花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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幕間が続いてすみません。銀編です。どうぞ。


幕間第5話 繋いだ未来

 11月に入り秋が深まり木が赤く染まって行く今日この頃。今、俺はクラスの男子に囲まれている。ある程度話すようになったと言ってもまだまだ友達というには程遠い。だというのに…

 

「鷲尾、お前わかってるよな」

 

 その言葉に乗っかるように他のクラスメイトにより謎の圧力をかけられる。

 

「いや、わからん。俺には何も」

 

 目を明後日の方向へ向け、知らんぷり。それしか有用な方法がないように思った。ついでに口笛も吹いてみる。実際に誤魔化す時にこんなことをするのは俺だけではなかろうか。

 

「俺たちは信じていたのに、お前が先に行くことなんてないって。どうしてなんだよ。どうして俺たちを裏切ったんだよ!」

 

「うるさい。もう少しボリューム下げてくれ。あちらからの視線が痛い」

 

 あちらというのは同じクラスの女子生徒達だ。女子生徒たちは女子生徒で銀を囲んで何かを話している。

 こういう事って小説だけの世界かと思っていたがそんな事ないのだと感じる貴重な瞬間だ。

 銀も何を言っているのかと気になり少しだけ視線を向けると偶然、銀と視線が交錯した。

 少し照れくさくなって顔を晒した。顔、赤くなっていないだろうか。

 そして俺は一つの考えにぶち当たる。

 

(なるほど。これが青春か……)

 

 一生知ることがないと思っていた景色。

 そして他の目から見れば、嘗て俺が馬鹿にしていた頭お花畑のカップル達と同じように見えているのだろう。無駄に豊かな想像力のおかげで、自らの喉元を掻っ捌きたくなる。

 

「死のうかな」

 

「贅沢言うんじゃねえー!!」

 

 教科書で俺は荒れ狂うクラスメイトに頭をはたかれた。

 

「暴力反対」

 

「うるさいお前はいつか地獄に落ちるぞ!」

 

「「「そうだそうだー!!」」」

 

 過去一結束が固そうな男性陣を見て俺は一人呟いた。

 

「こんな時だけ妙な連帯感を生むなよ……」

 

 体育祭の時でもここまで盛り上がってなかったと言うのに、共通の敵を持つと人間という生物は性質上一致団結するらしい。

 

「で、どこまでいったんだ?」

 

「は?」

 

 妙な事を聞く、そうだなクラスメイトBとかにしておこう。なんかそれっぽい。

 

「その、き、キスとかまでいったのか?」

 

 そっと耳元でBが囁いた。男にその手の需要はねえ。

 それに動揺するくらいなら聞くなよと言いそうになるがそれを堪えて、少しだけ過去数週間の自分の行動を振り返ってみる。須美と大橋へと戻ったのが先週末で、友奈が文化祭で頑張ったのがその少し前で…。

 思い出されるのは神社での光景。

 

「……………いや、あれは違う」

 

 あの時は鷲尾晴哉は鷲尾晴哉ではなかった。普段の俺ならあんな事するはずがない。きっと誰かに身体を乗っ取られていたんだ。それに場所が神社というのも大きなネックだ。お祓いされて未練の残った魂が俺に宿りあんな事を…。そうだ。そうに違いない。

 

(俺は一体何に対して言い訳をしているんだ?)

 

 行き先を失った言い訳の数々は己の口をこじ開け、舞い戻った。まるで詰め物をされたかのような感覚。

 口を塞がれ、次の言葉が出さずに黙りこくる俺にガタリと机を鳴らして噛み付くように身体を乗り出した。

 

「したんだな!?」

 

 やっぱり悪い奴らではないのはわかるのだが、この手の話になるとこいつらうざい。コミュ力がない俺はこの手の会話を回避する術を知らない。ただ無言でチャイムを待つこともできる。だが、それだと後々の報復行為が怖かったりする。報復行為と言っても可愛いものの範疇だが。

 常識を守って人をいじり倒すあたりは本当にちゃんと差別化ができているのでここのクラスメイトは賢いと思う。

 ここで俺も答えてしまうから相手もそれに乗っかってくるのだから俺にも責任はある。

 

「おーい、ハルヤー」

 

 どう答えようか迷った時、後ろから声をかけられた。聞き慣れた声を聞き、少し安心してしまった。助けがきた、と。というか件の元凶そのNo.2である。とりあえず女子たちは一通り話し合えた様子だ。まだ授業が始まるまで時間があるから暇つぶしという感じだろうか。

 そして銀は来るなり核爆弾にも劣らない威力の爆弾を投下した。

 

「今日の夜ご飯って何?」

 

 時が止まった。クラス内が沈黙に包まれ、そして止まっていた時が動き出す。俺は言葉を探し出してから銀の方を向く。

 

「あー、お前アホだろ」

 

「「「「殺せー!!!」」」」

 

 この後、俺は長時間の尋問を食らったのだった。結論。全てを吐く羽目になったとだけは伝えておこう。

 

 そんな事があった日の放課後、今日は風先輩の事情で部活も珍しくないということで俺は銀の横に並んで一緒に帰宅している。

 

「いやー、朝はごめんね。普通にやらかした」

 

 ケラケラと笑っている銀はどこか上機嫌そうだ。

 

「やらかしてくれるのはいいけど今日のはまずいだろ」

 

 いくら事情があって隣に住んでいるとしても普通に夜ご飯をほぼ毎回一緒に食べているのは最早周りから聞けばそういう事になるのか?知らんけど。我ながら最近感覚が狂ってきていて、この生活が当たり前になっている自分が少し怖かったりする。ちなみに夏凛は銀が無理やり引っ張ってくるので最近は偶に一緒に食べたりしている。流石にサプリばかりでは身体に悪い。らしい。

 

「まあ、中学生で一人暮らしの方がレアだからこのくらい許されそうではあるよね。うん」

 

 ぶつくさと呟いて一人納得した。最近、というか前から独り言が癖になっている節があるので気をつけたい。

 

「そういや女性陣は朝何を?」

 

 俺はふと疑問に思った事を聞いてみる事にした。

 

「ハルヤの悪口とかその他諸々」

 

「ええ…嘘だ…」

 

「嘘だよ」

 

 あっけらかんとした表情で銀は答える。真実なら俺は今すぐ獅子座バーテックスの下へと一人向かい自爆するところだった。

 

「あまり照れくさいから言いたくない」

 

「それなら仕方ないな」

 

 別に無理してまで聞くことでも無さそうだ。そのうち気が向いたら話をしてくれるかもしれない。

 

「というかアタシとハルヤの距離感って前からあまり変わってないよね」

 

「無理に変えようとしなくてもいいだろ。自然体で行こうぜ?」

 

 俺の言葉に銀が頷いて少しの間だけ、無言で歩き続ける。

 

「…」

 

「……」

 

「…………」

 

「……………」

 

 なんだろ。こういう時に手を繋いだりすればいいのか。タイミングを測りかねてぎこちなく手を差し出してしまう。

 

「えっと、なに?その手は」

 

「なんとなく。言うなれば名シーン。『アタシの手を取れ』だな」

 

「ハルヤは人間の嫌われる事に関して天賦の才があると思うよ。アタシが保証する」

 

 なんでアタシ、こんな人のことを…。とか呟きながらも手を取ってくれたあたり優しさを感じる。心の中で謝っておいた。プラスで感謝状も送ってみたりする。

 

「そんな感謝状いらない」

 

「何も言ってないだろ」

 

 心のうちを読まれて少しだけ焦った。無意識に口から言葉が出てきたわけではないと思いたい。

 

「さっきの自分のセリフで思い出したけど、もうお役目はないのかな」

 

「どうなんだろ。けど、また大赦は何かしようとしてる感じには見えるよ」

 

 『防人』というシステムを作り出したという話は信頼できる人を通して耳には入っている。元勇者の候補生がゴールドタワーに集められたということも。だが、名前を聞いただけでその目的自体はトップシークレットのようだった。その話を聞いてから何週間経ったかは忘れてしまったが。

 

「またハルヤが駆り出される感じなの?」

 

 銀の目は心配そうに俺を見ていた。また何かを一人で抱えて苦しむのではないかと思われているのかもしれない。

 

「もう勇者システムというか『守り人』の地位自体を返還したから駆り出されることはないかな。行くことがあるとすれば自分の意志でって感じ」

 

 その言葉を聞いて銀は安心したように見える。

 

「悩んだら相談。また困ったことがあったらアタシが背中を押してあげる。だから絶対一人で抱え込まないでよ?」

 

「ちゃんと風先輩や樹にも頼るよ」

 

 俺がそう言ったのを確認してから銀は繋いでいた手を一度離してから、小指を立ててこちらに向けた。

 

「?」

 

「約束」

 

 それでようやく何が言いたいかを理解することができた。俺は銀の小指に自分の小指を絡める。

 

「約束破ったら針何本飲みたい?」

 

「俺に選択権を委ねるなよ。せめて指定してくれ」

 

「じゃあ1億本!」

 

 俺はその本数を聞いて吹き出した。

 

「僕が考えた最強の針数みたいな数だな。小学生かよ」

 

 俺のツッコミを聞いて銀が拗ねたように頬を膨らませる。

 

「誰が身長小さいだって?」

 

「誰もそんなこと言ってないんだが」

 

「アタシだって怒ることあるってこと忘れないでくれよ?」

 

「今の俺、何も悪くないと思うんだけど」

 

 こうして会話をしているだけで平和だなあと感じることができる。今の今までが過酷だったのかもしれない。

 銀も同じことを思ったのか「やっと日常に戻った気がするよ」と呟いて頷いていた。

 

「本当にありがとうな。俺のこと助けてくれて」

 

「どうしたのさ急に」

 

「なんとなく言おうと思っただけだよ。隣にいてくれたのが銀でよかった」

 

 本当に心からそう思う。あの日、神社の分かれ道で言われた言葉は一生俺の中で残り続けるに違いない。例えこの先、銀と別れる事になったとしても。そのくらい俺の心の支えとなっている。

 ここでふと俺は思った。俺は銀の助け、というより支えになれているのかどうか。貰ってばかりではこちらも申し訳がない。

 

「まーた、ハルヤ自分のこと過小評価してるな?」

 

 もしかして顔に出てしまっているのだろうか。銀は的確に俺の心理をついてきた。須美にも言われたが、俺は自分のことを過小評価する節があるらしい。謙虚と言えば聞こえはいいが行きすぎるとそれは謙虚でもなんでもない。場合によっては嫌味にもなる。聞く側からすれば聞くに忍びないのは間違いないだろう。

 

「ちゃんとアタシはハルヤに沢山大切なものを貰ったから」

 

 そう言ってもらえるのは素直にありがたかった。

 銀が何かを思いついたのか指をぱちんと鳴らして人差し指を俺の方に向ける。

 

「決めた。アタシの次の目標はなるべくハルヤを前向きな思考にする事で決定!どう?」

 

「どうって言われてもな。…なんか情けなくないか?俺」

 

「今に始まった事じゃないから安心して欲しいね。もう慣れた」

 

 割りかし酷いことを言われた気がするが事実に近いので何も言わず、言おうとした文句は飲み込んだ。

 

「ハルヤが少しでも自分に自信を持てるようにアタシが全力でサポートするから任せといてよ」

 

 それから銀は上機嫌に鼻歌を口ずさみながら俺の横に並んで残り短い家路についたのだった。

 

 夕方、俺は帰宅した後夏凛と共にいつもの浜辺で鍛錬をしていた。最近は俺が頼み込んで夏凛と共に運動させて貰っている。

 

「アンタ、動きが最近軽そうね」

 

「お陰様でな。そっちこそ、後遺症はもう大丈夫なのか?しっかりその場

面見てなかったけど結構な重症だったろ」

 

 全身、とまではいかなかったがそれでも目、耳、腕、足を持っていかれたのはかなり苦しかった筈だ。それこそ治るのにも時間がかかる。今の状態を『御姿』というのだったか、それに適応する時間が必要らしい。

 

「アンタほど柔じゃないわよ私は。なんたって完成型勇者なんだから」

 

「仕方ないだろ。俺の場合素材が弱いんだから」

 

 実際、俺の素材は凄まじく弱い。それは他人に言われるまでもなく自分がそれを一番理解している。

 

「本当になんで鷲尾晴哉なんて弱い人物が選ばれたか私にはわからないわ。…でも、弱いから体を削ってまで誰かを助けようと思うのかしらね」

 

 夏凛はチラリと俺の腕を見る。相変わらず袖の下は空洞だ。あるはずのものがなく、虚しく海風に吹かれてはためいている。

 

「そういや夏凛。話が百八十度回転するんだが楠芽吹って知ってるか?」

 

 俺はふと、気になったので楠芽吹という人物を『防人』というワードを隠しながら聞いてみた。ピクリと夏凛が反応する。明らかに知っている人の反応だった。

 

「なんで知ってるのよ。銀から聞いたの?」

 

「いや、大赦からの新たなお役目的なやつでな。断ったけど気になったから聞いてみただけだよ」

 

 『防人』のことで連絡があった時、大赦側からお役目に復帰するように求められたが断った。そのため大赦も無理には戻そうとしなかった。だが『防人』というのは危険が伴うものらしく、いざとなれば力を借りるかもしれないとのことだった。その際、リーダーの名前だけは聞いたが、どんな性格なのかまでは聞かなかった。

 『勇者』候補生だったとは聞いたので夏凛なら知っているのではないかと思ったのだ。銀曰く、「アタシは夏凛しか見ていないからわからない。だけど最終選抜までは残っていた」とのことだった。

 

「そうね。私もしっかり話したことがあるわけではないから詳しい事は何も言えないわね」

 

「そっか。ありがとう教えてくれて。助かった」

 

 謎のベールに包まれた楠芽吹。一体どんな人物なのか。お役目関連では会うことは無さそうだが、どこかのタイミングで会うかもしれない。覚えておいて損はないだろう。

 

「晴哉、少し休憩したら相手お願いするわ」

 

「よし、ぼこす」

 

「昨日コテンパンにやられた人は誰だったかしら」

 

「コテンパンなんてきょうび聞かないなあ…」

 

 俺は都合の悪い記憶を抹消した。

 水分補給だけをして夏凛から借りた木刀を構える。

 夏凛も倣って二刀を構えた。その顔は自信に満ちていた。なんとかしてあの自信げな表情を崩したい。そして煽りたい!そんな嫌な理由でやる気が満ちてきた。最低だ。俺って。

 

「行くぞ」

 

「きなさい。返り討ちにしてあげる!」

 

 俺は夏凛を地に伏せさせる為に全力で砂を蹴った。

 

 結果は夏凛曰く数日前より良くなったとのこと。曰く惨敗である。

 

「晴哉、アンタ前より弱くなってない?」

 

「それは実感してる。なんというか見えなくなってきてるんだよね、夏凛の動きが。素振りをする分には何も支障はないんだけどな」

 

 視力が弱くなったわけではない。勇者システム守り人バージョンを返還してから急に動体視力、運動神経共に悪くなったのだ。相変わらず原因は不明。本当の意味で人になりつつあるのかもしれない。

 

「銀ばっかりにうつつを抜かしてるからよ」

 

「銀は関係ないだろ…」

 

 謎の言い分に苦笑いで返す。夏凛はどこから取り出したのか煮干しをポリポリ食べている。いつも思うがその煮干し、どこから出てくるんですかね。

 

「美味いか?それ」

 

「栄養にいいのよ。前も説明したじゃない」

 

「生憎忘れっぽくてな」

 

 夏凛から一本だけ投げ渡され、キャッチしたものを口に咥えた。いつぞやのシガレットチョコを思い出す。ぼた餅には負けたが少なくとも煮干しには勝てるだろうよ。

 ちなみにあの後、敗者となったシガレットチョコは一切買ってない。

 

「それで銀とは上手くいってるの?」

 

「唐突だな。自分的には上手くやってるつもりだけど?」

 

 特に今の所は何もない。普通に過ごしている。

 

「東郷と二人でいたって目撃証言があるけど」

 

「いやいや、妹といるのは何も悪く……待て」

 

「そういうことよ」

 

 この時、何かが一瞬歪んだ気がした。なんの前触れもなく。何かが根底から覆されたような、嫌な感じに襲われる。

 

「…東郷って誰?」

 

「えっと、確かに誰よ。そんな人いた?」

 

「というか、今俺たち誰の話してたんだっけ」

 

 唐突に訪れた異変。だが、それが気になるのも一瞬だった。気づけばそんな違和感など消えてなくなり、いつもの自分達に戻っていた。

 

「風と二人でいたって目撃証言があるけど」

 

「いやいや、風先輩は普通に部活だっただけだって。猫探しの依頼」

 

「どうだか。まあいいわ。もう一本!」

 

 この日、結局俺は一度も夏凛に勝つことはなかった。

 

「いてて…夏凛のやつ、本気になりすぎだ」

 

 銀が俺の腕に湿布を貼りながらため息をついた。

 

「もう無理しないでと言ってから全然時間経ってないんだけど、全く。ここもアザになってそう」

 

 夏凛との鍛錬で俺は腕や脚を普通に怪我した。家に帰るなりボロボロになった俺を見た銀が看病してくれているわけである。相変わらず情けない姿しか見せれてない自分が嫌になった。

 

「ありがとう。もう大丈夫」

 

「どういたしまして」

 

 母親みたいだなあと思いつつも口には出さず、そう思うだけにとどめておいた。言わなくていいこともあると最近ようやく学んだ。遅い。

 

「なんか弟たちの怪我の手当てしてる感じに近い」

 

「俺、一応中二なんですけど」

 

「怪我して帰ってくるんだから一緒だよ。ほんと、手のかかる人だこと」

 

 お前は誰だよと突っ込みたくなる衝動も抑え込み、救急箱を仕舞いに行っている銀の背中を眺めていた。

 ここで後ろから抱きしめたらどうなるのだろうか。ふと、そんな危うい想像が頭をかすめる。

 俺は頭を振ってその思考を振り払った。そして大きく深呼吸。

 

「何してるのさ」

 

 一部始終を見られていたようで銀が変なものを見る目で俺のことを見ていた。そりゃ第三者視点で見れば頭のおかしい人にしか見えないだろう。

 

「煩悩?的なものを振り払っただけだよ。気にするな」

 

「?」

 

 銀が首を傾げるのをよそに俺は立ち上がって台所に立つ。さて、今日は何を作ろうか。

 

「リクエスト、あったりするか?」

 

「んー、カレーとか?」

 

 時計を見ると七時を回っていた。カレーは簡単だが少々時間がかかる。

 

「聞いといて何だが、ちょっと時間的に厳しいかも」

 

「えー、じゃあ…あっ!焼きそば!」

 

「急にハードル下がったな。そんなのでいいならいくらでも作るよ」

 

 俺がそういうと銀は嬉しそうに笑った。そして、銀も手を洗ってから俺の隣に立つ。

 

「アタシも何か手伝うよ。なにしたらいい?」

 

 俺はその助けをありがたく受けることにした。正直休んでいてくれても構わなかったが本人からのお申し出とあらば承ろう。

 

「じゃあ野菜とか切ってくれると助かる」

 

「よーし、アタシの腕前、とくとご覧あれ!」

 

「変なことするなよー」

 

「わかってますよーっと」

 

 銀はまた鼻歌を歌いながら野菜を切っていく。やはり何処か今日の銀は機嫌が良さそうだ。

 

「何かあったのか?機嫌良さげだけど」

 

「ふふふ、もうすぐ来るよ」

 

「何が?」

 

 その時、玄関が盛大に音を立てて開いた。

 

(鍵閉めるの忘れてた!?え、待って待って。今の俺、もう戦えないよ?不審者迎撃できないよ?)

 

 ドタドタとその足音は廊下を駆け抜けて、不法侵入者は姿を現した。

 

「二人ともー!何する何する!?爆発するー!?」

 

 俺はその姿を見て呆気に取られた。入ってきて早々テンション爆上げ。

 今まで寝たきりで頭のネジが飛んでしまったのか、超絶ご機嫌の園子がそこにはいた。

 

「ハルスケ驚いてる驚いてる〜。サプライズは大成功だね〜」

 

 どうしてこうも神樹館組はサプライズをしたがるのだろうか。今のところ銀と園子はびっくり大賞ツートップだ。何だよびっくり大賞って。

 銀と園子は結託していたのか成功したことを喜んで二人でハイタッチしている。

 

「なるほどな。上機嫌なのはこういうことね」

 

「ごめんハルヤ。折角だから驚いてもらおうかと思って」

 

 園子は満足そうに頷いてから俺と銀が調理している台所を覗き込んだ。

 

「これは、焼きそば〜?」

 

「そういや銀と園子、一緒に作るって約束してなかったか?」

 

 俺は小学六年生の頃の遠足の時、ニ人でしていた約束を思い出した。

 

「そう言えばそんなこともありましたな〜。いい思い出なんよ〜」

 

 園子は少し前を回想しているようだ。

 そんな園子を尻目に俺は自分の手元をみる。まだ言うほど作業は進んでいない。銀も同じように始めたばかりで中途半端だ。

 来たばかりでもよければ園子にやってもらおう。その方が良さそうだ。

 

「園子、銀に教えてもらったらどうだ?折角なんだし」

 

「じゃあ、お願いしようかな〜。よろしくね。みのさん!」

 

 最初は少しだけ迷っていたが、最後にはとびっきりの笑顔を銀に向ける。銀も嬉しそうに頷いてから園子の隣に立って一つ一つ教えていく。

 俺もそんな二人を見ていると段々と嬉しくなってきた。だけど、それでも心の中では何かが足りないような。そんな感覚がしばらく燻っていた。

 

「それにしてもいつからこっちに?」

 

 三人で作った焼きそばも食べ終わり、お茶を飲みながら俺は園子に聞いた。

 

「本当はもうちょっと前からいたんだけどね〜。ハルスケ、全然学校来てなかったから会えてなかったんだよ」

 

「最近、検査検査検査だったからな。嫌になるよ。大赦が負担してくれる分にはいいんだけど」

 

 鷲尾家に帰ってから数日後大赦に急遽、腕の検査に身体の検査、おまけに精神状態の検査までされてこちらとしては軽く鬱状態になりかけた。もうこれ以上は勘弁願いたい。

 

「確か二週間くらいだよね、ハルヤが検査受けてたの。ちょうど園子と入れ替わりって感じだったはず」

 

「それまでずっと大橋の方いたからな。逆に今日、園子がいなかったと」

 

「そうだね〜。私も私で大赦に呼び出されちゃったから〜」

 

 通りで会うことがないわけだ。互いにすれ違いを続けていたらしい。

 それにしても大赦は何をしようとしているのか。潜入して調べようと思えばできないこともないが、何かに巻き込まれる予感がして少し躊躇ってしまう。

 

「それにしてもさ、何か足りない気がしない?」

 

 銀が唐突に釈然としない表情で俺と園子の顔を交互に見る。

 

「足りない気がしない?って言われても俺たち元々三人じゃん。お茶菓子ならあるし…」

 

「みのさん、まだ食べ足りないのかな〜?」

 

「アタシ、そんなに食い意地張ってないよ!?」

 

 俺も銀に近い感覚を抱いているとは言え、それでも何が足りないのかもわからない。夏凛と鍛錬している時、銀と園子と料理をしている時、ずっと考えていた。結論は結局一つに落ち着いてしまう。『わからない』この一言で全てが片付く。

 

「うーん…なんだかなー」

 

 やはりまだ銀は納得いっていないようだ。

 ふと、何を思ったのか俺は部屋にあった写真を見てみた。

 銀が園子の家で着せ替え人形にされていた時の写真だ。あの時は何となくシャッターを回して、自分が写っていないが園子と銀。あと誰かが写っていたからこうして写真を現像し飾ってある。

その写真の中には銀と園子が笑顔で写っている。

 

「………」

 

 銀と園子の間に不自然な間が空いていた。その間に違和感を感じてもやはりそこにいるのは二人しかいない。

 

「三人…か…」

 

 やはり何度考えてみても結論は変わらない。何かきっかけが有ればいつか思い出すだろう。俺は諦めて視線を二人に戻した。銀も園子も結局、何が足りないのか分からなかったのか同時に視線を戻す。

 

「それより聞いてよハルスケ。私、勇者部に入部したんよ〜」

 

「知らない間に色々進んでて俺混乱」

 

「ははは。ハルヤがいない間にアタシたちバンド組んでたしね」

 

 マジで何してたんだろうかこの人たち。というか写真自体は送られてきたので何をやっていたのかも把握はしているがそれでも苦笑いをするしかないこともやっていたりする。

 

「前のサバゲーな。あれ、よくやったな。園子の爆弾処理班の格好は流石に謎だったけど」

 

 俺がそう言うと銀も当時のことを思い出したのか苦笑いしている。

 

「園子が言うにはあれも青春の一ページなんでしょ?」

 

「まだまだ沢山やりたいことあるからね〜。こんなものじゃ終わらないよ〜」

 

 次くらいからは園子の青春とやらに付き合えるだろうか。楽しみにしておこう。

 

「それより私、今日来ちゃったけど二人の邪魔しちゃった?」

 

「驚きはしたけど邪魔なんかではないよ。友達のこと、邪魔なんて言うようじゃ人として終わってる」

 

 銀もうんうんと頷いてくれた。俺と銀の様子を見て園子も嬉しそう笑う。

 

「私、やっぱりハルスケの事好きだな〜」

 

 俺は軽く吹き出して、銀は笑顔で固まった。当の園子は呑気にお茶を飲んでホッと息をついている。

 

「みのさんもそうだし、ハルスケも。今の勇者部もそうだけど、私みんなの事やっぱり大好きだよ〜。いや〜、この世界を壊さなくて本当に良かったよ〜」

 

「「紛らわしい!!」」

 

「ひゃい!?」

 

 園子はある種の爆弾発言を残して部屋を去っていった。来てから帰るまでどこか振り回された気がする。当の本人は「またね〜」と相変わらずふわふわした空気感でお帰りになられた。

 帰り際、園子がある事を耳打ちしていった。勿論それは俺も理解している。というか学校で今日散々銀も言われただろうし今更感はあるが。ちなみに勇者部では昨日終わっている。

 俺は銀に手伝ってもらいながら皿を片付け終わり、二人でぼーっとテレビを目的もなく眺めている。という体を俺は装った。

 

「まだ帰らなくても大丈夫なのか?」

 

「何を今更。隣だし大丈夫。早く帰った方がいいなら帰るけど?」

 

「いや、寧ろやめてほしい。ちょっと待っててくれ」

 

 銀は俺の不可解な言葉に首を傾げる。

 俺は隣の自室にある1ヶ月ほど前に友奈に協力してもらって用意した誕生日プレゼントの入った小包を机の引き出しから取り出した。

 部屋に戻り、それを俺は銀の目の前に差し出す。

 

「なんだ…その。気に入ってくれると俺としては助かる」

 

 俺は不安と緊張、照れを隠すために首筋の辺りを軽く掻きながらそっぽを向いてしまった。なんとも格好のつかない。

 

「アタシに?」

 

 銀が恐る恐るといった感じで包みを手に取る。

 俺はひとまず手に取ってくれた事で緊張が少しだけ解けた。

 

「開けてもいい?」

 

 俺はその言葉に頷いた。また解けたはずの緊張が戻ってくる。よっぽどバーテックスと対峙した方が気持ち的には楽だと感じた今日この頃。そんなことを考えている間にも銀は丁寧に包みを外し、中から小さく花をあしらった髪留めを取り出した。感覚的には友奈が好んで付けているものをもう少し大人用にした感じだ。

 

「髪留め?」

 

「銀への誕生日プレゼントなんだけど。そんなものでもよければ受け取ってほしい」

 

 まだ銀は処理速度が追いついていないのか目を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し、自分の手に乗せられている小さなプレゼントを見つめている。

 

「銀?」

 

「ハルヤがこういうの用意してるなんて…」

 

「驚く理由そこかよ」

 

 ここでようやく銀が少し笑ってくれた。拒否された訳ではないとわかって不安もとりあえずは無くなり、俺は改めて銀の目をまっすぐみる。そして、鷲尾晴哉個人として言う初めての言葉を俺は紡いだ。

 

「誕生日おめでとう。銀」

 

 俺のお祝いの言葉に銀は照れ臭そうにしていたが、その小さなプレゼントを大切そうに胸に抱えて、最大級の笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう。ハルヤ!」

 

 俺はもうその笑顔を見れただけで満足だ。銀の笑顔に引っ張られるように俺も自然に笑みが溢れる。

 銀が早速、誕生日プレゼントの髪留めをつけてくれた。

 

「どう?似合ってる?」

 

 銀は何故か合っているかを不安そうに俺に聞く。正直なところ俺の方が不安で押しつぶされそうなんだが。

 

「すっげえ似合ってる」

 

「えへへ、そう?」

 

 嬉しそうにしてくれている銀を見ていてようやく俺自身、不安が完全になくなった。

 

「明日から学校付けてこうかな」

 

 それくらい気に入ってくれたのなら俺も選ぶのを手伝ってくれた友奈も本望だと言うもの。また注目を集めそうだ。

 

「ねえ、ハルヤ。ちょっとこっち来てよ」

 

「ん?いいけど」

 

 俺が銀に近づくと、銀は俺の腰あたりに手を回して身体を寄せた。自然と二人の身体が密着する。

 

「え、ちょ!?」

 

「アタシ、生きててよかった。生きれてよかった。…あの日、ハルヤが助けてくれたからこうして学校にも行けて、部活もやれて、こんな嬉しい気持ちも味わえた。きっとハルヤがいなかったらアタシ、もうここに居なかったと思う。だからありがと。ハルヤ」

 

 耳元で囁かれたその言葉は俺の深いところまで沈み込み、届いた。

 

「俺の方こそ、銀を守れてよかった」

 

 俺は片手で強く銀を抱きしめる。

 銀は顔を俺の胸の辺りに埋めた。

 彼女は泣いていた。

 俺は静かに、銀の頭を撫で続ける。

 

「こんな俺だけど、改めてよろしくな。銀」

 

 銀は小さく頷く。俺は銀が満足いくまでその身体を抱きしめ続けた。

 




こういった文を書くのは初めてで変な感じかもしれませんがご容赦ください。予防線張っときます笑
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