花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第10話 世界か、友達か

 5体ものバーテックスが襲来しているにも関わらず、俺は友奈たちの近くにいなかった。

 樹海化が起きたところまでは覚えている。その時はみんなと一緒に居た。

 それなのに何故か今、後ろで神々しく光り輝いているこの世ので最も苦手とするモノの前に立っている。

 既に勇者たちはバーテックスと交戦を開始していた。その証拠に遠くから気分を害しそうな鐘の音が聞こえてきている。

 

「…見てろってことかよ」

 

 俺は神樹を見ずに問いかける。勿論神聖なものであるとは言えただの樹なので返事はない。ただ、ここにいるということはそういうことなのだろう。無性に腹が立つ。

 俺は神樹の無言を勝手に肯定と捉えることにした。

 勇者システムのレーダーを見ると夏凛と東郷が牡羊座を撃破したのを確認できた。

 俺は動こうと足掻くがそれでも足が一歩も前に進んでくれなかった。

 

「俺はお前らのこと嫌いだっての!」

 

 一方的な片想いとかやめて欲しい。迷惑でしかない。

 諦めて正面を見ると俺の視界に嘗て仕留め損った獅子座の姿が目に映った。遠くから互いに睨み合う形になっている。

 因縁の相手ではあるが今は何もできないのが実情だった。

 今俺ができるのはレーダーを見ることだけだ。

 しばらくたった後、ある違和感に襲われた。

 魚座を除いた残りのバーテックスが獅子座のバーテックスへと集結し始めたのだ。

 

「そんな男子が好きそうなことできるのかよ」

 

 獅子座を中心としてバーテックスは合体したのだった。

 その巨体がさらに巨大化し、威圧感が凄まじいものとなった。

 友奈、風先輩、夏凛の三人は果敢にその巨体へと攻撃を仕掛ける。樹、東郷はある程度の距離を保ちつつ戦っているが、攻撃が全くと言っていいほど通っていないように見えた。

 遠目に風先輩が敵からの攻撃を受け、水球に飲み込まれたのが見えた。

 精霊バリアがあるとは言え苦しい筈だ。

 友奈も夏凛も空中と地を使い分け回避していたが、次第に追い込まれ小さな火球により地に叩き落とされた。

 仲間がやられていく中でも俺の足はその場から動こうとしない。

 

「お前らが俺をここに留めて何したいかなんて知らないけど、こっちはお前らが選んだ人たちを助けなきゃいけないんだっての!さっさと離せ!」

 

 俺はやっとの思いで首を動かして神樹を睨みつけた。

 その時だった。神樹から光のようなものが勇者たちがいる場所へと流れ込んで行っていた。

 咄嗟に振り返ると、そこには三つ、花が咲いていた。

 風先輩と東郷、樹が同時に満開しているようだ。

 

「これが狙いかっ…!」

 

 俺は歯軋りした。神樹が力を使い俺を無理やりこの場に抑えつけた理由。そんなもの明白だった。神樹は俺が勇者たちが満開することを止めることがわかっていた。それはこの樹に取っては不都合なのだ。

 それに必ずこうなってくれなければ困るという神樹の意志を感じた。

 こうしてる間にも東郷が満開による強大な力によって魚座を瞬時に撃破していた。

 

「どれだけ奪えば、気が済むんだ…お前らは!」

 

 ここまでの怒りを覚えたのは記憶にある内では初めてだった。

 須美の足の機能を、記憶も、園子の身体機能までも奪いこれ以上何を奪うというのだろうか。供物だろうがなんだろうがそんなこと許せなかった。

 だが怒りだけでは神の集合体に敵うわけもなく、抵抗も虚しく俺は力を強めた神樹により地に叩きつけられた。

 

「グッ…クソがっ」

 

 こんな器用な真似ができるのかこいつは。

 満開をした勇者たちはその圧倒的な力で獅子座の御霊を出現させるまで、押し返していた。

 クラスターバーテックスとでも言えばいいのか、獅子座を基礎とした巨大バーテックスの御霊は常軌を逸した大きさだった。

 レーダーを見ると友奈が東郷と共に御霊へと突撃を開始していた。

 どれだけ争おうにも叶わぬこの相手にもう既に俺は抵抗することを諦めた。

 

「頼んだぞ、友奈、東郷」

 

 地に伏せられたまま俺は友奈と東郷が向かって行ったであろう天に浮く御霊を仰いだ。

 

 

 

 俺はいつものように大橋市の方へと飛ばされたがいつものように寄り道はせず、すぐに讃州中へと戻った。部室に行くとその場には夏凛と銀しかいなかった。

 

「晴哉、アンタどこで何してたのよ」

 

 夏凛が言うには俺は勇者システムのレーダーにすら映っていなかったらしい。夏凛を除いた他の勇者部の面々は戦闘終了後、身体の不調を大赦に訴え病院へと向かったようだった。

 俺と夏凛は二人で勇者部の部室に留まっていた。銀は病院に向かったみんなを心配しながら俺たちを労った。

 

「神樹の根っこの所に埋まってたんだよ」

 

「とにかく無事ならよかったわ。安心した」

 

 少なからず心配はしていてくれたらしい。

 

「それにしてもなんで私だけ健康体なのよ」

 

 満開を使っていないから、なんて言えるわけがない。夏凛は不服そうだが個人的には安堵していた。

 

「訓練してたからだろ」

 

 俺は適当に返答しておいた。

 

「神樹に埋まってたって面白すぎるでしょ」

 

 銀はまだケラケラと笑っている。

 

「とりあえず夏凛も明日は念のため検査しに行って貰うからそのつもりでいてくれ」

 

「了解。アンタはいいの?」

 

「俺はそもそも戦闘に参加してなかったからな」

 

 俺は戦えなかった悔しさと満開のことを打ち明けられない葛藤を無理やり押し殺すために拳を強く握った。

 

 次の日、俺は病院へと向かうことはせず園子の場所へと向かった。

 園子は既に現勇者が満開したことを知っていた。おそらく大赦の職員から教えられたのだろう。

 

「ハルスケも苦労人だよね」

 

「園子に比べれば全くだよ」

 

「それでも大切な友達に隠し事をし続けるって言うのは辛いと思うよ。おまけに内容が内容なだけにね」

 

 相変わらず園子は強いなと感じる。自分の身もかなり大変なことになっているのに他人の心配をしているのだから。自分に果たしてそれは出来るだろうか。

 

「……前さ、園子。俺に世界を取るか友達を取るかって聞いたよな」

 

「うん。聞いたね」

 

「自分の中では友達を守るって言う決意を固めたんだ。だけどさ、俺の今の行動って矛盾してるんじゃないかって」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「いざ口にすると難しいな…。ただ、俺は満開のことを拒絶しながら止めるつもりはないんじゃないかと思えてきたんだ」

 

 それはつまり俺は結局、友達よりも世界を優先しているに他ならない。口先だけではなんとでも言えるのだ。

 俯いていた俺の手を園子は唯一動く左手で軽く握った。

 

「私が前、どうするかを聞いた時ハルスケは答えてくれなかったから、今日その答えを聞けて安心したよ」

 

 園子はニコリと俺に微笑みかける。

 

「今回のことは仕方ないと思うんだ。仕方ないで済ませちゃいけないってことは確かだけど、大赦からも口止めされて誰にも話せない状態で、よくハルスケは耐えたと思う。だから、あまり自分を責めないで欲しいな」

 

 優しい園子の一言一言が胸に沁みた。その為か、俺は完全に油断しきっていた。

 だから、余計に次の一言で俺は愕然とした。

 

「お陰で私は堂々と世界を優先することができるよ」

 

「……は?」

 

「明確にはちょっと違うかな。私は『友達が望んだ世界』を優先するよ。ついでに言うと、ハルスケの場合は『友達を助けるために世界を救う』これがハルスケを悩ませている矛盾の正体だよ」

 

 矛盾の正体をさらっと言い当ててくれたのはすごく感謝したい。

 だがそれ以上にとんでもないことを園子は言っていた。

 

「…その友達ってのは誰のことだ」

 

「言ったら面白くないじゃん。私は私なりの考えで動くってことだよ。大赦を上手く利用するんよ」

 

 その目はこの先どんなことが起きるのかを知っているようでもあった。果たしてただの勘なのか、明確な確証があるのか。

 

「勘違いしてほしくないのは私はハルスケを信頼してる。私たちの誰かが間違えたらちゃんと止めてくれるって信じてるから」

 

「信頼が重いな。というより、そういう状況にならないのが一番いいんだけど」

 

 一応こんな俺でも園子の信頼は勝ち取っていたらしい。だが、園子の言ったことを要約すると有事の際、敵対するということに他ならない。

 『友達の望んだ世界』が何かにもよるが俺の『友達を助けるために世界を救う』とでは絶対に相容れない筈だ。園子が無意味にそんなことを言うはずがない。しかも止めないといけないことまでもする予定なのだろうか。例えば取り返しのつかないこととか。ふと、脳裏に夢に見た地獄が浮かび上がる。

 頼むから勘弁してくれよ、と心の中で園子に懇願しておいた。

 

「満開のことだけど、もう少しだけ隠しておいてよ」

 

「どういうことだ?」

 

「その方が都合がいいから」

 

 割りかし本気で園子が何を考えているのかわからなかった。自分で言うのもあれだが推察能力だけは園子と互角な自信はある。それでも園子の考えを理解するには言葉が足りなさすぎた。ただひとつだけ分かったことがある。園子は俺と敵対関係にある、と。

 俺が園子の言ったことを理解しようとしていると、巫女がぞろぞろと部屋の中へと入ってきた。

 

「……満開のことを話してはいけないという大義名分はそちらにあるからな。俺は少なくとも、今は黙ってるよ」

 

 園子は俺から欲しかった答えを貰えたことに満足したのかまた小さく微笑んだ。

 

「今日はここまでだね。それと、しばらくここに来ない方がいいよ」

 

 もう今の園子には何を言っても無駄な気がした。

 どこから俺と園子との間の歯車が狂い始めたのだろうか。そのタイミングはあまりにも鮮明に思い浮かべることができた。

 

「善処はする」

 

 今日の園子の目には並々ならぬ覚悟があった。なら、俺はその勝負に真っ向から挑むことが最大の責務だ。それ即ち、園子の願望の否定へと繋がると知りながら。

 それから俺はそのまま巫女に促され、施設の外へと退出したのだった。

 

 

 次の日学校へと行くと、風先輩は目に眼帯をしており、樹は筆談をしていた。俺は瞬時にそれが何によるものかを理解した。

 

「いやー、一昨日から急に目が見えなくなってね。樹の声も急に出なくなったってさ」

 

『私はこうして筆談するので大丈夫ですよ』

 

 犬吠埼姉妹の満開の供物は喉と目らしい。

 2人はなんとも思っていなさそうだが、俺は心苦しくなって目を逸らした。夏凛は何故かいない。

 

「東郷は…入院だったな」

 

「今日お見舞い行くけど一緒に行く?」

 

 友奈が声をかけてくれたが東郷も友奈と二人きりの方がいいだろう。丁重にお断りしておいた。

 東郷は前回のこともあるので検査入院ということになったようだ。

 

「それにしても」

 

「ええ、そうね」

 

「暑くないですかー?」

 

 銀と風先輩、樹、友奈はぐでーっと机に突っ伏した。

 

「晴哉くんは暑くないの?」

 

「夏だからな」

 

「ハルヤ、多分神経いかれてるよ」

 

 夏は暑いものなのだから暑いに決まっている。

 

「依頼とかもないし、今日はこうしてましょー」

 

「「賛成〜」」

 

 このままこの人たち溶けていかないかと言うどうでもいいことが心配になった。

 東郷がいないので代わりに日程管理をしておこうと思い勝手にパソコンを立ち上げて作業を開始した。こんな場所で小学生の頃、須美に叩き込まれた日程管理方法を利用する日がこようとは。人生何があるかわからない。

 一体、小学生の頃俺は何をどうやって過ごしていたのだろうか。

 

「風先輩、これ日にち被ってるけど大丈夫なんですか?」

 

「成せば大抵なんとかなるものよ」

 

「勇者部五箇条ってブラック企業にするための合言葉でしたっけ」

 

 とりあえず両方とも部活の助っ人だったのでそれぞれ行って貰えばいいかということでまとまった。文化系、運動系が互いに一つずつだったのも助かった。文化系は樹か風先輩に行って貰えば良いし、運動系は友奈、夏凛、銀、俺あたりでなんとかなるだろう。

 作業を進めていくごとに依頼の数が次々と増えていった。なにこれ、自動依頼出現機だったりする?

 

「…風先輩、東郷がたった1日いなかっただけでどれだけの依頼引き受けたんですか」

 

「そこまで引き受けてないわよ」

 

「そこまで、とな」

 

 確かに今日やらなければならない依頼はない。ないのだが…

 

「銀、お前分裂できたりする?」

 

「いくらアタシといえど分裂は不可能だぜ、ハルヤ」

 

「友奈は?」

 

「私も無理だよ〜」

 

「それが普通なんだよなあ…」

 

 この部活がいかに東郷のおかげで回っていたかということが実感できた気がする。

 俺はある程度可能そうなものだけを勝手に抜粋して、断りの連絡を取り、静かにパソコンの電源を落とした。

 

「風先輩」

 

「…てへ☆」

 

「てへ☆じゃなくて、今すぐ行ってきてください」

 

「え、どこに」

 

「計15個ほどの依頼をこなしに」

 

「今から!?普通に無理じゃない?」

 

「無理だと思うなら最初から引き受けないでください…。東郷、早く戻ってきてくれ…」

 

 切実にそう思った。

 俺の東郷を求める情けのない声だけが、真夏の暑い部室の中で溶けて気づけば消えていった。

 

 銀と帰りながら、ふと昨日の園子との会話を思い出した。折角なので園子の名前を出さずに聞いてみることにした。

 

「銀だったらさ、世界か友達だったらどっちを優先する?」

 

「何その哲学的な質問。うーん、立場にもよると思うけどアタシが勇者の時、なんであそこまで頑張れたかって言われたら園子や須美、家族とかいろいろなものを失いたくなかったからってのがあったからかな。アタシにはあまり難しいことはわからないけど、世界を救うことと友達を助けることって同じことだとアタシは思うよ」

 

「同じ?園子には矛盾してるって……」

 

「世界を救えば友達も助けられるって当然ーーーー」

 

 突然黙りこくった銀の顔を俺は覗き込む。

 

「銀?」

 

「あ、ごめん。いや、助けた側の本人はその後の結末を望んでたのかなって」

 

 銀がもたらした解答に俺は衝撃を受けた。その真面目な返答に俺はつい銀を凝視してしまう。

 

「あまり見られると恥ずかしいんだけど」

 

「あ、悪い。…ありがとう。銀のおかげで決心できたよ」

 

 おそらくどこかで俺は園子と戦うことになる。もうそれは避けられない。だったらせめて今は自分の考えが正しいと思おう。

 今思えばこうして誰かに相談できるようになったのは成長な気がする。以前なら一体何が正しいのか悩んで自滅していっただろう。

 

「やっぱり銀がいてくれてよかったよ」

 

「そ、そう?」

 

 銀は少しだけ照れくさそうに俺から目を逸らした。

 俺はそれをいじり倒した。銀はそれを誤魔化そうと躍起になっていた。

 今日も世界は平和だ。いや、平和を取り繕っているだけで解けば簡単にその結び目は解かれていくだろう。

 

 "その日"はまだ遠い。

 

 

 

 

 

 

「ハルスケも大分成長したなあ」

 

 私は感慨深げにつぶやいた。以前は戦いの時は置いといて、何かしらを決断することから避けていた。

 だが今回は正面切って私と戦うと宣言した。

 きっとハルスケの『友達を救う』というのに私も入っているのだろう。それはとても嬉しい。

 だけど、よく考えてほしい。今のところ私をこの現状から抜け出させるには世界を壊す以外に方法はない。何もかもを仕方がないで押し通し、会いたい友達にも会えず、意味のない不条理を突きつけられている。そんなの幾ら私と言えど耐えられない。

 もしかしたらハルスケ以上に私は矛盾しているのかもしれない。

 私は全て欲しい、友達も世界も自分の自由も。

 きっとハルスケは仮に私か誰かが暴走したら全力で止めに行くだろう。

 私の予想では満開のことを告げた場合、勇者部内の誰かが何かしらのアクションを起こすはずだ。

 

「私だって人形じゃないんよ。さあ、皆、私の手のひらで踊ってもらおうかな〜」

 

 これは私が始めた一種の賭けごとで、ただの自己満足。

 大赦をも巻き込み、下手をすれば世界が滅びる一世一代の大勝負。駒は揃った。

 いつかこの行動を後悔する日が来るのだろうか。

 

「きっと私がこんなことしなくても同じ未来を辿ると思うけど。…それよりも私ってこんなにも弱かったかなあ?」

 

 私はまた自分自身に懐疑的になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




この作品での園子は本編とは全く違う行動原理で動いているので多少変に思えるかもしれません。自分自身時折わからなくなります笑。
まだまだ続きますのでどうかよろしくお願いします。
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