花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第13話 崩落

 

 夏休みも終わり、まだ残暑が残る中、讃州中学勇者部の部室は混沌としていた。

 

「痛え」

 

 俺は友奈の精霊の牛鬼に耳を齧られながら、自分の精霊の村正に頭を叩かれていた。大赦から戻ってきた勇者システムには新たな精霊が加えられており、それも相まって部室内は百鬼夜行の様子を呈していた。

 

「アンタ無駄に精霊に好かれてるわね」

 

「別に精霊に好かれたいわけじゃないんだが」

 

 樹の新しい精霊の雲外鏡までもが目の当たりに突進してきた。素手で掴むのも躊躇われ俺はそのまま雲外鏡の突進を受け入れる。フワフワしてた木霊とは異なり普通に痛い。

 

「牛鬼も晴哉くん食べるのやめなよ」

 

 友奈が引き剥がそうとするが牛鬼は離れようとしない。俺は近くにいた夏凛の精霊である義輝を牛鬼に差し出した。するとなんと言うことでしょう、牛鬼は義輝にかぶりついてしまいましたとさ。

 

『諸行無常』

 

「ちょっと何するのよ!」

 

「獲物を変えただけだ」

 

「それならアンタがずっと喰われてなさい!」

 

 義輝を牛鬼から離した夏凛は再度牛鬼を掴んで俺の耳の辺りに近づけた。案の定、牛鬼は俺の耳にかぶりついた。

 

「ちょ、やめろ耳がとれる!いてててて!」

 

「甘噛みだから大丈夫だよ」

 

 何も大丈夫じゃないのに、友奈は牛鬼を見てずっとニコニコとしていた。そんな様子を見て風先輩は銀に聞いた。

 

「晴哉、憑き物が落ちたみたいな表情してるけど、夏休み中なんかあった?」

 

「さあ、どうでしょうね」

 

「なにそれ」

 

 銀と風先輩は二人で軽く笑い合っていた。そんな時、久しぶりに樹海化警報が部室中に鳴り響く。

 いつものように世界が止まる。

 

「久しぶりにおでましね」

 

「仕方ない、やるわよ!」

 

 風先輩の掛け声と同時にそれぞれ勇者装束を身体に纏う。およそ2ヶ月のブランクはあるが戦闘に支障はなさそうだ。前回は戦闘に参加できなかったから俺の場合実質3ヶ月ぶりだ。

 早速レーダーを見るとバーテックスが物凄い勢いで神樹の方へと向かっていた。

 

「あと三分ほどで森を抜けそうよ」

 

 いつのまにか隣にいた東郷が全員に伝える。

 

「あれ?あのバーテックス前も倒したよね?」

 

 友奈がレーダーを見て首を傾げた。俺もレーダーを見るとそこには確かに以前倒したはずのバーテックスと同じ名前が表記されている。

 

(……そう言えば2年前、園子は全部のバーテックスを倒したんだよな。嫌な予感がする。辻褄が会わないぞ)

 

 なぜ今の今までその事に気がつかなかったのか。今まで友奈達が倒してきたバーテックスは2年前、俺たちが倒したものたちばかりではないか。

 冷や汗が止まらない。ここまで自分が呑気な人間になっていたのかと呆れてやまない。

 俺が焦りを無理矢理押し殺している中、相変わらず友奈は純粋に今来たバーテックスは「2体でワンセットって事かな?」と頷いている。

 

「とりあえずやる事は変わらないわ!止めるわよ!」

 

 夏凛が動こうとしても誰もそれに続こうとはしなかった。

 

「ちょっと、どうしたのよ」

 

 それぞれの顔に迷いが生まれていた。また、体のどこかに不調が出るかもしれない。その懸念がそれぞれの頭の中にあるようだった。

 

「よーーーし!!」

 

 そんな時、友奈が自分の顔を気合いを入れるために叩いて鼓舞するかのように声を張った。

 

「風先輩!あの敵を封印すれば今度こそ終わるんですよね!」

 

「え、ええ。そうね」

 

「なら私、行きます!」

 

 友奈は敵に向かって一足先に飛んだ。夏凛もそれを追いかけるように跳躍した。

 一瞬で二人の姿が見えなくなる。

 

「友奈…。よし!私たちも行くよ。樹、晴哉!」

 

 風先輩も迷いを払拭するために気合を入れ、先行した二人に続いた。樹も姉の背を追いかけるように敵へと向かっていった。

 友奈達に追いつくと既にバーテックスは攻撃をくらい地に平伏していた。再び動き出そうとしたところを東郷の攻撃により頭の部位を撃ち抜かれたバーテックスは完全に沈黙した。

 

「封印開始!」

 

 封印されると同時に御霊が出現する。

 

 「数が多い」

 

 風先輩がうめいた。御霊は細かく分裂し、どれが本体なのかわからない仕様だ。俺は神器『八握剣』の展開の準備をした。以前、牡羊座を人なぎで破壊した広範囲専用神器だ。今回ばかりは友奈達に負担をかけるわけにはいかない。

 

「全員どいて!」

 

 俺は封印に徹している仲間に声をかけると同時に全体を薙ぎ払えるように真上に飛んだ。

 

「こい!」

 

 右手にただならぬ力が宿る。『八握剣』を御霊に照準を合わせて剣を振り抜いた。瞬時に数多あった御霊が跡形もなく消滅した。

 その中であと一つだけ残っているのを目にした。

 

「また中途半端に」

 

 何故こうも一息でやれないのか。俺は悔しさのあまり自分の唇を強く噛んだ。

 

「なら、次は私が!」

 

 友奈が俺の代わりに御霊目掛けて攻撃を行った。

 

「勇者キーーーック!!」

 

 足に火を纏い、威力を高め、そのままの勢いで御霊に激突した。高威力の技を食らった御霊は今度こそ、一つ残らず消滅した。

 

「ちょっとアンタ何勝手に、ッ!?」

 

 夏凛は友奈に近づくと同時に、友奈の満開ゲージが溜まっていることに気がついた。こちらに来た東郷もそれを見て表情を険しくする。

 

「友奈ちゃん身体は平気?」

 

「え、うん。私は大丈夫だよ。ごめんねみんな。ついつい新しい力を使ってみたくなっちゃって」

 

「なんともないならいいわ」

 

 俺はその様子を見て、東郷も満開の真相に近づいているように感じた。

 おそらく精霊が増えていた人と増えていなかった人の共通点を探ったのだろう。流石と思えた。

 

「ぐっ!」

 

 今回は隠れる暇もなく神器を使った反動が来た。内臓が潰されたような痛みが腹部に走った後、口から血を吐いた。

 

「晴哉!?」

 

 風先輩が心配そうにこちらに駆け寄ってきた。

 

「大丈夫です。いつものことなので」

 

「いつものことって…」

 

 俺は口元の血を拭って、まだ残る痛みに耐えてフラフラと立ち上がった。まだ少し痛みもあるし眩暈もする。

 樹に肩を貸してもらってようやくまともに立つ事ができた。そうこうしている間に樹海化は解けていった。

 

 樹海化が解けた後、てっきり大橋市にいるものだと思っていたのだが隣を見ると何故か風先輩、樹、夏凛がいた。

 

「あれ?なんでアンタここに。それより友奈と東郷はどこ?」

 

「俺に聞かれても。俺が一番困惑してる」

 

 いつもと違うパターンに全員動揺を隠せないでいるようだった。

 

「あ、みんなお帰りー。ってなんでハルヤいるの?」

 

 銀も樹海化が解けて動けるようになったので屋上に出てきていた。いつもこうしてたのか。なかなかに珍しく感じる。だがそんなことを珍しがってる暇なんてなかった。

 

「銀、先手打たれたな」

 

「わかってる。そゆことね」

 

 風先輩と樹、夏凛は首を傾げているが銀には伝わったようだ。銀にだけこの意味が伝わればそれでいい。

 覚悟はとっくの前にできている。

 一度部室に戻り、二人の帰りを待ったがその日、友奈と東郷は部室に戻ってくる事はなかった。

 

その日の夜、俺と銀は部屋でうどんを食べていた。

 

「ハルヤの作るうどん相変わらず美味しい」

 

「うどんなんて誰が作っても同じだよ」

 

 茹でて、お湯を切って、水で締めて、つゆに入れるだけの簡単な作業だ。冷凍食品のうどんならば赤子の手をひねるより簡単な気がする。

 うどん食べ終わってから銀は本題へと移った。

 

「それでどうするの?二人は園子のところに行った可能性があるんだよね?」

 

「本当に勝手な予想だけどな。予想だけどほぼ確実と思っていい」

 

 お茶を淹れながら俺は答える。今は頭の中である程度のシナリオを思い描いている最中だった。おそらく明日に動く事はまずない。動いて明後日か…。

 まず園子が何を伝えたかにもよる。満開のことは間違いなく伝えている。あとはバーテックスのことくらいか。

 

「なあ、銀。そういえば壁の外ってどうなってるかわかるか?」

 

「アタシにわかるわけないじゃん。一応ウイルスで消滅してるって話だけどバーテックス見てると俄には信じられないよね」

 

「だよなあ…」

 

 園子がどこかのタイミングで壁の外を見ている可能性も考えられる。その場合、どのような光景かはわからないがその事を伝えている可能性もある。可能性は無限大だ。おもちゃなどの広告のテンプレワードがこんなに嫌な言葉になるとは思いもしなかった。

 

「壁の外、見てみるか」

 

「え!?ハルヤ、正気!?」

 

 俺は席を立った。外は真っ暗だが、壁の位置は大体把握している。行けないこともない。

 

「何も見てみないことにはわからないだろ」

 

「急にアグレッシブになるじゃん。まあいいけど」

 

 俺は勇者システムを起動させ、勇者服を身に纏う。本日二度目の変身である。まだ少し神器の影響はあるが戦闘をするわけではないので大丈夫だろう。

 

「じゃあ、はい」

 

 銀も席から立って、何故か腕を広げてこちらを見た。

 

「えっと、何、それは」

 

「アタシも行く」

 

「正気か?」

 

「一番正気じゃない人に言われたくない」

 

 数秒だけ謎の駆け引きがあり、俺は根負けして仕方なく銀を担ぎ上げた。丸太を持つ職人のように。この場合、丸太は銀だ。

 

「あのー、ハルヤさん。もう少し持ち方ってものがあると思うのですけども。雑すぎない?」

 

 銀が暴れるので俺は銀を下ろした。銀は不機嫌になってしまった。どうすればよかったんだ。

 

「もっと正しい持ち方があるでしょ」

 

「…まあそうだよな。危ないよな。色々と」

 

 俺は何かに言い訳をして、銀を抱えた。所謂お姫様抱っこというやつだ。義手の方もちゃんと扱えている。離すことはまずないだろう。

 銀も何故か黙ってしまったので無言は肯定と捉えて、俺はベランダから壁に向かって大きく飛んだ。

 流石の勇者システム。一度の跳躍でかなりの距離を飛べたので5回ほど地を蹴るだけで壁の上まで到達した。

 

「銀、無事か?」

 

 暗くて銀の表情はよくわからなかったが頷いたのだけは確認できた。

 

「なら、行くぞ。絶対俺の前に出るなよ」

 

 俺は右手に『不知火』。左手は銀の手を離さないように義手でしっかりと握った。感覚はないが銀もその手を強く握り返してくれた気がした。足元だけをライトで照らしながら進む。どれだけ進んだだろうか。急に世界が明るくなり、視界が開けた。

 

「なっ!」

 

「嘘」

 

 それは形容するなら正に地獄だった。灼熱の炎が地を這い、空には無限の星屑が浮かんでいた。

 視界の端に乙女座が星屑によって生成されていくのが目に映った。

 誰でもこの光景を見たら絶望に打ちひしがれるのが容易に想像がついた。何故なら自分も今、過去最大級の絶望感を味わっているからだ。

 

(園子は、これを1人で見たのか?)

 

 2年前、1人で戦って1人でこの絶望を目の当たりにしたのだとしたら、俺はなんてことをしてしまったのだろうか。

 

「ハルヤ!」

 

 銀の声でようやく我に帰った。正面から星屑が突っ込んできている事を今更視認した。

 

(戦うには不利すぎる!)

 

 俺は正面からくる星屑に『不知火』を投げつけ、それと同時に銀を抱えて後ろへと全力で後退した。

 再び視界が闇に染まる。先程までの地獄から一変して、壁に波が打ち付ける音だけが響いていた。

 

「し、死ぬかと思った」

 

「俺も久しぶりにやばいと思った…」

 

 二年ぶりだ。「あ、俺死ぬわ」なんて思ったのは。先程までの軽い気持ちなんて既に余裕で吹っ飛んでいた。家に戻る気力なんて起こらず、二人とも空を見上げることしかできなくなっていた。

 

「このアタシでもしばらくやばいかも」

 

 銀にしては珍しく弱音を吐いた。それくらい絶望的だったのだ。

 目を閉じれば星屑がこちらに向かってきているのではないかという恐怖感を植え付けられた。

 

「ねえ、ごめんハルヤ。少しの間だけでいいからアタシのこと抱きしめてくれない?」

 

「…わかった」

 

 とは言ってもかってがわからないので、不器用ながら正面からあまり変なところに触れないように気をつけてそっと銀の背中に腕を回した。銀は少しだけ震えていた。

 それからどれだけそうしていただろうか。銀もようやく落ち着いてきたようで正気を取り戻していた。

 

「大丈夫か?」

 

「うん。とりあえずは。ここにいても仕方ないし帰ろうよ」

 

「そうだな」

 

 俺は来た時同様、銀を抱えてその場を離れた。

 ベランダに着地してから俺は銀を下ろす。銀は部屋に入るなり口を開いた。

 

「ハルヤ」

 

「どうした?まだもしかして」

 

「もうアタシは大丈夫だよ。それより、外を見てアタシは確信したよ」

 

「何がだ?」

 

「絶対に須美をあの場に近づけちゃいけない」

 

 銀にはこの先何が起き得るのか想像がついていたようだ。俺も銀に言われて確かにと納得した。

 だが、園子も同じ事を考える筈だ。だとしたら今日、絶対にあの二人を合わせちゃいけなかった。止めることのできないことだったとはいえ、どうしても後悔の念が先に来る。お陰でまたこちらが後手に回ることになってしまった。

 

「お?」

 

 一つだけ防ぐ方法があるかも知れない。

 

「銀、須美が壁に近づいたとして、場所はどこだと思う?」

 

「場所?」

 

 四国を囲う壁はそれこそ全てを見て回ろうとするのは馬鹿のすることだ。それにこちらは既に園子の動きを、考えを読めている。それを加味すれば別に後手に回っているわけではなさそうだ。

 少なくとも壁がハズレだったとしてもあれが壊れない限り、止めようはいくらでもある。

 

「やっぱり普通に考えてここら辺の地域の壁じゃない?」

 

「それは俺も賛成だ。わざわざ遠くに行く必要がないからな」

 

 だが問題はいつ相手が動くかにもよる。無駄に見張ったりしておけば勘付かれてしまい、恐らく負ける。

 

「結局、出たとこ勝負ってわけか」

 

 索敵関連で頼りになるのは精々勇者システムのレーダーくらいだろう。なら、こちらも一つ先手を打っておこう。

 

「あっちが現人神ならこっちは時の神だぞ。舐めてもらっちゃ困るぜ」

 

 多分この時の俺は酷く悪い顔をしていたに違いない。なんせ銀の顔が引き攣っていた。

 悪いが今回ばかりは手を抜くわけにはいかない。だから俺は自分が持ち得る全てを使って園子を止める。例えそれが人として生きることに矛盾していたとしても。

 

 俺は次の日の夜、再度一人で壁に向かい、壁のある地点に細工をしておいた。その場に足を踏み入れた瞬間、時の流れから鎖やらなんやらが飛び出して相手を拘束する仕掛けだ。最近、自分のことを時量師神だと自覚しているからか以前は絶対にできなかったことができるようになってしまっている。それは全く嬉しいことではないのだけれど。

 

「とりあえずはこんなものか」

 

 迎撃準備第一段階完了と言ったところか。園子のことだ。多分俺の動きもわかっているだろう。情報は筒抜けだと思った方がいい。だからこれは多少の気休めだ。これに頼りすぎるわけにはいかない。

 

「次だな」

 

 これも気休めだが壁の表面に多少の霊的な結界を張ることにした。一撃程度なら攻撃が当たっても防ぐことができる筈だ。こんなことをしている間でも、俺は何も起きないことを願っている。願うことは簡単だ。だが、願いを叶えることは難しい。

 

「これで須美を…園子を止められるのか?」

 

 迷い、悩み。俺は自分ができる限りの迎撃体制を整えた。欠伸を噛み殺して俺はその場を離れる。作業が終わる頃には夜が明け始めていた。

 

 

 

 やはりその日は突如としてやってきた。何の前触れもなく。

 ただ一つ予想外のことが起きていた。それは友奈からの連絡によってもたらされた。

 

「どうして風先輩が…」

 

「園子が唆したのは須美じゃなかったってこと?」

 

「わからない」

 

 レーダーを銀に見てもらいながら俺はとにかく移動し続けた。風先輩まで残りわずか。と言う距離になったところで銀が異変に気がつく。

 

「違うハルヤ。やっぱり須美は壁だ!ここの近くにいない!」

 

 友奈と樹が夏凛と風先輩を追いかけている様子はレーダーに示されているがあと一人がそこにいなかった。

 

「………」

 

 瞬時の判断で俺は銀を途中で下ろす。これが最善だと感じたからだ。

 

「ハルヤ?」

 

「予定変更だ。銀は風先輩の方を頼む」

 

「わかった。けど須美のこと一人で止められる?」

 

「わからん。須美も気になるがそれより園子方が気掛かりだ」

 

 本当に動きが読めない。風先輩が暴走してるため、抑止力としてそちらに行ってしまうことだってある。恐らく大赦は園子に風先輩が暴走していることを伝えている筈。そもそも園子が来ない事だってあり得るのだ。でも、やはりそんな事を考えてはキリがない。

 

「任せた。銀」

 

 俺はそれだけ言って、壁に向かって飛んだ。

 ただ一つの目的のために。

 

「須美を、止めるんだ。俺が……兄として、必ず……!!」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「任せた。銀」

 

 晴哉はそれだけ言うと壁へと向かっていった。その背中をほんの少しだけ眺めて、銀は自分も覚悟を決めた。

 

「任されたからには、ちゃんとしなきゃな!」

 

 晴哉は信頼しているからこそ、たった一言短い言葉を残して東郷の迎撃へと向かった。銀は自分の顔を叩いて気合いを入れる。それから嘗て自分が逃げたものに再び立ち向かった。

 晴哉から渡された勇者システム。使えるかはわからない。練習した時は一切反応しなかった。今一度深呼吸をする。そして思い浮かべた。自分が今、この力を誰のために使うかを。そうすると自然と勇気が湧いてきた。その勇気に身を任せて銀は走り出す。

 

「よし!勇者は気合と根性と!勇気!」

 

 勇者システムを起動させる。強大な力が銀の身に宿っているのがすぐにわかった。二年前とは少し違う。だが、その色は変わっていない。

 『時量師神』の勇者は自分を信じてくれた晴哉の信頼に応えるため、暴走した風先輩を止めるために遠く空へと舞い上がった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 同じ頃、壁の上で美森は絶望に打ちひしがれていた。壁の外を園子に言われた通りに見に行ってしまった結果だった。

 

「またこうして一つ一つ苦しみを味わっていくんだ!そんなの絶対に駄目よ!絶対に!」

 

 泣きながら美森は頭を抱えていた。もうこの先、自分達に未来はない。永遠に外で再生され続ける敵と戦い、満開を繰り返して一つ一つ身体の機能を失っていく。それこそ乃木園子のように。

 

「あ……。まだ、一つだけあった」

 

 みんなを救える方法。自分が今這いつくばっている場所は壁だ。

 ならば…。と美森は立ち上がって壁の淵まで近づいた。そして銃口を壁に向けた瞬間ーーーー。

 

「!?なによこれ!」

 

 美森の願いは叶わなかった。

 突如として美森は鎖のようなもので腕と足を絡め取られ拘束された。激しく暴れてみても頑丈で解けなかった。何者かの妨害に苛立ちが募る。

 

「こんな時に、なんなのよ!」

 

 ここまで感情を露わにしているのは久しぶりだった。それほどまでに美森は焦っていた。そんな時、後ろに誰かが着地した音がした。首だけを回してそちらを見る。

 

「そこまでだ。須美」

 

 そこには美森の記憶にはない、義理の兄だったはずの人物が『不知火』を美森の首元に突きつけていた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「そこまでだ。須美」

 

 東郷が怒りを隠せない目でこちらを睨んだ。拘束されているために首しか動かせないようだ。

 俺は東郷の首元に『不知火』を突きつけた。

 

「今すぐ戻ってくれれば何もしない」

 

 それで戻ってくれれば何も苦労はしないわけであって。案の定、東郷はそれを拒否した。

 

「それよりどうしてなの!?どうして満開のことを黙っていたの!都合が悪かったから!?」

 

 それは東郷の心からの叫びのように思えた。

 それにあの時、大橋決戦の後ほぼ同じことを俺は安芸先生に向かって言っていた。あの時の先生の表情はまだしっかりと覚えている。きっと一生忘れない。

 

「晴哉くんは知ってたんでしょ?満開のことを!」

 

「……」

 

「黙ってないで答えて!このまま私たちに永遠に地獄を見ろってこと!?」

 

 今、きっと何を言っても火に油を注ぐことになるだろう。それにまた俺は東郷に何を言ってやればいいかわからなくなっていた。だって東郷が言ってることは間違いなく全て事実なのだから。

 

「そうだ。全部知ってた」

 

「やっぱり。あなたも大赦側の人間だったってことね」

 

 それだけは違う。俺は大赦側の人間なんかでは一切ない。ただ、自分のことが可愛くて保身に走り続けた愚か者だ。

 

「言ってもわかってくれるかわからない…。けど俺は勇者部のみんなが大切だ。だから…。っ!!」

 

 その先は後ろから飛来した槍によって阻まれた。右手に『不知火』を持ってなかったら確実にやられていたに違いない。それほどまでに高度な奇襲だった。

 

「いや〜流石の反応速度だね〜。完全に仕留めたと思ったのに」

 

 頭上からかけられたその声はやけに冷たかった。無意識のうちに俺は一歩後退り、その身を震わせた。

 

「本当に来るとは思ってなかったんだけどな」

 

 俺は上を仰いで、改めてその姿を視認した。そこには決して敵に回したくない人物がいた。

 園子は俺から1秒たりとも目を離さず壁の上に着地する。園子は東郷と同様に勇者システムによって足が補助され、その身体の周りには大量の包帯が巻かれている。包帯の間から見えているのは左目のみ。後ろには21体の精霊が控えていた。

 俺はその圧倒的な威圧感の前になんとか虚勢を張って耐え忍んだ。

 

「園子の言う『友達の望んだ世界』ってのは東郷が望んだことって解釈でいいのか?」

 

 園子は少し考えてから、頷いた。

 

「んー、どうだろ。一応そう言うことにしとくよ。それに後は、自分の救済のため。かな」

 

 園子は笑っているが、目が笑ってはいなかった。完全にこちらが隙を見せた瞬間仕留める気でいる。

 

「待っててね。わっしー。すぐ助けてあげるから」

 

 園子は東郷に微笑むと同時に、眼前に槍が迫る。俺はそれを僅かな動作で避け切った。槍の穂先が髪の先に触れ、宙を舞う。

 しかし俺は完全に逆をつかれた形となった。最初から園子はこちらが隙を見せようが見せまいが力で押し倒すつもりだったのだ。俺は『不知火』を振るって槍を迎え撃つ。今こうして打ち合えていること自体が不思議なくらい園子の槍は重たかった。

 

「今の私に勝てると思ってるの?」

 

「さあ、どうだろうなっ!」

 

 一撃目は気合いで押し返したがこれが連続で来られるとまずい。間違いなく押し込まれる。

 一気に片を付けるべく俺は手に意識を集中させた。神器でなければ園子は止められない。

 

(ここまで来たらどうとでもなりやがれ!)

 

 身体なんてどうでも良い。世界も友達も、家族も全員救う。やけっぱちで繰り出そうとした一撃はーーーー。

 

「させると思ってるの?」

 

「っ!!」

 

 俺が神器を取り出す前に園子は槍を展開させ、刃の数を増加させた。増えた刃は園子の意思によって縦横無尽に空間を駆け抜け、俺を封じ込めにくる。

 

「お前、力技で来るのか精密な攻撃で来るのかどっちかにしてくれ。どっちも出来るのは不平等すぎないか!?」

 

「余裕そうだね。私そんなこと、知らないよ」

 

 四方八方から分かれた槍の刃先がこちらに向かって串刺しにせんと飛んでくる。俺は直感でどこから飛んでくるのかを予想して一つ一つを叩き落とし続けた。精霊バリアも抜かれる可能性があるだけに一度の失敗も許されない。

 だが、園子の苛烈な攻撃を前に戦術を考えることができず、無論のこと神器を取り出すことなどできるはずもなかった。

 そして俺は鎖が切れる音でこの攻撃の意図全てを理解した。

 

(そんな簡単に神代の遺物を切られてたまるか!!)

 

「わっしー、今だよ」

 

 園子の槍がそのままの流れで壁に張っておいて障壁を打ち破った。

 

(鎖と神々への祈りによって織りなす障壁という最後の砦を園子はこんなにもアッサリと。こんなの、太刀打ちなんてーーーー)

 

 東郷に自由が戻り、壁を破壊するために崖下へと飛ぶ。

 

「待て!須美!」

 

 追いかけようとするが園子の槍に邪魔をされて一歩も近づけない。必死に手を伸ばし、最後の最後まで足掻く。

 真下で大きな爆発が起こった次の瞬間。

 足場が崩落したーーーーーーー。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 銀は焦りと共に壁の方へと向かっていた。風を止めるために大橋市まで来てしまっていた。風を止めた後、大橋の方から何かが壁に向かって飛んでいったのを見たからだ。

 ここからの距離で追いつけなくもない。だが、ともかくも銀は全てにおいて一手遅れていた。それがこの場においては致命的なミスとなり得る。

 全ては遅く、遠くから爆音が響いてきた。煙に隠れて見えないが、壁に何か起きたのは間違いない。

 

「嘘だ」

 

 慌てて取り出した勇者システムのレーダーから晴哉を示すマークが消滅する。そのかわり、映っていたのは初戦勝者の二名の名前。

 そして突如画面が切り替わり、端末が悲鳴をあげるが如く鳴り響いた。

 

「樹海化特別警報!?なんだよそれ!」

 

 銀は端末から目を離し、正面を見た。

 

「なっ!」

 

 砂塵が海風に靡かれ、その全容が映し出される。銀の目に映ったのは、壁に大きな穴が開き、開けられた壁の上に佇む二人の親友の姿だった。

 

 




色々はしょってしまいましたが何処かで補完はするつもりなのでお許しを。晴哉くん結構無能ですね(笑)
感想などくれるとモチベが上がるのでしてくれると嬉しいです。
今後もよろしくお願いします
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