「もう俺の名前出てんじゃん」
俺は苦笑いを浮かべながら園子の話を聞き終えた。
「園子は本当にどこまで知ってるんだよ」
「うーん、そうだね。全部かな」
「流石に引くぞ。それよりその御伽噺とやらは誰から聞いたんだ?」
「多分ハルスケも知ってる人だよ。それに神樹様から神託を受けてハルスケを見つけ出したのもその人」
その一言で大体予想がついてしまった。2年前その人の胸ぐらを掴んでしまったのを思い出して勝手に後悔の念に襲われる。
「今、あんな話をしたけど私はハルスケはハルスケだと思ってるから。私の大切な友達」
「…ありがとう。嬉しいよ」
俺は案外すんなりとこの事実を受け入れていた。そんな自分に驚きを感じている。
「それより、あれから大丈夫?変わった事とか」
園子が何かに取り憑かれたような、奇妙な状態になってから会うのは初めてだ。それに今日の目的は園子のお見舞いでもあるのだから。
「うん。大丈夫。心配かけたよね」
「友達があんな風になって心配しないやつはいないと思うぞ」
「記憶はないけどね。私も目が覚めたら大赦の人達に囲まれててビックリしたんだから〜」
それは何とも可哀想だ。俺なら多分、その場で暴れ散らかしているだろう。
それから一言二言交わすと時間もいい感じになってしまい、俺は園子に別れを告げて自宅へと戻ることにした。
「……」
真っ暗になってしまった道をのんびり歩いて自宅に戻ると、何故か部屋の電気がついており、おまけに閉めたはずの玄関の鍵が開いていた。
(え、なにこれ。普通に考えてめちゃくちゃ怖いんだけど)
自分の正体を知った時よりも何故か心臓の鼓動が早かった。
俺は勇者システムを起動させ、銃を作り出して自分を落ち着かせると、思いっきり扉を蹴飛ばして部屋内に転がり込んだ。
「動くな!その場で手を挙げ…ろ?」
刑事ドラマの真似事をしながら突入するとそこには何故か勇者部の面々がいた。
というか銃口を突きつけられてるのに叫びもしないとかメンタリティどうなってるのだろうか。
「あ、晴哉お帰り〜」
「お邪魔してます晴哉さん」
「急に入ってくるからびっくりしたよー。あ、お邪魔してます!」
「お邪魔してるわ、晴哉くん。いい銃ね」
さも当然かのように四人は俺の部屋に鎮座していた。友奈に関しては絶対驚いたりして無い気がする。
「あの、何をしていらっしゃるのでしょうか」
「なにって晴哉がバーテックスが来るたびにいなくなるから家で待ち伏せしようって話になったのよ」
「鍵閉じてたと思うんだが」
「凄いんだよ晴哉くん!東郷さんがね、針金を使って玄関の鍵開けちゃったんだよ!」
そんな恐ろしい事を無邪気に言わないでほしかった。
「……東郷?」
「ふふふ、私にかかればこのくらい造作も無いわ」
頼むから造作もあってくれ。そんな犯罪テクニックを習得して欲しくなかった。どこでそんなピッキングなんて覚えるんだよ。
ふと、俺は思った。
「なあ、東郷。それ頻繁にやってないよな」
俺は東郷の耳元で誰にも聞こえない声量で聞いた。
「ええ、今はやってないわ。精霊に開けてもらう方が楽だもの」
色々突っ込みどころが多すぎて、俺はその現実から目を背けた。
多分被害を受けてる張本人は何もしらないに違いない。知らなければいい事もこの世にはあるので黙っておこうと思う。気を取り直して主犯と思われる風先輩に問いただす。
「学校終わってからずっと待ってた感じですか?」
「依頼を少しこなしたついでよ」
「左様ですか」
依頼をこなしたついでに勝手に部屋に侵入されるようではセキュリティを強化せざるを得ない。
そんなことを考えながら1人唸っていると、気づけば友奈がその場からいなくなっていた。
「あれ?」
部屋内を見回すと友奈は台所におり、冷蔵庫を開け放っている。そして人の冷蔵庫の中身を罵倒したのだった。
「風先輩!冷蔵庫に何も入ってません!」
「いや、ちゃんと見ろ。冷凍うどんあるだろ」
俺は友奈に近づいてそんなことはないと確かめるために冷蔵庫を覗く。
「…ない。何故だ。…風先輩?」
「なんで私を疑うのよ!流石に私も他人様のうどん食べる訳ないでしょ」
少し風先輩を疑いすぎたようだ。風先輩がうどんを前に狂わない良識人である事に安心しつつ改めて皆に問いかける。
「じゃあ、誰が」
「自分で食べたとかじゃなくて?」
友奈に言われ最近の食生活を振り返る。
今思い出せば実際何一つと食べていなかった。精々学校に行く前コンビニで買った昼食くらいだろうか。
「晴哉のことだからぼーっとしてるうちに食べちゃったんでしょって、うわあああー!?」
「どうしたんですか風先輩!ってきゃあああー!?」
突如叫び出した風先輩を心配して振り返った友奈も同時に叫び声を上げた。
Gでもでたのでしょうか。部屋は綺麗にしてるはずなんだけど。
風先輩のいるあたりの床を眺めて見ても、黒い悪魔はそこにはいない。
「ふ、ふ、ふ不法侵入者!」
一体何が見えてるのかと尋ねようとした時、風先輩がベランダを指差しながら叫んだ。
最初は自分たちのやった事を思い出して、罪の意識に苛まされて叫び出したのかと思ったが、指がさしている方を見ると人影があった。
その人影はあまりにも見慣れすぎて逆に怖い。
俺は近づいて窓を開ける。
「……おい」
「お、お取り込み中だったみたいで、失礼します!」
「ちょ、待て!」
俺は無理やり腕を掴むとその人影を室内に連れ込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はい、お茶よ」
東郷が笑顔で沸かしたお茶を銀に差し出した。
「ありがとうございます」
銀はなんの躊躇いもなしに熱いお茶を飲み干した。
イメージカラーが赤いから熱にも耐性があったりするのだろうか。それとも身体をあっためると体が強化されるとかそういう類なのか。
そんなことは置いておこう。
「で、ベランダから侵入してくるとか意味わからんぞ。銀」
「いやー、ハルヤを驚かせようと思って。ビッグサプライズ的な?閉まってる可能性を捨てていたけど」
東郷と俺を除く三人はその奇怪な登場をした銀に警戒して二歩ほど離れた位置に突っ立っていた。
「ビッグサプライズをするのはいいけど連絡くらいしてくれ」
「したよ。メッセージ送ったじゃん」
俺は銀に言われ端末を確認する。確かに送られてきてはいた。いたのだが。
「侵入一分前に送る馬鹿がどこにいるんだ」
「えへへ」
笑えば許されると思っておるのだろうか此奴は。
「あのー、私たちを置いて話を進められると困るんだけど」
すっかり放置していた三人のうち風先輩が痺れを切らしてしまった。
そういえば三人とも初対面だし、もう一人も実質初対面なのを思い出した。それにしても東郷、よくこんな不審者に堂々お茶出せたな。あと、台所使うなら言ってくれよ。
「というわけで自己紹介をどうぞ」
俺は銀に向かって手のひらをスッと向けた。銀はそれを合図に名乗りを上げる。
「三ノ輪銀です!2年前、隣にいるハルヤと大橋の方で勇者やってました。今は別のお役目についていて、それが終わったのでこうして来た所存です。よろしく!」
銀はグッと親指を立ててサムズアップ。その後もまだ沈黙が続いてしまったので俺が場を繋ぐ。
「以上です。ご質問がある方は挙手をお願いいたします」
「なんで司会風なのよ、それよりとんでもない事が聞こえた気がするんだけど」
「晴哉さん、勇者だったんですか!?」
樹は「初耳です!」と驚いていた。
そう言えば一度も中学に入ってからは言ったことはなかった気がする。あまり口外する事でもないかと思っていたというのもある。
「通りで戦いの時の動きも慣れていたのね」
感心する東郷を見ていると銀が俺の耳元でヒソヒソと耳打ちした。
「ハルヤ、話してなかったのか?」
「…話す必要もないと思って」
「腕のことも?」
「風先輩には事故ってことにしてある」
腕?と風先輩と銀を除いた三人は首を傾げた。
「そう言えば晴哉くん。いつも左手に手袋してるよね」
これもしかして銀が余計なこと言わなかったら説明せずに済んだのではないか。
俺はため息をつき、紆余曲折を物凄く省いた説明をする。
「一応、前回の勇者の頃に戦闘で腕一本吹っ飛ばされました。付けてる義手が気味悪がられるかなと思って手袋をつけておりました。はい。あまり公にすることではないと思って伝えてませんでした。以上」
「なんでさっきからちょくちょく敬語なのよ」
まだ何か言いたげな顔を風先輩はしていたが、俺はこの話題を無理やり終わらせることになんとか成功した。勇者部の面々はこれ以上掘り下げることでもないと思ったのかそれ以上は何も聞かなかった。
聞いて気持ちがいい話でもないので即刻終わらせれて一安心。
それから1時間ほど友奈の提案で銀との交流会が突如として始まった。
「晴哉くんと銀ちゃんって同じ小学校だったの!?」
「そうだよ。いやー、当時のハルヤは大変だったんすよ」
過去を噛み締めるようにしみじみと銀は言う。
「お前は俺の何を知ってると言うんだ」
「全部」
「流石に引くぞ」
園子と言い、銀と言い。俺は全てを理解されるほどわかりやすい性格をしているのだろうか。
自分の心のあり方に一抹の不安を抱いている間、皆は楽しげに時間は過ごしていた。俺の家に不法侵入からのこれだ。少し勘弁いただきたいところもあり、俺は秘技。時間指摘を発動。ただ、盛り上がりを見せているところに水を差すような真似をして心苦しくもあった。
「そういや友奈達もうそろそろ帰らなくていいのか?」
友奈たちが時間を見ると普通なら帰宅してる時間をとっくに越していたらしく、何とも間の抜けた顔を見せてくれる。
「あまり長居するのも悪いし帰りましょうか」
東郷が友奈達に提案するとみんな同意して、また明日ねと言って続々と部屋から出て行った。玄関まで見送り、ようやく一息つけた。
この小一時間程度やけに騒がしかった気がする。
ついでに友奈と銀はやけに意気投合していた。
「で、銀さんや。そちはどないするん?」
未だに部屋に残り続ける銀。俺としては久々の再会を喜びたいところだ。
「なんだよその喋り方。アタシも帰るよ?」
「また大橋の方まで戻るのか?」
「なわけないじゃん」
「じゃあどこに…」
銀は隣の部屋を指す。大体ベランダから侵入してきたのも含めて察しはしていた。多分、この人隣から来ただろうなあ。と。
何気なしに会話を進めてはいるが、俺の中でふと一つ思い当たることが出てきた。
「なあ、ここに来たのいつだ?」
「今日の昼頃だけど」
そう言って銀はクルクルと人差し指で器用に鍵を回す。最初は何も違和感はなかった。次第に目で追えるようになってくると、俺の脳内コンピュータは機能を停止した。
「その手に持ってる鍵、どうして二つなんだよ」
俺は銀が手に持っている部屋の鍵が何故か二つ持っていることを指摘する。
「アタシは感のいいガキは嫌いだよ。こっちはアタシの部屋、こっちはハルヤの部屋の鍵」
さも当然かのように何食わぬ顔して言う三ノ輪さん。
「………お前かー!俺のうどん食ったのは!」
俺は銀に掴みかかった。肩を掴んでぐわんぐわんと揺らしまくった。
「やめ、やめてくれ!というか怒るのそこ!?」
俺の怒りを向ける場所がおかしかったのか、混乱していて無抵抗の銀の身体をしばらく揺らし続けたのだった。
そのあと俺と銀は二人で近くのスーパーに行き、無くなってしまったうどんを調達した。というか銀に関しては無理やり付き合わせた。
部屋に戻り、銀が何も食べるものがないというので夕飯のうどんを二人分作るハメになった。
「なんで人の部屋に侵入してうどん掻っ攫ってくんだよ」
「部屋の隣がハルヤだってことも知ってたし別にいいかなって」
「よくないんだよなぁ…」
茹で上がったうどんをざるに移し水を切ってお椀に入れる。
あとはつゆを入れれば完成だ。
「食べたら戻ってくれよ。あとベランダから二度と侵入を試みようとしないでくれ」
「あ、もうそれはしないから大丈夫。いただきます」
なんとなく話題を出して会話をするが自然と会話はお役目のことに移る。何だかもう少し楽しい話をすれば良いのにとは思うが、真っ先に互いに口から出たのがこれなのだから、だいぶ毒されている。
「もう大赦から解放されたってことは選抜終わったのか?」
「そうそう。アタシは先にこっちに来たけど、勇者になった子は明日か明後日にくるって。あ、誰になったかはお楽しみに」
変なところで焦らすのね。
「それはおいおい分かるとして、銀は学校どうするんだ?こっちに来たってことは讃州中学に編入するのか?」
「そうそう。大赦にお願いしたらすんなり通った。意外だった」
明日は学校休みだし、銀が登校するまでにあと2日ほどある。
せっかく讃州中学に来たんだ。個人的な願いとして一緒に部活をやってみたかったりする。
「銀、部活に興味ないか?」
「ある!めっちゃある!」
物凄い食いつき方だった。大赦の施設では勉強はできても部活というものはやはり無いらしい。
「じゃあ明日、朝の8時にここ集合な」
「?」
銀なら多分勇者部の活動を気に入ってくれるだろう。
それに銀と部活をできるということが俺にはとてつもなく嬉しかった。
「昨日に引き続き、入部希望の三ノ輪銀です!よろしく!」
今日は海岸沿いのゴミ拾いということで銀にもできるだろうと思い、風先輩に提案したところ快諾してくれた。
というか既に入部希望だったのね。
「というわけで三ノ輪が今日参加するから、みんなもよろしく」
「よろしくね!銀ちゃん!」
友奈は相変わらず距離が近かった。東郷も車椅子を押して銀に近寄る。
「よろしくね、えっと…ぎ、銀?」
その瞬間、風先輩と樹、友奈に衝撃が走る。
「あ、あの東郷が呼び捨て?」
「あの東郷さんが!?」
「東郷先輩が!?」
「みんな私にどんなイメージを持っていたのかしら…自分でもよくわからないけれど私の中でそれが一番しっくりきたというか」
銀には東郷がおそらく須美だとは伝えていない。銀のことだ、気づいているが口には出していないだけかもしれない。
それでも俺は一縷の望みを見出していた。もしかしてこのままいけば東郷は鷲尾須美時代の記憶も取り戻してくれるのではないかと。
銀は東郷の手を握った。銀の突然の行動に東郷は混乱した。
「え?」
「よろしくな、東郷!」
銀は笑顔で東郷を真っ直ぐ見据えた。それはどこか記憶に訴えかけているように見えた。
銀は理解していた。今は鷲尾須美ではなく、東郷三森だと。
それでも、もしかしたらという可能性を銀も持っていたのかもしれない。
「よーし!それじゃあ改めての自己紹介が終わったところでそろそろ作業始めますか!」
そんな不思議な空気も風先輩の一声で掻き消え、各々それぞれ道具を持って担当位置で作業を開始した。
俺は銀と。友奈は樹と。風先輩は人数の都合上一人という組み合わせとなった。足の不自由な東郷はネットでの広報活動に力を入れている。
「ハルヤ、アタシ腰痛い」
「もう少し粘り強くあってくれよ」
「初心者にはキツイよこれ」
「ボランティアに初心者もなにもあるわけないだろ」
「お、ゴミ発見」
「俺の腕を掴むな、掃除中の小学生か」
なんだかんだと文句らしきものを言いながらも銀は手を動かし続けた。
途中集中力が切れるかなーっと思っていたがそんなこともなく銀は半日ただひたすらに海岸沿いの清掃に集中していた。
気がつけば時刻はちょうど正午になった。
「今日はここまでね。みんなお疲れ様。どうだった三ノ輪。明後日から正式に讃州中学生になるんでしょ?一緒にやってみない?」
風先輩の提案に銀は笑顔で快諾した。
「是非やらせてください!」
「じゃあ今日は新入部員歓迎会で風先輩の奢りですね!」
「ちょっと友奈、勝手に決めないで!?」
友奈と銀は二人で手を合わせてぴょんぴょんとその場で飛び跳ねていた。樹と俺の隣にいた東郷は謎のオーラを放っていた。
「…東郷先輩。怖いですよ。その、オーラが」
「あら、そんなことないわよ?樹ちゃん」
「どうだか」
銀と友奈は「うどん!うどん!」とまだその場で踊り続けていた。ついに風先輩も折れたのかカバンから財布を勢いよく取り出した。
「あー!もうわかったわよ!さあ、みんな亀屋に行くわよ。今日は私の奢りだー!!」
半ば風先輩はやけくそ気味に叫ぶ。でも顔は別に怒っていなかった。というか寧ろ笑顔だった。
銀と友奈は先行して亀屋に向かう。風先輩はそれを静止させようと追いかけていった。
「晴哉さんも東郷先輩も行きましょう」
「了解」
「そうね。行きましょうか」
俺は東郷の車椅子を友奈の代わりに押す。
「友奈じゃなくて不服かと思ったがそうでも無さそうだな」
「今日、友奈ちゃんは銀一筋みたいだから仕方ないわ」
「この部活に体育会系のやついなかったからようやく馬が合う人が来て嬉しいんだろ」
「けれど、明日には後ろが友奈ちゃんになってるはずよ」
「その所々に滲む恐怖発言どうにかしてくれ」
その後亀屋を出るまでは俺が東郷の車椅子を押し続けた。けれどその距離感は、かつて隣を歩いてくれた義妹ではないとハッキリと俺に示しているようでどことなく心は寂しかった。
次の日の日曜日、バーテックスが襲来した。
それぞれ決められた場所に勇者装束を着て集合する。
「みんないるわね。あれ?三ノ輪は?」
「銀は元勇者なのでこの場には来れないです。諸々の話は後で」
「そういう事なら了解よ」
それぞれ配置につく。
東郷と俺は基本後方支援なので友奈たち三人よりは少し後方で待機する。奥からその異形が姿を現した。
「あれが五体目」
東郷がシロガネのスコープ越しに敵を認識した。
「よーし!勇者部ファイトー!!」
「「おー!!」」
前衛の三人が風先輩の掛け声と同時に拳を高く突き上げ、士気が上がり、バーテックスに攻撃を仕掛けようとした。
が、その時。
三本の剣がバーテックスに降り注ぐ。そして、それは命中すると光を放ち、爆発した。
「え?東郷さん?」
友奈たちはそれが剣だと視認できなかったのか東郷の攻撃と勘違いしたようだった。
「違う。私じゃない」
攻撃が放たれた方を見る。
バーテックスの後方から赤い流星が落ちてきた。
その流星は素早い動きでものの数秒で敵を封印してしまい、こちら側が何もする事なくバーテックスの御霊すら一人で破壊した。
御霊を破壊した後、その人は友奈たちの前に着地した。
「えっと、誰?」
「揃いも揃ってボーッとした表情してんのね。これが神樹様に選ばれた勇者ですって?」
「あの…」
散々なものの言いように、友奈は苦笑いすることしかできていなかった。そこに俺と東郷は前衛三人に合流する。
改めてしっかりとその人物の顔を見ると何処か見覚えがあった。
「何よちんちくりん」
「ちん!?」
なんというか、言葉の一つ一つがハリネズミみたいに尖っていた。
彼女は皆を見渡すと鼻で笑い、空いた右手で髪を払う。
「私は三好夏凛。大赦から派遣された正真正銘正式な勇者。つまり貴方たちは用済み。はいお疲れ様でした」
「「「「ええ!?」」」」
俺を除く四人は唐突の解雇通知に驚きを隠せないでいた。俺はそれよりも名前が頭の片隅で引っかかってならなかった。
みよしかりん。三好かりん。三好夏凛……。見覚えどころの話ではないではないか。
「ん?」
あちら側もこちらに気づく。
「……やあ?」
「ふざけてるの?」
全然2年前と印象が違っていた。あの時はまだ尖ってはいたがここまでではなかった。
「なに、晴哉。知ってるの?」
「えぇ、まあ一応。木刀で殴り合った仲です」
表現に問題はあるが間違いではない筈だ。
「殴り合ったってあんたが一方的にやったんじゃない」
「え?」
友奈が俺を「マジか」と言う目で見つめる。友奈さん、そんな目を人に向けられるんですね。
「おい、待て。その言い方には悪意がある」
「ま、あんたも用済みよ。負傷兵は大人しく後ろで待機してなさい」
夏凛は俺の腕を見て鼻で笑う。少しばかりイラッときた俺はユーモアのある皮肉を夏凛にぶん投げる。
「用済みならとりあえずリサイクルしてくれれば新しくなって戻ってくるぞ。期待の新戦力」
夏凛の額がぴくっと動いた。
「初対面の時から思ってたけど、あんた頭おかしいでしょ」
「頭と口がよく回ると言ってくれ」
他の四人を置き去りにして二人で言い争っていると気づけば樹海化は解けていった。