花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第3話 再来した敵

 勇者部の活動が始まってから約1年が経った。この一年はとてもあっという間で内容も濃いものだった。

 讃州市内でも讃州中学勇者部の噂はたちまち広がり、幼稚園から演劇をして欲しいとの依頼がくるまでになっていた。東郷の作ったホームページも勇者部の知名度が上がる要因になったようだ。

 4月には入学式で風先輩の妹の犬吠埼樹も勇者部の一員となり、総勢五名で活動をしている。

 今日は幼稚園での活動だったが、俺は生憎定期検診の日と重なってしまい、行くことができなかった。

 検診はいつも通り何事もないとのことでそろそろ終わりでいいのではないかと思い始めた。正直、大橋市にまで戻ってくるのが面倒だった。

 

「別に目的がないわけでもないしな……」

 

 園子に会いにくるのは別だ。友達に会いに行くのと病院に行くのとでは気分も全然違う。今日も俺は帰りに大赦を訪れていた。

 

「で、園子さん。何してんすか」

 

「将棋してるんよ。あ、歩進めておいて」

 

 園子が指図すると隣に控えている神官が歩を前に進めた。見た感じ、戦況は圧倒的に園子に傾いていた。

 

「園子、お前将棋もできたのか」

 

「暇だからね、覚えちゃったんよ」

 

 将棋って素人がホイホイ覚えれるものだっけか。駒の動かしかたを覚えるのにもそれなりの時間がある気がする。それに戦略的な部分も考慮すれば尚更だ。

 

「いつから始めたんだ?」

 

「昨日なんよ」

 

 やっぱり園子は普通に潜在能力はこの四国にいるどの人物よりも高い。というより天才気質なのだろう。

 昨日から始めて、そこそこ将棋が強そうな神官を唸らせる女子中学生がいてたまるか。

 前も暇だからと数学の参考者読んで全部理解してたし。普通に園子は化け物だと思う。ただ、その暇だからという理由が他の人よりも重い。かなり心にくる。

 

「……負けました」

 

 神官がこの先打つ手無しと判断したのか投了してしまった。

 

(勝っちゃったよ……)

 

 俺はその様子を見ながら唖然としていた。勝負がつくとそばに控えていた巫女や神官が将棋盤を片付けていく。やけに洗練された動きに目を見張るのもそこそこに園子の声で我に帰った。

 

「さてさて、ハルスケも来てくれたことだしお喋りしようかな」

 

「とは言っても話す内容も今までと変わらないぞ」

 

 俺は園子のもとを訪れるたびに学校であった事、主に勇者部のことを話していた。一度だけこの1年間の間に銀と会ったことも話したりした。

 

「私はここから動けないから、勇者部でハルスケが見てきたものを話してくれるだけで嬉しいんよ」

 

 そう言われてしまえば、会った事を話さないわけにはいかない。

 何かあっただろうかと頭を悩ませた末に新入部員の話をすることにした。

 

「前、新しい部員の子で風先輩の妹の樹って子が来たんだけど、その時歓迎会の時に東郷がマジックで帽子から鳩出してた」

 

「わっしー、もしかしたら覚えていたのかな。冗談半分で言ったこと」

 

「かもしれないな。ふとしたことで思い出してくれるといいんだけど」

 

「世の中そう上手くいかないもんだからね」

 

 園子が言うと重みが違った。

 

「他には…友奈と東郷と同じクラスになったくらいかな、後は…」

 

 俺はそんな重たい空気を払拭させるためにここ1ヶ月近くの思い出を掘り返し、園子に少しでも笑顔になってもらおうと努めた。

 話続け、案外話題はすらすらと出てくるもので気づけば時間はかなり遅くなってしまっていた。俺は腕時計を一瞥すると、園子に断りを入れた。

 

「じゃあ時間も時間だから今日は帰るわ」

 

「うん。またね」

 

 俺は頷いていつも通り部屋を出ようとした。が、今日はそうはいかなかった。

 

「ねえ」

 

 園子の言葉で俺は振り返った。園子は俺を真っ直ぐに見据える。その視線がやけに真剣だったものだから、思わず茶化すように。逃げるように言葉を選んで園子に問い直す。

 

「どうした?頼み事があるなら聞くよ。可能な範囲でだけど」

 

「頼み事ではないの。ハルスケに聞きたいことがあって」

 

「?」

 

「ハルスケは友達か世界、どっちを取る?」

 

 唐突に繰り出されたその質問は意図が正直掴めなかった。今まで園子がこんな質問をしたことは記憶にある限り全くない。

 ただ真剣に俺に聞いていることだけは分かった。

 

「……わからない」

 

 しばらく考えた結果こんな煮えきれない回答が出てきた。短時間ではあるがこれが俺の回答だった。

 園子の質問の意図はこの一瞬では理解できなかった。俺は言葉をそのままの意味で捉えるしか、この時はできなかった。

 

「ごめん。今はこんな回答しかできない」

 

「ううん。大丈夫。私こそ急に聞いてごめんね」

 

 園子はそれだけ言うと天井を仰いだ。それ以上、園子は何も言わなかった。

 俺は園子の質問を頭の中で繰り返しながら部屋を出る。部屋を出ると複数人の神官と巫女が立っていた。

 あの仮面姿が並んでいると逆に壮観だった。怖すぎて。

 

「晴哉様にお伝えしたいことがございます」

 

 嫌な予感がした。ここ一年、大赦からのこちらに対する動きはほぼゼロに近かった。表情は見えないが、様子からしても重要なことを伝えると言うのがひしひしと伝わった。

 

「なんですか?」

 

「先程、我々巫女に神託が降りました」

 

「!!」

 

 神託。それは神樹から人類に伝えられる警告のようなもの。

 神託が降ったと言うことはつまり。

 

「バーテックスが我々の想像より早く再度出現するようです」

 

 予想通りだった。バーテックス…最強の名を冠する人類の敵。一年も動きがないと思っていたので油断していた。

 最終決戦の際、倒したはずのバーテックスがあの場にいた事を鑑みると敵は無限にいると考えてはいた。だが、再侵攻はまだ遠い先の話だと思っていた。

 

「……園子をまだ戦わせるつもりですか」

 

「園子様は出撃することはありませんので御安心を。その時になれば新しい勇者が神樹様によって選ばれます」

 

「またか…また誰かを犠牲にするのか」

 

 思わず手に力が入る。そんな俺を意に介さず、巫女はこちらの質問に一切答えることもせず話を淡々と進める。

 

「晴哉様。貴方には再度、勇者達の"守り人"のお役目について貰います」

 

 そう来たか。と内心、園子を戦わせると言う返答が来なかっただけ、良かったと安堵している自分がいる。

 それと同時に大赦は他の勇者を選抜した事を包み隠さず明かしたことになった。勇者システムに備わっている機能を知っている以上、俺はそれを見逃せない。

 

「満開のことについては」

 

「貴方には勇者システムに加えて、満開については口外禁止と以前と同様の命令を下します」

 

 それは満開の危険性を伝えず、ただ選ばれた人の補佐をし続けろと言うことか。

 嫌な手段を取ってきたものだ。仮にこの先、勇者達が満開を使い後遺症で苦しむことになろうとその責任は俺になすりつける事ができる。俺は満開のことを知りつつも、現状世界を優先するために使用する事を止めることができない。大赦は口から出まかせで俺に伝えた体にすればそれで結論OKなのだ。

 それよりも園子の姿を知っているだけにそんな話聞くわけにもいかなかった。自分がなるのはいい。けれど、満開を使い被害を被るのは勇者になった少女達だ。そんなこと容認できるわけがない。

 

「…最悪の場合、俺は伝えますよ」

 

「口外禁止と言ったはずですが」

 

「悪いが、俺にも人間として捨てられないものだってあるんです。お断りします」

 

「……神樹様の神託に反しているとしてもですか」

 

「はい。それが悪だと言うのなら、俺は悪で良い」

 

 俺は巫女達に背を向けてその場から早足で立ち去った。

 今の数分で先程の園子の質問に対する答えははっきりとしたものとなった。答えは結局一つしかなかったのだ。

 

「俺は、友達を取るよ。何があっても」

 

 須美と園子、銀が命にかけて守り抜いたこの世界を守ることが俺の使命だなんて勝手に思っていた。けど、俺は()()()の【守り人】だ。最初のスタート地点に今やっと戻ってきたような。そんな気がする。

 園子には聞こえないだろうが、自分に言い聞かせるように静かに呟いた。叶えられる事の出来ない意志だったとしても、それはきっと誰かに伝わると信じてーーーーー。

 

 

 そんな事やあんな事があった次の週の月曜日。俺は授業中にも関わらずうたた寝をしていた。

 内容は苦手な数学ということもあり、何を言っているのかさっぱりだった。馬鹿にされるのも困るので言っておくが流石に基本的な問題は解けるまでにはなったのだ。

 須美がいなくてもできるところを見せようとほんの少しだけ中学に入る前に頑張ったのだが、流石に二年生の分まではできまい。今やっている問題は一年の頃にやったものを二年生の分野に応用するものだった。何度見ても分からん。

 

「鷲尾くん。寝ている暇があるのなら前で解いてもらおうかしら」

 

「………どの鷲尾くんですか」

 

「あなたしかいないでしょう」

 

「ですよね」

 

 寝ていることがバレたらしい。クラス内でクスクスと笑いが起こる。

 俺の少し後ろの席にいる友奈と東郷を見ると周りに釣られて笑っていた。

 

(あいつら後でしばこうかな)

 

 俺はどんな適当で無茶苦茶な式を書いてやろうかと考えながら席を立ったその瞬間。危機感を煽る聞き覚えのあるアラームが教室中に鳴り響いた。

 

「……マジか」

 

 そのアラーム音は俺と、友奈、東郷の三人の携帯から新たな御役目の産声を上げ続けている。

 

(聞いてないぞ。大赦関係者以外から勇者を選抜したなんて)

 

 銀の後継者選びの件は別物だとしておいても、一般人の友奈の携帯からその音が鳴ることはあってはならないはずだ。

 とは言え、いつから錯覚していた。大赦の人達は「()()()()()()()()()()()」とは一言も言っていない。勝手な思い込みが今ここに来て俺の心に動揺を誘った。

 

「えっ?何、これ」

 

 友奈も本来鳴るはずのない自身の端末。そこに表示された【樹海化警報】と言う聞き覚えのない言葉に驚きと動揺を隠せないでいる。

 

「結城さん、携帯の電源は切っておきなさい」

 

「は、はい。ごめんなさ、い?」

 

 アラームを止めようと携帯端末を持った友奈が異変に気づいた。東郷も同じようにあまりに違和感のある状況に戸惑いを隠せないでいる。

 

(初見ならそれも当然か)

 

 時計も止まり、人の動きが止まり、世界のありとあらゆるものが自分たち以外止まってしまっているのだから。

 

「なに、これ」

 

「友奈ちゃん」

 

「東郷さん、動けるんだ」

 

 友奈と東郷は何が起きているのかを互いに確かめ合っていた。だが現状を確かめるだけで解決策は見つからないらしい。

 2人の怯えた視線が俺にも向けられた。

 

「晴哉くんも動けてる……。これがなんだか知ってるの?」

 

 東郷は俺の落ち着きぶりに疑問を呈した。

 お前も体験したことがあるだろ?なんて言えるはずもなく、答えに迷っている間に三人は樹海化が発生する際に起こる光に飲み込まれた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「なに、ここ」

 

 目を開くとそこに広がるは現実とはかけ離れた未知の空間。木やその蔓が建物を覆っており、讃州市とわかるものは何一つとなかった。

 東郷と友奈はこの光景を信じられないのかその場に立ち尽くしている。それも無理もない。

 

(友奈と東郷が何もわからない以上、俺がここはリードするしかないか)

 

 あまり向いてはいないが、しばらくは案内役を買って出るとした。

 

「ここは樹海、神樹に選ばれた人にしか入れない領域みたいなものだ」

 

 俺は簡単に説明しながら端末に搭載されているマップを見た。マップにはあと2人、知っている名前が記載されており、こちらにゆっくりとその距離を縮めている。

 

「行こう」

 

 俺は2人に声をかけ、残りの2人に合流するために樹海化した街を進み始めた。

 

「晴哉くん……。知ってるなら何か説明を」

 

 声の端々に不安をにじませる東郷に俺はどんな答えを用意すれば納得してくれるのかを考えてしまう。

 

「今は俺の口からは上手く言えない……。また余裕が出来たら、ちゃんと説明する」

 

 満足のいく回答をあげることも出来ず、淡々と無言のまま俺と友奈、東郷は樹海をかき分けていく。

 5分ほど歩いただろうか。レーダーの案内に沿って進むとそこには風先輩と樹がいた。風先輩と樹は俺達を見つけると安堵した表情を浮かべながら駆け寄る。

 

「友奈、東郷!よかった無事だったのね」

 

「風先輩に樹ちゃんまで、これって一体何が起きてるんですか」

 

 風先輩は既にこの状況について一定の理解があるようで、友奈と東郷、樹に簡単に説明した。

 

「私達が、当たりだった」

 

「当たりって、何がですか」

 

「ここは樹海。私たちはここで外の世界から攻めてくる敵を迎撃するの」

 

「敵……?」

 

 東郷の身体が若干震えていた。友奈はその様子をいち早く察して東郷の手を握る。

 俺は風先輩が言葉足らずでの説明をする中、樹海化した世界に以前との変化が見られないかを観察する。

 

(前回と違って大橋で戦うという縛りはない。その分動きやすいかもしれないけど勿論防衛する範囲も自ずと広がる、よな)

 

 戦場が拡大されたとは言え、バーテックス相手に数的有利、不利が働くとは到底思えない。例えこちらの数が多くともバーテックスはその力を持って、こちらを容易に越えてくるだろう。

 脳内で繰り広げられる机上の戦闘。それを遮るように、風先輩の緊張感を纏った声が聞こえた。

 

「来た……」

 

 風先輩の視線の先。その異形はゆっくりと姿を現した。レーダーには乙女座と表記されている。

 何とも見た事がないフォルムだ。もしかしたら俺が参加していない戦闘で相見えていたバーテックスだろう。

 

「何、あれ」

 

 思ったよりも呑気に相手を観察していた俺とは対照的に、その異形を前に足をすくませながら、樹が息を呑んだ。

 

「あれはバーテックス。あれこそが、世界を壊そうとする私たちが迎撃しなくてはならない敵」

 

 風先輩が姿を現したバーテックスを睨みつけた。東郷の表情はみるみる恐怖に染まっていく。身体の震えも自制が効いていなかった。そして、無意識に動かない自身の足を手で押さえている。その姿が痛々しくて、俺は思わず目を逸らす。

 

「無理よ……。あんなのと戦うなんて……」

 

「東郷さん………」

 

 恐怖の感情一色に染まる東郷。その恐怖心は気丈に振る舞っていた友奈にも伝播してしまっていた。

 それでもバーテックスは待ってくれはしない。バーテックスは砲台ような部位を光らせ、砲弾をこちらに目掛けて投射した。

 

「しまった!見つかった!」

 

 誰も事態を飲み込み切れる前の先制攻撃。少しばかりそれは狡いのではなかろうか。バーテックスの登場が彼女達のイレギュラーな存在であるのなら、こちらもイレギュラーな存在をぶつけるのがお礼と言うものだ。

 

「風先輩隠れて!」

 

 俺は勇者装束を全身には纏わず、右腕にのみ力を込め、剣を作り出す。そして、バーテックスの放った砲撃を自身と友奈達に当たりそうなものだけを切り裂いた。爆風が後方に広がるが友奈達は樹海の影に隠れて事なきを得た。

 

(置換されると案外便利なこともあるんだな)

 

 俺は右腕を軽く回すが、制服なのでものすごく動き辛い。俺はすぐに勇者装束を見に纏うと、全身に即座に力が満ちるのを感じた。

 樹は俺の姿を見ると目を丸くさせる。俺はそんな樹に苦笑いを返す。

 

「晴哉、さん?」

 

「あんた、その姿…それよりも友奈と東郷はそのまま奥に向かって走って!」

 

「でも、風先輩と晴哉くんは?」

 

「良いから!早く行く!」

 

「は!はい!」

 

 風先輩も今を好機と見たのか友奈達に避難する様に指示した。最初は戸惑っていた友奈も風先輩の剣幕に押され、東郷を連れて後ろの方へと後退した。

 

「樹も早く一緒に行って」

 

「だめだよ!お姉ちゃんを一人にできない!」

 

 樹は携帯端末を胸に抱えながらも風先輩を真っ直ぐに見据えている。この僅かな間で樹の心持ちにどんな変化があったのかはわからない。でもその目は先程までの迷いと恐怖を払拭し、勇壮なものへと変化していた。

 

「ついていくよ」

 

 その覚悟に一瞬の逡巡を見せるも、風先輩は樹の覚悟を受け取り頷いた。

 

「樹……。よし!私に続いて!」

 

 風先輩の掛け声と共に二人が勇者装束を纏う。

 風先輩は言うなれば 輝き心を照らす者。

 樹は言うなれば人の痛みを知り、理解する者。

 それぞれがモチーフの花を体現している装束だった。

 

「晴哉には友奈と東郷を任せていいかしら」

 

「……俺がいなくても大丈夫ですか」

 

「これでも私大赦から派遣された人間だからある程度知識はあるわ。だから大丈夫よ」

 

 さらっととんでもないことを言ったが俺も似たようなものなので、後で話はしておこう。

 

「わかりました。困ったら呼んでください。事情があって、あまり長い事は戦えませんけど」

 

「ええ、わかったわ。ありがとう。樹行くわよ!」

 

「うん!晴哉先輩も気をつけて!」

 

 それだけ言うと姉妹二人は敵に向かって跳躍した。

 俺は2人の後ろ姿を見届け、友奈と東郷を追いかけた。

 

「友奈、東郷!」

 

 そこまで遠くない位置に二人はいた。

 

「あまり遠くに行ってなくて助かった。さっきの怪我とかなかったか」

 

 見る限りは外傷はなさそうで、ひとまず安心した。

 

「晴哉くんこそさっきの大丈夫だったの?」

 

 友奈は自分の心配よりも俺の身体の心配を優先してくれる。あまりの心優しさに自然と強張った頬は緩まった。

 

「俺はなんてことないよ。色々と慣れてるし」

 

「慣れてるって、あの敵と戦うことに?」

 

 東郷が声を震わせながら涙目で俺に聞いた。その姿は嘗て世界を救った勇者とはかけ離れていた。

 

「一応な。す…東郷はあれが怖いか?」

 

「当たり前よ!…なんでかわからないけど、あれを見ると身体が勝手に震えるの。怖いの……」

 

 東郷はまた俯いてしまった。俺はそんな東郷に須美の時のように声をかけることができなかった。

 俺と東郷の間に流れる重たい空気。それを吹き飛ばずかのように友奈の端末が鳴った。前線で戦闘中の風先輩からだった。

 

「風先輩!?大丈夫なんですか!?」

 

「こっちの心配はいいから、そっちは大丈夫?」

 

「はい、大丈夫です。晴哉くんもいるから」

 

「そう…友奈、東郷、ごめんね大事なこと隠していて」

 

 風先輩の声音からは色々な感情が汲み取れた。その中でも大きいのはきっと自責の念だ。今の秘密を抱えた状態の風先輩に、俺は同情した。

 友奈は目で戦う風先輩を追いながら、なんとか必死に思った事を言葉にする。

 

「風先輩はみんなのことを思って隠していたんですよね。ずっと一人で打ち明けることもできずに。それって、それって勇者部の活動目的通りじゃないですか」

 

 風先輩が電話越しに息を呑んだのがわかった。友奈は続ける。

 

「風先輩は、悪くない!」

 

「友奈……」

 

 風先輩は友奈の言葉を聞いて立ち止まってしまった。きっとそれは今風先輩が1番欲しかった言葉だったかもしれない。

 

「っ!風先輩!防御!!」

 

 風先輩が立ち止まってしまったのをバーテックスは見逃してはいなかった。数十の砲弾が風先輩へと向かい、それを目視した瞬間俺は叫んでいた、

 電話の奥からも樹の叫ぶ声が聞こえた。それで風先輩は自分の攻撃が迫っていることに気がついたのか、防御体制に入るが間に合わない。

 

「しまった!」

 

 敵の砲弾が容赦なく立ち止まってしまった風先輩に襲いかかる。

 風先輩に攻撃が当たってしまったことに気が取られた樹にも敵の砲弾が命中した。戦場では一瞬の油断が命取りになる。突如として絶体絶命のピンチに2人は追い込まれた。

 

「風先輩!樹ちゃん!」

 

 友奈が2人の名を叫ぶ。東郷はその光景に口元を押さえた。即座に俺は自分の身体がどこまで持つかを予想した。

 

(3分、いや2分なら持つ。それ以上は限界がくる。その間に風先輩と樹を回収して立て直さなければ)

 

 自分の身体にこれから走るだろう激痛を予想し、俺は唇を噛む。そして右手に力を込め、神器を宿そうとした俺の意識は友奈の震えた声で引き戻された。

 

「晴哉、くん」

 

「え」

 

「こっちを見てる」

 

 更に東郷の声で俺はバーテックスに視線を戻す。バーテックスは静かに俺達に敵意を集中させていた。

 

「友奈ちゃん、晴哉くん。私を置いて逃げて!」

 

 逃げられないと悟った東郷が叫ぶ。しかし、友奈はその東郷の願いに聞く耳を持たなかった。

 

「…ダメだよ。友達を置いて逃げるなんて、そんなの…」

 

 友奈は自らを叱咤激励するように前を向く。

 

「それに、ここで友達を見捨てるような奴は」

 

「友奈ちゃん……?」

 

 友奈は端末を握りしめて敵に向かって走り出した。

 

「勇者じゃない!!」

 

 バーテックスが一発の砲弾を友奈に向けて発射した。友奈は躊躇う事なく、砲弾目掛けて拳を振りかざす。丸腰で前に飛び出した友奈に砲弾が命中し、周囲を爆風が襲う。だが、それは友奈には届かない。

 友奈は飛来した砲弾を次々と武術を駆使して落としていった。それは通常の人間ではなし得ない超人的な動き。砲弾を一つ一つ落として行くたびに友奈は勇者装束を見に纏った。

 

「嫌なんだ、誰かが傷つくこと、辛い思いをすること!みんなが、そんな思いをするくらいなら!私が頑張る!!」

 

 その姿は正しく人々の希望だった。

 全身に完全に勇者装束を見に纏うと友奈は敵に目掛けて跳躍する。

 そしてその勢いのまま、バーテックスを神樹の力が宿る拳で殴りつけた。その攻撃はバーテックスの身体の一部を削り取ってしまうほどに強力であった。

 

「強い」

 

 俺は予想外の友奈の攻撃の威力に驚きを隠せなかった。

 

(……大赦はこれをわかった上で友奈を?)

 

 だが、戦力はこれで揃った。後は御霊と呼ばれるバーテックスの核を壊し、封印するのみ。

 

「東郷、俺も行くから少し待っててくれ」

 

「友奈ちゃんを、みんなをお願い」

 

 東郷が俺の手を軽く握った。その手はいつか握った妹のものとまるで一緒だった。

 俺はニッ!と力強く笑って返してみせる。

 

「大丈夫。みんなを無事に帰らせるのが俺のお役目だ。それに、もう今度こそ間違えないから」

 

 それは誰に対する誓いか。

 東郷は俺の言葉を聞いて小さく頷いた。

 俺はそれを確認すると自身の限られた時間を使うため、前線で戦う三人の勇者を支援するためにその場から大きく飛んだ。

 

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