花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第5話 ヒトの身に落ちた神

 園子の様子が急変したあの日、俺は結局家に帰ることは叶わず大赦で一夜を過ごした。神官や巫女が慌ただしく駆け回っていたのを俺はただ見ていることしかできなかった。

 一応、風先輩には自分が無事である事を伝えてはある。神官からその場で何があったのかを詰問され、解放されたのは次の日の朝だった。

 ひとまず大赦の人に駅まで送ってもらい、睡魔を堪えて、電車に乗り讃州市まで戻った。時間的にはもう既に学校に行く準備をしているはずだ。

 

「今日はサボるか…流石に疲れた」

 

 部屋に入ると汚れているとはわかっていても、布団に潜り込んでしまい、結局目が覚めたのは授業が終わる頃だった。

 

「鷲尾晴哉入ります」

 

 俺は学校をサボったにも関わらず、部活にだけ顔を出した。

 今はとにかく部活に行って考える事をやめたかったのかもしれない。ここにいる四人と一緒に居れば、楽しさで気分も紛れるんじゃないかと期待があった。

 俺の顔を見るなり、風先輩は呆れた面持ちで俺を見る。

 

「晴哉、あんたはどうして授業サボって部活には来るのよ」

 

「学校サボったのバレてましたか」

 

「晴哉、東郷や友奈と同じクラスでしょ?」

 

 なるほど内通者がいたのならば納得だ。

 風先輩は部室の奥にある黒板で何かを書いて説明していた。友奈、東郷、樹はそれを真剣な様子で聞き入っている。

 

「部活の方が有意義だからとだけ言っておきます。それより、なんですかそれ」

 

 俺は黒板に描かれている白い物体を指し示した。俺の疑問に風先輩は訳がわからない。と言わんばかりに首を傾げた。

 

「何って、バーテックスじゃない。見てわからないの?」

 

「なかなかわからないんじゃないかな、お姉ちゃん」

 

「樹まで!?」

 

 樹は自分の姉の画力を見て、苦笑いを浮かべた。それまで真面目な表情を浮かべていた友奈も樹の反応を見て吹き出す。

 

「そんなに言うなら晴哉が描いてみなさいよ」

 

 風先輩は突如俺に挑戦状を突きつけた。

 

「ふふふ、後で後悔しても遅いですよ?」

 

 俺はその挑発に乗り、ニヤッと風先輩に笑ってみせた。

 とにかく自信があるところだけ見せて虚勢を張り、俺が描く前に風先輩が負けた宣言をしてくれる事を望んだが物事そう都合よくいかない。

 

(世の中上手くいかないな。こうなれば須美直伝の技を披露しよう)

 

 自慢じゃないが俺の画力は須美を良い意味で無意識に振るい上がらせる程のものだ。刮目して欲しい。きっと唸り声をあげて卒倒するだろう。

 

 かれこれ数十分後………。

 

「私、バーテックスの絵を頼んだはずなんだけど……何これ。東郷が目を輝かせてるし」

 

「旧暦の頃、日本が世界に誇った戦艦長門ですが」

 

「確かに途中から『あ、これ絶対違う』とは思ったけど、なんで止めなかったの私…」

 

 小学生の頃、須美に影響されそんな感じの絵ばかり描いていたため、身体に叩き込まれていたらしく、自然と手がこの絵を描いていたのだ。

 つまり本能。結論、俺は悪くない。

 

「晴哉くんって絵が上手いんだね!」

 

「ええ、こんな才能があるなんて…仕込み甲斐がありそうね」

 

 友奈の素直な褒め言葉は嬉しいが東郷の言葉に関しては怖すぎて勝手に体が震えそうになった。今日は真っ先に帰ろう。捕まると怖い。

 気づいたら仮面をつけて四号!とか叫んでそうだ。そんな恥ずいマネしてたまるか……。

 

「ちょっと風先輩にマウントを取ろうとしただけなので悪しからず」

 

「マウントを取りたいならちゃんとバーテックスの絵を描いてからにしてよ全く」

 

 風先輩は黒板消しを手にとり俺が丹精込めて描いた長門を容赦なく跡形もなく消し去った。

 

「おお、ビキニ環礁」

 

「晴哉、そろそろ黙ってて」

 

 話が進まないことに風先輩は若干の苛立ちがあったように見える。俺は大人しく近くにあった椅子を引っ張り出して座った。

 

「さて、じゃあ説明を再開するわ」

 

 それから風先輩によるバーテックス及び勇者講座が始まった。一応俺も聞いておくことにした。バーテックスの弱点、勇者システムに搭載されている精霊、その他諸々の説明を淡々としていく。

 その中に満開の説明は含まれていなかった。ただそういうシステムがあるという話のみだった。

 風先輩の説明がひと段落するとずっと黙って話を聞いていた東郷が口を開いた。その声は心なしか震えているように聞こえた。

 

「風先輩はこんな大事な事をずっと黙っていたんですか」

 

 その言葉に風先輩の表情に影が落ちる。その表情を横目に東郷は車椅子を手で漕ぎ、部室から出て行ってしまった。一体どんな感情が胸の内で燻っているのか。その気持ちを解く前にその姿は見えなくなる。

 友奈もその背中を追うべく真っ先に立ち上がった。

 

「風先輩」

 

「頼んでいいかしら友奈」

 

「任せてください」

 

 それだけ言って友奈は東郷を追いかけていった。気まずい雰囲気が充満した部室には三人が残された。

 

「東郷の言い分も最もよね。実際、私はこの事を隠していたわけだし」

 

「お姉ちゃん…」

 

 樹は心配そうに風先輩を見る。

 

「大丈夫ですよ。東郷はなんだかんだで強いですから」

 

「なんでわかるのよ」

 

「さあ、どうしてでしょうね」

 

 俺の無責任な言い分に風先輩も樹も首を傾げた。

 何たってお兄ちゃんですから。理由なんていらない。

 

「ひとまず帰ってくるの待と?お姉ちゃん」

 

「…そうするしか無さそうね」

 

「そうと決まれば……」

 

 俺はカバンをゴソゴソ漁って一つの箱を取り出した。

 

「何その一見見間違えられて下手すれば通報されそうな箱は」

 

「シガレットチョコですけど。一本いります?樹もどう?」

 

 風先輩は俺が差し出した一本を恐る恐る手に取って口に咥えた。樹もそれに倣って一本箱から手に取った。

 

「なんでシガレットチョコなのよ」

 

「背伸びしたいお年頃なんすわ」

 

「何、その恥ずかしい理由」

 

「でも、美味しいです。ありがとうございます晴哉さん」

 

 結局、風先輩もごちゃごちゃ言いつつ結局二本目を持っていった。

 美味しかったんですかね。食に貪欲な人は嫌いでは無いですよ。

 

「私、晴哉がライターを取り出して無理やり火をつけないか心配だったわ」

 

「なんでわざわざチョコを溶かすようなことしなくちゃいけないんですか」

 

「あんたならやりかねんのよ」

 

 さっきまでのシリアスな空気は浜風に乗せられるままにどこかへ行ってしまい、友奈と東郷が戻ってくるまでギャーギャーと風先輩と騒いでいた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 戻ってきた東郷は全て納得いったわけでは無さそうだが、先程より少々吹っ切れたようだった。

 俺が友奈にシガレットチョコを差し出して餌付けしたら、それに対抗するようにぼた餅が何処からか現れたので、風先輩や樹もいつも通りと安心したようだった。ちなみに東郷のぼた餅の方が友奈には好評だった。

 

(負けたぞ…シガレットチョコ。出直してこい)

 

 残りの一本は風先輩が知らぬ間に口に咥えていた。口に咥えていたチョコを食べきると風先輩は東郷に対して頭を下げた。

 

「改めて謝る。ごめん。ちゃんと話すべきだった」

 

「頭を上げてください風先輩。確かに最初は驚きましたけど、今はもう自分の中で納得がいったので大丈夫です。ご心配おかけしました」

 

「東郷……」

 

 これが友情か、眩しい!!とまではならなかったがこれでひとまず勇者に関しては落ち着いたことだろう。

 風先輩も吹っ切れたのか、いつもの調子に戻る。

 

「さて、ひとまず落ち着いたところで依頼を!と思ったけどこれから依頼をこなすのもちょっと無理があるわよね」

 

 陽はいい感じに傾いてしまっている。何個か依頼は溜まっているようだが残り数分でやれるものの方が少ない。

 東郷がパソコンを起動させ、依頼を確認した。

 

「確か、バドミントン部が練習を手伝って欲しいと言う依頼があったはずです。それなら今からでも十分間に合いますし、あちらからもいつでもいいと言われているのでちょうどいいかと」

 

 俺はパソコンの画面を覗き込んだ。そこには依頼主からの要望で一人で構わないと書いてあった。家に帰ってなるべく考え事をしたくない俺はこの依頼に立候補した。と言っても結局考える事になるのだが。

 

「風先輩、この依頼俺に行かせてください」

 

「急にやる気になるわね。別に構わないけど」

 

 この後俺はバドミントン部の顧問に授業をサボって部活に来た事を怒られ、適当な理由をつけて言いくるめ練習を手伝ったのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 助っ人が済み、校門から出ると一人の巫女が車道を挟んだところにこちらを向いて立っていた。俺は近くの歩道橋を渡りその巫女に歩み寄った。

 

「流石に不気味ですよ。その格好で学校前にいるの」

 

「これは私たち巫女の制服ですので」

 

「左様ですか」

 

 俺は巫女に近くの駐車場に止めてある車に案内された。車内に入り、そこで巫女から一枚のメモリーカードを渡される。

 

「私ができるのはここまでです」

 

「危険を冒してまで入手してくれた事には感謝します」

 

 俺は絶対に落とさないようメモリーカードをカバンにしまった。再度お礼を言って車内から出る。

 

「見るのは自由ですが、その心を強く持つように。……貴方なら問題は無いでしょうが」

 

 そう巫女が言い残すと同時に車はすぐに発進し、この場から去っていった。俺はその姿が見えなくなるまでその黒塗りの高級車を見送った。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 俺は家に帰ると楽な格好に着替え、メモリーカードを自分のパソコンに差し込んだ。

 画面上に様々なデータが表示されるなか、俺は一つのファイルをクリックした。それは大赦が管理している個人情報の一部だ。大量にある情報の中から自身の名前を探す。

 

「鷲尾…鷲尾、っとこれか」

 

 俺は自分の名前を探し出し、ファイルを開いた。その中身を目で一文字も見逃さないように読み込んで行く。

 

【鷲尾晴哉 生年月日 推定神世紀285年3月 正確には不明 出自不明 所属鷲尾家 勇者適正値:測定不可   

推定3歳の頃、路上で倒れているのを発見。保護。保護者が名乗りでず鷲尾家が保護に名乗りを上げたため鷲尾家所属とする。名前、生年月日、全て不明のため以後、名を鷲尾晴哉とする】

 

 全て読み終え、俺は頭を抱えたくなった。と言うか実際に抱えた。

 自分で見ると決めたとは言え、ここまで自分が未知の存在だと言うことを想像していなかった。もしかしたら、この事実すら自らの手で無意識のうちに開けてはならないパンドラの箱として封印したのかもしれない。

 生年月日が推定とか絶対普通に考えればありえない。昨日園子に言われた事をふと思い出した。

 

「俺のこと時量師神(ときはかしのかみ)って言ってたけど、なんだその時量師神って」

 

 ネットに接続して、少し調べてみるがそのような神は存在していなかった。いや、存在はしているのだろうが神樹一神教の今のこの国では検閲され、無かったことにされているのかもしれない。

 結局それを知ったところで相変わらず何もかも八方塞がりであることには変わりがない。

 

「俺は結局、不知火幸斗に置換されたってわけじゃないのか?」

 

 不知火幸斗と時量師神がイコールと言うことなのだろうか。少し考えて一つの疑問の壁に追突した。

 

「不知火幸斗は本当に神になったのか?」

 

 神樹に取り込まれたと言う話は聞いた。だが、俺は勝手にそれを踏まえて不知火幸斗は神になったと勘違いしたのではないか。

 不知火幸斗はただ神樹に取り込まれ、精霊、もしくは英霊になっただけではないのか。冷静に考えたらわかる話だったはずだ。()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 だとしたら話は変わってくる。俺の身体は置換されて神に近づいたわけではない。

 首筋のあたりに嫌な汗が出ているのを感じた。呼吸が浅くなる。

 それでも頭は結論を導き出そうとして、もうここまで来たら引き下がることを許してくれなかった。

 俺はただ不知火幸斗と言う過去の"人間"から力を引き継いでいたに過ぎない。所詮、ならば俺の身体は人間であるはず。だが、俺は"神器"が使えた。

 "神器"の使用は人では不可能。逆説的に"神器"は神のみ使用可能。

 俺は勢いに任せてパソコンを閉じた。

 汗が止まらない。呼吸も浅いままで元に戻ろうとしない。

 

「これが事実なら、俺、どうなるんだよ。どうすれば良いんだよ……」

 

 俺はその場で何もできずに蹲ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神世紀288年、この年のある日、神樹の力が突如として弱まったと言う。四国を囲む壁に影響は及ぼされなかったが、それでも当時の神官、巫女は"天"災が来るのではないかと恐れた。

 しかし心配も杞憂だった。何も起きなかったのだ。その代わりその後日、神樹は神託を巫女に告げた。

 

『神樹を成す一つの神が離反した』と。

 

 ここまで神樹が詳細に述べたわけではないが大赦は巫女が見た光景を推測し、そう結論づけた。

 それでも何も影響の出なかった大赦はこの案件を取るに足らぬものとして扱うことをやめた。

 

 その日は雨だった。

 土砂降りの中、傘もささず、おぼつかない足取りで歩くモノがいた。

 それはヒトの身を型取っていた。

 それは雨の中何もできずその場に崩れ落ちる。僅かに動く指で必死に『そこ』に辿り着こうと地面を掴む。だが、未完成のカラダはそこに至る前に力尽きた。

 それからそのヒトは一人の人間に発見されるまで、その場に蹲り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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