花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第9話 信じる心

 

 その日世界は赤く染まっていた。

 神○期 ○○0年 

 勇者により壁が破壊され、勇者が敵の侵攻を止めることが出来ず神樹が死に、外の世界の全てを飲み込む炎が徐々に四国を飲み込んでいっている。人々は逃げることをやめ、流れ込んでくる炎とバーテックスに殺されることを容認した。一人、また一人と食われていく。

 世界が赤いのは炎だけが原因ではない。あれは人々の血なのだと気づくのにかなり時間がかかった。

 その中でただ一人歩き続ける者がいた。

 左腕にあるはずの義手は砕け散り、精霊バリアも貫かれたのか右目を失明し、口から血を流しながらも痛みに耐えて歩き続ける。

 また一人、目の前で命が消えた。それを無視してその場から立ち去る。

残った右腕で近づいてくる星屑を薙ぎ倒す。次は左目から出血した。

 血涙が流れるのも構わず歩き続ける。仲間がいるはずの場所へと歩き続ける。もう殺されてしまっただろうか。***はまだ生きてるだろうか。***は息をしているだろうか。

 また一人、目の前で炎に焼かれて消えていった。

 何故自分だけこの炎の中を歩けているのだろう。

 そうだ、これは夢なんだ。きっと悪夢だ。そうに違いない。また歩みを進める。そして、神樹館の通学路に差し掛かった時、目の前に見たことのある人影が映った

 

「***!」

 

 名前を呼ぶがその人影はこちらを向かない。

 

「***?」

 

 何かに縋るように声をかける。我ながらあまりにも悲壮的な声音だった。ゆっくりとその人影はこちらを向く。その目には光はない。ゆっくりとその人影は近づいてくる。その手には槍が握られている。顔にも身体にも包帯を巻かれており、表情は読めない。

 

「***無事だったんだ。よかった。早く逃げよう」

 

「何処に?」

 

 次の瞬間、世界がさらに赤く染まった。

 

「え」

 

 身体を見ると***が握っている槍に貫かれていた。

 

「な、…ん、で」

 

 口から大量の血が吐かれた。***の目には何も写っていない。遠ざかる音だけが今の自分の状態を教えてくれた。

 槍を引き抜かれると同時に身体が地に落ちる。

 

「私は…だから。…ケより…が生きてて欲しかった」

 

 もう何も聞こえなかった。というより聞きたくなかった。全部聞いてしまえば手に残っていた最後の一欠片すら失ってしまうような気がした。

 最後に伸ばした手は彼女には届かず、深く永久に意識は閉ざされたのだった。

 

 

 

 

「っ!!??」

 

 心臓の辺りに凄まじい痛みを感じ、俺はガバッと身体を起こした。あまりの痛みに耐えきれず涙が出てきた。右手で胸を抑える。本当に貫かれたかのような痛みだった。

 

「はあ…はあ…リアルすぎるだろ…」

 

 俺は立ち上がって外を確認するためにカーテンを開ける。なんなことのない、いつもの風景だった。先程の光景があまりのリアルさに現実か夢かを区別できていなかった。

 

「前は樹の中で次は地獄絵図を見る羽目になるとは…」

 

 痛みもだんだんも引いてきて、ようやくまともに呼吸もできるようになった。痛みも引いてくると思考もクリアになってきてあれが何を意味しているのかを考える余裕が出てきた。

 おそらくあれはこの先"ありえるかもしれない未来"という事だろう。

 

(未来を見る能力が……少し、戻ったのか?時量師神としての力が)

 

 確定ではないにしろ、どこかのタイミングであの最悪のバッドエンドを迎える可能性がある。

 ヒントとなるのは壁に穴が開いていたという事だろう。というかそれしか思い出せなくなっていた。結末としては俺は何者かに殺されるということも一応痛みのおかげで覚えてはいる。

 勇者部の面々に隠していたことを打ち明けようとした日に限ってこんな予知夢みたいなものを見るのは憂鬱すぎる。だが、進まないわけにはいかないのだ。俺は自分の頬を叩いて立ち上がり、学校へと向かうために支度をした。

 

 放課後、俺は勇者部の部室の前で立ち尽くしていた。

 俺は未だに覚悟ができていないらしい。何度も入ろうとしては躊躇い、それを繰り返している。男ならうじうじ悩まずに行けよと自分自身に言い聞かせてはいるのだが。

 今度こそと大きく深呼吸をして部室の扉を開ける。

 

「鷲尾晴哉入り…何、このお通夜のような空気」

 

 俺の覚悟を吹き飛ばすほどに我が部活の可愛い後輩。樹の表情は過去最高潮に沈んでいる。そんな暗く沈んでいる樹を囲むように五人が突っ立っていた。依頼でミステリー研究会とかそこら辺から儀式をしてくれとでも頼まれたのだろうか。

 俺がポカーンとその様子を眺めていると、樹は少し涙目になりながら俺の方を向いた。

 

「晴哉先輩、みんなの前で恥ずかしがらずに歌を歌う方法ってありませんか?」

 

 唐突に聞かれ、思わず「はい?」なんて情け無い声をあげてしまったのは俺の面子にも関わるのでとりあえず無視。

 さて、何があったかは知らないが樹は自信を失っているように見える。

 

「歌か…カラオケとかで練習とか?」

 

 苦し紛れに出した意見は樹のため息で俺の口の中へと押し戻された。

 

「その案はもう出てるよ」

 

 友奈が親切に教えてくれた。俺はむむっと唸った後、東郷が視界に入った。何となく連想ゲームをしてみる。

 

「えっと、じゃあα波?」

 

「その案も私が出したわ」

 

 東郷が親切に教えてくれた。

 

(何で出してるんだよ……)

 

 考えるのはいいがそもそもの状況が読めないのでアドバイスの仕様がない気がする。

 

「…夏凛が食べてる煮干しには歌が上手くなる成分が配合されていて」

 

「なわけないでしょ!」

 

 これなら行けると適当に思い浮かんだそれは夏凛に盛大に突っ込まれた。DHAなら行けると思ったんだけどな…な訳ないか。

 

「ハルヤに期待する方が間違ってるよ樹」

 

「…そうですね」

 

 認めないでくれよ。比較的発想力自体はあると自負はしているんだ。今回はタイミングが悪かっただけなんだ。…俺は一体誰に言い訳をしているんだ。と言うか銀も酷い。

 

「今日の晴哉くんには期待出来なさそうなので行きましょう。風先輩」

 

「東郷まで!?」

 

「そうね。樹の悩みの一つも解決できない人は置いていきましょ」

 

「何で今日そんなに冷たいんですか……」

 

 皆が冷たい中、友奈だけは「行こ」と手を差し伸べてくれた。天使すぎて思わず目頭が熱くなる。今度から俺も園子式発想力強化術を行おう。ネタとはいえ役立たずと言われるのは心にくる。なんなら今すぐ鬱にでもなる。

 そう言えばまた言う機会を逃してしまった。まあ、樹のことを解決してからでいいか…。と自分を納得させて、俺は友奈と談笑しながら皆の後を追った。

 

 

 

 

 

 

「〜〜♪」

 

 風先輩がトップバッターでマイクをとり、安定した音階で一曲歌い上げた。いつも思うがこの先輩、予定を立てること以外はかなりハイスペックなのではなかろうか。

 

「夏凛ちゃん、夏凛ちゃん!この歌知ってる?」

 

「知ってるわよ」

 

「じゃあ一緒に歌お!」

 

 友奈が夏凛の許可なしに専用の機械を使って音楽を入れる。

 なんだかんだと音楽が始まると二人ともノリノリで一曲歌い切った。採点も終わり、次の曲が流れる。

 

「あ、私の曲」

 

 東郷がマイクを手に取った。この重厚な音圧。そして魂を揺さぶるような、奮い立たせるようなリズム。これはーーーーー!!

 

「「「「「!!」」」」」

 

 イントロが始まった瞬間、夏凛を除く五人はおもむろに立ち上がり虚空に向かって敬礼した。この謎の行動に夏凛は一人混乱していた。当然である。

 

「ふう…」

 

 東郷が息をつき、マイク置いた。その顔は何か一仕事をやり終えた後のように清々しいものだった。

 

「なに、今の」

 

「東郷さんが歌う時はいつもこうなんだよ」

 

「そ、そう。銀もよく動けたわね」

 

「なんというか身体が勝手に動いたんだ」

 

 夏凛はまだ動揺しながら飲み物の入ったコップに口をつけた。東郷の歌声を初めて聞いたであろう銀は流石の適応力と言ったところだろう。

 それにしても今思えば須美の時は皆でカラオケに行くと言うことがなかった。きっと行っていてもここまで素直に歌うまい。人間、誰でも成長はできるらしい。

 

「晴哉くんは歌わないの?」

 

 俺が感心しきりな所に、件の東郷が俺の方を見る。実を言うと友奈たちとカラオケに来ること自体初めてなのだ。何度か誘われたことはあるが大赦関連で呼び出しが何回かあったため行けていなかった。

 

「歌ってもいいけど……。俺、下手なんだが」

 

 ここまでなかなかハイレベルな歌唱をされてしまっているので自ずとレベルが上がってきているように感じた。そして、一つここである問題に気がついた。

 

「友奈、適当に何か曲選んでくれ」

 

 突然の俺のお願いに友奈はキョトンと首を傾げた。

 

「え?なんで?」

 

「歌を知らない」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 そう、何を隠そう。俺は歌など一切聞かないし、音楽番組など見たことがない。精々知っているのは音楽の授業で歌わされたあの古い民謡とかそこらへんだ。それすらも記憶から薄れているので多分歌えない。

 ならば本番一発目で歌詞を一切知らない曲を歌ってやろうと思ったのだ。行けそうだと言う不思議な自信。羞恥心をかなぐり捨て、一か八かの大勝負。

 

「えっと、そうだなー。じゃあこれ!」

 

 友奈が選んだ曲は最高にロックな曲だった。誰が初見でこんなの歌えるんだ。ヘドバンでもすればいいのか。

 こう言うロックな歌って何言ってるのかわからないのが多そうと言う偏見があったため、適当な言葉を喋って歌詞にすることにした。

 

「☆・+112¥42×%・々<・*5÷<」|2「」1×☆°¥÷」

 

「いや、アンタそれ歌えてるの」

 

「わかるわけないだろ。ごめん、友奈。止めて欲しい」

 

 友奈には申し訳ないことをしたと思いだからこの曲を途中でリタイアした。二度とこの類の曲は歌わないし聞かないでおこう。どうにも俺は他人の歌を聞いている方が楽しいらしい。

 

「ご醜態を晒しました」

 

「晴哉、あんたカラオケ向いてないよ」

 

「うーん。そうだ。せめて一曲も歌わないのもあれなので、さっき風先輩が歌ってたやつならいけそうです」

 

「えー。ほんとに歌えるの?」

 

「さっき覚えたので」

 

「晴哉くん、記憶力はいいものね。じゃあ私が入れてあげるわ」

 

 にこり。と優しく東郷は微笑んで機械に曲を打ち込む。風先輩も仕方ないわね。と言いつつ笑ってくれていた。

 東郷と風先輩のご厚意に甘えて、俺はもうひと曲歌わせてもらった。結果だけ見れば風先輩の足元にも及ばない。だとしても初戦にしてはよくやった方だろう。なるほど、風先輩が言うのだから俺にはカラオケというものは向かないことは確からしい。

 一応俺にとっては収穫のある一連のやり取りが終わり、遂にマイクは神樹館一の不幸体質こと銀に手渡された。

 

「じゃあ次は銀ちゃんだね!」

 

「よし!見てろよハルヤ。格の違いってやつを見せてやる!」

 

「見てるよ〜」

 

 適当に銀に手を振っておいた。結論、銀は普通に上手かった。どうして何も起きないのか。マイクの一つ不調になってくれても良いじゃないか。と言うのはさておき、再びマイクは渡され樹の下へ。

 

「じゃあ次は樹」

 

 樹は不安そうな顔をしながら渡されたマイクを手に取った。

 樹の歌声は緊張してたのか震えていて音階がなかなかあっていなかった。今更何故樹が悩んでいたのかが理解できた。

 確かこの時期は一年生は音楽のテストがあったはずだ。樹は人前で歌うのが苦手で、それを克服しようとしているのだろう。家で歌うと上手いって前、風先輩言ってた。

 なんとかできないだろうかと頭を働かせるがいかんせん精神的なことに関してはこと最弱を誇る俺だ。他人の悩みを解決できるほど人に寄り添えない。要するに人の痛みが俺にはわからない。考えを捻り出そうと唸っていると樹が歌い終わった。

 樹は恥ずかしそうにこちらに戻ってくる。

 

(別に誰も気にしないと思うんだけどな……)

 

 そこら辺は個人の問題なのでとやかく言う気はさらさらないが、気にしすぎるのも問題な気がした。その後は各々好きな曲を制限時間まで歌い続けた。

 俺は今度来る時はせめて一曲でも歌えるようにしようと決意しながら、そこらへんに置いてある楽器をガシャンガシャン鳴らしていた。

 

 

 

 

 銀と共に歩いて帰路に着く。夏凛は買うものができたと言って一人、薬局に行ってしまった。

 

「樹も難しいなあ…どうしてダメなんだろ。気持ちの問題とか?」

 

 銀が夕焼けに染まる空を眺め、腕を頭の後ろで組みながら頭を悩ませる。俺はその横顔を見ながら、普段の樹の様子を思い出しながら仮説を出してみた。

 

「あがり症なのかもね」

 

 銀も思い当たる節があるのか、手鼓を打つ。

 

「樹、確かに人形劇とかで前に出てる所見たことないかも」

 

「俺もないんだよなあ。何か良い機会があれば……」

 

 ゲリラライブとかを無理矢理やらせたところでトラウマになってしまわれても困るし、どうにも妙案が思い浮かばない。右に左に頭を傾けてみても、カラカラと空虚な音が響く。頭の中は空っぽらしい。

 役に立たない脳みそに指先で刺激を送りつつ、更なる考えを巡らせていると銀は不意に軽く笑い出した。

 

「というよりアタシは須美がカラオケで歌ってることにびっくりしたよ。あの須美が!?って感じ」

 

「同一人物ではあるけど、中身が違うんだろうな。前より柔らかくなったかように見えるし」

 

 俺が家族の時の思い出を辿っていると銀が突然「あっ」と声を出して立ち止まった。俺もそれにつられて足も記憶を辿る歩みも止めて、立ち止まる。

 

「どうした?」

 

「樹に手紙を書くのどう?」

 

「手紙?」

 

「そうそう。自分は一人じゃないって思えば人前に出ても歌えると思うんだ」

 

 なるほどそれは妙案かもしれない。気持ちの問題だと言うのならば励ましてあげれば良いと言うことか。単純ではあるが間違いなく効果はあると見た。

 

「面白いな。明日、風先輩に言ってみるか」

 

「よし、ハルヤのお墨付きなら行けるな!」

 

「お墨付きの意味を調べてから言葉を使おうな……」

 

 あってそうで微妙にずれている。俺は勝手に笑いが込み上げてきた。

 銀も馬鹿にされたと思ったのか頬を膨らませて拗ねていたが、次第に笑顔に変わっていった。

 

 

 

 次の日の部活、樹を除く六人は部室に集合していた。

 

「銀、話って何かしら?」

 

 東郷に問われ、銀は一度わざとらしく咳払いをしてから、昨日話していた内容をみんなに説明した。

 

「というわけなんだけど、どうかな」

 

「いいと思う!流石銀ちゃん!」

 

「私も賛成」

 

「いいと思うわ」

 

「私は無論賛成よ」

 

 銀は全員から賛同の声をもらい、安心したようだった。割りかし本当に銀はこの類のことに関しては天才的な気がする。特に誰かに対する助けの思いというのはこの中でも随一かもしれない。

 

「それじゃあ、早速やりますか!」

 

 風先輩に促され、銀が買ってきた手紙に各々メッセージを書き始めた。

 

「はい、晴哉くん」

 

 東郷にペンと手紙を渡されたが何も考えいなかったのでなかなか書けなかった。とりあえず思いつきで一言書いておくことにする。

 皆に紡がれた励ましの言葉の数々。俺の言葉など安っぽくて樹には届かないかもしれない。だけど、ここに書いてある言葉の数々は間違いなく樹に届く。それならば樹のために捧げる言葉これしか思いつかなかった。

 

『みんなを信じて、自分を信じて』

 

 書いていて思った。これは俺が皆に。自分自身に求めている事なのかもしれない、と。

 

 

 

 それから数日後のこと。

 

「今日って樹ちゃんのテストの日だよね」

 

「樹なら大丈夫よ。姉である私が言うんだもの」

 

 みんな樹のことが気になってそわそわとしていた。普段落ち着きのある東郷も、先程から何度も扉の方をチラチラと見ている。

 すると不意にガラッと部室の扉が開いた。そこには樹が立っていた。樹は俯いたまま、廊下と部室の境界線を跨いだ。

 

「樹?」

 

 風先輩が心配そうに樹を見る。俯いていた樹は顔を上げてると、その表情は晴れやかで、笑顔でVサインを作った。

 それを見た勇者部一同は喜び、舞い上がった。

 

「やったね樹ちゃん!」

 

 友奈が喜びのあまり樹に抱きついた。それに追随するように風先輩も樹に抱きついた。樹の手を見るとあの手紙が握られていた。

 俺は次第に自分の心が温かくなっていくのを感じた。それで決意が固まった。喜びの時間を壊すのは心苦しい。しかし、今しかない。意を決して俺は皆に向き合った。

 

「みんなに聞いてほしいことがあるんだ」

 

 俺は意を決して声を発した。突然のことに樹に抱きついていた友奈も風先輩もこちらを見る。

 

「どうしたのよ、改まって」

 

 夏凛も訝しんだ目で俺を見る。

 

「こんな時に言うのもどうかと思うけど、俺のしてる隠し事を言う決心がついた。聞いてくれないかな」

 

 俺の神妙な面持ちを見て、全員の表情も真面目なものに変わる。悠長に止まっていたら決意が揺らぎかねない。勢いのまま、俺は遂に告白した。

 

「俺、実は神様らしいんだ」

 

 時が止まった。これまで俺が感じたことのない沈黙。俺はただ無言で、皆の反応を待つ。

 

「えっと?」

 

 沈黙を破ったのは夏凛だった。夏凜に関しては最早こいつ頭狂ってるんじゃないかと言わんばかりの目で見られている。

 

「晴哉、病院行く?」

 

 風先輩に物凄く可哀想なものを見る目で見られた。普通に考えればそうなんだけども。俺だって友奈から神樹様と結婚しますとか言われても多分同じ反応をする気がする。それかめちゃくちゃキレるかの二択。

 予想通りの反応だったとは言え、俺は首筋をさすりながら思わず困り顔を浮かべてしまう。

 

「割りかし自分的に真面目に打ち明けたつもりなんですけど」

 

「中学二年生にありがちな病気を打ち明けることを?」

 

 風先輩の冗談なのか本気なのかわからない言葉を耳にして、思わず笑ってしまった。

 こんなこともあろうと思い一応、あのメモリーカードを持ってきていて正解だった。俺は東郷にパソコンの使用許可を取ってメモリーカードを差し込んだ。全員がそれを覗き込み、読み終わると息を呑んだのがわかった。

 

「晴哉、これ本当なの?」

 

「あまり公に出すことではない気がしたんですけど、自分なりのけじめってやつですね」

 

「でも、最初に言った神様ってのはどう言うことなの?」

 

 東郷がこちらを向いて問う。

 俺はもう一つ、園子から聞いた御伽噺を書き起こしたフォルダーを見せる。天の神というワードだけは禁忌事項な気がして消しておいた。何か全ての物事の根幹に関わるような気がしたからだ。それを抜きにしても、この文章は皆が眉を顰めるほどには不可解なものらしかった。俺はそこに自分なりに感じている事を付け加える。

 

「確かに自分でも納得いく部分があるんだ」

 

「どんなこと?」

 

 友奈が心配そうに聞く。そんな心配も今は少し嬉しかった。

 

「銀ならわかるんじゃないかな。俺が満開の代わりに使える神器のこと」

 

 銀はその言葉を聞いてハッとなった。一応、去年から度々病院に行っている理由を銀には話してあった。それにその時、神器の特性も伝えておいた。

 

「神器は神にしか扱えない……」

 

 俺は頷いて、正解であることを伝える。東郷と夏凜も勘づいたのか、口に手を当てた。

 

「先輩や友奈たちの勇者システムには満開と呼ばれる大きな力が搭載されてるんだけど…。前に風先輩が説明していたやつだね。俺は実質勇者ではないから満開が使えない。その代わりに神器を用いる。だけどそれは絶対神にしか扱えないものなんだ」

 

「仮に、それが本当だとするわ。ならアンタはここに書いてある『時量師神』ってこと?」

 

「ああ、間違いなく」

 

 夏凜の再三の問いに確信を持って俺は頷いた。

 

「でもどうして話そうと思ったんですか?言わなければ誰もわからなかったのに」

 

 樹の言っていることは紛れもなく正しかった。けれど俺には隠し事が多すぎる。その全てを隠し通せるほど器用でもない。それに心苦しかった。満開の後遺症のことも話せず、東郷の空白であるはずの2年間も、園子のことも、そして風先輩と樹の両親のことも。

 

「最初に言ったかもしれないけど、自分なりにけじめをつけようと思ったんだ。それに何というか、自分が『時量師神』なんてものじゃなくて鷲尾晴哉という一人の人間として受け入れて欲しかった。今回の樹の件を見ていて、みんななら受け入れてくれんじゃないかと思って」

 

 再び部室を沈黙が支配した。皆、自分の思う所を言語化するために悩んでいるようだった。その中でも風先輩は誰よりも俺を、中身まだもを見透かそうとしてるのではと思うほどにじっと見つめる。

 そんな中、真っ先に手を差し伸べたのは意外にも夏凛だった。

 

「仕方ないから信じてあげるわよ。それに私は鷲尾晴哉しか知らないからそれでいいわ」

 

 時量師神なんて聞いたこともないし。よっぽどニッチな神なのね。などと宣う始末。でもそれは夏凜なりのアンサーだ。俺は胸の奥から込み上げてくるものを飲み込むのだが、どうしても俯いてしまった。

 そんな俺に友奈もガシッと掴んで顔をあげさせる。

 

「そうだよ。晴哉くんは晴哉くんだよ!」

 

「私も晴哉くんは晴哉くんだと思うわ。それ以外の何者でもない」

 

「友奈、東郷…」

 

「私もみんなと同じです」

 

「アタシも今更感すごいし、別に気にしないよ」

 

 思わず。そして似合わず泣きそうになった。こうもあっさりと受け入れてもらえるなんて思っていなかった。拒絶の言葉の一つや二つ出ても良いはずなのに、肯定的に捉えてくれた。それに自分はここにいていいのだとも思えた。嬉しかった。

 

「ありがとう、みんな…」

 

 俺は頭を下げる。段々と部室内の空気が弛緩するのがわかった。そこに友奈が手を軽く叩いて場を盛り上げる。

 

「よーし!この後は樹ちゃんのお祝いも兼ねてうどん食べに行こうよ!」

 

「友奈ナイス提案!行こう行こう!!」

 

 イェーイと銀と友奈がハイタッチした。二人が勢いのまま部室を出ていくと、夏凛と東郷と樹も笑顔で二人を追いかけた。

 みんな笑顔だった。たった一人、風先輩を除いては……。

 

「ねえ晴哉」

 

「はい」

 

 風先輩はどこか複雑そうな面持ちだった。

 

「もう神様としての力は残ってないの?」

 

「今俺が使えるのは勇者システムを介しての神器展開までが限界ですね」

 

「…そう。答えれたらでいいわ。一つ、聞きたいことがあるの」

 

「なんなりと」

 

 ここまで風先輩が深く思い悩んだ様子を見せながら俺と会話をするのは珍しい。俺も自然と姿勢が良くなる。

 

「過去を改変して…あの大橋の爆発、止めれたりはしない?」

 

「え?」

 

 思わぬ質問に俺は思考が停止した。大橋の爆発……。須美の満開と獅子座の攻撃がぶつかり合った時、そのエネルギーは凄まじい勢いで周囲を吹き飛ばした。確かあの時、避難誘導をしていた大赦に勤めていた夫婦が亡くなったと後から聞いている。

 2年前の大橋決戦の記憶が段々と蘇る。まさかとは思うが、その時の2人と言うのはーーーーーー。

 

「風先輩、それは……」

 

「ごめん。やっぱりなんでもない。聞かなかったことにして。私たちも行こっか」

 

 風先輩はまだ何か言いたげだったが、無理矢理押し殺して部室を出て行った。俺は何も言えなかった。そのことの調査も少しは進めておこうと、心に刻んだ。

 

 

 勇者達の日常は落ち着くことはない。次の週、5体のバーテックスが一挙に襲来した。

 

 

 




ここで一つご報告を。いつ出すかはわかりませんがプロトタイプ・ゼロさんとのコラボを企画中です。投稿した暁にはよろしくお願いします。
プロトタイプ・ゼロさんの作品は面白いので是非是非。

この作品を読んでくださっている方々には感謝しています。これからもよろしくお願いします。次は今更ですが鷲尾晴哉の設定的なものを出そうかと思っています。
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