花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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折角オリジナルで出した美遊をあのような形で出番を失うのも唐突に嫌になったので美遊が主人公の新しい章でも書こうと思います。
第四幕ですが、あの続きは内容的にはアニメとほぼ一緒という構成にしていたので面白みがないかと思い、一気に吹っ飛ばし第五幕は晴哉が全て上手くやりハッピーエンドを迎えた場合の話にしようかと思います。
ただ、少しこの類の話が苦手な方がいるかもしれませんがご了承をば。
いつも通りの駄文ですけどお付き合いください。


第五幕 鷲尾美遊は勇者となる
第一話 日々を慈しむ


 たまに私はとても長い長い夢を見る。その夢を見た日は決まって夢と似たようなことが起き、デジャブと言うんだっけ。それによく襲われる。

 私は勝手にそれを前世の記憶だとか痛い発想をしている訳だけど、大して重要なことでも無さそうだし無視してもいいだろう。

 今は、この平和で楽しい毎日を一生懸命に生きていたい。

 鷲尾美遊。現在十一歳。あと少しで十二歳の小学六年生。

 世界は眩しく輝いている。さてと、今日も今日とて行きますかね。

 鷲尾美遊、しゅっぱ〜つ!!

 

「いでっ!」

 

「朝から変な声で叫ぶな」

 

「女の子に対して変な声って何さ」

 

 私は起きたばかりの意識が朦朧とした状態で、誰と話しているのかは分からないが適当に答える。

 段々と意識が戻ってくると今自分の目の前にいるのが自分の父親だと言う事に気がついた。

 

「おはよう。お父さん」

 

「鷲尾美遊、しゅっぱ〜つ!とか叫ぶくらいには元気そうで何より」

 

 私はそんな事を叫んでいただろうか。うん。自分に記憶がないと言うことはお父さんが勝手に捏造でもしたのだろう。

 お父さんは私が考えている事を想像したのか小さくため息をついた。

 そうため息をつかないでくれよ。幸せが逃げるぜ?と言ってやろうかと思ったがやめておいた。多分、収拾がつかなくなる。

 

「とりあえず早く起きてくれ。銀が困ってる。あと遅刻する」

 

 私はそう言われてベッドの端に置いてある時計を見ると既に時間はいつも起きている三十分後を指していた。

 

「…遅れたのなら極限まで遅れるべきだと私は思うんだけど」

 

「俺もその意見には賛成だが、生憎社会がそれを許さん」

 

「大変だね。社会って」

 

 私は再び布団に潜ろうとする自分を無理矢理鼓舞して身体を起こす。まだ眠い。授業中にまた寝そうだ。

 

「お父さん仕事は?」

 

「あるに決まってるだろ」

 

 お父さんはネクタイを締めると「怠い」と言いながら私の自室がある二階から先に一階へと降りていった。ネクタイを締めたら普通に考えてやる気が出るものなのではなかろうか。

 

「お父さんに限ってそれはないか」

 

 私もお母さん譲りの銀色に近い髪を整え、服を着替えてから一階のリビングへと向かう。

 私がリビングに到着したと同時にお父さんは仕事へと向かっていった。

 お父さんは大社と呼ばれる組織に加わりながら高校で先生をしている。教師は兼業はダメと聞いたことがあるが、何故か自分の父親は許されている。たまーに意外と凄い人なのかもしれないとは思うが大抵はただのどこにでもいる普通の父親である。ちなみに昔、事故で片腕がないとかで今は仕事の都合上義手が無いと困るらしく、機械仕掛けのオーバーテクノロジーの義手をつけている。一体、どんな事故に巻き込まれたのか想像もしたくない。一度だけお母さんに聞いたことがあるが答えてくれなかったので真相は闇の中だ。

 

「やっと起きた。そろそろ自立してくれよ。アタシ、結構今身体辛いし」

 

 お母さんは徐々に大きくなっているお腹を気にしながら私に朝食を出してくれた。

 

「自立はしたいけどね」

 

 そう言いながら私は目玉焼きを頬張る。黄身がいい感じにとろけてとても美味い。点数をつけるならば百点満点。ちなみにお父さんが作る時は基本的に微妙になることが多い。本人もその事を理解しているからか、作るたびに謝ってくる。別に不味くないのになあ…。

 個人的な意見として口に入れれるものならば誰が作ろうと同じであるように思える。ただ点数は変わる。なんだそれ。

 

「美遊はハルヤに似てるから色々厄介だなあ」

 

「私は自分のこと好きだよ?お父さん似の性格も色々含めて」

 

「ははは。そう言うところ」

 

 お母さんは小さく笑う。その表情は三十弱の人とは思えないくらいには若く見えた。とは言え、何かあった時はとても頼りになるいい母親だ。

 特に問題を起こしまくる私からすれば頼り甲斐しかない。

 私はお母さんのお腹に視線を向ける。

 

「いつくらいに産まれそうなの?」

 

「さあ」

 

 そんなの知らないと言わんばかりの表情。この人もこの人でかなりガサツなのではないのだろうか。

 

「名前、私が決めていい?」

 

「要相談だね。まずはハルヤの許可を取り給え」

 

「お父さんなら『好きにすればいいと思うぞ?知らんけど』って言って何処か行ったよ」

 

「ハルヤだなあ……」

 

 お母さんはお父さんに呆れているようだった。別にお母さんも許可を取れなんて本気で言ってない。家族だからこそ冗談が通じると言うものだ。

 

「ふへへ。元気に産まれてきてくれるといいな」

 

 自分に妹が出来ると思うだけで自然と頬が緩んだ。私の妹だ。可愛いに違いない。そしてお母さんからすれば不安分子が増えるだけ。若干可哀想に思えてきた。

 

「顔がニヤけてるところ悪いけど、学校大丈夫なの?」

 

 お母さんは私にも呆れたような視線を向ける。私はトーストを齧りながらリビングの時計を見た。

 

「やばいね」

 

 私はあくまで冷静だった。だって今更焦ったところで仕方ない。運命は受け入れなければならない。それは世の中の理なのだから。

 

「変なこと想像する前にさっさと準備しろー」

 

 再びお母さんの呆れた声が私に向けられる。

 流石に怒られそうだと思ったので一口でパンを頬張り、無理矢理牛乳で流し込んだ。

 歯を磨いて、近くに置いてあった鞄を引っ掴むと私は「行ってきます」と声をかけてから玄関をくぐった。

 空は快晴。海も落ち着いている。大橋の修復工事も段々終わりに近づいてきているようだ。大橋は関係ないけど今日はいい事がありそう。

 そう思いながら私が一歩踏み出した瞬間、隣を駆け抜けていった男の子が目の前で盛大に転んだ。また何かに巻き込まれたらしい。

 

「……大丈夫?」

 

 こうして、私の一日は始まるのだ。

 

 私が通うのは大橋小学校。どこにでもある普通の小学校だ。お父さんとお母さんは神樹館小学校という有名な学校の出らしい。今は名前を変えている。確か鍬奈小学校とかいう名前だったっけ。

 そしてついでに言うと私は今、かなりのピンチだ。

 既に授業は始まっており、今から校門を潜れば一眼目には間に合う。だが、目の前には自転車に乗っていて転んだご老人がお一人。

 何故私の人生こうなのだろう。ここまでくると流石に笑える。

 さらば学校。二限目、又は三限目に会おう。

 私は颯爽とその場を後にし、ご老人に声をかける。

 

「大丈夫ですか?お怪我は…」

 

 ひどく転んだ割には外傷は見当たらなさそうだ。けれども骨折などはあり得る。

 

「いやいや、お嬢ちゃん大丈夫だよ。気にしないでくださいな」

 

 救急車を呼ぼうとした私をご老人は笑いながら止めた。

 とは言っても一応診てもらった方が良いのではないだろうか。

 今は大社の宗主である乃木園子が医療費負担がどうのこうのという話をしていたのでお金の面では何とかなるのではないかと思う。

 だが、ご老人の表情はそんな事を気にしていると言う風でもない。

 

「儂はそこらの柔な老人たちとは違いますでの」

 

「は、はあ…」

 

 そのご老人はそのまま自転車に再び跨ると何事もなかったかのようにその場を去っていった。

「何だったんだ今の。まあ、行こ」

 

 なんだか意味がわからない事に巻き込まれたと思いながら私は今度こそ校門をくぐった。

 今思ったら私、成績どうなってるんだろ。

 急に学校に来たことが億劫になり始めた。

 

 教室に入る頃には既に二限目が始まっていた。

 クラス内では「またか」という声や視線が大半だ。別に私はそれを気にしない。慣れというのは怖い。

 

「鷲尾さん。後で職員室に来てくださいね」

 

 担任教師に言われて私は大人しく頷く。正直言って行きたくない。

 友達と遊ぶ時間を失ってまで先生に釈明しに行くのもなんだか嫌なのだ。隣の席に座る私の親友、九条弥生が小さな声で話しかけてくる。

 

「また人助け?」

 

「そんなところ」

 

 私がいつものように返すと弥生は「相変わらずだね〜」とのんびりとした雰囲気で答えるのだった。

 弥生とはかなり小さい頃からの長い付き合いとなっている。肩の辺りまで伸ばした髪とその容姿端麗な顔が特徴だろうか。あともう一人いるのだが今日は学校に来ていないようだ。

 

「結衣は?」

 

「ゲーム〜」

 

「ええ……」

 

 新島結衣とも何だかんだと言って長い付き合いとなっている。結衣は長い髪の一部を少し編んでいて、生まれつき耳に付いている傷跡のような痣?を結構気にしている。私、髪しか見てないやないか。関西弁って言うんやっけこれ。なんだか変な感じだ。それはいいとして周りから見たら私と弥生、結衣がワンセットらしい。

 ちなみに結衣は生粋のゲーマーでたまに授業も休む。それが今日らしい。

 

「イベントがあるんだって〜」

 

 弥生は「大変だよね〜結衣って〜」とのほほーんとしているが、小学生でそれではこの先大変なのではなかろうか。というのが私なりの考えである。ただゲーム面白いからね。わかるよ。

 ちなみに私をゲームの道に引き摺り込んだのも結衣だ。

 弥生はゲームをするのが苦手で見てる方が面白いとよく言っている。

 

「でも私は外を走り回ってるほうが好きだな」

 

 ゲームも面白い。だが、やはり身体を動かすこと以上に楽しい事はないと思っている。

 この三人組、何が面白いかと言うと全く性格が違うと言うのに、遊ぶ時になると自然と意見がまとまると言うところだ。

 

「そこ、うるさいですよ」

 

 弥生とヒソヒソと話していたのだが、担任教師には聞こえてしまっていたらしい。私と弥生は注意を受けたので一旦ここで会話を打ち止めにした。

 

「お昼休みだ〜」

 

「イェーイ」

 

 二人で手を叩いて喜びを分かち合う。私たち、何しているんだろう。

 とは言っても私は今日、楽しい楽しい昼休みを享受できそうにない。

 弥生に断ってから私は職員室へと向かう。

 その道中でも水が止まらなくなっただの、給食を乗せていたワゴンがひっくり返るだの訳のわからない事に巻き込まれながらも無事、職員室にたどり着いた。

 

「何故貴女はここに来るまでにそこまで疲れているのですか」

 

「水が噴き出し、ワゴンがひっくり返りました」

 

「はい?」

 

 私の端的な説明に担任教師は首を傾げた。その後に調子を取り戻すために一度咳払いをした後に本題へと入る。

 

「以前もお話ししたと思うけど、貴女の朝の遅刻の頻度は多すぎます。もう少し朝早く起きるなどの努力をしてみては?」

 

「先生の仰ることも正しいと思うのですけど、私にはどうしようもならないあまりにも濃い血が流れてまして」

 

 再び担任教師は首を傾げる。そのままメトロノームになってしまわないか不安になった。音が鳴り出したら完璧だ。

 

「はぁ。貴女の人助けの癖はわかってますが見ている側としてはたまに不安になります」

 

「良いことだとは思うのですが」

 

「良いことであっても何事もバランスというものがあります。とにかく、朝の遅刻を減らすこと。それだけです」

 

「誠心誠意取り組んで参ります」

 

「貴女は政治家でも目指してるの?」

 

 担任教師は一際大きなため息をついた。なんで私の周りにはこうもため息をつく人しかいないのだろう。もしかして私に吐き出した幸運でも分けてくれているのだろうか。いや、どちらかと言えば悪運な気がしてきたぞ。

 勝手に吹っかけるのはやめていただきたい。

 

「貴女はいい意味でも悪い意味でも優しすぎます。何処かで区切りつけないとその内苦労しますよ。私からは以上。悪いわね。折角のお昼休みなのに」

 

 担任教師はそっとクッキーを私の手の乗せた。内緒ね。と指を口の前で立てると優しく微笑んだ。

 私がこの担任教師のわからないところは差が激しすぎる所だ。人間難しい。

 

 授業が終わり、今日は弥生と共に下校する。不思議と弥生といる時は特に何かに巻き込まれることはない。

 

「弥生は私の守り神かも」

 

「やった〜。神様だ〜」

 

 別にそこまで嬉しい事でもないだろうに、弥生の顔には笑顔が咲いた。

 見てて微笑ましい。ただこの人、やたらと頭がキレるのでたまに怖い。

 友達だからそこまで気にならないが、時折心を読まれているんじゃないかと思えることがあり、クラスメイト達からしたら少し気になるのではないだろうか。雰囲気も雰囲気でかなり謎だし。

 

「弥生のお母さん元気?」

 

「それはミユスケが一番知ってるんじゃない〜?」

 

「ミユスケ言うな」

 

「え〜。ずっと前から言ってるけどいいと思うんだけどなあ」

 

 弥生は残念そうに肩を落とす。私自身、あだ名をつけられる事は友達の証のようなものだと思っているから嬉しいには嬉しいのだが、やはり私は美遊なのだからそっちで呼んでもらいたい。何故こうも名前に執着してしまうのかはわからないけれど。

 

「お母さんは元気だよ〜。美遊のお父さんにも助けてもらってるみたい〜」

 

「それ、私が唯一お父さんの中で認めたくない事柄だよ」

 

 私のお父さんは大社と教師を掛け持ちしている。

 教師の面を重視して表にしか出していないが、裏の顔として大社の宗主、乃木園子の相談役としてたまーに相談に乗っているらしい。

 よくよく考えてみれば私のお父さんは下手をすればこの世界を手球に取る事など容易いのではないだろうか。それはなんか嫌だ。

 私の懸念を察知したのか、弥生は「そんな事ないよ〜」と私に微笑む。

 

「ただ話を聞いてるだけみたいだから〜。それに話って言っても一緒にお茶飲んでたりするだけみたいだし〜」

 

「逆になんで弥生はそこまで詳しいの」

 

「だってお母さんがよく話してくれるから〜」

 

「いや、子供の学校の話を聞いてあげてよ乃木様」

 

「九条です〜」

 

「それは弥生の偽姓でしょ」

 

 ここまで言えば流石にわかるかもしれないが、こののほほーんとしたお方。この国の宗主、乃木園子が娘。乃木弥生だ。ただ、世間一般には公にされておらず、この世界には乃木という苗字を持つものは一人しかいない。要するに身バレする事を避けるために乃木姓を名乗らず、適当に良さそうな九条を名乗っているというわけだ。

 園子様の敏腕な手腕のおかげが私たち家族以外は本当のことを知らない。でもそれはそれでかなり苦しい事のように感じてしまう。当の本人はなんて事なさそうだけれど。申し訳ないが結衣には教えられていない。つまり私が口を滑らせれば終わりというわけである。

 

「今日もうち?」

 

「お世話になります〜」

 

 とりあえず私と弥生は私の家に向かう事にした。

 

「ただいま」

 

「お邪魔します〜」

 

 弥生は前述したように割りかし特殊な状況に置かれているので、夜にお父さんが帰ってくるまでは私の家で預かる事になっている。

 子供なのでまだよくわからないが、乃木家はかなり苦労しているようである。別に隠さなくてもいいのにとは思ってしまうが、大人の世界は難しいようだ。

 

「帰ってきたねお二人さん。お帰り」

 

 お母さんがわざわざ出迎えてくれる。私はちゃんとお姉ちゃんらしく妹に「ただいま」と言う。反応してくれると嬉しいけど声が聞こえたらそれはそれで怖い。

 

「弥生、今日食べたいものある?」

 

 お母さんが弥生に聞くと、弥生はいつものように「美遊のお母さんが作る料理、美味しいからなんでもいいです〜」と答える。

弥生がこう言うたびにお母さんは気合を入れて料理をする。

 というかほぼ毎日これだ。

 

「なんでお母さん、実の娘に聞いてくれないの」

 

「だって美遊、なんでもいいって毎回答えるから」

 

「弥生も一緒なのになあ……」

 

 お母さんの言う通りではあるのだけれど、少し寂しい気持ちになる。

恥ずかしいでしょ。友達の前で私の好物のオムライスが食べたいとか言うの。そこらへん察してほしい。

 

「私、手伝ってもいいですか〜?」

 

 弥生はよくお母さんから料理の仕方などを教えてもらっている。なんでも自分の母親が帰ってきた時、何か作ってあげたいらしい。お手伝いさんとかがいるみたいでさ料理せてもらえないため、なかなかその機会が見つからないとの事。

 私はお母さんと弥生が並んで料理をしている姿を横目に、お父さんから借りた歴史小説を読む。

 ちょうど、真田幸村が大坂夏の陣で自害したところで小説は止まっていた。最早残り数ページ。何故こんな中途半端な形で残していたのか私は甚だ疑問だ。

 私が読み進めようとした時、玄関が開く音がした。

 

「ただいま」

 

 早くもお父さんご帰還。

 あまりにも早すぎる帰宅に私は首を傾げた。

 

「早いね」

 

「園子が来てくれーって。で、早退。おっと、弥生ちゃんもいたのか。いらっしゃい」

 

「いつも通りお邪魔してます〜」

 

 弥生が台所からわざわざ出てきてお父さんに頭を下げる。

 所作の所々に出の良さが見え隠れしていた。何故私と同じ公立の小学校に通っているのかわからなかったりする。

 

「今から園子のところ行くけど一緒に行くか?」

 

「そうしたいのは山々ですけど、お料理教えてもらいたいので後ではダメですか〜?」

 

「了解。そう言う事なら後で迎えに来るよ。悪いけど美遊、すぐ帰ってくるから銀のこと任せた」

 

 お父さんはそれだけ言い残すと急いで家を出て行った。

 私、思うのだけれどお父さんは女性の知り合いが多すぎるように思える。お母さんもそれをさも当然かのように受け入れている。それが私には不思議でならない。

 

「にしても、園子はハルヤのこと使いすぎ……誰のものだと思ってんかね」

 

 全然そんなことなかった。しかも今の言葉を聞いたところで私に与えられる感情は言葉にするなら「うへえ」だ。親の恋愛というかそこら辺のことほど冷静になって見たら気持ちの悪いものなどない。

 

「晴哉おじさんのこと好きなんですね〜」

 

 弥生はお母さんの言葉に目を輝かせた。弥生は何処か理想主義的な一面もある。私も人のことを言えたものではないけれど。

 そんな事を考えていると何故か家の外からお父さんの声が聞こえた。

 さっき出て行ったばかりだから近くにいてもおかしくないのかもしれないが、戻ってくるにしても早すぎる気もする。

 私が単純な好奇心で玄関に近づくと同時に凄い勢いでドアが開かれた。

 

「この能天気馬鹿宗主!お前は馬鹿か!?」

 

「馬鹿馬鹿うるさいな〜。じゃあ入る所をやり直せばいいんだ〜」

 

「確かに入るのならゆっくり入ってもらいたいものだけども違う」

 

 私はお父さんと園子様がやんややんや言い合っているのをポカンとした間抜けズラを晒しながら見ていた。

 この人達、何してるんだろうか。

 

「あ、美遊ちゃん〜。お久〜」

 

 そんな私の疑問など気にする事なく、園子様はマイペースに私に手を振る。現状把握できない私は、まだポカンとしていた。

 

「大社に行ったはずだよね?」

 

「愛娘に会いたくなったんよ〜。最近、私が忙しすぎて会えてなかったし〜」

 

 私はお父さんに聞いたはずだったのに、代わりに園子様が答えた。お父さんは頭を抱えている。今、この場でかけてあげるべき言葉はこれしかあるまい。

 

「ドンマイ」

 

「この国の根底が揺るがされかねん……」

 

 やけに誇張された言い回しをするお父さん。その隣では園子様がずっとニコニコと微笑んでいる。

 

「美遊、さっきから誰?騒がしいの…って園子!?」

 

 リビングの方まで声が響いていたのか、お母さんが玄関の方までわざわざ出てきた。お母さんも園子様の顔を見るなり仕方ないなあという表情を浮かべた。

 

「上がってく?」

 

「是非是非〜」

 

 園子様はお母さんの提案に乗り、自分の娘の名前を呼びながら奥へと消えて行った。お母さんはそれを苦笑いしながら後を追いかけた。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫だけど…疲れた……」

 

「お疲れ様」

 

 お父さんはため息を吐くと、そのまま着替えをしに自室へと消えて行った。玄関には私一人が取り残される。

 

「他の人から見たら大事件だろうな…」

 

 この国で一番偉い人物が自由奔放に動き回り、おまけに何故か鷲尾家にいる。その事実は私から見ればほぼ常識というか日常なのだけれど、他の人から見たら大事件なんだろうなと。ふと思ったのだった。

 

「凄く美味しい〜。これ、私毎日でも食べたいかも〜」

 

「本当!?やった、褒められた〜。嬉しい〜」

 

 私の目の前に二つの花畑が広がっていた。

 私はその光景を見ながら弥生とお母さんが作ったオムライスを口に運ぶ。母親に褒められた弥生は冗談ではなく本当に涙を浮かべていた。

 悔しいけれど滅茶苦茶美味い。なんだこれ。何したらこうなる。

 

「私、これからオムライスだけ作る〜」

 

「ははは、それはちょっと飽きるんじゃないか?」

 

 弥生のちょっとズレた発言にお父さんが笑いながらツッコミを入れる。

 園子様はずっと「美味しい、美味しい」と完成度の高いオムライスを口に運んでいた。

 それから各々食べ終わると、私は弥生とお父さんとトランプに興じていた。お母さんと園子様は二人で談笑していた。

 大富豪を三人という微妙な数でやっているが何だかんだと楽しめている。そしてこの父親、手加減というものを知らない。

 

「また負けた〜」

 

「俺に勝ちたかったら後3000年近く生きるんだな」

 

 何故三千年という数字なのかは私は敢えてつっこまなかった。若干、私はお父さんの事を普通の人ではないなと感じているが、知ってしまうと都合の悪いことも多かろう。私は小さい頃幼心にそう思った記憶がある。

 

「私はお父さんのような大人にはなりたくない」

 

「なんて事言うんだ。まあ、ならない方がいいぞ」

 

 それから再びカードを配り始める。

 

「今度は負けないぞ〜」

 

「私も」

 

「ぶちのめす」

 

 そして結局、この勝負もお父さんが勝ったのだった。

 

 園子様と弥生が大社の車で帰宅した後、突然静かになった家の中で私は片付けを手伝っていた。

 

「急だったね」

 

「いつもの事だよ。正直、アタシは慣れた」

 

 お母さんは会話をしながらも手際よく作業を進める。これも最近思う事なのだが、お母さんは身体が重いとか感じないのだろうか。それこそ赤ちゃんの体重がいかほどのものが私にはわからないが、それでも重たいことに違いはない。

 

「そうそう、美遊。この子の名前の候補決めた?」

 

「それ、今日の朝話したばっかりだよ」

 

 確かに名前をつけてあげたいとは思ったが、そんな一瞬で決められるほど簡単な事でもあるまい。

 

「ちなみにハルヤはもう考えついたみたいだよ」

 

「ええ!?お父さん早い…」

 

「ちなみにアタシも思いついた」

 

「お母さんまで早いよ……」

 

「ちなみに美遊って名前をつけたのもアタシ。つまり、母は強し」

 

「それ、どういう理論なの?」

 

 私とお母さんは互いに笑い合う。私は少しだけ妹がいる生活を想像してみる。

 

「あれ?」

 

 何故かその想像だけ上手くいかない。想像すればするほど白い靄がかかってしまい、頭の中が真っ白になって行った。

 そして一瞬だけ、見てしまってはいけないような光景が頭の隅をチラついた。

 

「美遊、大丈夫?」

 

「え!?うん。大丈夫だけど……」

 

 気づけばお母さんが私の顔を覗き込んでいる。お母さんの表情は私のことを案じていた。

 

「顔色悪いよ」

 

「寝不足、かなあ…?」

 

 見てしまった光景を誤魔化すように私は小さく笑う。そしてすぐに悪夢のような光景は幻想のように儚く消えていった。

 

「それなら早く寝て、明日ちゃんと学校行くこと」

 

 お母さんは私の拭いていた皿を取り上げ、早く風呂に入って寝ろと促す。私は今日ばかりはお母さんに甘えることにしたのだった。

 

 次の日には気分も良くなり、私は無事に学校に行くことができた。

 いつも通り何かに巻き込まれながらも今日は珍しく朝の学活に間に合った。

 教室に入ると「今日は早いね」とたまに話をする男子生徒から話しかけられた。

 名前は……なんだっけ。まあいいや。

 

「鷲尾、俺の名前忘れてるだろ」

 

「いや、ソンナコトナイヨ」

 

ちゃんと彼の名前を覚えていないことがバレた。ごめんな。

 

「あははは!ちゃんと覚えてくれると助かるよ。またね」

 

 彼は手を振ると、いつも固まっている男子生徒の輪に加わっていった。

 輪に入るとすぐに私と話していたことをいじられている。

 私は頻繁に思うのだが男子というものは馬鹿なのかもしれない。

 まあ、あれが男のノリというやつなのだろう。あちらからすれば私たちのノリなんて理解できないに違いない。

 

「美遊おはよう〜」

 

 私がその場で突っ立っていると弥生が入ってきた。

 相変わらずの雰囲気で、私もその雰囲気に引っ張られそうになる。

 

「おはよう。弥生。それと結衣も」

 

「気づいて、たの…。おはよう…」

 

 私は弥生の影に隠れていた結衣に手を挙げて挨拶する。結衣はいつも以上に眠たそうな表情を浮かべていた。

 恐らくだが昨日一日中ゲームに没頭していたのだろう。

 その集中力、私も欲しいと思うのはこれで何度目かはわからない。

 

「眠たそうだね〜。またゲーム〜?」

 

「そう。少し、手強くて」

 

 私と弥生、結衣は立っていても仕方がないので自分達の席に座る。

 私と弥生は席が隣同士だが、結衣は微妙に離れた場所に席がある。

 結衣との出会いは結構不思議であった記憶だ。

 確か私が小学二年生かな。ふらふらと歩き回るのが趣味になっていた頃、私は【英霊の碑】という場所を訪れた際に結衣がそこにいたのだ。

 結衣は一つの石碑をじっと見ており、気になりすぎた私が声をかけたというわけだ。

 見ていた石碑に刻まれていた名前は確か高嶋友奈と書いてあった気がする。私からすれば高嶋友奈って誰?という感じなのだが、結衣からすれば憧れの存在か何かなのかもしれない。

 そんな事を考えていると、教室に担任教師が入ってきた。

 私は回想から現実の世界に意識を引き戻し、今日は珍しく真面目に朝の学活から一日を始めるのだった。

 

 1限目は地理の授業だ。

 担任教師が今のこの世の中の在り方からまず説明していく。

 数十年前まで、この四国全域には大きな壁が張り巡らされていた事、そして今はその壁が崩壊し、勇者部と呼ばれる一部の大社職員によって各地の調査が順に行われているという事を説明された。

 それから担任教師は今現在公開可能なレベルで本州の地形等を説明していった。

 私は小さい頃から四国の外の世界にかなりの憧れを抱いている。その気持ちの一端を担っているのは小さい頃に勇者部の友奈さんから聞いた外の世界の話だった。

 今の将来の目標は大社の調査部隊になる事だ。それ以外に、私の目標はない。

 弥生の方をチラッと見ると、彼女は教師の話す内容に目を輝かせていた。凄く真面目にノートを取っている。

 外の世界に憧れを持つ者としてその輝きには負けていられない。私も担任教師の話は内容を聞き逃さないように手を動かし続けた。

 

 2限目は悪魔の算数だ。言わずもがな私には何も理解できない。

 弥生は算数に関しては当てにならない。いかんせん彼女は既に二次関数とかいう謎すぎる単元を「おもしろ〜い」と言いながら解いている。

 私は必死にくらいついているというのに、簡単にやれている弥生を見て一時期はかなり嫉妬していた。親友のことを嫌いになってしまいそうになりその事をお父さんに相談したら、「それも大事な感情だから大切にしろ」と言われた。続けてお父さんは言った。

 

「嫉妬するという事はその人の事を良く見ているという事。相手のことを何も知らなければそんな感情湧かないんだ。弥生ちゃんだって完璧じゃない。美遊には美遊しかできない事がある。今はわからないかもしれないけれどその内わかるさ」

 

 それから私はお父さんの言葉を噛み締めながら、弥生が迷っていたり困っていたりしたら積極的に助けた。その逆も然り。互いに支え合っているうちに私の持っていた嫉妬という感情は次第に落ち着いて行った。

 結衣に関してはちょっと複雑と言うか、結衣自身があまり友達と言えど自分の周りに踏み込んでほしくないのか距離を取られている。それでもその距離感が私としては心地良い。上手いことバランスが取れているからこそ私と弥生、結衣の関係性は親友という枠組みに綺麗にはまっているのかもしれない。

 

 3限目は体育だ。ここは私の得意分野であるが故に今日の授業の中で一番楽しみにしていた。今日はバスケットボールらしい。

 

「美遊、私にあまりパス、回さないでね」

 

「……ちょっと難しいかも」

 

 同じチームになった結衣に頼まれたが、回さないという保証がない。結衣は運動があまり得意ではない。そのため、私としてはかなり努力している方なのだが偶に熱くなりすぎると周りが見えなくなり、配慮を忘れ取れないボールを投げてしまうこともある。これは私の悪い癖だ。結衣以外にも結構な人数が犠牲になっている直そう直そうと思いながらも結局、ずるずるとここまで来てしまった。

 

「私も、少しは頑張るわ…」

 

 私は結衣にこの悩んでいる事を一度だけ打ち明けた。

 その結果、何もかも「やらない」「出来ない」「したくない」の結衣が少しだけ私と一緒に運動するようになった。当初は無理しているのではないかと思っていたが、段々と一緒にやっていくうちにそうでもないのだと感じた。この時、確か初めて私は結衣と手を握ったのだったか。私が一方的に手を取っただけだけど。私としては凄く嬉しかったのだ。

私はこの時の事を振り返り、感慨に浸りながらこの日の体育をうまくやりきった。

 

 それからの四限目、五限目はほぼ流し作業。何故かって?私の気分が向かなかったから。それだけだ。

 これぞ私。鷲尾美遊クオリティ。

 逃げるように学校を後にして私は弥生と結衣と共にある場所に向かう。

 ある場所と言っても近所の神社。時折お父さんが珍しく思い出話を語る時に出てくる神社だ。

 

「さてと、今日もやりますか〜」

 

 弥生が手慣れた様子で神社の敷地内にある倉庫から竹箒と袋を持ってくる。

 

「まだ、続けるの…?」

 

 結衣は不満げな声を漏らす。多分、彼女からすれば早くゲームがしたいに違いない。結衣は渋々と言った表情で弥生から箒を受け取った。

 何故私たちがこうしているのかというと、一年ほど前、何か一つでも世間の役に立ってみたい。けれど自分達はまだ小学生でやれることも限られている。そんな中、学校の宿題で地域に貢献してみようという内容が出された。各々好きにボランティア活動に勤しんでみようというものだ。

 私は嬉々としてこの活動に参加した。弥生と結衣と共に各地に許可を取りに行った際、この神社の宮司さんが快くこの活動の許可をくれた。

 そうして期間中。ボランティア活動に勤しんできたわけなのだが、純粋にこの神社の掃除だけは不思議とやめたいとは思わなかった。だから宿題が終わった後も、宮司さんに頼み込んで続けさせてもらっている。

 最初は自分の我儘に付き合わせるのも違うと感じ一人だけでやるつもりだったが、弥生がもれなくついてきて、結衣も二人がやるならという具合で一緒にやってくれている。

 先程までぶつぶつと何かを言っていた結衣も時間が経つと無言で箒を掃いていた。

 これだけ長い期間やってくると汚れている日と汚れていない日の違いというものが鮮明に見えてくるので面白い。

 作業が終わると、宮司さんが御礼にとお饅頭をくれた。

 こう対価を貰ってしまうのはどうかと思ったがありがたくいただくことにする。甘さも控えめでとても美味い。

 それからは三人で日が暮れるまで他愛のない話をし続けた。

 これが私の日常。手にするまでにとても長い時間がかかったように感じられる。だからこそ、この一日一日を大切にしようと思えるのかもしれない。

 さて、明日は何をしようか。

 私は想像するだけで気分が弾むのだった。

 

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