花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第三話 新たな仲間

 幸斗は単身で化け物へと斬り込んだ。目の前には十体いるとされるうちの二体。剣の振り方なんてわからないがとにかく感覚に頼りながら必死に剣を振るう。

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 まずは手前にいる化け物の横っ腹と思わしき部位へ一撃を加える。斬った感触はあるもののやりきれはしなかった。もう一体の突撃を横に転がることで避ける。すかさずもう一体の最初に攻撃した化け物がくらいついてくる。僅かながら化け物同士、連携をしているようにも見えた。

 

「邪魔だ!!」

 

 体当たりを仕掛けてくる化け物へと横一閃。ようやく一体が消滅した。

 

「次!」

 

 おそらくどんどんと化け物どもはこちらへと集まってくるはず。バスを一刻も早く逃がさなければ。一対一なら先程より比較的楽だ。

 幸斗は剣に導かれるように化け物の頭部、腹と2連撃を加えた。これで化け物はようやく消えてくれた。だが、まだあと八体。二体まとめて相手をするだけでこれだ。

 バスはこの瞬間を逃すまいとアクセルを全開にして発進した。

 こちらを躊躇うことなくバスはすぐに目に見えなくなるほど遠くへと消えていった。

 友奈がいるならあのバスは大丈夫だろう。断片的ながらもそう思った。

 

「なんか俺が死ぬみたいな流れだな」

 

 絶体絶命のピンチには違いないのだが、幸斗は笑っていた。

 獲物を逃したことにようやく気がついたのか、わらわらと三体の化け物が何処からか現れた。

 

「瑞樹。あと少しだけ力を貸してくれ」

 

 剣を握り直し、再度化け物へと立ち向かう。

 とにかく一度でも攻撃を喰らえばそれで御陀仏だ。ヒットアンドアウェイを繰り返していくより方法はない。ギリギリの状態を保ち、軽微ながらもダメージを与え続けた。

 いつまで経っても殺しきれないことに苛立ったのか化け物が三方向から食いちぎろうと襲いかかる。

 再び幸斗は剣に導かれるように円を描くように振り抜いた。斬り込まれた3体は同時に身体を崩壊させ、霧散していった。

 

「あと5体、か」

 

 もう既に長旅の影響もあり、疲労はピークに達している。我ながらよく動くなと幸斗は謎の感動を感じていた。

 休憩を挟む間もなく、また再び化け物が二体現れた。

 

「頼むからまとめてきてくれよ。そしたら色々納得できるっての」

 

 疲労が溜まった足を無理やり奮い立たせ、幸斗は死に物狂いで剣を振るい続けた。

 結果、幸斗は善戦した。勝利を手にした幸斗はその実感を得る事はこの時はできなかった。

 

「…倒しきっちゃったよ」

 

 自分でも意味がわからない。何を持ってしてあの状況を打開できたのか。それに自分は親友への贖罪でこの場において死ぬ気でいた。 

 

「なんで生かすんだよ」

 

 すっかり手に馴染んでしまった剣へと語りかける。当たり前だが返答なんてない。いつか返事を、また笑いながらしてくれるんじゃないかと期待しながら剣を鞘へと戻そうとしたところで背後に何かを感じた。

 そこには口を開けながら幸斗を食らわんと突撃をしてくる11体目の化け物がいた。

 

「ッ!!」

 

 まだみっともなく生きようとしているのか再び剣を抜く。だがそれも遅い。間違いなく死んだ。間に合わない。

 幸斗は死ぬ時ってどんな感じなんだろうなあ、と考えながら諦めて剣を下ろした。

 だがまだ幸斗は死ねなかった。何の因果かまた死ななかったのだ。霧散していく化け物の向こう側に星明かりを反射し、銀色に光る刀を持った少女がいた。

 

「大丈夫か?遅れてすまない」

 

 幸斗はしばらくの間、この暗闇の世界で唯一光るその姿に見惚れていたのだった。

 

「君は…?」

 

「私は乃木若葉。あともう一人いるんだが」

 

 もう一人?と彼女が来たであろう方向を見るともう一人こちらへ走ってきていた。

 

「若葉ちゃん、早いですよ。置いていかないでください」

 

「すまない。ひなた。お前を置いていくとは私もまだまだだな」

 

「若葉ちゃん…」

 

 幸斗は唐突に目の前の二人が二人だけの世界にいかれて困惑していた。

最近奇妙な三人、ないしは二人によく出会う。若葉と名乗った少女は軽く咳払いをして、こちらに向き直った。

 

「こっちは上里ひなた。私の幼馴染だ」

 

「初めまして。上里ひなたです」

 

 ぱっと見二人とは同い年に見えるが、若葉といい、ひなたといい所作は何処か大人びて見えた。若葉に関しては武人と言った感じも兼ね備えているように見える。

 二人だけに名乗らせておいて自分も名乗らないのはおかしいので一応名乗るだけ名乗っておいた。

 

「俺は不知火幸斗。見ての通り小学六年生だ」

 

「あら、同い年なんですね」

 

 ひなたが少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

 

「幸斗か。いい名前だな。とりあえずついてきてくれ。…少し私とひなたが隊列から離れてしまったが大丈夫だろうか」

 

 突然名前を褒められ、尚且つついてきてくれと言われ困惑する幸斗を置いて若葉が先導して歩いていく。

 

「隊列?」

 

 歩きながら幸斗の疑問にひなたが答えた。

 

「私たちは島根の方から歩いてここまで来たんです。化け物を避けながら。ようやくここまで辿り着いたって所で若葉ちゃんが奥から何かを斬る音ががするって言って飛び出して行ったんです」

 

 幸斗は少しだけ申し訳なくなってしまった。

 それよりも島根からここまで歩いてきて、二人とも疲れも見せずに振る舞っている。世の中凄い人物がいたものだと感動が驚きを上回った。

 

「幸斗は何処から来たんだ?」

 

「奈良から。ここまでは一応バスに乗って20人弱の同行者がいたんだけど、ついさっき四国に向かってったよ」

 

 ひなたが納得したかのように頷いた。

 

「その同行者を逃すために一人あの場に残って戦っていたんですね」

 

「そんな所かな」

 

 それから少しだけ進むと15人の避難者がいた。

 元が何人いたのかは知らないが、あの大人の久美子ですらまとめるのに苦労していた大人達を容易くこの2人は導いてきたというのだろうか。

 

「すまない。待たせてしまったな。早く安全地帯に向かおう」

 

 若葉がそれだけ言うとみんなそれに続くように歩き出した。

 その光景を見て、幸斗はこの若葉とひなたに出会ったばかりながら畏敬の念を抱いたのだった。

 

 結論だけ言おう。瀬戸大橋には呆気なくついた。あのバスでの終末旅行はなんだったのかと幸斗は首を傾げたくなる。

 

「結局、あの人が一番おかしかった気がするな」

 

 終末旅行を振り返るとなんだかおかしな話のように感じた。友奈は別ベクトルでおかしく、茉莉もよくよく考えればおかしく、久美子に関しては完全にぶっ飛んでいた。余裕で黒シャツ殺そうとしてたし。

 おまけに『普通』を求める茉莉と『普通』に生きることを恐れ、同時に憧れを抱いている久美子とでは相容れない。確実に揉めていることだろう。あの三人、何か揉めてないといいけど。あとあの茶髪女や黒シャツ男プラスα。あのバス、問題を抱えすぎな気がする。

 一人こうして解放され、安全地帯に滑り込んだのを申し訳なく思ってしまった。

 臨時で置かれた避難所へと行くと多くの人が先に避難していた。怪我をしている人も多く、医者がひっきりなしに動き回っている。空いているところに座ると溜まっていた疲れが一気に押し寄せてきて、気づけば意識を失ったように眠っていた。

 

 どれくらい寝ていたのかわからないが目を覚まして身体を起こすと、何故か木造建築の社みたいな場所にいた。間違いなく先程までいた避難所ではない。

 

「意味がわからん」

 

 一人呟いてあたりを見渡すと見慣れた顔があった。

 

「若葉…さん?」

 

「若葉でいい。すまない。寝ているお前を勝手に運んでしまって」

 

「いや、別に大丈夫だよ。少し驚いただけだから。ここは?」

 

 見た感じ神社の本殿とかそこらへんの作りをしている。

 

「ここは大社と呼ばれる場所みたいだ。私もひなたに付いてきただけだからな。ひなたは他の『勇者』を迎えに行くと言っていたが…」

 

 なんでこんな場所に連れてこられたのかと疑問に思っていると装束を着た男性が入ってきた。その男性は幸斗と若葉の二人に恭しく礼をする。若干幸斗の顔は引き攣った。

 そんな事など気にも留めず、男性は時間がないと言わんばかりに勝手に話を進め出した。

 

「乃木若葉様、不知火幸斗様。貴方達は神に選ばれた唯一無二の存在です。これから乃木若葉様は『勇者』として、不知火幸斗様は『守り人』として天より来し敵を討ち払っていただきます」

 

 唐突に告げられたお役目。若葉の方を見ると既にそうなることを理解しているように見える。「戦え」と、この男性は言ったのか?またあの化け物と?腰にくくりつけてあったはずの剣を触れようとしたが手は空を切った。

 

「あれ、ない?」

 

 それに男性が答える。

 

「幸斗様の武器は特殊なため一度、我々の方でお祓いをさせていただいております」

 

「お祓いって…」

 

 お祓いをしようと思ったと言うことはあの剣がある意味では呪いである事をあの人たちは気づいているのだろうか。だがそれは俺に対する呪いであって、根本的な呪いは人の身をあの剣へと変えた自分自身だ。

 そもそもあの時、神社で拾った大鎚。あれが力の本体なのだろうかと考えている間に男性が話を進める。

 

「乃木若葉様。不知火幸斗様。繰り返しお伝えいたしますが、貴方達二人は神に選ばれたのです。世界を取り戻すために、今一度お力を」

 

 そして再び恭しく礼をする。幸斗は気になったことがあった。

 

「その『守り人』とやらは引き受けますけど、まさか2人?」

 

 たった2人であの化け物集団と張り合えなど無謀にも程がある。だが流石にそこまで自爆精神があるわけではなかった。

 

「あと4人、『勇者』に選ばれた者がおります」

 

 ふと頭の隅に高嶋友奈が思い浮かんだ。あの手甲はそう言う類のやつだったのかと今更ながら気がつく。

 

「私は止められてもやる気だ。あの化け物どもに報いを与えなければ気が休まらないからな」

 

 若葉がこちらを見る。幸斗はもう引けないなと観念して男性へと頷いた。男性もそれを承諾と受け取り、次の指令を伝える。

 

「それでは今から直ぐに丸亀城へと移っていただきます」

 

「え、もう少し休ませてよ」

 

 ここに来てから物事が加速して進みすぎだ。それほどまでに逼迫してると言うことなのか。幸斗の願いは受け入れられず、若葉と共にすぐさま丸亀城へと護送されたのだった。

 

 あれから数日経ち幸斗は丸亀城の廊下を歩きながら若葉と話をしていた。今日は各地で選ばれた勇者が一同に介す日らしい。

 幸斗も日にちが経つにつれ、身体の傷は完全には癒えはしなかったが、気持ちの整理はついてきていた。

 幸斗は幸斗なりに若葉のことを少しだけは知ろうとして彼女のことを一応聞いてみたりした。彼女は居合いを習っているらしく、かなりの腕前とか。本当に同い年なのだろうかと毎度のごとく思う。

 

「幸斗は何かやっていないのか?」

 

「強いて言うなら野球だな。下手だったけど」

 

 過去を振り返ろうとして、また胸が苦しくなりやめた。

 

「そうか」

 

「若葉はひなたとはどう言う関係なんだ?」

 

「幼馴染だ。昔からよく家でお茶を飲んだりしていた」

 

「老夫婦かよ。おい、やめろ。睨むな、生太刀を構えるな!」

 

 幸斗はこの数日で若葉がどのような人間性をしているのかは大体理解した。真面目すぎるが故に友達が少ないとひなたが言っていた時は凄く焦っていたし、恥ずかしがっていたから案外可愛い面も持ち合わせているらしい。

 

「それで若葉の相棒のひなたはどこに?」

 

「ひなたなら巫女の方で集まりがあるらしいからそちらに行っている筈だ」

 

「そっか、ならまたひなたは勇者達に会うのは後日だな」

 

 2人で話しながら歩みを進めていると、気づけば目的地の丸亀城内にある教室前へと来ていた。

 

「さてと、用意はできてるか?」

 

「あぁ」

 

 ここに来て、若葉は急に緊張しだしたのか扉を開ける事を躊躇する。若葉は不安気に幸斗の目を覗き込んだ。

 

「上手くやれるだろうか」

 

「成せば大抵なんとかなるもんだぜ?」

 

「なんだその曖昧な言葉は」

 

 幸斗が昔から好きな言葉を言うと若葉が少しだけ頬を緩めた。それを合図に幸斗は若葉の代わりに教室の扉を開ける。

 教室内には仲の良さそうな二人組とイヤホンをつけてゲーム機をいじっている人が一人。

 

「えっと?どういう構図?」

 

 初日から険悪な感じではないと思いたくなる。実際は少し観察してみるとそんなことはなく、ゲームをしている子が多少周りから距離をとっているように見えただけであった。

 なんのゲームをしているのかと少し気になったりしたが、そんな事を考えていると二人組の身長が小さく、とにかく元気いっぱいが人生のモットーみたいな子が若葉と幸斗の姿を見て近づいた。

 

「二人が今日から一緒に過ごす若葉と幸斗か?」

 

 大社から名前は聞いていたのだろうが、初手からファーストネーム。友達作りが唯一の得意分野と自負していた幸斗でさえここまでの距離の詰め方しない。自分が偽物であった事をこんな場所で知覚することになるとは思いもせず、動揺を隠して答える。

 

「そうだけど。君が土居球子?伊予島杏?」

 

「あっちにいるのが杏で、タマはタマだ!」

 

「何だかゲシュタルト崩壊しそうだ」

 

「いつかなれる」

 

 そう言って自慢気に球子は胸を張った。そしてもう1人の少女を手招きする。

 

「おーい!杏!杏も挨拶したほうがいいぞ」

 

 呼ばれた杏は読んでいた本を閉じて、ゆっくりとした所作で幸斗と若葉の前に立った。なんというかちょっと触れれば折れちゃうのではないかと心配になるくらい弱々しい子だった。決して悪口とかではない。

 

「伊予島杏です。若葉さん、幸斗さん。これからお願いしますね」

 

 口調も柔らかく、物腰も落ち着いている。ここまで見ていて、どう見ても球子と杏は対極に位置しているのに、どうしてあそこまで仲良くできているのだろうかとなんとなく不思議に思えた。

 

「若葉も何か言っとけば?」

 

 先程から幸斗しか話していない。何をしているのだと若葉に目配せすると、彼女は難しい表情を浮かべている。一度こちら側の世界に招き入れようと幸斗は肩を叩いた。するとようやく若葉も口を開いた。

 

「あ、ああ。…んん。乃木若葉だ。これからよろしく頼む」

 

「改めてこれからよろしく頼むぞ!若葉、幸斗!」

 

 眩しいくらいの笑顔でサムズアップされた。消えそう。段々と幸斗はこの一瞬だけで自分の対人関係スキルが大したことのないように思え、自信を失っていた。

 

「そういや後は若葉と幸斗の二人だけなのか?今日ここにくるの。『勇者』がタマたち含めて五人来るってタマは聞いてたんだけど。幸斗はなんだっけ、もり…森…なんだっけ」

 

「『守り人』だよタマっち先輩」

 

 杏のフォローを受けて思い出したらしく「そうだそうだ守り人だ」とどこか納得したように頷いた。覚えといてほしかったなあ…と思う幸斗だった。

 

「あと一人誰なんだ?」

 

 噂をすればなんとやら。扉がガラッと開いて一人の少女が飛び込んできた。

 

「遅れましたー!奈良県から来た高嶋友奈です!よろしく勇者でーす!」

 

 突然のことにポカーンと友奈を見つめる四人。

 

「えっと、間に合ってない?」

 

 それと少しズレたことを気にする友奈だった。

 友奈はえへへと少し恥ずかしそうに笑うと何かに気づいたのか首をかしげたのち、幽霊を見るかのような目で幸斗を見て、身体を戦慄させた。

 

「どうした?友奈」

 

 球子が急に動きの止まった友奈を心配して声をかける。

 

「あれ?生きてる?死んだはずじゃ?」

 

「おい、待て。勝手に殺すな。ちゃんと生きてる」

 

 確かに普通に考えてあの状況は生きてはいられないはずだったのに現にこうしてここにいる。勝手に殺さないで欲しかった。

 友奈が実体を確認するかのように幸斗の手をふにふにと握った。

 

「い、生きてる!?」

 

 友奈がおおお!と感動しているのを他所に幸斗はしばらく埒が開かないと感じ、もう一人の子に話しかけようと後ろを向いた。

 

「あれ?いない」

 

 さっきまでいたはずなのだが、その姿は突如として消滅していた。球子も幸斗が誰を探しているのか直ぐにわかったようで教えてくれた。

 

「千景ならさっきでてったぞ」

 

「ええ…マジか。ゲームのことで少し話通じると思ったのに」

 

 まあ、この先いくらでも話しかける機会はあるだろう。幸斗はそう割り切って、今この場にいる四人と交流する事を選んだのだった。

 

 現在、丸亀城は勇者の拠点として改造され、近くには勇者と勇者付きの巫女の寮がある。まだ完成はしておらず仮設ではあるが、幸斗は大社の計らいで一番端っこの部屋を使わせてもらっている。

 極端に人間関係図が更新されたことで疲れているのか部屋に戻った瞬間、ベッドへと倒れこんだ。

 

「なあ、瑞樹。周りにお前らがいたことすっげえ幸せだったわ」

 

 すっかり腰の剣の柄を撫でることが習慣化してしまい、今も倒れ込みながら同様の行動をしていた。

 

「女子との会話。すごい気を使う。助けてくれよ」

 

 若葉は少し慣れたが他の人はまだ平静を保って話せているだけマシに思える。

 

「妹とかいたらそこまで気にしないのかな」

 

 天井を見ながら客観的に見て気持ちの悪い独り言を言った。幸斗は兄がいただけで実際のところあまり仲もよろしくなかった。球子と杏は姉妹かと思えるくらい仲が良さげだが、あれでまだ出会って二週間近くとは恐れ入る。

 ぼーっと上を見上げていると段々と眠気に襲われた。

 眠る前にシャワーだけ浴びようと脱衣所に入り、上半身裸になったところで自分の体に違和感を感じた。

 鏡に映る自分の心臓の辺りに、花びらの形をしたアザができている。

 

「今までこんなのあったか?」

 

 しかもこんな綺麗な形をしたアザなど見たことない。

 

「…気にするだけ無駄か」

 

 多分『守り人』に選ばれた証明とかそこら辺だろう。幸斗はそう勝手に納得したのだった。

 

 

 

 

 

 この時から、既に時を司る神は不知火幸斗のことを観察対象に含んでいた。理由は二つ。一つ目は単純に不知火幸斗という人間が辿る末路を見てみようと思ったから。二つ目は不知火幸斗に力を貸している神の実態。

 

『あの鍛治の神、なんでこっち側にいるんだ』

 

 軽微ではあるがあの神は力を貸した者に呪いを与える。それに本来、『地』に味方に付くことは予想されなかった。

 呪いも二つあり、一つはもう既に不知火幸斗は経験している。

 あともう一つは戦うたびに身体を蝕まれていく。

 その末路は凄惨だ。腕が、目が、足が、心臓が、あらゆる内臓に激痛が走り、痛みに耐えきれなくなった者は舌を噛み切り自殺、ないしは殺してくれと懇願するようになる。

 

『どこかで弾き出せればまだ未来はあるが』

 

 既に不知火幸斗は時の神のお気に入りだった。死んでもらうのは大変困る。だが、時の神に戦う力など一切ない。弾き出すなどもっての外。

 一つ方法があるとすれば不知火幸斗がその力を必要としなくなった時。

 

『くくく。あと何年かかるかわからないが面白い。見る価値に値する』

 

 仮に自身が力を与えることが可能なら不知火幸斗に間違いなく渡す。その時が来るのを、時を司る神は気長に待ち続けている。




アンケートですが多くの回答をいただきありがとうございます!
一位と二位の差がまさかの1だったのでもう二つ書くことにします。
…行けるかな。
次の話は幕間で、第四話で須美編。第五話で銀編にしようかと思います。
よろしくお願いします。
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