花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

54 / 94
もう色々とネタがなーい!
やばい。間違いなく結城友奈という作品を壊していってしまっている気がする。
すみません。心からの叫びが出ました。
それと、ある方に言われて、出てくる人物の名前を調べたらある作品にぶち当たったんですよね…。内容もなんだか近いし、タイトル名も似ている。けど、パクリでは無いです。
それではどうぞ。


第二話 『偽』から『本物』へ

 

 俺は美遊を引き連れて、授業が行われている校舎へと転がり込んだ。

 風先輩には事前に話を通してあり、部室は開けてもらえている。

 結果だけを言うと、俺と美遊は何とか教員にもバレずに部室へと忍び込む事に成功したのだった。

 

「何か私、凄いドキドキした」

 

「俺はドキドキでも違うドキドキだよ。本当に心臓に悪い」

 

 どれだけ見つからないために細心の注意を払ったか。恐らくこの記憶喪失の娘(仮)は知らないのだろう。何とお気楽な事か。

 

「お父さん授業いいの?」

 

「流石に面倒いから次の時間から行くよ。あと十分くらいか」

 

「不真面目ー。そんなんだから出世できないんだよ」

 

「お前が社会の何を知ってるんだ。俺も知らんけど」

 

 ついでに言っておくと、俺には出世欲なんぞ一ミリもない。あるのは安寧とした生活を送りたい。ただそれだけだ。

 

「そういや、美遊の父親って仕事何してるんだ?」

 

 俺は会話の一環で何となしに聞いてみた。俺の質問に美遊は首を傾げる。

 

「えーっと……自宅警備員?」

 

「マジかよ」

 

 密かに俺はショックを受けたのだった。未来の俺は何をしているんだ。

 ショックを受けている間に、授業の終わりを知らせる機械音声の鐘が鳴り響いた。

 俺はそれを聞いて座っていた椅子から立ち上がる。

 

「俺も行くけど、昼休みくらいにまた来るから。それまで大人しくしておいてくれ」

 

 美遊は小さく頷いたので、俺は美遊を信頼して、部室から出たのだった。

 

 教室に着くなり、遅刻をしてきた俺はクラスメイトに絡まれた。

 遅刻というものは話題になるらしい。

 俺は絡んでくるクラスメイトを振り解いて、自席に着く。これだけでかなり疲労感が溜まったように感じる。

 

「おはよう。ハルスケ。遅刻なんて珍しいね〜」

 

 園子が挨拶をしてくれた。今日は小休憩の時は寝ていないらしい。

 

「おお、園子か。おはよう。ちょっと色々な」

 

「昨日の記憶喪失の女の子〜?」

 

 小声で確認するように俺の耳元で囁く。

 俺はそれに頷いた。そして、言わなければならない事を思い出した。

 

「それだけど、昨日助かったよ。わざわざ調べてくれて」

 

 昨日、大赦に直接行く訳にもいかず、関わりのある乃木家と鷲尾家に情報を集めに行ったのだ。その際、乃木家の方に園子を通じて話を通してもらったのだ。お陰で、最も有力な情報を得る事が出来た。正直、民間の情報まで持っているとは知らなかったが。少しだけ、ある種の監視社会である事に不信感が募ったが、それはまた別だ。今ではそれが普通なのだから、いい加減俺もそこを受け入れなければならない。

 

「全然大丈夫なんよ〜。困ったら相談だもんね〜」

 

「あとそうそう。ちょっと今日部室行ったら驚くかもしれないから気をつけてくれ。ドッペルゲンガーみたいなやつがいる」

 

 園子は首を傾げた。俺はその様子が面白くて軽く笑った。

 

「いるかー?美遊?」

 

 昼休み、俺は様子を見に部室を訪れた。声に反応して、美遊は部室の奥から顔を覗かせた。隠れていたつもりなのだろうか。

 

「来るなら言ってよ」

 

 口を尖らせて文句を言う美遊。そもそも連絡手段がないのだから伝える事など不可能に近い。

 

「とりあえず昼ごはん。食べるだろ?」

 

 俺は珍しく朝、早起きして作った弁当箱を鞄から取り出した。簡単なものしか作れなかったが、こればっかりは我慢していただこう。

 

「本当に遠足みたい」

 

「この学校、昼は弁当かコンビニだからな」

 

 俺は道中買ったコンビニのおにぎりを取り出した。いつもコンビニのおにぎりを見るたびに思う。鮭って何でまだ存在してるのか。と。

それすらも神樹のおかげだというのならば、心底大赦職員や一般市民が心酔するのも分かる気がする。

 

「本当にいいの?」

 

 遠慮がちに俺の手から弁当箱を受け取る。

 

「そんなものでいいのならって感じだけどな」

 

「ううん。ありがとう。嬉しい」

 

「味は保証しないぞ」

 

 俺はそう情けなく保険をかけてから、自分の昼ごはんのおにぎりの袋を開けて、口に頬張った。

 

 

「59点」

 

「お前は人の料理に点数をつけないといられないのか」

 

 しかも前より下がっている。なかなかの辛口評価に俺は泣きそうになる。美遊が元の場所に戻るまでに100点と言わせてやろう。一人静かにそう誓った。

 

「それよりもお父さん、時間大丈夫なの?」

 

 美遊に言われて俺は時計を見る。

 

「もう行かないとな。放課後、また来るから。あと2時間の我慢だな」

 

「結構暇なんだよー」

 

 確かに暇ではあるだろうな。この部室、意外に何でもありそうでないからな。

 少し悩んだ末、俺は一冊だけ持っていた本を取り出した。美遊が本が好きかは知らない。

 

「暇つぶしにはなると思うぞ」

 

「……お父さん」

 

 急に神妙な面持ちになる美遊。俺はその美遊の表情に首を傾げた。

 

「漫画ないの?」

 

「漫画か……。授業間に合うかな…」

 

 俺は再度時計を見る。昼休み終了まで残りわずかとなっていた。

 図書館に行くのもギリギリか。まあ、先生には適当な理由をつけてはぐらかしておこう。次の時間は歴史の授業だし、罰として当てられても恥を晒すことはないだろう。

 

「ちょっと待っててくれ、何かしら探してくる」

 

 甘やかせすぎな気もするが、こうも暇な場所に連れて来たのは俺の責任でもあるし、そのくらいはしてやろう。

 

5分後ーーーー。

 

 俺は図書館から部室までの廊下をぶつくさ文句を言いながら歩いていた。

 

「何で何も置いていないんだ……。この学校」

 

 よく考えてみたら学校に漫画なんて歴史の偉人なんとかみたいなものしかないじゃないか。

 部室に戻ると美遊は俺の小説を読んでいた。

 

「あ、お帰り〜、お父さん。これ面白いね!」

 

「……時間を返せ!」

 

「なんで!?」

 

 俺は美遊の頬を軽く引っ張った。美遊は「痛い、痛い」と言いながらも笑っていた。

 結局、授業は遅れるハメになり、俺の言い訳も虚しく手痛い罰を食らった。宿題が倍とかもう泣くに泣けない。

 事情を知っている銀は笑いながら「ドンマイ」とすれ違い様に俺の肩を叩いたのだった。

 

 放課後になり、増やされた宿題を少しだけこなしてから俺は部室へと向かった。同じクラスの銀と友奈、夏凛、園子は先に行ってもらっている。

部室に近づいた時、部室の方向から友奈の悲鳴が聞こえた。

 

「……あー、言ってなかった」

 

 俺は少し苦笑いを浮かべてから、小走りで部室に向かい、扉を開けた。

 

「は、は、は、晴哉くん!銀ちゃんが二人に!!」

 

「みみみ、みのさん!?どっちが本物〜!?」

 

「ちょっと!落ち着きなさいよアンタ達!そんなことあるはずないわ!」

 

 銀を除く三人は、普段の姿からは想像できないほど慌てふためいていた。

 当の美遊は何故三人が驚愕しているのか理解していないようで、キョトンとした表情を浮かべている。もしかしたらコイツ、なかなかに精神面が強いかもしれない。

 美遊は俺が来たのを視認したのか、俺の方を向いて手を振った。

 

「お父さん、やっと来た。遅いよー」

 

「「「お父さん!?」」」

 

 頼むから全員一回落ち着いてくれと俺は心から懇願した。

 南無八幡大菩薩。この混沌とした場を鎮め給え……。

 

 風先輩と樹がそれから数分後に部室に来た。

 

「というわけです」

 

 それから、俺は事細かには説明せず、風先輩と樹に説明したように手短に説明をした。美遊はニコニコとしながら椅子に座っている。

 

「で、さっきのお父さんってのは何なのよ」

 

 精神安定のサプリを飲んだ夏凛はようやく落ち着きを取り戻したのか、俺に引き気味で聞いた。……そんなに距離取らなくていいじゃないか。

 

「何と説明したものかって感じだけど……推定、俺と銀のむ、娘?」

 

 なんとか恥ずかしさを押し殺して、伝える。

 

「何をどうしたらそうなるのよ」

 

「俺に聞かれても困る。とりあえず、また不思議なことに巻き込まれたと思ってくれ」

 

 それで収まってくれるとは思っていないが、それ以上に説明のしようがない。いかんせん、俺とて知識はあってもそういう行為に及んではいない。

 とりあえず、三人は歯に何か詰まったような表情を浮かべながらも納得してくれた。樹は「ははは〜」と苦笑いしている。

 

「ところで〜、みのさんとハルスケの娘さんの名前はなんて言うのかな〜?」

 

「あ!私もそれ気になってた」

 

 友奈が手を挙げて園子に同意を示す。

 

「何、晴哉。わざわざ名前まで付けてあげたの?本格的ね」

 

 風先輩がほれほれと膝でつついてくる。正直鬱陶しかったが表情には出さずに無視をして、園子に答えようとした時、先に美遊が口を開いた。

 

「鷲尾美遊です。よろしくお願いします」

 

 美遊はとても小学生とは思えない所作で綺麗にお辞儀をした。普段からこのような挨拶をしていなければとても出来ない。そう思わされた。

 その姿は、俺と銀に見せる姿とはかなり対照的で、何処か外行きの所作のように思えた。というか、今更その姿を見せても意味がない気もするのだが……。さっき俺に手振ってたし。

 それはさておき……。

 

「お前に鷲尾の苗字をつけた覚えはない」

 

「え?私、鷲尾じゃないの?」

 

「贅沢な苗字だね〜。今日からお前の名前は『遊』よ!」

 

「ごめん意味がわからない」

 

 園子の唐突な意味不明な発言についつい突っ込んでしまった。夏凛は先に自分の専売特許を奪われたからか、口をモゴモゴとさせていた。

 

「だってお父さんが鷲尾なら私も自然に鷲尾になるはずじゃん」

 

「なあ、もう一度聞くけどお前、本当は記憶戻ってるだろ」

 

 やはりその質問には美遊は首を傾げるのだった。誤魔化している様子は一切ない。本当に戻っていないようだ。

 

「私は結城友奈!よろしくね!美遊ちゃん!」

 

 いつか友奈が俺と出会った時のように美遊の手を取った。

 ただ、美遊の方は友奈の名前を聞いて、一歩引き気味になったように感じた。友奈が手を離すと、美遊は首を傾げた。

 

「私は、皆さんのこと何て呼べばいいんでしょう」

 

 美遊が「どうしよう。困ったなあ」とぼやいた。

 

「お姉ちゃんでもいいんだよ〜。みーちゃん」

 

「み、みーちゃん?」

 

 園子が即興で付けたあだ名に美遊は困惑した表情を浮かべたが、直ぐにそれを受け入れたようだ。

 

「ほらほら〜。言ってみなよ〜。コールミーお姉ちゃん!マイシスター?」

 

「お、お姉、ちゃん?」

 

「おお〜!みのさんが妹になったみたいだよ〜。面白い〜」

 

 ちゃんと困惑しながらも園子に付き合うあたり、ノリもいいらしい。

 何というか、実際の感覚はわからないが娘の成長を見守る親のような感覚に陥った。

 というより、先程から園子の暴れっぷりが凄い。テンションが上がりまくってる。一人だけ別世界に向かいつつある園子を銀が宥めている間に各々、美遊に自己紹介していく。

 

「私は犬吠埼風よ。そうね、呼び方は任せるわ。好きなように呼んでくれていいわよ」

 

「それでは、風先輩。暫くの間ですがよろしくお願いします」

 

 また美遊は丁寧なお辞儀をした。なんだろう。やはり、礼だけ洗練されている気がする。こんな中途半端な教育法をする人間、思い当たる人物は一人しかいない。一体、未来の俺は娘に何を教え込んだのだろうか。謎である。

 

「私が三好夏凛よ。よろしく」

 

「にぼっしーさんですね」

 

「誰よ!この数分で教えた人!」

 

 友奈と銀、園子、風先輩が回れ右した。明らかに確信犯だった。

 

「わ、私は犬吠埼樹です。よ、よろしくね、美遊ちゃん」

 

「はい。よろしくお願いします。樹さんでいいですか?」

 

 樹はそれに頷いて、ホッと胸を撫で下ろした。風先輩が「よく頑張りました」と笑顔で背中を軽く叩き、樹は「やめてよ、お姉ちゃん」と言いつつも大してやめて欲しそうではない。

 いいなー、姉妹って。俺も妹欲しかったなー、と心の隅で思った。今では妹を超えて、娘が何故かいるという最早理解が到底及ばない状況な訳だが。

 

「そう言えば晴哉、何で美遊が未来から来た自分達の娘だと思ったわけ?普通に考えたらありえない事だと思うんだけど」

 

 夏凛の質問を聞いて、やはりどう考えてもあり得ない事なのだと思わされた。ただ、まだ発見してから一日しか経っていないのに、俺は美遊という人間が昔からここにいて、一緒に生活していたかのような感覚に陥っている。

 例えるなら、パズルの空いてしまっている場所を本来のピースではなく、無理やり代わりの、偶然その空いてしまっている場所の形に合致するピースを埋め込んだような、そんな感じだ。

 唐突に気持ちの悪い感覚を覚えながら、俺は夏凛の質問に答えた。

 

「銀の誕生日に髪留めをプレゼントしたんだけど、美遊が同じもの持ってたって言えば伝わるか?」

 

「でも、それだけで分かるものなの?同じものが製造されている場合もあるわけで」

 

 夏凛の言うことは最もだ。だが、それも既に解決済みだ。

 

「友奈は一緒に買いに行ったから分かるかもしれないけど、その髪留めに小さくだけど銀の誕生日刻んで貰ったんだ。で、実際、今銀が付けてるものと見比べた時に合致したってわけだ」

 

 美遊の手から髪留めを拝借して、銀が付けているものと並べてみる。やはり、劣化してしまって文字は見えにくくなってはいるが銀の誕生日である11月10日と言うのが見て取れる。

 あまりにも証拠が揃いすぎてしまっており、夏凛は納得せざるを得なかった。

 話がひと段落したところで風先輩が手を叩いて全員の注目を集める。

 

「美遊と交流するのも大切だけど、私たちにはやらないと行けない事があるのを忘れてもらっちゃあ困るわ」

 

「そう言えば依頼、結構溜まっちゃってますからね」

 

 銀に言われて、全員パソコンの画面を覗き込む。そこには処理が遅れてしまった依頼がそれなりの量溜まっていた。

 

「銀の言う通りよ。晴哉が日程管理してくれてるんだけど、なーんか以前より物事の運びが悪いというか……」

 

「俺も風先輩に急に言われてやり始めたばかりですからね。しかも二週間前ですよ。寧ろ誉めてほしいくらいです」

 

「確かに急だったのは悪いとは思ってるわ。だけど、私たち、良く今まで多量の依頼こなせてたわね。私たちの才能、末恐ろしいわ」

 

「ブラックなだけだと思いますよ」

 

 俺はパソコンの前に座って依頼を確認する。

 それよりも俺は誰から日程管理方法を学んだんだったか。元々、こんな能力なんぞ有していない。

 しかも風先輩が言った通り、誰がこの部活の日程を管理して、上手いこと回していたのか。

 

「週末にソフトボールの助っ人依頼来てるけど、誰か行けそう?」

 

「何人必要なのかな」

 

 友奈に問われて、詳細を確認する。

 

「二人だな」

 

「だったら私が行くわ」

 

「私も夏凛ちゃんと一緒に行くよ」

 

「りょーかい」

 

 このソフトボールの助っ人依頼は夏凛と友奈が名乗りを上げてくれたおかげでこの依頼は早々に解決できた。

 

「んで、次は……」

 

 予定表に誰がその依頼を行い、誰が空いているのかという情報を書き込んでいく。基本的な事だが、これも誰かから教えて貰えなければ恐らく俺は出来ない。

 それぞれ、上手い具合に依頼を振り分ける事ができて満足していた。それと同時に、最近よく感じている気持ち悪さが心の中に充満した。

 

「やっぱり何か引っかかる」

 

 引っかかる。引っかかるのだが、それが何かが出てこない。

 いつも通りと言っては何だが、俺は自分の思考領域に入り込んでしまった。

 

「お父さん」

 

「……ん?ごめん気づかなかった。どうしたよ」

 

 美遊に呼ばれてようやく意識が現実へと浮上した。この癖、そろそろ治さなければならない。

 

「お父さんの顔、怖かったから。何かあったのかと思って」

 

 そんなに怖かっただろうか。確かに難しい顔、というか眉間に皺でもよっていたとは思う。

 

「何も無いよ。パソコンの画面を見過ぎで目が疲れただけだ」

 

 俺は一度、誤魔化すようにパソコンから目を離して眉間を揉む仕草をした。考えてもどうにもならない事はならない。それよりも画面の見過ぎからだろうか、少し頭痛を感じていた。

 美遊は暫く俺の隣に座っていたが、飽きたのか友奈の下へと向かった。今は二人で楽しそうに談笑している。

 

「晴哉さん、おつかれ様です」

 

 美遊と入れ替わるように、樹が紙コップに入れた飲み物を持ってきてくれた。

 

「ごめんなさい。お姉ちゃんが無茶苦茶に引き受けてしまって…」

 

「樹が気に止むことじゃないよ。確かに風先輩の引き受け具合は異常だけど、勇者部って、そういう部活だってこと知ってるから。寧ろ飽きなくて俺は助かってる」

 

 実際問題、勇者部はその日その日でやる事が変わるので中々に面白い。飽き性の俺にはかなり向いていたようだ。

 

「そう言ってくれると、私もお姉ちゃんも助かります」

 

「……代わりと言ってもなんだけど。樹、変なこと聞いていいか?」

 

「珍しいですね。晴哉さんが私に質問なんて。答えられるかはわかりませんが、なんでも聞いてください」

 

 樹は『任せろ』と言わんばかりに軽く胸を叩いた。

 失礼なことを想像したが、言うと色々とアウトなので絶対に言わない。

 俺は軽く咳払いをして調子を整える。

 

「家族ってなんだと思う?」

 

 俺の質問に樹は悩む。難しい事を聞いてしまったかもしれない。それでも樹は回答をなんとか捻り出してくれた。

 

「血が繋がってる…とかかな。美遊ちゃんの事ですか?」

 

「美遊に関しては…俺と銀が勝手にそう思い込んでいる可能性があるから保留だな。そうじゃなくて……難しいな。何と言うのか、家族の在り方、みたいな」

 

 樹は俺の稚拙な発言で言いたいことを汲み取ってくれた。

 

「血が繋がってなくても、それは家族と言えるのか。みたいな感じですか?」

 

「そう。それだ。流石、樹。頼りになる」

 

「お役に立てたようでよかったです。でも、急にどうしたんですか?」

 

 俺もどうしてこんな意味のわからない事を聞いたのかわからない。

 ただ樹だけが持つステータス。『妹』というものがやけに胸に引っ掛かりを覚えている。しつこいぐらいにそのワードや誰に教えられたのかわからない事に引っ掛かりを覚え、それはいい加減、何かに気づけよと催促されているようだった。

 

「凄い引っかかることがあってさ。それが何かを知りたかったんだ」

 

「本当に今ので解決できたんですか?」

 

「一応?」

 

「晴哉さん、適当だからたまに心配になりますよ。……それにしても美遊ちゃん。本当に晴哉さんと銀さんに似てますね」

 

「信じたくないんだけどな」

 

「前から思ってたんですが、晴哉さんは素直じゃないですね」

 

 樹が小さく笑う。

 

「……みたいだな」

 

 俺は今一度、友奈と話している美遊を見る。

 仕草や会話の口調、テンポ。容姿。それは全て同一というわけではない。それでも十分過ぎるほど似通っている。

 ああ、もういい加減に推定とか、可能性とか、保留とか、そう仮定付けるのはやめよう。何を俺は怖がっているのか。

 だが、美遊を見ていると自然と頬が緩むのだ。

 『美遊』という名前も最初は仮名だった。それでも、気がつけば彼女は勝手に、俺の中で鷲尾美遊になってしまっていた。

 銀へと抱く感情とは似て否なる感情。それに気がついて、俺はようやく、本心で認めたのだった。

 紛れもなく、俺は美遊の『父親』だと言う事を。

 

 

 

 自宅にて俺は美遊のリクエストに答えて、オムライスを作っていた。

 子供だなと冗談半分で馬鹿にしたら銀から抗議の声が飛んできた。

 抗議の声を上げていた銀は隣で上機嫌で鼻歌を口ずさみながら手伝ってくれている。

 そういえば、美遊は恐らくここに居候することになるだろう。それしか選択肢がないように思える。

 居候してくれるのは全然構わない。しかし、それと同時にある問題にぶち当たる。

 

「美遊、お前着替えとかあるのか?」

 

「最初に着てたやつあるよ?」

 

 美遊が来ていた最初の服、と言うのもまた変なもので大赦が儀式で使う正装を身に纏っていたのだ。その理由もいまだにわからず仕舞い。

 

「あれと神樹館の制服だけで回せるわけないだろ。それこそ下着とかどうするんだよ。そればっかりは銀に借りるわけにはいかないだろ」

 

「取り出せば大丈夫じゃない?」

 

「?取り出すって、どこから」

 

 次の瞬間、美遊の手には一枚の服が握られている。

 俺は持っていたケチャップを地面に落とした。

 

「……いや、簡単に予測は出来たな……。どんな神話だよ。ギリシャ神話のヘラクレスみたいだな…」

 

 半神半人。まさしくそれに近い。

 

「ハルヤ、今のって」

 

 銀も美遊が何をしたかに気がついたようだった。

 神である『時量師神』と人間である三ノ輪銀。その間の娘が普通な形で産まれるはずがない。

 当の美遊といえば、何故か慌てふためいていた。それを無意識でやってしまったかのような、そんな慌てぶりだった。そして何かを思い出したかのように肩を震わせた。

 

「お父さんとお母さんに怒られたのに……また使っちゃった…」

 

 美遊は手を握っては開き握っては開きを繰り返して、目には涙を浮かべている。なんだろう。記憶喪失中でも思い出して泣き出しそうになるほど、そんなトラウマレベルのお怒りを受けたのだろうか。

 

「美遊?」

 

 銀がソファに座っている美遊に近づいて声をかける。

 

「お母さん、お父さん。私少しだけ思い出した」

 

 美遊は目に溜まった涙を服の裾で擦ってから、俺と銀の方を見た。

 

「お父さんの名前は鷲尾晴哉。お母さんの名前は鷲尾銀。…まだ自分の名前はわからないみたい」

 

 一体何が引き鉄となったのか、一部とは言え、彼女は記憶を取り戻した。

 けど、何故親の名前を思い出して自分の名前を思い出せないのか。

 

「これで本当に最後だから。あと一回だけ…」

 

 美遊はぶつぶつと呟いて再び手を開いて目を閉じる。

 気がつけば、美遊の手には一枚の写真が現れていた。

 

「お父さんとお母さんの名前を思い出して、顔もやっと思い出したよ」

 

 美遊が俺と銀に写真を手渡す。

 そこには笑顔で写っている銀と美遊、どこかぎこちのない笑みを浮かべている俺がいた。

 捏造ではない。それは確信があった。美遊の物を取り出す能力がいかほどのものか知らないが、仮に『時量師神』の能力を引き継いでしまっていた場合、取り出せるものは実際に存在していた、もしくはしている物に限られる。それと、自分が実際に視界に入れたものだ。

 俺は美遊に写真を返した。

 

「実際、そんな気はしていたから特に衝撃はないな」

 

 俺の返答に隣の銀も頷いていた。

 

「少しずつでいいから思い出せばいいよ。アタシたちはいくらでも待つからさ」

 

「お母さん…。ありがとう」

 

 銀は美遊に近づいて頭を撫でる。美遊はそれを気持ちよさそうに目を細めて受け入れていた。その光景はちゃんとした親子のようだった。まあ、親子なんだけども。

 

「ごめん美遊。最後に聞いていいか?」

 

「どうしたの?お父さん」

 

「今日の勇者部の中で見たことのある人、あとは知ってる名前とかなかったか?」

 

 もしかしたら、勇者部の中に美遊と深い関係を持っていて、記憶を取り戻すトリガーになる人物がいると思ったのだ。美遊は必死に思い出そうとしているのか、うんうん唸り、案外すぐに思い出したようだ。

 もしかしたらだが、美遊が失っていた記憶の大半は俺と銀なのではないだろうか。

 

「樹さんと、風先輩、にぼっしーさん、後、園子さんは知ってるよ」

 

「?友奈は知らないの?」

 

「名前だけ聞いたことはあるよ。けど、姿は見たことないなあ」

 

 銀は美遊の言葉を受けて首を傾げた。確かにおかしい。何故、友奈以外の勇者部の面々は知っており、友奈だけピンポイントで知らないのか。

 

「それに確かだけど、友奈って名前自体、いい意味で捉えられてないよ」

 

「「はい?」」

 

 俺と銀はつい聞き返してしまった。何がどうしたらそんな意味のわからない状態になるのか。

 

「ごめんなさい。私が今のところ思い出しているのはここまで」

 

「いや、謝る事のほどでもないと思うけど。ちょっと驚いただけだ」

 

 それにどんな事があれ、この先は聞いてはならないように感じた。

 銀もそれを察したのか、これ以上深掘りしようとは思わなかったようだ。

 

「真面目な話はここまでにして、ご飯にするか」

 

「それもそうだね。美遊、もう少しまっててな」

 

 作りかけの中途半端な料理もどきを料理に近づけていく。そしてすぐにリクエスト通りのものが完成した。三人でテーブルを囲んで取る食事は、なんだか不思議な感じがした。

 

 片付けも終わり、銀も部屋に帰ったあと、俺は美遊と二人でテレビを見ていた。特にこれといって興味が引かれたわけでもなかった。

 

「明日はどうする?また今日みたいにするか?」

 

「私は正直な話、行きたいよ。でもお父さん、怪しまれない?何度もこれから遅刻するの」

 

「元々不真面目な人間だから今更遅刻しようが何しようが結果は変わらんから大丈夫だ」

 

「胸を張って言うことじゃないと思うんだけど」

 

 美遊は呆れたようにため息をついた。そう言うお前はどうなんだと言ってしまいそうになった。

 

「そう言えばお父さんの周りって女の人しかいないんだね」

 

「馬鹿言うな。教室にいる時はちゃんと同性のやつといる。それにこっちじゃなくて大橋の方にも友達いるからな」

 

 最近会えていないが、あの二人は元気だろうか。一度夏休みに戻った際に遊んだがそれっきりだ。

 

「そんな中選ばれたお母さんは凄いわけか」

 

「何意味わからん事に感動してるんだ」

 

「お父さんとお母さん、どっちから付き合おうって言ったの?」

 

「はあ?」

 

 やはり美遊も女の子だからか恋バナというものは好きらしい。ただそれを自身の親に求めるってのも中々変な話だと思う。

 そう言えば神樹館の時の合宿で、銀もそんなような話を切り出していたっけ。

 

「子供にはまだ早い」

 

「お父さんだってまだ子供じゃん。保護対象だよ保護対象」

 

「確かにそう考えると俺ってまだ子供なんだよなあ…」

 

 こうして一人暮らしをしていると既に自立した気になっていた。

 自分は大人になった気で、実際はモドキだった。母さんも父さんも心配して電話やら連絡を入れてくれるわけだ。

 なんだか重要な事を娘から教えられた気がした。

 

「で、どっちなの?」

 

 目を輝かせて俺を見る美遊。答えないとしばらくうるさそうだ。仕方なく俺は答えた。

 

「タイミング的には、ほぼ同じだな。どっちが先とかはないと思うぞ」

 

「昔から仲良かったんだね」

 

「未来でも仲が良いならなによりだ」

 

「仲、良いのかなあ?」

 

「え、仲悪いの?」

 

 物凄く不安になることを言うものだから俺は怖くなって話題をその話から逸らすことにした。

 

「美遊。どうやってこっちに、過去に来たんだ?」

 

「確かに私、どうやってここに来たんだろ」

 

「なるほど。お前も何かしらの被害者って訳か」

 

 ならば想定するに美遊をこちら側に来させた黒幕がいるのだろうか。それこそ、記憶喪失の根っこの部分はこちら側に来た目的かもしれない。

 少し、いや、かなり小説の見過ぎか。

 

「そのうち原因もわかるだろ」

 

「私もそう思うな」

 

「お前さんは早く記憶を取り戻してくれる事を願ってるよ」

 

「二人に関してはかなり思い出したよ?そういえば、私がこっちに来る前の夜、二人の部屋うるさかったんだよね…。夫婦喧嘩してないといいけど。DVとかじゃないよね。お父さん!」

 

「するわけないだろっ!?」

 

「でも、お父さん弱いから……」

 

「俺がされてる側なんかい。安心しろ美遊。銀はそんな事はしない」

 

 色々勘違いが酷いが美遊は本気で家族のことを心配していた。こいつはこいつで純粋すぎる気もしなくもない。

 だが、そこまで不安そうに言うのだから俺は自身の将来にとてつもない不安を感じた。だからなるべく聞かないようにしていた未来の自分の姿を聞いてしまった。

 

「未来の俺、そんなに色々と可哀想な人になってるの?」

 

「そんな事ないよ。いつもお母さんに何か言われて喜んでた」

 

「大丈夫?俺、それ変な事に目覚めてない?異常者すぎない?」

 

「そんな事ないよ。すっごい優しい、いいお父さん……のはず」

 

「なんでそんな裏の顔があるみたいな言い方するんだよ。怖いだろ」

 

「でもお父さんもしてるかもしれないよね」

 

「DVをか?俺がするわけないだろ」

 

 そんな会話をしていると偶然、テレビのニュース番組に出ているコメンテーターみたいな人がDVの特徴を解説しだした。

 

『基本的にこのような人は周りからの視線が怖いので、社会的にはいい人間を取り繕うんですよ』

 

「ほら」

 

 美遊がテレビを指差す。

 

「ほら。じゃないんだよ。言っとくが、俺は銀の事は絶対に殴ったりしないからな。なんで大切な人を、好きな人を傷つけなきゃいけないんだよ」

 

 それこそ確定した未来かは怪しいが、結婚までして娘を作るくらいにまで大切な人として昇華してるのにそんな事をする理由が見つからない。

 それを聞いて美遊がニヤニヤしながら俺の後ろへと話しかける。

 

「だってさ、お母さん。よかったね」

 

「!?」

 

 背後を振り向くと顔を真っ赤にした銀が立っていた。会話に夢中で戻ってきた事に気が付かなかったらしい。

 お互い無言で見つめ合う。

 そしてやはり照れ臭くなって無言でお互いに視線を逸らした。それを美遊は笑いながら見ている。

 その日は美遊のお願いによって3人川の字で寝る事になった。

 たった数時間前まで仮初の『偽』の家族は紛れもなく『本物』の家族へと近づいていた。

 それと同時に大切なものを忘れ続けているとも知らずに。

 

 

 

 

 




…………第三幕のネタをください。
他力本願すぎますが、コメント欄に書いていただければこの先の展開の参考にさせていただきます。無償のボランティアみたいなものですが、私自身、この作品だけは完結させたいのでよろしくお願いします。

あと、以前から告知していたコラボですが、私のせいで何一つと進められていません。
この場を借りてですが謝罪をさせていただきます。
ゼロさん。すみません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。