花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第三幕 種は巻かれ、蕾となる
第一話 しらぬいゆきと


 不知火幸斗は岐阜県に住む、普通の小学生だ。特に何かに秀でたわけでもなく、これと言った特徴は何一つとない。成績もまじめに授業は受けているのに全く伸びることはなく永遠に中間を彷徨っている。

 唯一の長所と言えば、友達を作ることが上手いことだろうか。そんな幸斗の周りからの評価は極度のお人好しだった。

 今は朝の学活中で、担任の先生がしている次の週に行われる修学旅行の話を真面目に聞いていた。

 先生が注意点などを話しているのに当日の話で盛り上がってしまい聞いていない人たちもおり、想定できた光景とは言え混沌としていた。先生に注意され、ようやくその集団も静かになった。

 学活が終わった後、親友の川上瑞樹が幸斗に話しかけてきた。

 

「個別行動一緒に回ろうぜ」

 

 幸斗の通う小学校の修学旅行には珍しく個別行動が実施されている。ちなみに行き先は京都、奈良だそうだ。個別行動は京都にて行われる。

 

「次の時間も修学旅行関係だったっけ?」

 

「そそ。他にもあと二人くらい誘っておくよ。いつものメンツでいい?」

 

「りょーかい」

 

 いつものメンツとは少年野球に入っていて仲のいい幸斗と瑞樹を含めた四人組だ。基本、瑞樹の家に入り浸っている。

 瑞樹は二人を探しにどこかに行ってしまった。そんな時、地が震えた。

 

「また地震か」

 

 ここ最近、自然災害が多発している。政府も気象庁も原因を特定できていないそうだ。世界中で同様の現象が起きており、巷では世界終末が迫っているのではないかと言う輩までいた。

 幸斗はそんな説、意味のないものだと一蹴していた。今の地震は小さかったが先日、プレートなどがなく、地震が起きる可能性が極めて小さな場所で震度7の地震が起きたのもその説に拍車をかけたのだろう。火山も噴火していたし、もう何がなんだか。

 それから数日は何事もなく、修学旅行へと漕ぎ着けた。

 奈良で大仏を見たり、鹿に煎餅を与えたりしていると何も考えずにいられた。世間で心配事が増えており、それを敏感に察していた子供からすれば一時の安らぎでもあった。

 あっという間に、楽しい時は過ぎていくものだ。

 夜になり小学生ご一行様は奈良市内の旅館に宿泊することとなっていた。幸斗は瑞樹とあと二人の親友である月波瑠夏と一色光輝と四人で班も組み、同じ部屋で寝泊まりすることとなっている。ちなみに瑠夏は男で名前のことでちょくちょく悩んでいる。幸斗はそこまで嫌がる名前ではないと感じていた。

 部屋に入って解放された幸斗を除く三人はテンションが爆上がりしており、小学生ならではという感じだ。

 幸斗はその光景を少々引き気味に見ていた。微妙についていけずテレビをつけると、島根県や鳥取県に避難勧告が出ていた。かなり大きい地震があちらの地方では続いているようだった。

 

「またか。変な世の中だこと」

 

 幸斗がボソリと呟いていると、光輝が幸斗の肩越しにテレビを覗き込んだ。

 

「大変みたいだね。あっちの方」

 

 完全に他人事だった。幸斗は変な説は信じてはいないが、明日は我が身と考えていたので光輝の発言には少し眉を顰めた。

 

「まーた難しい顔してるよ幸斗は」

 

 瑞樹が幸斗の肩をほぐすように揉む真似をした。

 

「この真面目ちゃんが〜、折角のお顔が台無しだぜ?」

 

 ぷにぷにと瑠夏が幸斗の頬をつついた。幸斗はしばらくの間、されるがままになっていた。

 その時だった。ガタガタガタと窓が不協和音を奏で始めたのである。そして下から突き上げるような感覚。

 

「うわあっ!!!」

 

「大きすぎる!!」

 

 何の前触れもなく、過去最大級の揺れが日本のみならず世界中を襲った。揺れが治るまでにかなりの時間を要した。幸斗達がいた建物が崩れることはギリギリなかったが、それでも怪我人は大勢出た。建物のあちらこちらから悲鳴や助けを求める声。安否を呼びかける声が聞こえてくる。

 

「早く逃げよう」

 

 瑞樹の言う通り、早く外に出た方がいい。幸斗が同意して部屋を出ようとした時だった。

 窓に何かが打ちつけられた。四人ともその音がした方を向く。

 

 ーーーー赤く染まった生首がそこにはあった。

 

「うわあああぁああ!?」

 

 誰の悲鳴かわからないくらい幸斗は頭の中が真っ白になっていた。

 恐怖に埋め尽くされた瑠夏がその場に崩れ落ちた。まだ比較的正気を保っていた瑞樹が無理矢理引っ張り、部屋の外へと連れ出した。

 

「なんなんだよ、これは」

 

 部屋の外はさらに阿鼻叫喚としていた。

 天井や壁には穴が開き、白い化物が何かを食らっていた。その何かが人であると気づくのにかなりの時間がかかった。

 

「なんなんだよ……。なんなんだよっ!!」

 

 混乱して取り乱す幸斗の近くにぼとりと足が落ちてきた。それを見てさらに足が震える。

 

「嫌だ!嫌だああああ!」

 

 その悲鳴にハッとなって前を向くとクラスメイトが白い化物に食いちぎられていた。もう既にそのクラスメイトの声はしなくなっていた。

 足は震えているのに頭だけはやけに冷静だった。混乱していた思考は妙に澄み渡っている。

 

「みんなが食われてる間に外に出よう」

 

 もうそれしか方法がなかった。いくら幸斗が他人からお人好しだと評価されていようが、この状況下では何もできるはずがなかった。

 それを示すかのように教師が生徒を化物から助けようと瓦礫で殴りにかかるが、化物は意にも返さず教師を食いちぎった。

 迷っている間に目の前で光輝が悲鳴もなく消えていった。瑠夏も助けを求めながら消えていった。幸斗はその声に応えることができなかった。ただひたすらに自分が生きることだけを考えていた。

 

「幸斗、このままじゃ!」

 

 唯一生き残っている瑞樹の手をとって幸斗は走り出した。

 

「瑞樹、走れ!」

 

 地獄と化した旅館をなんとかくぐり抜けると、さらにそこには地獄が広がっていた。本格的に世界は終わってしまったらしい。

 幸斗は瑞樹と導かれるように、共に近場にあった小さな神社へと滑り込んだ。この場だけ不思議とあの白い化物はいない。

 

「どうなってんだよ一体!」

 

「落ち着け瑞樹。とりあえずここで休もう」

 

 親友二人を失って落ち着けるわけがない。だがそう言う言葉をかけることしかできなかった。頭が真っ白になったのはあの一瞬で今はそれほどでもなく寧ろ頭は冴えていた。

 

「大きく息を吸って、そうそう。よし、OK。戻ったね」

 

 幸斗に促され、深々と息を吐いた瑞樹も落ち着きを取り戻したようだった。その間に幸斗は岐阜にいる家族に電話をしたが誰もでず、全てを悟った。瑞樹も同様にもう家族が誰も生き残っていないと悟ったのか無言で空を見上げた。

 それに、この付近の生き残りはもしかしたら自分達二人しかいないのではないかとも感じていた。まだ悲鳴は聞こえている。肉が爆ぜる音も耳にいやらしくこびりついていた。

 

「こっからどうするかな」

 

「………」

 

 話しかけても瑞樹からいつものような反応は返って来ない。冷静さを取り戻したと言ってもいつもの調子はまだ取り戻せてはいないようだ。

 幸斗はどうすることも出来ず、気晴らしに神社の本殿と思わしき場所を覗き込んだ。

 

「ん?なんだあれ……」

 

 その中に光る何かがあるのを見つけた。不敬とわかりながらも本殿の格子を外して中に入り、その光る物を手に取った。

 

「なんだこれ、ハンマー?」

 

 銀色に輝く、ハンマー。正しく言えば大鎚だった。それはあまりにも場違いなように感じた。だが、それにはただならぬ力が秘められているのが手に取るだけでわかった。それは人の物ではない。その大鎚を眺めていると何かの気配を感じた。

 

「幸斗、あいつらが!」

 

 瑞樹が転がり込んできた。その顔は絶望に満ちていた。

 気配を探るにこの場は既に化け物に包囲されているようだった。もうなす術はなさそうだ。このまま自分達は結局化け物に食われてる死ぬのだろう。包囲をするだけして、攻撃してこない。それはあの化け物どもが自分達二人を嘲笑っているかのように感じた。

 そんな時、声が聞こえた。

 

「今の声、幸斗?」

 

「いや、俺じゃない。他に誰かいるのか?」

 

 周りを見渡しても誰もいなかった。残るは手元にある大鎚のみ。

 

「俺たち、狂ったのか?」

 

「こんな状況なら狂いたくもなる」

 

 幸斗はそう瑞樹に返して、一番怪しい大鎚に再度手を触れた。

 

 「ぁ」

 

 世界が真っ白になって、幸斗は夥しい数の何かを見た。それが何であるかは今の幸斗には理解不能だった。また声が聞こえる。

 

『こちらと手を組め。そしたらこの状況を打開させよう』

 

 一方的に声が話を進める。

 

『だが、犠牲無しでこの状況を打開できるとは思っていないだろう?』

 

 ならどうしろと言うんだ。そう幸斗は言ったつもりだったがこの声は恐らく相手には伝わっていないだろうが。

 でも今はこれしか方法がなかった。無我夢中で感覚のみを頼りに手を伸ばした。そして何かに触れた。

 再び光に飲まれ、意識が現実へと戻る。目を数回瞬かせ、視点を合わせてようやく視界がもとに戻った。手からは大鎚は消えていた。

 

「瑞樹、俺何して…瑞樹?」

 

 隣を見ると何故か瑞樹は泣いていた。

 

「おい、どうしたんだよ」

 

 声をかけても瑞樹は泣き止まず、俯いたままだった。今の一瞬の間に何があったのかと困惑するしかなかった。

 数分経ってようやく落ち着いた瑞樹は泣き腫らした目で幸斗を見た。何かを乞うように。

 

「大丈夫か?何があったんだよ」

 

 瑞樹は唇を震わせながら、泣き笑いのような表情をして言った。

 

「生きてくれ」

 

 その言葉に幸斗は困惑した。

 

「何言ってんだよ。どうしちゃったんだよ!」

 

「犠牲が必要なんだ」

 

 その言葉は先程、自分が聞いたのと同じ言葉だった。

 

「誰かが犠牲にならなくちゃいけないんだ」

 

「だから、何言って…」

 

「俺の手を握れ」

 

 もう幸斗は何がなんだかわからなくなっていた。自分が数秒意識を失っている間にこの友人に何が起こったのか、全く理解できなかった。

 

「ただで力を手に入れるわけにはいかないだろ?」

 

 もうその先は瑞樹の声は頭に入ってこなかった。

 

「お前は選ばれたんだ」「これから多くの人を救う」「俺はその手伝いをするだけだ」「等価交換ってやつだよ」

 

 繰り返される理屈が一切通らない言葉の数々。幸斗は何度も首を横に振った。

 

(うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!

誰が嬉しくて親友を!!)

 

 それにもう幸斗は大鎚を握った時に大鎚の能力を知ってしまっていた。そして瑞樹の手を握った瞬間に起こることも。等価交換。その通りだった。親友の命を奪ってまで『武器』を作り出す。そんなことできるわけがない。認めれるわけがない。

 鈍い音がして瓦礫が外から飛んできた。痺れを切らした化け物が襲いかかってきた証拠だった。

 

「早く!幸斗!」

 

 瑞樹が手を伸ばす。先程、光の中で見たままの光景が繰り返される。

 

「生きるんだ、お前は!生きて、守り通せ!」

 

 幸斗はもう躊躇わなかった。伸ばされた手に触れる。親友は最後に優しく微笑んで光の粒子となった。

 そして、光の粒子は纏まり、剣の形を作り出した。その剣は燃えるように赤い刀身をしていた。もうそこから先は覚えてない。

 気づけば周りにいた化け物は全て消えていた。

 神社から少し歩いた場所で幸斗は膝から崩れ落ちた。様々な感情が入り乱れて自分の頭を掻きむしったあと、空へと吼えた。

 

「あ、あぁ…ぐっ…うう…ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 自分だけ生き残った。それも大切だった人を犠牲にしてまで。

 

「何が犠牲だよ、何が等価交換なんだよっ!これの…これのっ!何処が等価交換なんだぁあああああ!!!」

 

 あまりにも失ったものが大きすぎた。それに自分はどんな形であれ、親友の命を奪ったのだ。小学生には重たすぎる十字架だった。幸斗はただただ叫び続けた。

 

「なんでお前は俺を選んだんだ!俺なんかじゃなくて、もっと適した人間がいるだろうが!死ぬなら俺でよかったはずだ!ふざけるなよ。ふざけてんじゃねえよ!」

 

 どれだけ怒りをぶつけようがその声は誰にも届くはずもなく虚空へと消えていった。

 もう叫ぶ力もなくなると幸斗は立ち上がるとまだ皮肉にも動く携帯端末を取り出してSNSを開いた。

 

「四国は……何も、起きてないのか…」

 

 端末をしまうと、幸斗は亡霊のようにあてもなく、唯一今現在無事な四国へと向かったのだった。

 

 何もかもを失い、親友の命を奪った不知火幸斗には自己破壊衝動が生まれていた。死ぬのは自分だ。死んでいいのも自分だけだ。誰かを失うくらいなら、自分が死ねばいい。その目は既に少年の純粋無垢なものではなく、狂気じみたものへと変貌したのだった。

 

 

 『金屋子神(かなやごかみ)』不知火幸斗に()()に力を貸した鍛治の神。その力は悍ましく、呪われている。だが、人類はこの呪いの力を借りなければならないほどに切迫していた。

 今一度確認しよう。今の話は序章に過ぎない。今から本格的に語るのは誰からも忘れられ、記憶にも、記録にも残らなかった少年の物語。そして、あの御伽噺の補完。

 つまらない思い出話だけど付き合ってくれると助かるよ。

 そうだね。次は、奈良で出会った人との話をしようか。

 

 

 

 




以前告知したコラボですがまだしばらくお待ちください。
まだ今回は前日譚みたいなものなので気楽にどうぞ。(内容が気楽とは言っていない)
アンケート可能な限りどうかご協力お願いします。
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