス……」

 

「…来たね〜止まってるんよ。時計」

 

「銀も…止まってるわね」

 

 時間の停止。敵の襲来だ。須美は銀の手をぎゅっと握る。

 

「待ってて銀。すぐに倒してくるからっ!」

 

 須美が銀に語りかける。園子も二人の手の上に自身の手を乗せた。

 黄昏が樹海へと変わっていく。二人の手と、銀の手が離れた。

 

「わっしー援護よろしくね」

 

「任せておいて。兄さんも」

 

「背中は任せたってやつだな」

 

 武器の性質上、やはり三人のバランスでは互いに距離ができる。でも今更、そんなことは大した問題ではない。

 不思議と最後の戦いになるだろうなと言う気持ちと、負けるわけがないと言う自信が俺の中には宿っていた。

 

「じゃあ、わっしーこれ持ってて」

 

 園子はみずからのリボンをほどいて須美に渡した。そのリボンは戦闘時、2人の間にできてしまう物理的距離を埋めるような力があるように感じた。

 

「ありがとう。心強いわ」

 

 須美はぎゅっと友のリボンを握りしめた。

 

「似合いそうだな」

 

「戦いが終わったらつけてほしいんよ〜」

 

「終わったらつけてみるわ。似合ってたら褒めてね。そのっち。あと、兄さんもね」

 

「お前、俺を戦闘前に戦闘不能にしようとしてどうする」

 

「そんなつもりはないわよ。ちゃんと気を引き締めてよね」

 

「安心しろ。ちゃんと褒めて、鷲尾家全体巻き込んでパーティー開いてやる」

 

「わぁ〜楽しそう〜。私も行きたいな」

 

「や、やめて頂戴」

 

 こんな時でも軽口は自然と出てきて、笑みが溢れる。

 敵の姿は徐々にその全容を現し始めた。それを合図に俺たちの気も一層引き締まった。スマホを握る手にも自然と力が入る。

 誰かの深呼吸が戦いの引き鉄を引いた。

 

「よし!行こう!」

 

 園子の掛け声で俺たちは新たな力を身に宿した。

 攻めるは人類の"天"敵バーテックス。

 守るは"土"着の神に選ばれた3名。

 神世紀298年。"瀬戸大橋跡地の決戦"が幕を開ける。

 

 

 

 

 

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