昔々。とある神様がいました。その神様は時をつかさどっていました。
その神様はあらゆる人物の過去を、現在を、未来を見通すことができました。そして、その神様は自身の裁量次第で本来起きるはずのことを捻じ曲げてしまう事ができてしまうのです。
しかし、その神様はどうして自分がそんな力を持っているのかを理解することができませんでした。
ある日、神様は天と地に分かれて戦争を始めました。
当初、その神様はどちらの陣営にもつけませんでした。
いえ、つかなかったのです。
その神様はただ時をつかさどるだけの存在でした。その神様は自身がどちらかについたとして、自分が何をしていいのかわかりませんでした。何より、他の神様たちに興味などなかったのです。
だって、自分は流れる時さえ見ていればいいのだから。
ですがある日、その神様は見てしまいました。
天の神により蹂躙される人々を。本来様々な時を紡いでいくはずの人々を天の神は一方的に殺し尽くしたのです。
確かに天の神の言い分は間違っていませんでした。人の身に余る数々の行動。時の神もそれは薄々感じている所でした。それでも、その神様にとっての楽しみは人がどのような時を紡いでいくのかを見守ることでした。例え人々が間違えても、それを見守るのが自身の役目だと長い時をかけて導き出した結論でした。
時の神様は怒りました。
それでもやはり天の神にも地の神にもつくことはしませんでした。
しかし、神は気まぐれ。まさにその通りです。
その神様はある日、眼前で行われる戦いの軌跡を覗いていた時、見てしまったのです。勇者と呼ばれる地の神に選ばれた少女が天の神が差し向けた尖兵、バーテックスに敗北する姿を。
目の前で、未来ある二人の命が失われたのです。その光景に時の神様は妙に胸が締め付けられました。これまで、数々の人の死を時の神様は見守ると言う名目のために無視してきました。それが、このたった2人の死によって覆ってしまったのです。
時の神様は地の神につくことを決めました。
ですが、天の神はそれに怒りました。
時の神様が持ち得る力は本人が思う以上に強力なものだったのです。
そんな事もいざ知らずその神様は地の神につきました。更に戦争に介入する事も厭わず、名も無き者と戦いました。そして、天の神と人との間に停戦が決まると、時の神様は身を引き、静かにその土地に残った人々の未来を覗き続けたのです。
それからどれだけの時が経ったでしょうか。1人の少女が産声を上げました。時の神様は気まぐれで一人の少女の未来を覗き込んだのです。
時の神様は彼女に訪れる未来を見て、遥か昔に見た光景を思い出しました。時の神様はこの時まで、神樹と呼ばれる地の神の集合体には特に思い入れもありませんでした。ただの協力関係でした。
しかし、地の神々の人を大切に扱わぬ姿勢を知ると嫌悪感を抱き、敵意すら持ち始めました。更に、その少女を死地に送り出していった人々にも嫌悪感を抱いたのです。
時の神様が嫌悪感という感情を抱いたのは初めてでした。時の神様は怒りのままに地の神から離反したのです。
他の神たちはそれを止めませんでした。
何故なら地の神から見ても、この神様は必要なんてなかったのです。
地の神は人類が生き残るただ一つの道さえ有ればそれでよかったのです。1人の少女の死など必要な犠牲にすぎないのです。それに、気まぐれであらゆる時の流れを生み出してしまうこの神様は寧ろ邪魔だったのでした。
地の神と離反した後は、しばらく彷徨いました。
そして時の神様は願いました。自分が神であるにも関わらず願ったのです。
せめて、あの悲しい結末を迎えてしまう少女だけは助けさせてください。と。
時の神様は願い続けました。すると驚くべき事にヒトの形を得たのです。否。数百年前の戦争で協力関係にあった者の身体を借り受けたのです。しかし、ヒトの形を得た代わりに全てのことを失いました。
全てを失った神様にも、その少女を守らなければと言う使命感に似た何かだけは残っていました。
地の神につき、地に落とされたその神様はヒトとなり歩き続けました。
歩いて、歩いて、歩いて、歩いて……。
ヒトは倒れ込んでしまいました。
もうこの頃には自分が神であったと言う事実さえ忘れてしまいました。そして姿も身体の機能も全てヒトになりました。ヒトは脆いものです。
倒れ込んだ場所から動くことができず、そのまま意識を失いました。
気づけばある家に居ました。
名前を聞かれます。しかし、名前なんてありません。
そこで、その家の主人はこの名の無い小さな人に名前をつけたのです。
『わしおはるや』と。