花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第8話 足枷

 

 カッ、カッと担任教師によって黒板に文字が描かれる音が教室に響く。二人の名前を書き終わると担任教師はチョークから手を離した。

 

「いいですか?皆さん。今日からこのクラスに転入してきた三好夏凛さんと三ノ輪銀さんです」

 

 …予想はしていたけど二人とも同じクラスになる必要なかったと思うんだが。

 銀は終始笑顔であるのに対し、夏凛は無表情で前に立っている。どう言う組み合わせなんだよ。と突っ込まずにはいられない。

 

「それでは二人からそれぞれ挨拶を」

 

 担任教師に促され、まずは銀からクラスメイトに挨拶をする。

 

「初めまして!三ノ輪銀です。慣れない事もあると思うけど頑張ります!」

 

 銀らしい快活な挨拶だった。クラスメイトもそんな銀の明るさに触れ、初対面ながら大きな拍手をした。

 

「それでは次は三好さんどうぞ」

 

「三好夏凛です。よろしくお願いします」

 

 こちらも今の夏凛らしい挨拶だったように思える。少々こちらに距離を取るような、そんな感じだ。銀の時ほどではないがそれでも歓迎する拍手がクラス中に広がる。

 こう言うところは讃州中学のいいところだと俺は思う。友奈と東郷の方をチラッと見ると友奈は二人を、失礼な言い方だが間抜けな顔で見ていた。東郷は「なるほど、そう言う事」と口を動かした。

 前にいる二人が用意された座席に座り、担任教師の話が追加のお知らせをした後は休み時間となった。

 転校生自体珍しいのかクラスメイト達はこぞって銀と夏凛の元に集まった。とは言っても集まるのは基本女子生徒で思春期で苦悩中の男子生徒陣はそれを遠巻きに見ているだけと言う奇妙な構図ができ上がっているわけで、俺も例に漏れずその光景を席から遠目に見ていた。

 

「なあ、鷲尾」

 

「どしたよ」

 

 普段なら滅多に話しかけてこないクラスメイトがぞろぞろと俺の元に集まり始めた。

 

「鷲尾って女子と仲良くなると得意だろ?」

 

「どうしてそうなる」

 

「だっていつも結城と東郷と一緒にいるじゃないか」

 

 確かにそう捉えられますよね。俺、男子に友達いないですもんね。地元にはいるんだけどなあ。と1人言い訳を並べてみたりする。ついでに言っておくと菅野と西浦とは先日休みの日に遊んだ。あの二人が今のところ親友と呼べる立ち位置にいる唯一の存在ではなかろうか。勇者部の面々、園子は言うまでもない。

 

「…とりあえず理由を聞こう」

 

 俺がそう言うと一人の男子生徒が俺に耳打ちした。

 

「三ノ輪さんについての情報が欲しい」

 

 こいつらもう落とされたのか。さっき顔合わせしたばっかだろ。

 

「本人に聞いた方が早いだろ」

 

「くっ!正論だ。正論ではある。だが俺らにそれができると思うのか!?」

 

「いや、やれよ。やってくれよ」

 

 案外このクラスにいる男子は思ってる以上に面白い奴らの集合体かもしれない。最初の聞き方は多少悪意があるように感じるが他はそこまでだ。

 

「…わかったよ。何が知りたいんだ?」

 

「連絡先」

 

「自分で貰ってこい。というかなんで俺がもう持ってる前提なんだよ」

 

 もう持ってるんですけどね。ははは。

 

「じゃあスリーサイズ」

 

 やっぱりこのクラスの奴らは馬鹿なのかもしれない。ぶっ飛んでやがる。

 

「自分で聞いてこい」

 

「えぇ、知らないのかよ」

 

「俺を犯罪者に仕立て上げるつもりならやめてくれ…」

 

 何故かこの輪にドッと笑いが起きる。何が面白いのかはわからないけど。そこから突然誰が言い出したのか謎の会議が始まった。どうしたらお近づきになれるかということらしい。

 

(え、なに、この人たちこんなキャラだったの?)

 

 それとも銀があまりにも魅力的だったとか?というより皆さん、三好夏凛さんを忘れ去られてませんかね。

 会議を始めるのは構わなかったが俺の周りでやらないでほしかった。いかんせんうるさい。ただ、他でやってくれなんて言えるわけもなくその会議は続く。

 会議は踊る、されど進まず。なんだっけこれ。

 

(…どうでもいいから早く授業始まってくれないかなあ)

 

 今日ほど授業を望んだ日はないかもしれない。

 

「ということがあって大変だっだから後は任せた」

 

「朝囲まれてた理由オモシロ」

 

 部室へと向かう間、俺の話を聞いて銀はけらけら笑っていた。自分が関係してるって本当に気づいてるのか。

 

「で、後ろにいらっしゃる三好さんは部室の場所がわからなくて無言で跡をつけていると」

 

「そ、そんなわけないじゃない。私は完成型勇者よ。部室の一つもわからないようじゃ勇者なんて名乗れないわ」

 

「夏凛、素直になりなよ。ほらほら」

 

 銀が追い打ちをかけるように嫌な笑みを浮かべながら夏凛を挑発する。そう言えばこの二人、関係性はいかほどなのだろう。おそらく大赦の施設からほぼ一緒にいるんだろうけど。側から見ていて夏凛は銀に対しては俺たち現勇者組に対する当たり方が違った。俺たちに対しては最早針で串刺しにされるのではというレベルでツンツンしているが銀に対してはそこまでのようだ。寧ろかなり丸い。

 この二人見ていてなかなか面白い。折角なので聞いてみることにした。

 

「二人ともあれから一緒に訓練してたのか?」

 

「そうよ。悪い?」

 

「全然悪くない。なんというか、銀に対しては俺たちみたいには当たらないんだなと思って」

 

「ほぼ2年間一緒にいたわけだし…それに、銀は今のところ手放しで尊敬できる唯一の人というか…」

 

 …デレてる?

 なんか様子がおかしい。

 先程までの刺々しさは急に無くなり、突然針が抜け丸くなってしまった。想像してた以上にこの三好夏凛という人物は面白いかもしれない。なんだかんだ歩いていると気づけば部室前に来ていた。

 

「鷲尾晴哉入ります」

 

 俺の後に続き二人が部室へと入る。部室には既に風先輩と樹がいた。

 

「お、来たわね。晴哉、銀…って、なんであんたいるのよ」

 

「新しい仲間が加わったんすよ。魔王討伐には仲間は不可欠じゃないですか」

 

「いやー、ついにこの勇者部もここまで大所帯に。私は嬉しいよ。あれ?魔王なら倒されるの私では?」

 

 よよよと風先輩は泣くまねをした後、どうでもいい事に気がついて何かを言おうと肩をもごもごさせた。

 

「何勝手に決めてんのよ」

 

「晴哉についてきたってことは入部するってことじゃないの?」

 

「違うわよ。脳内お花畑なの?」

 

「誰がお花畑よっ!」

 

 賑わってきたなー。と俺はその光景をぼーっと眺めていた。そんな時、ふと目に勇者部五箇条が目に入った。

 

(悩んだら相談、か)

 

 結局、あれから俺の正体や不知火幸斗に関してみんなに話せないでいる。友奈や東郷は、勇者部の面々はこんな奇天烈な話を信じてくれるのだろうか。結局のところ、俺が一番勇者部の面々を信じきれていないのかもしれない。

 

「ハルヤ、どったの。急にぼーっとして。また考え事?」

 

「そんなところ。いかにして夏凛を引き入れるかをだな」

 

「だから、入らないって言ってるでしょ。あと気安く名前で呼ばないで」

 

 夏凛は本気で嫌そうな顔をした。俺の時だけ…泣いていいだろうか。

 

「え!夏凛ちゃん入部しないの!?」

 

 ちょうどいいタイミングで友奈と東郷が部室に入ってきた。夏凛はちゃん付けして呼ばれたことに少しだけ顔をしかめた。

 

「てっきりここにいるから入部するのかと思ってたわ」

 

「なんでアンタ達そんなに私を入れたがるのよ」

 

 そこに風先輩が茶々を入れる。

 

「なんでって面白いからに決まってるじゃない、あと躾がいがありそう」

 

「調教ですね!」

 

「銀、それは言葉の使い方が180度くらい違う」

 

 部室内が笑いに包まれる。その中で夏凛のみはなんとも言えない表情をしていた。ひとしきり笑い終わると友奈が夏凛に手を差し出す。

 

「ようこそ、勇者部へ!」

 

「だから、私は入らないって…まあ、いいわ。この方がアンタ達を監視しやすいだろうから」

 

 夏凛は友奈の手を取ろうとはしない。

 

「それに、私はアンタ達と違って適当に選ばれた勇者じゃないのよ。バーテックスくらい一人で殲滅してみせるわ。偶然選ばれたくらいで大きな顔されても困るのよ」

 

 さしもの風先輩も表情がむっとなる。

 

「あれ?」

 

 隣に銀がいないことに気がついた。銀は机の上で紙に何かを書き込んでいる。俺は銀が書いているものを覗き込んだ。

 

「三ノ輪さんちの銀ちゃんは何してんだ」

 

「これ書いてた」

 

 ばっ!と一枚の紙をみんなに見せるように掲げる。それは勇者部への入部届だった。ただ、自分のではない。そこには三好夏凛と書かれていた。

 

「とりあえず入るだけ入ってみたらどう?仮入部って事で」

 

「むっ…」

 

 銀の提案に夏凛が揺らぐ。その証拠に先程までの言葉の刃の勢いはない。

 

「と、とにかくこれからは私の監視、指示のもとでバーテックス退治に勤しむことね!」

 

「部長がいるのに?」

 

「へ?」

 

 友奈の少しずれた質問がさらに夏凛を惑わせた。

 

「部長よりも偉いのよ」

 

「…よくわかんないなぁ」

 

「な訳ないでしょ!」

 

 銀により勢いを削がれ、友奈により完全にペースを失ってしまっていた。この二人すげえわ。無意識に人の戦意を削っていく。ここで風先輩が口を開いた。

 

「とにかく事情はわかったわ。確かにバーテックスに関してはあんたの方が詳しいわ。けれど学校にいる限りは上級生の言葉を聞くものよ」

 

「ま、まあバーテックスを全部殲滅し終わってお役目が終わればそれまでなんだから!」

 

 苦し紛れに夏凛はそれだけ言い残し、部室を後にした。別に参加するだけしとけば良いのにと思ってしまうのは俺だけだろうか。

 

「とりあえず勝手に入部したってことにしておきましょ」

 

 風先輩はそう言うなり入部届を職員室へと持って行った。自由度高すぎやしないだろうか。

 

 それから後、今日は依頼がなかったため友奈の提案で毎度お馴染みの亀屋に行くことになった。が、俺は断りを入れて先に帰宅した。

 帰宅してから動きやすい格好に着替え、自宅であるアパートから近くにある砂浜へと向かった。5分程度自転車を漕ぐと砂浜へと到着した。そこには二本の剣を巧みに扱う勇者の姿があった。

 

「へいへい彼女。ちょっとお茶しない?」

 

 適当に軽い男の誘い方をしてみたが、最初は誰だ?この人みたいな顔をされた。だが、すぐに相手が誰だかわかったみたいで、後ろに飛び退った。

 

「な!?鷲尾晴哉?どうしてここに?というかその誘い方やめて。気持ちが悪いわ」

 

「気持ち悪いとか言うなよ。生きる意味失うだろ」

 

「やっぱりアンタと話すと感覚が狂うわ」

 

「褒めてもらったと言うことにしておこう」

 

 夏凛は諦めたようにため息をついた。せっかくなので先輩勇者(仮)としてアドバイスをしておくべきだろう。

 

「ため息つくと幸せ逃げるぜ?」

 

「うざい」

 

「酷い」

 

 こいつ価値としては50円に満たないアドバイスを無下にしやがった。50円とか何も価値ないじゃん。

 

「で、なんでここにいるのよ」

 

「これ見たらすぐわかるぞ?」

 

 俺は端末の地図を見せる。そこには夏凛の他にも友奈や東郷、風先輩や樹の位置情報ものっている。一応載るのは勇者のみなので銀は生憎表示されない。

 

「…樹海の時しか使えないわけじゃないのね」

 

「俺も最近知った」

 

 夏凛は俺と話すことをやめ、鍛錬へと再度集中し始めた。

 偉そうにものを言える立場ではないが、2年前初めて会った頃よりも剣の動きがかなりスムーズになっているように感じた。

 互いに無言になり、波が打ち寄せる音と夏凛が剣を振り、空を切る音のみに支配された。

 

「ねえ」

 

「?どうしたよ。ってうおっ」

 

 夏凛が一本の木刀をこちらに投げつけた。俺はそれをなんとかキャッチする。

 

「…少し付き合いなさい」

 

「さっきまで『一人でバーテックスを殲滅してみせるわ!』とか言ってたようには見えないな」

 

「それ、誰の真似?」

 

「俺の目に今よく写ってる」

 

「やめて。全然似てない」

 

「俺の渾身の声真似が…主観と客観は違うってよく言うだろ?」

 

 俺の戯言を無視して夏凛は二刀の剣を構え、こちらを向いた。

 

「バーテックスと人は違うぞ」

 

「似たようなものよ」

 

「つまり俺がバーテックスと」

 

「やっぱり私、アンタのこと苦手よ」

 

「嫌われてるのは慣れてるんでね。じゃあまあ。やりますかね」

 

 俺も木刀を夏凛の剣戟を受け流せるようカウンターの姿勢で構えた。

砂浜で足場が悪いにも関わらず夏凛は一歩でこちら側にまで踏み込んできた。俺はそれを軽く仰反る形で避けた。一振り一振りを見極めながら勝利への糸口を探す。当たりそうな攻撃だけを弾く。

 以前はそれでよかった。だが、今の夏凛は一撃一撃に隙がなく、威力も高い。少し舐めていた自分がいることは否定しない。俺は次第に防戦一方に持ち込まれた。

 

「どうしたのよ!それでもアンタ勇者を守る"守り人"なの!?」

 

 俺が右手に持っていた木刀は夏凛の振り上げによって手から離れ、宙をまった。

 

「情けない。やっぱりあんな奴らと一緒にいるからよ。これなら私一人でやった方がやっぱり早いわ」

 

 夏凛は俺を見下すように言い放って、木刀を回収するとその場を後にした。

 

「…情けない、か」

 

 正直そんなこと自分が一番わかっている。

 

「なかなか前途多難だな。やっぱり俺には人付き合いは無理そうだよ。…須美」

 

 そのうち友奈辺りがなんとかしてくれるだろう。結局のところ俺は人の心を揺れ動かすほどの力はないらしい。

 

「適材適所ってやつか。俺はやれることをやるしかないかな」

 

 俺も夏凛が立ち去った数分後に一度伸びをしてから砂浜を後にした。

 

 夏凛と銀が讃州中学に来てから1週間近くが経った。

 銀は次第に慣れているが対照的に夏凛は慣れつつあるものの人付き合いが上手くいってなさそうだ。

 あの日から俺は全くと言っていいほど夏凛と話していない。部室自体には来ているので話さなくはないのだがなんとなく気まずいのだ。

 

「銀、これやっといて」

 

「了解っす風先輩」

 

 銀がパタパタと俺の隣をかけて行く。何の依頼かは分からないが風先輩直々に頼まれたらしい。

 

「何の依頼なんだ?」

 

 俺は近くで書類らしきものを書いている樹に聞いた。

 

「明後日の土曜日に幼稚園で子供たちと交流会をすることになったんです」

 

「急だな。レクリエーションってやつか」

 

「お姉ちゃんが昨日頼まれたらしくて。引き受けちゃったんです」

 

「先輩、まだあの無計画性治ってなかったのか…」

 

「今は日程管理は東郷先輩の管轄ですけどね」

 

「あとで怒られないといいけど。何か手伝えることないか?」

 

「えっと、それじゃあこのプリントに……」

 

 俺が樹の手伝いをして時間を潰していると銀と入れ違いで夏凛が入ってきた。銀も夏凛と共に戻ってきた。その手にはプリントが数枚載せられている。多分さっきのはあれをコピーしてきたのだろう。

 

「よし、それじゃあみんな集合」

 

 風先輩の掛け声でそれぞれやっていた事を切り上げ、中心付近の机を囲む。銀からプリントを手渡され、それには明後日の幼稚園訪問に関することが書いてあった。

 

「それでは樹、お願い」

 

 風先輩に促され、樹が今回の交流会の説明を始める。

 

「というわけで今週末、幼稚園の子どもたちとの交流会を行います!」

 

「具体的には何をするの?」

 

「子供たちと一緒に折り紙を折ったり、絵を一緒に描いたり、やることはたくさんあります」

 

「わあー!楽しそう!」

 

 友奈は目を輝かせて週末の交流会に思いを馳せていた。東郷もそんな友奈みて笑顔だった。夏凛だけは難しい顔をしてそのプリントを眺めている。

 

「そうね。夏凛には体力が有り余ってる子供たちのドッジボールの的にでもなってもらおうかしら」

 

「え、ちょ!?なんで私まで行くことになってるのよ!」

 

「だって先週来た時入部したったじゃない」

 

 風先輩はヒラヒラとそのあまりにも強すぎる部長権限に置いて勝手に書いた入部届を夏凛に見せた。

 実際には銀が書いたやつを持って行ったわけだが、そこら辺は気にしないでおこう。

 

「け、形式上。しかもあれは銀に言われたからで」

 

「一応部にいるのだから、部の方針に従ってもらいます」

 

「それも形式上でしょ。それに私の日程まで勝手に決めないで」

 

「夏凛ちゃん日曜日何か用事あるの?」

 

 友奈は無邪気に笑顔で夏凛に聞いた。

 

「いや、ないけど」

 

 その勢いに押され、夏凛はたじろぎながらも答える。

 

「それじゃあ親睦会も兼ねて!」

 

「なんで私が子供の相手なんかしなくちゃいけないのよ!」

 

「いや?」

 

 友奈が涙声で夏凛に問い、さらにその涙が溜まった目で夏凛をみた。

さしものハリネズミこと三好夏凛も友奈のその表情に屈した。

 

「わ、わかったわよ。日曜日ね」

 

 夏凛が折れたことにより、その日は補足の説明を風先輩がして解散となった。後から風先輩は東郷に何やら言われていたが、俺はそれを横目に壊れていた扇風機の修理を始めたのだった。

 

「…なんでアンタは私と同じ道で帰ってんのよ」

 

「仕方ないだろ家こっちなんだから」

 

「アタシもいるぜ?」

 

 基本友奈と東郷、風先輩と樹とは校門前で別れる。どういうわけか今日初めて俺は夏凛と銀で帰っていた。夏凛との会話は実に1週間ぶりだ。

 

「アンタって確か大赦の職員なのよね」

 

「扱いはな。実質ただの一般人だ。銀は正式な大赦職員だけど」

 

「それは知ってるわよ」

 

 今思えば夏凛の方が銀といる期間は長いのか。そう思うとなんだか不思議な気分になった。

 

「なんか銀を奪われた気分だ…」

 

「元からアンタのものじゃないでしょ」

 

「それはそうなんだが」

 

 そんな事を話しながら、自然に三人同じ建物に入る。

 

「いや、だからなんでここに来るのよ!」

 

「だって俺、ここ住みだし」

 

「聞いてないわよ!」

 

「だって言ってないし」

 

「銀もなんで教えてくれないのよ」

 

 夏凛は恨めしいものを見る目で銀を見る。銀は口笛を吹いて、あらぬ方向を見て誤魔化した。

 

「じゃ、また明日な」

 

 鍵を開けて部屋に入る。銀も俺に続いて俺の部屋に入ろうとする。

 

「な、ちょい待ち!」

 

 それを夏凛は全力で止めた。首根っこを掴まれ、俺の首は後方に異常な速度で引き戻される。

 

「首が折れる」

 

「なわけないでしょ。と言うよりえ、何、二人ともい、一緒に住んでるの!?」

 

「何勘違いしてんだ。俺たちもう結婚してるんだ」

 

 俺としては冗談でふざけて言ったつもりなのだが夏凛は間に受けたのか赤面していた。実際は銀が夕飯を作るのは二人の方が楽だという謎理論を持ち出しただけなのだか。

 

「いや嘘だわ」

 

「はあ!?」

 

「夏凛もまだまだだな」

 

 銀は嫌な笑みを浮かべてニシシと笑った。

 

「夏凛も来る?」

 

「い、行かないわよ!」

 

 夏凛は色々と誤魔化すために扉を豪快に開けて部屋へも戻って行った。

 

「アタシたち何かおかしかったりする?」

 

「…世間一般的にみたらな」

 

 結局この日も俺は銀と夕飯を一緒に摂ることとなった。言われるまで違和感を感じていなかった自分が心底怖かった。

 

 週末になり幼稚園での交流会の日となった。集合は現地に10時なので9時に出れば基本的に間に合うだろう。俺が部屋を出て、銀を待っていると、夏凛が一足先に自転車を漕いで行く姿が目に映った。

 

「………」

 

「どったのハルヤ」

 

 銀が支度を終えて部屋から出てきた。

 

「んー、夏凛集合場所間違えてないかなと」

 

 夏凛が向かった方向は学校の方だ。

 

「悪い、銀。ちょっと遅れそうだわ」

 

「ツレないなあ。アタシも行くよ。風先輩にはアタシから連絡しとく」

 

「助かる。というわけで追いかけますかね」

 

 案の定夏凛は学校の部室へと来ていた。

 バレないように室内を覗くと夏凛は一人携帯端末を見て待ちぼうけを食らっていた。俺は銀と頷き合って部室へと突入を敢行する。

 

「誰も来ないぞ」

 

「っ!?」

 

 突然のことに夏凛はビクッと体を反応させたが、素晴らしい反射神経でこちらを振り向いた。

 

「どういうことよ」

 

「プリントちゃんと見たか?」

 

「嘘…」

 

 夏凛は慌てて詳細が記載されているプリントを取り出し、目を通す。そして夏凛はそこに表示されている現地集合の四文字をみて目を見開いた。

 

「なんでわざわざアンタと銀は私のところに来たのよ。そのまま現地に行けばよかったじゃない」

 

「じゃあ一人ここでずっといるつもりだったのか?」

 

「…別に私はお役目でここに来たのよ。本当なら一緒にこんなことする必要もないのよ。敵さえ倒せればそれで」

 

 ここで初めて今まで喋らないでいた銀が口を開いた。その眼差しは花凜を真っ直ぐと見ている。

 

「あとで後悔するよ」

 

「銀まで何よ。銀なら知ってるでしょ私がここにいる理由」

 

「じゃあその理由がなくなったらどうするんだ?」

 

「っ!」

 

「バーテックスを仮に全て倒したとして、その後はどうするつもりなんだ?」

 

「それは、その…」

 

 間髪入れずに繰り出される銀の質問に夏凛は答えられず黙ってしまった。

 

「楽しかったんじゃないの?この1週間勇者部でやったこと。アタシは夏凛の訓練中の姿しか見てないからわからないけど、この1週間はいい顔してたと思うよ」

 

「………」

 

「それに、あとでもっと話しとけばよかったとか、もっと一緒にいられたんじゃないかって思っても遅いんだぞ?」

 

 その言葉は銀の多くの思いを含んでいるように聞こえた。銀は須美はともかく園子の所在をまだ知らない。本当なら一緒にいたいだろう。夏凛にもその言葉の重みが響いたのかようやく頷いた。

 夏凛が自転車をとりに行っている間に俺は銀に感謝した。

 

「本当に銀がいて助かったよ。多分俺一人だと夏凛行こうとしなかったと思うわ」

 

「アタシとしては思ったこと口にしただけなんだけど」

 

「俺の言うなんの説得力のない言葉よりよっぽどマシだ」

 

 人の心を動かすのは難しい。尚更そう思った。

 

「やっときたのね。待ちくたびれたわよ」

 

 幼稚園に着くなり笑顔の風先輩に揶揄われた夏凛は不服そうな顔をしていたが、今まで来たことのない人に幼稚園児は盛り上がってしまい、夏凛はすぐに囲まれてしまった。

 

「ちょっと、待ちなさい!風でも友奈でもいいから助けなさいよ!」

 

 風先輩も友奈も敢えて傍観することを選んだ。夏凛はあたふたしながらも子供たちの相手をこなして行っていた。そこんとこは器用だなと素直に感心する。

 

「ありがとうね。二人とも」

 

 風先輩がこちらに来て銀と俺に耳打ちした。

 俺と銀は互いに見合うと二人とも自然と笑顔になった。軽く拳をぶつけ合ったりしてみる。この後、友奈の提案で子供たちと夏凛の誕生日会を行った。

 

「なんで私の誕生日知ってるのよ」

 

「銀ちゃんが書いた入部届に書いてあったからだよ」

 

「それじゃあ、みんな夏凛お姉ちゃんをお祝いしましょう」

 

 東郷が子供たちに声をかける。

 

「「「「お誕生日おめでとう!」」」」

 

 

 

 

 盛り上がりを見せた交流会も6時頃には切り上げられ大成功に終わった。帰宅した後風呂に入った後、俺はベットの上で横になっていた。

 勇者部のグループチャットは盛り上がりを見せているが俺はそれには参加していなかった。ふと思ったのだ。今俺が見ているものは夢なのではないかと。

 この現実は本来あるものではなく、作ってしまったものではないかと。いつか園子が言っていた。

 

「みのさんが死んじゃった」と。

 

 だが今は銀は生きている。どちらが正しい未来なのかはわからないが、それでも俺が未来を歪めてしまっているのには変わらない。

 もうそろそろ現実から逃げるのはやめよう。俺は神樹から剥離した神だと。ただし自覚はない。けれどもそんなのなんの言い訳にもならない。

 『時量師神』時を司り、未来を作るもの。

 そろそろ勇者部には伝えよう。それが自分なりのけじめだ。

 嘗ては神だったかもしれない。だが俺は人として生きる。絶対に。

 

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