最初のバーテックスが現れてから半月が経とうとしていた頃、二度目の襲撃があった。
俺は先日言われたことを三人には話さずこの戦いに参戦した。
「あれは、天秤〜?」
「天秤…っぽいな」
「見た目的に、あの接合部が弱そうかなあ?あそこを中心に攻撃してみるといいかも〜」
「接合部ね!了解!」
前回の敵は水を使用して攻撃してきた。今回の敵のビジュアルは完全に天秤だった。それ故に攻撃方法の想像がつかない。
「まずは、私が…!」
須美が弓の弦を引いたその時、バーテックスが回り始める。それは瞬時に攻撃であると判断できた。
「園子!槍展開!」
「わかってるよ〜!」
園子は言う前に槍を変形させ、盾を作り出していた。
俺もあまり推奨されたものではないが、樹海に持っていた剣を突き刺し、自身を固定する。
バーテックスを中心に台風のような突風が吹き出した。須美も即座に射撃態勢を崩し、園子の盾に隠れる。
その風の威力は突風なんてものではない。無差別で暴力的な暴風。その風に晒され、すぐに身体が吹き飛ばされそうになり、四人とも動けなくなってしまう。
「身動きとれねえよー!!」
もどかしさも相まってか、銀が叫ぶ。視線を向けると園子の腰に捕まるので精一杯な様子だ。
「あのグルグル!上から攻撃できないかな!」
しかし、園子はこの状況の中、相手のどこが弱そうか、どこから攻撃できそうかを考えていた。俺も必死になって糸口を探した。それでもあくまで冷静に。
既に樹海はバーテックスの攻撃により、侵食が始まっていた。それを見かねたのか須美は銀から手を離し、宙に浮いた。そして、弓を構えてーーーーー。
「南無八幡大菩薩!!」
と唱えて弓を射った。
しかし盾のような役割も果たしていた風に弾かれ、おまけにその敵に当たるはずの矢は、樹海へと突き刺さりダメージを与えてしまった。
「うそっ!きゃあっ!」
そのままショックを受ける暇もなく須美は後方へと飛ばされた。
須美の焦りもわかる。このままいけばジリ貧だ。だが、冷静さを欠けばそれだけで敗因となり得る。
おそらく敵は永遠に回り続ける。風は止まない。
俺は最大限脳を活性化させると、一つ先日理科の授業で習った台風の目がふと出てきた。今回、あの天秤の動きにも通用するのならーー。
「園子。あれ、台風と同じ原理とは考えられない?」
「それ私も思ったよ〜。でも、どうやってその中心まで行くの〜!?」
俺はどうしたものかと一瞬悩むと、すぐにアイデアが浮かんだ。もれなく怪我はするが死には至るまい。
「なあ、銀。上で斧を構えられるか?」
「できるけど!?」
「悪いけど、それ踏み台にする」
「なるほどね、オーケー!」
「よし。なら銀は俺の合図と共に飛んでくれ」
「1、2の3だね!わかった!」
返事をしながら銀が笑う。それに頼もしさを感じながら、俺はカウントダウンを始める。
「行くぞ…1、2の3!」
カウントが3になった瞬間、俺と銀は同時に跳躍した、自然と身体は宙に浮き、敵の真上へと容易にたどり着いた。
たどり着いただけでは何もできない。
そこで俺は銀に斧を構えてもらい、それを踏み台にして敵の接合部へ流星のように突っ込みながら、片手直剣を構えた。
「はあっ!」
剣に力を宿し、一思いに切り裂く。
狙い通り接合部は狙い通り切り落とす事ができ、風はかなり弱まった。
あとはーーーー。
「任せた!」
俺は真上にいる銀に叫んだ。
「任せろ!はあああああああ!」
銀はニカッ!と笑うと声を上げ、次々に乱撃を加えていく。その速度は神の力を借りているからとは言え、神速にほど近いものだった。
大きな斬撃音が響いたあと、完全に敵の動きが止まる。
無理に突っ込んだ俺は風の刃に全身を刻まれて、血だらけだった。銀も軽症ではあるが出血している。
俺は再度跳躍し、落下する銀を受け止め、体制を立て直すために、後方へと飛んだ。
「今だ!!!」
園子も今が好機とばかりに落下した敵の中に飛び込み、槍撃を開始する。須美もわずかながら遅れて、自分の間合いに飛び込んだ。ゼロ距離射撃ならば必中であり、神の力を宿す須美の弓ならば威力は絶大だった。
俺は武器を片手直剣から打撃数を増やすために剣を両手に持つ二刀流にし、再度攻撃を仕掛けた。銀もそれに追随する様に、二丁の斧を踊るように操り、敵を刻む。
敵が再び回転し、風を起こすことを許すことなく四人のラッシュは敵が撤退するまで続いた。
敵が撤退したのを確認すると、四人とも、大橋でグデーッとダウンしていた。
「つっかれたー。どれだけ戦ってたよ、あたしたち」
「前回より長かったかもね〜」
「あの…銀。銀は傷、大丈夫?」
「何度目の質問よ。それ。それに、深い傷はそっちの人が全部おってくれたから」
「…兄さんは大丈夫よね?」
「毎回思うんだけど、須美さん俺に厳しすぎませんかね」
「そんなことないわよ。その、…ごめんなさい。矢が通じなくて。そのせいでみんなを…」
須美はすごい落ち込み様だった。
たしかに攻撃が通じないとなればショックは受けるかもしれない。
「そんなの相性もあるし、気にするなって。だいたいアタシは突っ込むのが仕事なんだし。ハルヤだって似たようなものだし」
「突っ込むのが仕事…か。もしかして私達って、あまり仲良くならない方がいいのかな…」
須美はそんなことを突然言った。俺もあまりの事についつい「へ?」と変な声が漏れた。
「え、どうしたのわっしー」
「な、なんだよいきなり…」
俺は何も言わずに須美が言う言葉を聞いていた。須美は責任感が強い。それ故に、自分が背負わなくていいものまで背負いやすい。
「だって…私、銀と兄さんが飛び込んだ時、心配で…動きが鈍くなっちゃったから…」
須美はそう言いながらポロポロと涙を流す。こういう時にかける言葉を俺は知らなかった。
「あぁ、わっしー泣かないで」
園子が声をかけるが、敵が去り、感情の堰が切れてしまったことで、須美の涙は止まらなかった。
自分の矢が樹海を傷つけたこと。お役目に役に立てなかったこと。そのせいで仲間を危険に晒したこと。好意を持った人が血まみれになってしまったこと。真面目な須美にとっては今回の任務は、ショックなことが多すぎた。
「おまえ、どれだけアタシたちのこと信頼してないんだよ。勇者システムだって近接用になってるんだし、大丈夫だって」
銀がよしよしと須美の頭を撫でる。
「アタシ須美から仲良くならない方がいいって言われた方がグサッときたよ。そっちの方が辛かったな」
「うんうん。私もだよわっしー」
「ごめん、ごめんね…」
銀は泣いている須美を泣き止むまで強く抱きしめていた。
検査や反省会を終え、須美と一緒に家路に着く。
須美としては泣いたあと気恥ずかしいのか口数が少ない。
俺はそんな中、今日感じた園子と銀のことを率直に口に出す。
「二人ともいい子だな」
「うん…」
「それよりいつの間に名前で呼ぶ仲になってたんよ」
「…兄さんが途中で抜けた日よ」
「俺がいなくなった後にそんな感動ストーリーがあったとは…」
また会話が一度途切れる。俺は今須美が感じているであろう事を聞いた。
「嬉しかったか?」
「……うん」
「須美はさ。気負いすぎなんだよ」
「……」
「俺のことは信頼なんてしなくていい。けど、あの二人は信頼していいと思う。悩んだり、辛いことがあってもあの二人なら受け止めてくれるぞ?」
「……うん。そうね」
「にしても、良かったな。いい友達ができて」
俺は須美の頭を軽く撫でた。須美は気恥ずかしそうにそっぽを向く。
「なんか偉そう。年だって一緒なのに…」
「悪いが俺の方が1ヶ月年上だ。残念だったな」
「1ヶ月なんて誤差じゃない…」
「細かいことは気にするなって」
「どの口が言うのよ。全く…」
そう言って須美の口角が少しだけ上がった気がした。
園子と銀のことを思い出しているのか嬉しそうな須美を横目に俺はボソッとつぶやいた。
「…友達か」
クラスの中にも話す程度の人はいる。けれど俺は結局そこ止まりだ。園子も銀も友達と言えるかすら怪しい。記憶を探っても信頼をおける友達なんてものは過去いない気がした。本当なら、須美が泣いていた時俺は声をかけるべきだった。どんな下手な言葉でもいいから。けれど、できなかった。なんて声をかければわからなかった。
唐突に自分が空虚なものに思えてきた。骨格はあるが中身がない。そんな感じだ。
いつか、この中身を埋めることができるだろうか。
俺はそんなことを思いながら家を目指した。
その夜、またいつか見た夢を見た。
その人は一本の刀を持っていた。
その人はそれの扱い方を俺に見せた。
その人は俺にその刀を持たせた。
その刀が自分の一部になったかのように扱うことができた。
その人は何かを話した。
俺はその人を見る。
顔は見えない。
俺は何かを言おうとして………。
世界が暗転した。