花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第二幕 花は再び咲き誇る
第1話 勇者部?


 大橋決戦からおよそ半年。

 俺は現勇者の守り人のお役目を解消され、新たに讃州中学へと向かうようにと、大赦から命じらた。

 結局、ここ半年で須美に関する情報はゼロ。なんの手がかりも得る事なく新たな学校に通うことになってしまった。本当なら春休みの間に所在地でも探し出そうと大赦に侵入したりしたが、呆気なく見つかり、とんでもなくお怒りを受けた。

 讃州中学は公立の中学校なので小学校の頃とほぼメンバーは変わらない。そんな所に放り込まれ、園子や銀のおかげで多少改善されたとは言え、それでも人付き合いが苦手な俺は現在無事独り身となっていた。

 一人でいることは苦ではないが、いかんせん神樹館には園子や銀、菅野や西浦もいた。そこまで遊んだりすることはできなかったが、彼らは俺の友達でいてくれた。そのためか苦ではないにしろ、寂しかった。

 受け身ではダメだな〜。なんて考えながらも結局面倒くさくなって話しかける事ができなかった。

 

(……そのうち話し相手くらいはできるかな)

 

 讃州中学の生活が始まって1週間と少し。そろそろこの生活にも慣れてきた。

 ふと、机の中を見ると中に一枚のプリントが見えた。それを俺は引っ張り出した。そこには部活動をどうするかとの旨が書いてある。

 

「部活、やるべきなんかな…」

 

 俺は一人、外を見て寂しさを誤魔化すように呟いた。

 

 授業中、注意してくる人もいなくなってしまって早速居眠りしてしまった。

 神樹館では安芸先生が教科書などで頭を軽く叩いて起こしてくれていたが中学はそんなことはなかった。気づけば時が1時間進んでいる事なんてザラだ。

 黒板に書いてある事をとりあえず脳内にインプットさせる。そしてその流れでノートへアウトプット。

 

(…何もかけなかった)

 

 自分の能力を高く見積もりすぎていた。悲しくなったので消される前に写せるだけ写すことにした。

 結果、写せた量。全体を占める約3割。健闘した方だろう。何故だかこんなことに満足いってしまった。

 

 放課後、俺は一人廊下を歩いていた。辺りは部活動への勧誘が第三者目線から見て引くレベルで行われている。

 

(ここの部活動そんなに強かったのか?)

 

 とにもかくにも熱心だった。捕まった人たちよ。南無三。合掌。完全に他人事でここの中で手を合わせていた、そんな時だった。

 

「そこの君!」

 

「………」

 

 そこには髪を後ろで二つに結い、よくうどんを食べそうな人がいた。俺はその人物を無視して進もうとした。明らかに厄介そうだったから。

 

「無視するなんて酷い!これでも先輩なんですけど〜」

 

 俺に無視された彼女は不服そうに唇を尖らせる。俺は自称先輩の胸にある校章を見る。色が一つ上を現していた。

 自称から2年の先輩へとランクアップした。俺は一度怪しい先輩に向き直る。

 

「知らない人について行ってはいけないって小学校で言われたので。失礼します」

 

 頭を下げ、その場から全力で退避しようとした。

 

「え、ちょっ、待ちなさいよ」

 

 だがそれをこの先輩は許さなかった。俺の服の袖を捕まえると思いっきり引っ張った。

 

(いや、力強いな!)

 

 俺の心の声を聞き取ったのか、勝ち誇った顔で俺の逃亡を阻止する。

 

「ふふふ、そう簡単に逃げれるとでも思ったか!」

 

「台詞が完全に悪役のそれなんですが」

 

「私はあんたを捕まるためには鬼にでも、魔王にでもなるわよ」

 

 ただのおかしな人に見えて来た。この人大丈夫だろうか。なんというか、少し残念な感じが凄いする。

 

「じゃあ魔王である先輩は俺にしか見えなくて、俺はその事を他の人に必死に伝えるけど伝わらなくて結局死んじゃうって事でいいですか?」

 

「あんた、何言ってるの」

 

 すごいドン引きされた。知らなかったかあ…シューベルトの『魔王』。結構授業でやって、覚えているくらいには好きなのに。

 俺の落胆具合を見る彼女の目は俺が先程まで向けていたものと同じだったように思える。ただ、勧誘する手前、直ぐに態度を改めた。

 

「とりあえず話を聞くだけでもいいから。ねっ?」

 

「勧誘がマルチ商法とかそこらへんの類ですけど…」

 

「今、すごい儲かる話があって」

 

「寄せなくていいですから。聞きます。聞きますから」

 

 俺は根負けしてとりあえず話を聞くことにした。自分の決意が鈍すぎた。先輩は満足そうに頷きながら俺に一枚のプリントを手渡す。

 

「今更だけど改めて自己紹介を。私は勇者部部長の犬吠埼風よ」

 

 その名字を聞いた時、俺は思わず黙りこくった。

 

(犬吠埼……。何処かで聞いた名字だな)

 

 頭の片隅によぎる記憶の断片。それがどうにも思い起こしきれなかった。

 俺が無言になってしまったのを呼び方に困ってると捉えた犬吠埼風は小さく笑いかけた。

 

「風で良いわよ。その方がフランクで良いでしょ」

 

「わかりました。所で風先輩。この勇者部ってのは?」

 

 風先輩の勘違いはそのままにして、俺はプリントにデカデカと書かれた部活名を指差す。

 

「そう。勇者部よ。活動内容は世のため人のためになる事を勇んでするって感じね。どう?入りたくなった?」

 

「………」

 

 こんなつまらないことにこだわるのもどうかと思うが、今は勇者というワードをあまり聞きたくなかった。どうしても園子や須美を守れなかった罪の意識に苛まれる。

 急に再び無言になってしまった俺の顔をを風先輩は覗き込んだ。

 

「どしたの?さっきから急に黙っちゃって」

 

「すみません。なんでもないです。勇者部ってどんなことをするんですか?お手伝い的な?」

 

「おっ、食いついて来た。そうね、基本的には海岸沿いなどのゴミ拾いから、部活の助っ人、その他諸々ね」

 

 悪くないなと思ってしまった。正直面倒くさいと言えば面倒くさいが断る理由が見つからなかった。それにやりたい部活があるわけではなかった。

 

「折角勧誘されたので精々活躍できるように頑張りますよ」

 

「ありゃ、案外簡単に釣れた」

 

 俺は魚か。

 

「えっと、それじゃあ入部するって事でいいの?」

 

「なんで不安そうなんですか」

 

「最初の反応見る限り、拒否されそうな勢いだったから」

 

「活動内容がしっくり来たので」

 

「どんなところ?」

 

「部活の助っ人とか中途半端な俺にはピッタリです」

 

「なんか予想してたのと違うわ」

 

 何か一つを極めるのは大変手間がかかり面倒だが、あちらこちらの部活を転々とする部活の助っ人というのは何かを極める必要もない。ある程度動けて、知識があればそれでいい。なんと楽なことか。

 

「じゃあ今この場で入部届書いて」

 

「ここで?廊下ですけど。ペンとかないですよ?」

 

「あるわ。ここに」

 

 風先輩は胸ポケットから黒ペンを取り出した。そこ、ドヤ顔するポイント一つもなかった気がするんですけど。

 俺は仕方なく廊下の地面にプリントを据え、所定欄に名前などを記入した。逃げられないように言質を取られている気分だった。

 書きおわりペンと共に入部届を渡す。

 

「ふむふむ。一年二組の鷲尾晴哉ね。これでOKよ。ようこそ勇者部へ!」

 

「ありがとう、ございます?」

 

 流れに身を任せすぎたのではないかと言う過去の自分への問いも程々にここまでのやり取りで俺は一つ気になっていた事があった。

 

「他に部員いないんですか?」

 

 まさかこの人と二人きりなんて事はあるまい。

 

「あー、それね。この後二人増える予定だから大丈夫」

 

 いや、予定って。あてがあるのだろうか。

 そうこう考えていると風先輩は「来たっ」と獲物を見つけたように歓喜の声を上げた。何処かの先住民の民族を見ている気分になる。

 

「鷲尾も勧誘に協力しなさいよ」

 

「後ろに立ってるだけでいいならそうします。先輩の亡霊って事で」

 

「や、やめなさいよ……」

 

 ボソッと風先輩に調子が狂うと悪態をつかれた。ユーモアがあると言って欲しいものだ。

 風先輩が俺の時同様、今後増えるであろう二人の目の前に飛び出した。

 

「待てーい!そこの君たち!」

「「え?」」

 

 二人は突然現れた人物に困惑しているようだった。

 

「ん?」

 

 その二人はどこかで見た事があった。1ヶ月前くらいだったか、桜並木をすれ違った記憶がある。

 過去の記憶を辿っている最中も風先輩は勧誘に勤しんでいた。

 

「私は2年の犬吠埼風よ。貴方たちに適した部活がここにあるわ!」

 

 そう言うと風先輩は二人に俺に渡したプリントと同じものを押し付けた。そこには勿論『勇者部』と書かれている。

 俺は改めてそのプリントを見る。人の事は言えないが、もう少しセンスがあっても良くないだろうかと思ってしまった。

 

「勇者部?なんですか?これ」

 

「勇者部はね、世のため人のため、困った人たちを助ける部活よ。内容はゴミ拾いや部活の助っ人。その他もろもろね」

 

 風先輩が二人に部活内容を説明している間、俺は車椅子に乗った子が気になっていた。

 容姿は似ている。けれど、雰囲気は全く違う。すくなくとも鷲尾須美ではない。だが、本人であると言う確信があった。

 考えても仕方ないと思って彼女から意識を外すと、もう一人の子と風先輩がこっちを見ていた。

 

「あ、忘れてた」

 

 風先輩がボソッと呟いた。何を忘れてたのだろうか。二人ともこっちを見ている。…もしかして俺の存在?

 

「忘れてたって、酷くないですか?」

 

「ごめんって、そんなことどうでもいいから早く自己紹介しなさいよ」

 

「この先不安だ…俺は鷲尾晴哉。クラスは違うかな。よろしく」

 

 軽く風先輩に悪態をつき、二人にはなるべく礼儀正しく見えるよう挨拶をした。

 すると車椅子には乗っていない方の子が一気に距離を詰めてきて、俺の右手をガシッと握った。左手は反射的に即座に後ろに引いた。

 

「私は結城友奈って言います!よろしくね!えっと、晴哉くん!」

 

 結城友奈と名乗った彼女は俺の手をぶんぶんと縦に振った。

 距離の詰め方が銀のそれを遥かに凌駕している。間違いない。銀以上の人がいるのか、とその事に驚愕した。

 そういや、最近全然銀と連絡取れてないな。今日しておこう。

 

「よろしく。結城さんでいい?」

 

「んー、名前でいいよ。その方が嬉しいな」

 

 友奈が俺に笑顔を向けた。

 普通の男子ならば多分これでイチコロだ。勘違いして死ぬまで思い出すたびに布団の上で悶え苦しむ事になるだろう。

 よっぽどバーテックスの攻撃より恐ろしかった。

 

「了解。なら改めて、よろしく。友奈」

 

「うん!よろしく!」

 

 俺と友奈の様子を見て「あらあら〜」などとふざけた事をほざいている風先輩を無視してもう一人の方を見る。

 

「……」

 

 どう声をかければいいのかわからない。

 いつか家で初めて会った時のように話をすればいいのだろうか。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「いや、悪い。気分を害したなら謝る」

 

「ううん。大丈夫よ。私は東郷三森と言います。よろしくお願いしますね。晴哉くん」

 

「ああ、よろしく。…東郷」

 

 同じでも違うとは分かっていたが、尚更それを証明される事になってしまった。

 かつて須美と築いてきた信頼関係など、もう跡形もなかった。それが今はとても苦しかった。

 

 その後、風先輩の誘いでうどん屋に行く事になった。ついでにその席で次の部活の予定も伝えられた。

 

「次は今度の週末に海岸沿いの清掃をしようと思ってるんだけど、大丈夫よね?初めての活動だからなるべく参加して欲しいんだけど」

 

「私は大丈夫です」

 

「私も行けます!」

 

 友奈と東郷がかなり乗り気だった。風先輩は2人の様子に何処と無く安心したように見える。

 

「鷲尾はどうする?」

 

 反応のない俺を見て、風先輩が来るのか来れないのかを聞く。一体どのくらいで検査が終わるかもわからないので遅れると言う旨だけを伝える事にした。

 

「行きますけど、少しだけ遅れるかもしれないです」

 

「朝起きれないとか?」

 

「風先輩、私も朝弱いから遅れるかもしれません!」

 

「友奈ちゃんは私が起こしに行くから大丈夫よ」

 

 ビシッと手をあげて元気よく発言する友奈はまだ可愛らしかったが、サラッと捉え方によっては怖い事をいう東郷。

 

「単純に病院行くだけです」

 

「そう?なら場所だけ伝えておくから来れるなら来てくれると助かるわ」

 

 結局現地で合流。活動開始と言う段取りにして、俺たちはうどんを堪能してからお店を後にしたのだった。

 

 日も完全に落ちたころ、俺は現自宅のアパートにたどり着いた。俺は早速銀に連絡を入れる。

 

「もしもし、銀か?」

 

「ハルヤじゃん。久しぶり。どったの」

 

「最近連絡取れてなかったからな。あれだよ寂しくなったったんだよ」

 

「そうか…ついにハルヤにもそんな感情が生まれたのか」

 

 いつもいつも思うがこいつは俺のことをロボットとでも思っているのだろうか。気を取り直して話題を振る。

 

「そっちはどうだ?」

 

「弟の面倒を見れないのがとても辛い。あいつら元気かな」

 

「大赦の施設にいるとしても家族と連絡くらい取れるだろ?」

 

「お役目の都合上それもできないんっすよ。鷲尾さん家のハルヤくん」

 

「あー、完全秘匿だもんな。あれ?でも俺とは連絡取れてるじゃないか」

 

「この端末に登録されてる人はできるらしいよ」

 

 あっちはあっちでかなり面倒な制約を課せられているらしかった。自由に動けるこちらの方が断然マシだった。

 

「様子を伝えるだけなら、今度病院行くついでにそっち戻るから見てこようか?」

 

「え?マジ?任せていい?」

 

 心なしか銀の声が弾んだように思えた。

 

「写真とかつけて送るよ。それでいいか?」

 

「うん!この恩は一生かけて返して行く所存です。へへっ、難しい言葉知ってるだろ」

 

「いや、そこまでだろ」

 

「馬鹿にされた!?」

 

「馬鹿になんてしてない。ちょっと可哀想に思えただけだよ」

 

「それ、世間一般で見たら馬鹿にしてるって事になるんだけど」

 

 銀もなかなか成長したらしい。とは言いってもあれからまだそんなに時間は経ってないのだが。

 

「ハルヤは学校生活どうなん?楽しい?」

 

「園子や銀に会う前みたいな生活してるよ」

 

「なーんだ、やっぱりハルヤはハルヤじゃないか」

 

 ケタケタと腹を抱えて笑っている様子が目に見える。

 前言撤回して弟たちの写真を送るのをやめてやろうかと思った。

 

「あ、でも部活には入ったぞ。入れられたの方が正しいかもしれん」

 

「な、な、な、部活動だって?」

 

 銀は電話越しでも伝わるくらい動揺していた。それこそ親が殺されたのかと思うくらいのレベルで。

 

「ど、どんな部活なんだ?」

 

「活動歴ゼロの世のため人のためになる事を勇んでやる部だとよ」

 

「なんだそれ」

 

「そのままの意味だよ。ドゥーユーアンダースタン?」

 

「え、どういう意味?」

 

 俺の発音も悪いとは言え、流石にこのくらいの英語は理解して欲しかった。どんな意味かを伝えようとした時、銀の方から扉がノックされる音が聞こえた。

 

「ごめん、ハルヤ。ちょっと急用できたかも」

 

「了解。また電話していいか?」

 

「もちろん!じゃあ、またね!」

 

 そう言って銀は通話を切った。あっちはあっちで忙しそうだ。

 そう言えば前、訓練所で会った三好夏凛という子はどうなったのだろうか。きっと彼女なら最後まで残っているだろう。

 だが、勇者システムの真相を知っている身としては勇者になる事を一切推奨することなんて出来なかった。

 今は考える事が多すぎる。一つ一つ解消するのにどれだけの時間を要するのかわからないがやるしかない。

 

「まずは部活からかな」

 

 やるからには役に立とう。

 また今度、須美や園子、銀に会えた時自分を誇れるように。

 

 

 

 

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