花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第六話 誰が為の自己犠牲

 最初の襲撃から数日後、二度目の襲撃があった。初戦の後、結束を固めた勇者たちは精霊『七人御崎』の力を使用した千景の活躍もあり難なく敵を退けた。

 相変わらずの痛みに悶え苦しんだ次の日の朝、幸斗は食堂である一枚の新聞を読みながら優雅に朝食を取っていた。食欲はほとんどない。

 

「行儀が悪いぞ、幸斗」

 

 前の席に座った若葉からお叱りを受ける。幸斗は適当な返事を返して新聞記事に没頭していた。

 

「…何か載っているのか?」

 

 若葉も幸斗が自分の言葉に耳も傾けない事により流石に内容が気になったのか、幸斗に問いかける。

 

「んー、勇者たちの連勝を大々的に報じてるだけだよ。それ以外は何も」

 

 幸斗は変わらぬ報道を鼻で笑い飛ばした。相変わらず諏訪のことは何一つとて書かれていない。優雅に新聞を読んでいる割に探していた内容はかなり重たい内容であった。

 若葉も幸斗の言い方で大体のところは察したのか、眉間に皺を寄せる。

 

「情報統制は戦時下では常套手段だが、白鳥さん達が必死に戦っていたと言うことは私たち以外には伝わらないのだな」

 

「そもそも論、まだ壁外に人間が残ってる事になってるからな。そのうちボロが出て大変なことになりそうだ」

 

 幸斗はお目当ての記事がないことで読むのを諦めて新聞を閉じた。どのページも人類に都合のいい情報しか載せられていない。それは確かに正しい手段なのだろうが、希望を抱いた民衆はどうなるのだろうか。想像もしたくない。

 

「お二人とも朝から顔が怖いですよ」

 

 若葉の隣に座るひなたに言われ自分の眉間に手を持っていってみると確かに皺がよっていた。

 若葉と同時に眉間のあたりを確認したので、ひなたはその様子が面白くて口に手を当てて笑った。

 

「そう言えば幸斗。今日は朝、鍛錬してなかったが体調でも悪かったのか?」

 

 幸斗はぎくっとなり肩を僅かに震わせる。まさか聞かれるとは思っていなかっただけにどう説明しようか迷った。直接伝えてもいいものなのか。仮にこの事が大社に伝わり、お役目から引き摺り下ろされる可能性もあった。

 悩んだ挙句、幸斗は言葉を選んで適当な理由をこじつけた。

 

「最近疲れが溜まりやすくてさ、寝坊しただけだよ」

 

「しっかり授業中に休憩しているのにか?」

 

 若葉の鋭い切り返しに幸斗は苦笑いをするしかなかった。

 

「まあまあ、若葉ちゃん。昨日も戦いがあったわけですし、仕方ないですよ」

 

「む…それもそうか」

 

 ひなたが視線だけこちらに向ける。幸斗は視線だけ交わしてひなたに感謝を伝えた。伝わったかは知らない。

 

「先に行くぞ」

 

 幸斗は残っていたものを口に放り込み、若葉とひなたに告げてから席を立った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「どうしてあなたは私のゲーム画面を覗くわけ?やめてくれないかしら」

 

 幸斗が教室に入ると、こちらも毎朝変わらずルーティーンのようにゲームをこなしている千景が気になり、何をやっているのだろうかと覗き込んだ次第である。元々、千景の幸斗に対する当たりは良いとは言えないがそれでも想像を絶する言葉の鋭さだった。

 

「俺もそのゲームやってるんで協力プレーできないかな…と」

 

 初戦の後、一つ学年が上である千景に自分だけ敬語を使われるのは気持ちが悪いということで、敬語を使わないでほしいと言われたものの、なかなか癖が抜けきらず、所々変な日本語になっていた。

 

「……そうなのね」

 

「はい」

 

「………」

 

「……………」

 

 無言の空気の中、千景のゲームをする音だけが自分達一帯を支配していた。幸斗はあまり気まずいとは思っていないが、千景はどうなのだろうか。本人が嫌ならあまり話さない方がいいのかもしれない。

 ぼーっとプレイ画面を見ていると、友奈が元気よく教室に飛び込んできた。そして最近定位置になりつつある千景の隣に座る。

 

「おっはよー郡ちゃん!何してるの?」

 

「…おはよう高嶋さん。私は…いつも通りゲームよ」

 

 幸斗は千景の友奈と自分の扱いの差に泣きそうになった。

 

「あら、まだいたの?」

 

 千景がチラッと幸斗を見た。しかも真顔。

 

「俺も人間だから普通に泣くよ?」

 

「幸斗くん、泣くの?」

 

 友奈の表情が驚きへと変わる。

 

「泣きそうだったけど。泣いたら負けな気がするから泣かん」

 

「あなたの泣き顔なんて需要ないわ。…高嶋さんならあると思うけど」

 

「あはは、そんなことないよ!郡ちゃん面白いこと言うね!」

 

 今思えば千景としっかり話したのは今が初めてだった気がする。今まで話す機会などいくらでもあったのに幸斗はそれをしていなかった。

 少しは近づけただろうか。幸斗は友奈と楽しそうに話す千景を見ながらそう思った。

 

「なんだ?なんだ?三人とも楽しそうじゃないか。タマも混ぜタマえ!」

 

 遅れて教室に入ってきた球子が幸斗、友奈、千景の会話を聞いて、杏を引き連れて三人の間に割り込む。

 これだけの人数が一同に集まると会話も弾み、自然とワイワイと盛り上がってくる。

 幸斗は千景の様子が気になった。以前はこのような状況になった際、千景は必ず距離をとっていた。だが、今日は違った。少し引き気味でこの場を静観しているが、離れて距離をとったころの比べると、やはりかなりの進歩のように思える。

 彼女の精神的なところで何があったのかはわからない。だが、勇者として強大な敵に挑むために一つ強くなったのは間違いないだろう。

 

(俺も強くならないとな)

 

 球子といい、杏といい、千景といい、この三人は成長が著しかった。その三人を見て、幸斗は心のどこかで焦りを覚えていた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 次の日の休日、幸斗は何を思ったのか一人で高知県を訪れていた。

 一応、万が一ということがあるので武器を携帯しているが、大社は幸斗のことを勇者たちと違って存在を公にしていない。勇者というものが、少女のみで構成された部隊ということを世間に示すことで神聖性を保つためだと幸斗は考えてはいるが真相は定かではない。それはいいとして、つまり幸人は一般人でありながら武器を所有しているというふうに見られ、警察から何度も職質を受けていた。職業、学生。又はニートである。

 そして案の定、今回の駅でも声をかけられる羽目になり、時間をかなり食っていた。

 

「好き勝手に動けるのは利点だけど、いい加減認知してくれても良いだろうよ……」

 

 幸斗は首の辺りを掻いて、悪態を吐きながら田舎道を歩いている。

 ここまではバスを適当に気の向くままに乗り継いで来た。本当に意味のない行動を今の幸斗はしていた。

 

「岐阜と比べても田舎だな。少子高齢化の中心的存在とか言われてたっけ確か」

 

 授業自体、一応真面目に聞いてはいたがその点に関してはあまりにも曖昧で適当なことを呟いてみたりする。

 見渡す限り、畑、畑、畑、田んぼ、畑という感じで少々驚きを隠せない。すれ違う人もご老人ばかりだ。

 

「高知の中心街もこんな感じなのか?」

 

 今、幸斗の中で誤った高知の印象が根付いてしまっていた。一番最初に来る場所を間違えたらしい。しばらく歩いているとある家の表札が目に入った。

 

「こおり……郡?千景?」

 

 幸斗の中で郡という名字で思い当たる人物は千景しかいない。

 

「……まあいいか、別に」

 

 これはただの偶然だろう。四国は幸斗が思っている以上に広い。郡という名字の人はいくらでもいる。それに仮に正解だからと言って「そうなんですか?」と聞くのも、あの先輩は嫌がりそうだ。

 立ち去る前に最後、チラリと横目で家の方を見る。

 

「………うちと似たような物だな。空気感」

 

 幸斗はかつての自身の家庭環境を思い出してしまい、複雑な気分になった。こんな気分になるためにここに来たわけではないはずなのに。

 偶然というものは恐ろしい物だと、幸斗はこの時強く感じたのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 休日明け、早朝の教室で幸斗は、無断で丸亀城から居なくなったということで若葉からものすごいお叱りを受けることになった。最近怒られてばかりである。

 

「幸斗、自分が何をしたのかわかってるのか?」

 

「バーテックス襲来の可能性がある中、無断で外出し、最悪の事態を想定できたにも関わらず、自分の知的好奇心に勝てず高知県まで赴きました。以上」

 

「…わかっているではないか」

 

 若葉はため息をついた後、なにかをぶつぶつと呟いていた。また一段と大きなため息をついた後に幸斗に目をまっすぐ見る。

 

「もう少しだけ人類の未来を背負っていることを自覚してくれ」

 

 幸斗だって自覚がないわけではない。寧ろ今、自分が置かれている状況に強い責任感を覚えている。それに、戦う理由だって幸斗にはあった。だが、どこか僅かながら若葉との熱量に差があるように感じてしまった。何かを言おうとして幸斗は言葉を探すが何も出てこない。沈黙が朝の教室を包む。

 

「今日こそタマが一番乗り!若葉にかっ…なんでいるんだよ」

 

 沈黙を破るように大きな音を立てて扉を開け放ち、教室に球子が元気よく入ってきた。球子は教室に一番乗りだと思ったのか幸斗と若葉をみてがっくりと肩を落とした。幸斗はこの時ばかりは球子に感謝した。

 

「あら、もう幸人さんと若葉ちゃん、球子さんもいらっしゃったんですね」

 

 ひなたも少し遅れて教室に入ってくる。時計をみると気づけばいい時間になっていた。

 

「おっはよー!みんな!」

 

 友奈もいつも通り元気な姿を見せてくれた。千景もそれに続いて教室に入ってくる。

 先程まで幸斗が若葉に感じていた、形容し難い嫌な感情は徐々に薄れていった。

 

「あれ?アンちゃんは?まだ来てないの?」

 

「そう言えばいないな。球子、杏はどこだ?」

 

「さっきまで一緒にいたんだけどなー…。どこいっちゃったんだろ」

 

 朝から早々行方不明になられても困ると幸斗は感じた。結局、行方不明でもなんでもなく、杏は単純に遅れただけだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 その日の午後、バーテックスが襲来した。

 巨大な植物に覆われた丸亀城の城郭に勇者たちは武装して敵を待ち受ける。壁のある方向から、バーテックスの群れが近づいて来ているのが小さく見える。

 幸斗は携帯端末のマップで、侵入して来た敵の数を確認した。少なくとも百体はいるだろうか。

 

「………ん?」

 

 若葉がマップを見て首を傾げた。何かおかしい物でも写っているのか幸斗も釣られてマップを見る。

 百体近くいる個体の中で、一体だけ突出してこちらに向かって来ている個体がいた。

 

「なんだこれ?」

 

 幸斗はバーテックスの群れの方に視線を向ける。

 そこには植物に覆われた四国を、凄まじい勢いで駆けてくる『何か』が見えた。人間の胴から下を残したようなビジュアルをしており、細い足で二足歩行で神樹めがけて突撃を敢行していた。

 

「へ……変態さん!?」

 

 気持ちの悪い動きをするバーテックスに友奈が顔を引き攣らせる。

 

「俺以上に職質されそうな雰囲気纏ってるな」

 

「あなた、外で何してるのよ……」

 

 千景は幸斗を横目で見る。幸斗はとりあえず苦笑いしておくことにした。

 

「進化体…でしょうか」

 

 どこか能天気な空気感を醸し出す幸斗とは対照的に杏は冷静に二足歩行の敵を見据える。これまでと違い、バーテックスは進化体の状態で侵入して来たのだろう。

 

「あれは食えんな」

 

「いや、食うなよ」

 

 ボソリと呟いた若葉を幸斗は若干引き気味に突っ込んだ。その時、球子が意味深な笑みを浮かべた。

 

「ふっふっふっ…」

 

「どうしたの?タマちゃん」

 

 怪訝そうな顔をする友奈に球子が得意気に答える。

 

「今回は秘密兵器を持って来たのさ…タマだけにうどん玉だー!」

 

「「「「おおー!!」」」」

 

 うどんと聞いただけで謎にテンションが上がる勇者御一行。思った以上に彼女達は、脳がうどんに支配されているらしかった。

 唯一冷静に物事を見ていた千景が球子に聞く。

 

「それを…どうするつもり…?」

 

 訝しむ千景に、球子はビシッと二足歩行のバーテックスを指差した。

 

「大社の人が言うにはバーテックスには知性があるんだろ?そしてあの、人型ときた!ここで使わない手はない!」

 

「そっか!もしかしたらうどんに反応して隙ができるかも!」

 

「その通りだ友奈!人なら、ましてや好んで四国に来るんだ!うどんを見て冷静でいられるはずがない!文字通りくらえー!!」

 

 球子は大きく腕を振りかぶり、うどん玉をバーテックス目掛けて放り投げる。うどん玉は狙い通り、進化体の進路方向に落ちる。

 しかしーーーー。

 二足歩行バーテックスはうどん玉に目もくれず、うどん玉を踏み潰し、走り抜けていった。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 勇者たちに衝撃が、戦慄が走る。

 

「な、馬鹿な…!」

 

 幸斗は目の前の衝撃的な光景に身体が戦慄いた。

 

「うどんに…興味すら示さない…だと?」

 

 若葉も怒りで声と手が震えている。うどんを踏み潰されたと言うことは若葉達の誇りすらも踏み躙られたと同義であった。

 

「釜揚げじゃなかったからかよっ!?」

 

「違うっ!肉ぶっかけうどんじゃなかったからだ!」

 

「ううんっ…幸斗くん。タマちゃん。釜揚げや肉ぶっかけじゃなくても…うどんを粗末にするなんて!」

 

 友奈が悲しみに顔を俯けながら、絞り出すような声で叫ぶ。千景も杏も頷く。

 この時、この場にいる全員は確信した。バーテックスに人間性など微塵もないと。奴らはあまりにも人間から離れていた。分かりあうことなど一切できないと。

 

「後で回収してやるからな……」

 

 球子はそう呟いてうどん玉を見る。生憎、うどん玉は袋に入っており無事だった。幸斗はそのうどん玉を球子にバレないように回収した。勇者たちは怒りと悲しみを抱えて、武器を構える。

 

「うどんの仇!タマがとる!てやああああ!」

 

 球子が先陣を切って旋刃盤を投げる。しかし、二足歩行はあっさりとそれを避けた。二度、三度と旋刃盤を投げるが、全て避けられてしまう。

 

「当たらない!なんだよこいつ、すばしっこすぎるっ」

 

 今まで出現したバーテックスとは性質がまるで違う。

 バーテックスは動きは鈍足だが、巨大で頑丈な身体を持つのが特徴だ。そのため今までは攻撃自体はかなり簡単だった。だが、この二足歩行はそもそも攻撃が当たらない。

 

「タマっち先輩!援護するよ!」

 

 杏が横からクロスボウの矢を連射した。二足歩行は難なくそれを避ける。だが、避ける際に二足歩行は上へと飛んだ。自ずと足がある場合、着地を必要とする。

 

「ここっ!」

 

 幸斗は既に相手が着地するであろう場所に瞬時に移動していた。『瑞炎』を最大級の力を込めて、横に一閃する。

 

「なっ!?」

 

 だがそれすらも二足歩行は空中で体を捻り、人間ではあり得ない動きで一閃を避けてみせた。最早関節とかその類のものは存在していないようだ。

 

「はああああああああああああ!」

 

 だが援護に回った友奈が拳を振り上げ、ようやく一撃が二足歩行へと加えられる。二足歩行は僅かながら後方へと吹き飛ばされた。

 

「ありがと、友奈」

 

「全然大丈夫だよ!幸斗くん、私はぐんちゃん助けに行ってくる。ここは任せてもいいかな?」

 

 幸斗は友奈に頷いた。友奈はそれを確認すると星屑と衝突をしている千景を支援するために跳躍していった。

 再び立ち上がった二足歩行は進行方向を僅かに変え、標的をクロスボウを構えている杏へと変更した。

 クロスボウは知っての通り遠距離には強い。だが、もちろん近距離で使われることなど想定していない。二足歩行が飛び蹴りのような体勢で、目に見えぬ速さで杏に突撃する。

 

「あんずに、触れるなぁ!!」

 

 二足歩行と杏の間に入り、球子が旋刃盤を楯形状に展開した。飛び蹴りは楯で防がれたが、勢いを殺すことはできず、球子と杏は楯と一緒に吹き飛ばされる。

 

「うあっ!?」

 

「きゃあ!」

 

 二人は地面に叩きつけられた。球子が杏を庇うように下敷きになり、ダメージは球子一人が受けていた。

 幸斗は二人を助けに行きたい衝動に駆られたが、すぐさま二足歩行の正面に回り込んで、攻撃を加える。二足歩行の狙いは次は幸斗へと移った。

 幸斗は一撃を加えた後、二足歩行の腹部に強烈蹴りを加えた。

 その威力に二足歩行のバーテックスはその走りを緩める。それを見計らい幸斗の支援に回った若葉と攻撃を交代した。先程、回収したうどん玉にある種のアレンジを加えるためだ。

 正直、うどんが素材になってくれるかは知らない。

 瑞樹が代償になってくれた時のように、強い武器は出ないだろう。だが、一度でも上手くいけばそれで全て決まる。

 幸斗は『瑞炎』を鞘に戻し、右手に意識を集中させる。

 

「頼むぞ、金屋子神。俺の命くらい、ちょっとはくれてやる!」

 

 自己犠牲という名の幸斗の正義が、待っていましたとばかりにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その不快な感覚を振り払い、右手に宿ったものを掴み取る。

 閉じていた目を開くと、手には一本の長槍が握られていた。

 

「いや、できるんかい…」

 

 幸斗は戦闘中だと言うのに、成功してしまったことに驚愕した。だが、ずっとそうしているわけにもいかない。

 若葉が足止めしている二足歩行の真上へと、幸斗は大きく飛ぶ。

 若葉が幸斗の狙いを察して、二足歩行の攻撃を押し返した後、僅かな隙ができた瞬間を見逃さず、凄まじい威力の一閃で足を切り落とした。

 二足歩行のバランスが崩れ、倒れ込む。

 

「サンキュー!若葉!」

 

 幸斗は手に握られた長槍を落下の勢いも加え、二足歩行の胴体と思われる場所に突き刺す。長槍は勢いのまま、胴体を貫き、そのまま樹海へと届いた。二足歩行が地面に固定される。

 

「これで動け……ガッ!」

 

 幸斗は着地した瞬間、過去に例を見ないほどの目眩に襲われた。そして、突然口の中に鉄の味を感じた。幸斗は無理矢理、目眩を抑え込み『瑞炎』を再び鞘から抜いて前を向く。

 

「幸斗、大丈夫かっ!?」

 

 球子が怪我の痛みを押し殺し再び前線へと戻って来たのか、旋刃盤を何度も何度も投げつけていた。投げつけ、出来た傷へと杏が追い討ちで矢を連射する。若葉も二人の連携攻撃をよく見極めながら、打撃の入っていない箇所を的確に斬り込んでいく。

 完全に動きの止まった二足歩行はいい的だった。ついに二人の連撃を受け、進化体バーテックスは奇妙な鳴き声と共に消滅した。

 杏と球子、若葉と幸斗が進化体バーテックスを倒している間に、千景と友奈によって他のバーテックスを全滅させ、戦いは勇者たちの勝利に終わった。

 

 だが、幸斗はその勝利を噛み締めることができなかった。

 自分の命を僅かながらではあるが代償にしたからか、ありとあらゆる体調不良の症状が幸斗を襲っていた。

 頭痛、目眩、関節の痛み。

 過去二回の戦闘後に起きた発作とは、また別種の何かが幸斗の中で起こっていた。幸斗は既に立つことも叶わず、その場に倒れ込む。

 誰かが駆け寄ってくる音を最後に、幸斗の意識は完全に途切れた。




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