花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第3話 歩み寄り

 学校の保健室で俺たち4人は検査を受けていた。

 一応ただの保健室ではないらしい。それなりに設備もしっかりとしている。おまけに素人にはわからない術式なんかも加えられている。

 

「ありがとう。鷲尾さん。よくやってくれたわ。今回の戦いの記録も、敵の解析に大きく役立つわ」

 

 普段は厳しい安芸先生が須美の頭を優しく撫でていた。

 

「ありがとうございます。三ノ輪さんと乃木さんのおかげです」

 

 と須美が少し照れくさそうに言っているのを見ながら俺は考えていた。

 

(バーテックスの動きにはある程度の知性があった。どうやれば最速最短で目の前にいる対象を殺せるのかわかっているかのようだった。仮に本能でやっていたとしても注意しないと…)

 

「鷲尾くんもよくやってくれたわ。ありがとう」

 

 目の前に安芸先生が立っていた。

 

「いえ。訓練通りやっただけです」

 

「貴方は変な所でストイックね。普段の生活も訓練の時くらい真面目にやってくれればいいのに」

 

「………」

 

 何も言い返せず黙る俺を安芸先生は苦笑しながら見た。

 

「とにかくお疲れ様。ゆっくり休んで明日に備えなさい」

 

 銀を除く三人は検査してくれた人たちにお礼をいい、その場を後にした。

 

 校門前まで肩を並べて歩いている園子と須美の後ろを俺はついて行った。普段ならここで別れてまた明日だ。けど今日は違う。

 須美も思うところはあるのだろう。今日危険を招いた原因はバラバラに動いたことにある。

 チームワークが足りなかったのだ。

 

 須美は真面目ゆえの義務感で、園子に声をかけた。

 

「ねぇ、乃木さん。よければ、その…今日は、栄えある役目も果たしたことだし、祝勝会でも、どうですか?」

 

 お前本当に10代か?そんな口調で誘う人そんなにいないだろ。それにあまりにもぎこちがない。

 だが園子は須美の誘いにぱあっと顔を輝かせた。

 

「うんっ!いこういこう!」

 

 すごい喜びようだった。思わず須美の手をガシッと掴んで握手を交わしている。

 

「ありがとうね。私今、シオスミを誘うぞ誘うぞと思って。でも、なかなか言い出せなくて!だから…すっごく嬉しいんよ!」

 

「乃木さんもそうなんだ…」

 

 須美は乃木を誘う事に成功して安心しているようだ。自分と同じ気持ちだったと言うのも少しばかり嬉しそうだ。

 そしてなんかすごい語り合っている。わいわいと盛り上がる彼女たちを見て何故か心が冷えていくのがわかった。

 意味がわからなかった。まだ一度とはいえ互いに命を預け戦った仲であるのに。

 そんな俺とは対照的に須美と乃木の会話は予想以上の盛り上がりを見せていた。

 

「フードコートはいいけどその、シオスミだけはやめて欲しいかな…」

 

「えっ、じゃあねえじゃあねえ…ワッシーナとか?どう?」

 

「なんかアイドルみたいじゃない。乃木さんもソノコリンとか嫌でしょ?」

 

「わあっ!素敵!」

 

「ごめん。忘れて」

 

「あっ!閃いた!わっしー!これならどう?」

 

「変な呼び方になるよりはいいかな」

 

「やったー!これからよろしくね!わっしー!」

 

 須美の呼び名はわっしーに決まったようだ。

 園子はまた須美の手を握る。側から見ても須美は嬉しいそうだ。はしゃぎながらイネスへと向かう姿は、そこには勇者であったという面影はなくただの年相応の少女そのものだった。

 俺はと言えばただずっとその光景を冷めた目で見ていた。

 

「あ、ハルスケも一緒にどお〜?」

 

「いや、ハルスケって。…俺はやめとくよ。三ノ輪を一人にするのもちょっとな」

 

 銀はただの言い訳でしかなかった。この冷めた心の要因はわかっている。

 怖いのだ。誰かに深く関わることが。相手の心に踏み込むことが酷く恐ろしい。

 

「というわけで須美。楽しんでこいよ」

 

 俺はそれだけ言うと自分の中に宿る気持ちを振り払うようにして、来た道を校舎へと戻っていった。

 

「よう」

 

 俺は保健室へと戻り、まだ保健室のベッドの上で横になっている三ノ輪に手を挙げる。予想外の人物の登場に三ノ輪は驚きの表情を浮かべる。

 

「あれ?鷲尾兄じゃん。何してんの。帰らなかったん?」

 

「なんとなく残っただけだよ」

 

「2人は何してんの?帰った感じ?」

 

「イネス行ったぞ」

 

「ええっ!?このアタシを置いて!?」

 

 なんかすごい驚かれた。

 

「いや、お前バーテックスの水飲んで検査中だったろ」

 

 三ノ輪は頬を膨らませ拗ねていた。イネスってそんなに魅力あったっけか。

 

「鷲尾兄は行かなくてよかったの?」

 

「女子会を邪魔するなんて無粋な真似すると思うかいジョニー?」

 

「誰がジョニーだ!あたしは女の子だぞ!」

 

 とりあえずこれだけ元気に会話できて突っ込みもできれば大丈夫だろう。

 そんなやりとりをしている途中、保健室の扉が開いて安芸先生が入ってきた。

 

「三ノ輪さんお疲れ様帰っても…あら、まだいたのね鷲尾くん」

 

「帰ったんですけどねー。ちょいと気が変わりまして」

 

 俺は適当に誤魔化すが、それが先生には俺が体調が悪いのを誤魔化しているように見えたらしくわざわざ俺の体調を気遣ってくれた。

 

「どうしたの?何処か悪い?」

 

「そう言うわけじゃないです。体はなんてことないです。銀を1人にするのが心苦しかっただけで…」

 

 何度も思うが下手な言い訳だ。須美と園子を見て形容し難い何かに取り憑かれたのを誤魔化しているだけ。

 

「理由はなんでもいいわ。それよりも三ノ輪さんのこと送って行ってくれないかしら。もう暗いし」

 

 送ってけとな。外を見ると確かに暗い。変な輩はいないだろうが念には念をってことだろう。一応今でも勇者の"守り人"であることには変わりはない。お役目ということにしておこう。

 

「わかりました。任せてください」

 

「やっぱり貴方は変な所で真面目ね」

 

 俺の返答に先生はまた苦笑した。

 

 

 銀の家は鷲尾家とは逆の方向だ。

 お互いに無言で歩く。俺は銀から一歩離れ後ろからついて行っている形だ。

 

「あのー鷲尾さんや」

 

「どったの三ノ輪さんや」

 

 数歩前から声がかけられる。

 

「なんで隣歩かずに後ろにいるのさ。とても喋りにくい。話したいこと沢山あるのに」

 

「なんとなくだ…けど、まあ。理由はない」

 

 仕方なく俺は三ノ輪の隣に並んだ。影もそれと同じくして並ぶ。

 

「ああー、なんであたしだけ検査長いんだよ。みんなとイネス行きたかったのに」

 

 三ノ輪は手を頭の後ろにやりながら面白くなさげに呟く。

 

「また今度行く機会あるだろ。多分、三ノ輪が声かけたらあの2人すぐ行くぞ」

 

 特に園子。先程のはしゃぎ様を見ているとすごく喜びそうだ。須美は最初は嫌がりつつも渋々ついて行って結局楽しむってオチだろ。想像に難くない。

 

「本当!?よし!今度誘ってみよっと」

 

「そうしな」

 

 3人がイネスのフードコートで年相応にお喋りや遊びに耽る姿を想像し、そこに自分がいる必要性がない事を悟る。

 鷲尾須美と乃木園子。三ノ輪銀の関係は3人で完結している。そこに付け入る隙は俺にはないのだ。

 俺は外から、彼女達の幸せを守り抜く。そうするはずだったと言うのに目の前の少女は俺をその輪の中に無理矢理引き摺り込んだ。

 

「その時は鷲尾兄も一緒だな」

 

 三ノ輪はそう言うと歯を見せ、無邪気に笑った。

 俺は俺で、一度くらいは流されてみようと言う気になり、その草舟に乗り込んだ。どうなるかは水の流れと風次第。それがどう転ぶかもこの目の前の少女次第である。

 

「ところで鷲尾兄って何。俺のこと?」

 

「他に誰かいるの?」

 

「いないね」

 

「何それ」

 

 確かに神樹館で鷲尾と付く人は俺か須美しかいない。俺の方が一応兄ではあるので、どう足掻いても俺の事を指している。

 

「馬鹿なこと聞いたな」

 

「もしかして、鷲尾兄は名前で呼んでほしいタイプ?」

 

 三ノ輪は察したぞ、と言わんばかりに人差し指で俺の肩を突く。

 

「どっちでもいいよ。長らく、親以外に名前を呼ばれなことないけど」

 

 その悲しすぎる事実に三ノ輪は頬を引き攣らせた。先程から忙しいくらいに表情が変化していて、まるでアトラクションだった。

 次はどう困らせてやろうかと言う意地の悪い考えが浮かんだが、それを引き剥がして会話に戻る。

 

「それじゃあ、これからはハルヤって呼ぶ!よろしくな!ハルヤ!」

 

「こちらこそ。仲良くしてな」

 

 いつのまにか差し出されていた右手に俺は自分の右手を結ばせる。ただ、やはり自分の心の中では今の状況に忌避間を覚えていた。

 少しばかり暖かくなっていた心はまた温度を下げる。それを悟られぬように笑顔でなくても、それ以下にはならないように取り繕う。

 それから三ノ輪は須美が名字で自分の事を呼ぶ事に距離を感じているようだった。共に命を預け合うのだから、心の距離は早く近づけないと。と言うのは建前なのか本心なのか。少なくとも彼女は須美と仲良くなりたいようである。

 一通り話し終えたあと、三ノ輪は思い出したように俺の顔を覗き込んだ。

 

「ハルヤもアタシの事、名字で呼ぶよね。それは何か意味があるの?」

 

「意味はない、かな」

 

「それならアタシのことも名前で呼んでよ」

 

 一瞬の躊躇い。だが、そこまで意地にならなくても良いのでは、と俺には珍しい方向へと天秤が傾く。

 

「任せとけ。名前で人を呼ぶ事には定評がある」

 

「どう言うこと!」

 

 三ノ輪……銀の軽い笑いが町の空気に溶けていく。俺は不思議とこの空気が嫌いではなかった。

 何故かこの時ばかりは冷や水をかけるような輩もいない。先程急速に冷えた心も理由も不明なまま温度を上げた。

 

(よくわかんないな)

 

 自分のことだと言うのに己の心境をまったくと言って良いほどにこの時は把握できていなかった。

 きっと彼女のコロコロと変わる忙しい表情に俺自身が振り回されているのだろう。それならば納得がいく。

 それからどのくらい話したかはわからないが、苦痛だろうと感じていた送迎と言うお役目が、少なくとも苦ではなくなるくらいには俺と銀は会話に耽っていた。気がつけば俺と銀は彼女の家の前にたどり着いていた。

 

「おっと。もう着いちゃったな。ありがとう送ってくれて。それじゃあまたね!」

 

「ああ、また明日」

 

 そう言って俺と銀は別れた。空は完全に暗くなっていた。

 

「さてと、帰りますかね」

 

 一息ついて、踵を返そうとした次の瞬間。

 

 目の前がショートした様に弾けた。

 

「!?」

 

 自分で何が起きたのか判断できなかった。痛みはない。ただ身体に違和感があった。身体が、というより意識的なもの。言うなれば心。魂に何者かが侵入した様な、自分でも何が何だかわからない未知な出来方が起こった。

 

「なんなんだよ。全く…」

 

 気持ちの悪い何かを抱えながら俺は帰宅せざるを得なくなった。

 

 

「ただいま戻りました」

 

 かなりの時間をかけて自宅に戻る。玄関には須美の靴が置いてあった。須美はすでに戻ってきているようだ。

 

「おかえりなさいませ。ご夕飯の準備ができてますがどうなさいますか?」

 

「ありがとうございます。それならいただきます」

 

「そうしましたら須美様にもお伝えください」

 

「わかりました」

 

 俺はお手伝いさんにお礼を言って服だけ着替えようと自室に戻った。自室に戻り、携帯端末を起動させる。

 特に連絡先など交換していないので誰かからメールが来たりすることなど稀だ。暇になりすぐに端末を放り投げた。

 楽な格好に着替え、須美に声をかけるために須美の部屋に寄った。

 

「シオスミー。夕飯できたらしいぞ」

 

 反応がない。

 

「わっしー。夕飯できたらしいぞ」

 

 2回目呼びかけるとガチャっと扉が開いた。そこには不機嫌そうな須美の顔があった。

 

「あのね。兄さん」

 

「どうした。シオスミ」

 

「やめて」

 

「断る」

 

「…」

 

 ………いや、黙るなよ。怖いだろ。

 

「わかったわかった。やめるから怖いから」

 

 ようやく俺が降参すると須美は満足げに頷いた。

 

「わかればいいのよ」

 

 うんうん。と頷いている須美に俺は「それなら」と新しい提案をする。

 

「じゃあわっしーはいいのか?」

 

「あれは乃木さんだから許しただけよ。それに兄さんがそんな風に呼ばなくても」

 

 確かに今まで名前呼びだったのにわっしー呼びは嫌だろう。俺だって須美からハルスケとか言われたら困る。

 

「何がともあれ夕飯できたぞ」

 

「この数回のやり取りでだいぶ疲れたわ」

 

「楽しくなかったのか?」

 

「めんどくさい」

 

 んなストレートな。お兄ちゃんショックで死んじゃいそう。

 

 

 夕飯も食べ終わり俺は庭に出た。そして端末の勇者システムを起動させる。

 俺の勇者システムは武器が固定されていない。変身時自分が想像した武器を神の力で練り上げ作り上げる。

 戦闘中も交換可能だ。ただ限度もあるので可能性は無限大というわけではなさそうだ。

 今は基本装備の剣を取り出している。

 どれだけ早く他の武器と交換できるか。状況に応じて臨機応変に戦うことを要求されるのでこの訓練はしておくに越したことはない。

 以前より1秒は早くなっただろう。数えてないからわからないけど。

 交換した武器は弓。須美の武器と似た形をしたものだ。

 弓の扱いは多少なりとも須美から教えてもらったので取り扱えなくはない。難しいことに変わりはないが。

 一度息を吐き。勇者システムを解除する。

 今回の襲撃は予定より早い。今後この様なことがないわけではないだろう。

 そんなことを考えながら自室に戻ろうとすると須美の部屋の明かりが目に入った。

 

(須美は勉強してんのかな)

 

 それに対して自分はーーーーー。

 

「俺もたまには宿題やるかな」

 

 俺はこの日、珍しく苦手科目の勉強にやたらと励むことができたのだった。

 

 

 その夜。夢の中に誰かがいた。

 自分の勇者システムと似た格好をした誰かが。

 俺はずっとその背中を見ている。

 その背中に手を伸ばした。

 近づきたいと思った。

 後ろ姿しか見えていないがその存在に憧れた。

 

 あれは…誰だーーーーー。

 

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