花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第二話 育む命と始まる物語

 

 季節は春後半。そして待ちに待った休日。人類は皆、この日のために生きていると言っても過言ではない。私は弥生と結衣と一緒にいる時間の次にこの時間が大好きだ。

 私の休日は平日よりも起きるのが早いかもしれない。何故かと言えば、朝の新鮮な空気を堪能しながら外を歩くという楽しみがあるからだ。

 今日も今日とて私はまだ誰も起きていない時間に一人、家を出る。

 

「んーっ!良い朝だ!」

 

 冷たい空気を浴びて体を空に向かって伸ばす。

 早朝だというのに鳩が元気に鳴いている。私は常々疑問に思うのだがあの声は一体どこから出ているのだろうか。

 

「勇気のバトンを〜ほら繋ごうよ〜♪」

 

 鼻歌を口ずさみながら目的もなく歩く。今日は折角だから海に沿って歩いてみるのも悪くないかもしれない。

 海に近づくにつれて鳩や雀の鳴き声から聞こえるのは鴎の声に変わるのが生活区が割り振られているようで面白かった。とは言っても完全に生態系の問題なんだろうけど。

 そういえば一度だけ歩くことに夢中になりすぎてとんでもなく遠くまで行ってお父さんに怒られたっけ。いや、あれは心配されただけか。本当に申し訳なく思う。

 

「君を連れて駆け出すよ♪誰も追いつけない場所へ〜♪」

 

 やはりこうしていると気分が上がる。一人で歩くのも私は当然好きなのだけれど一緒に隣で歩いてくれる人が欲しかったりもする。

 

「弥生でも誘って……あの子は寝てるか」

 

 今頃母親と一緒に布団の中で丸くなってそうだ。その様子が簡単に想像できて私は勝手に笑みが溢れた。

 

「結衣は…嫌がりそうだなあ」

 

 私の勝手な想像だが「なんで朝から、歩かないといけないの?」とか凄く真顔で言われそう。理論的にはおかしいかもしれないが、私をゲームの道に引き摺り込んだのならば、私的には結衣もこちら側の世界に引き摺り込んでやりたいものだ。……本人が望むならの話だけれどね。

 私は自分が満足いくあたりでUターンをして来た道とは別の道を選択して歩みを進める。

 途中、美味しそうなパン屋が朝から開店していたのでなけなしのお小遣いを使って手土産に持って帰る事にした。

 そのうちの一つを齧りながら私はふらふらと歩く。

 

「おお…。美味い」

 

 これなら小遣いはたいた甲斐があったというもの。とても満足のいく味だった。

 何から何まで今日の朝の散歩はとても気分良く終われたのだった。

 

 

 

 

「ただいまー。って何事!?」

 

 私が帰るなり、家の中は大混乱。それもそのはず。お母さんが産気づいたようでお父さんが車にお母さんを連れていく最中だった。

 ここは一旦落ち着こう。私は食べかけのパンを口に咥えて噛みちぎり、咀嚼する。

 

「本当にお前は大物だな」

 

 お父さんは若干呆れた感じで私を見る。褒められたことにしておこう。

 

「落ち着いた方がいいかと思って」

 

 パンを飲み込んでから私はお父さんとお母さんに駆け寄る。駆け寄ったはいいものの何をどうすればいいのだろう。

 

「車開けといてくれ」

 

 迷っている私にお父さんが鍵を投げて渡した。

 私はそれを受け取ると小走りで車まで向かい、鍵を開ける。これにて任務完了。我帰還せり。

 

「帰ろうとするな」

 

 またお父さんから呆れたような声音で言われた。というかお父さん、私の心読みすぎ。少し怖い。

 お父さんはお母さんを車に乗せるとすぐに運転席に向かい、エンジンをかける。私もなんとなく助手席に座った。

 

「あ、行くの?」

 

「え?行っちゃダメなの?」

 

 お父さんはさっきと言っていることが真逆になっていた。

 そしてお父さんは私がシートベルトを締めたのを確認するとアクセルに足をかける。

 

「な訳。行くぞ」

 

 お父さんがアクセルを踏むと勢いよく車が前に飛び出した。普段とは違う運転に冷静に見えるお父さんも結構焦ってるのだと感じた。

 

「パンいる?」

 

 私はお父さんの緊張をほぐそうと袋から買ったパンを取り出す。

 お父さんは無言で私の手からパンを取ると口に咥えた。さっきまでの私、こんな風に見えていたのだろうか。めちゃくちゃ面白い。

 

「美味いな。これ」

 

「でしょでしょ?これも美味いよ」

 

 私は母さんが痛みにヒーヒー言いながら耐えている間に運転しているお父さんの口にパンを運び続けていた。

 そしてそんな光景を見ていた母さんがついにキレた。

 

「アタシにも食わせろ!!」

 

「「そっち?」」

 

 私とお父さんはついついお母さんに突っ込んだのだった。

 

 病院に着くなりお母さんは分娩室へと運ばれていった。

 お父さんは慣れた感じで待合室の椅子に腰掛ける。私もそれに続く。

 結構急なことで私としては実感が何一つとなかった。お母さんは今頃痛みと戦っているのだろう。それを想像するだけで自然と手に力が入る。

 

「心配してるのか?」

 

「それなりには」

 

 お父さんが体や手に力が入っている私の様子を見て、「心配するな」と微笑んだ。

 

「美遊のお母さんは強いからな。もれなく俺より強い」

 

 お父さんはそう言うと私の頭を軽く撫でた。私はこの歳で頭を撫でられることに若干の恥ずかしさを覚えたが心地良いせいで抵抗する気力も失った。本当にこの父親はずるいと思う。

 私は自分が反抗期になった時のことを想像した。

 「私に触るな!」とか言っている自分を想像するだけで変な笑みが溢れそうになる。その時のお父さんの反応、動画に収めておこう。きっとその内笑い話になるに違いない。

 そんな事を考えていると私はふと疑問に思ったことがあった。

 

「私が産まれた時ってどんな感じだった?」

 

「美遊が?そうだな、気分悪くするなよ?」

 

 一体どんな話をされるのだろうか。もしかして私はお父さんとお母さんの子供ではないとか?いやいや、それはない。落ち着きを取り戻してから私はお父さんに頷いた。

 

「俺、美遊の事結構苦手だったんだよ。言い訳がましいけど仕事の都合でな」

 

 苦手と来たか。想像してたのとは別ベクトルで心にくる。一発初手にジャブを決められた感じだ。

 

「ちょうど美遊が産まれるくらいの時って世間の構造が大きく変わり始めてた時期だから、俺は仕事の都合上そちらで動かざるを得なかったんだ。神の悪戯か、園子もあれしてたから残業ばかりで家にまともに帰れた時の方が少ない。そのせいでまともに美遊と関わっていなかったから、美遊の事を可愛がれなかったのは事実だな」

 

 お父さんは「今考えれば普通じゃない」と言っているが、私としては話を聞く中でこれは仕方がない事なのではないかと感じた。こればかりは誰も悪くない。

 

「でも、今ではいてくれないと困る存在だよ。俺は美遊がいるから仕事も頑張れる。…結構恥ずい事言ってるな」

 

 お父さんは照れを誤魔化すように次は私の頭をガシガシと少し強めに私の頭を撫でた。

 

「ついでに学校の課題で出されたから聞くけど、私の名前の由来って何?」

 

「今それ聞く?悪いけど美遊の名前なんて適当だぞ」

 

「……………え?」

 

 私はきっとこの時ばかりは目を点にしていたに違いない。お父さんは申し訳なさそうに首筋の辺りをポリポリと掻いている。

 

「美遊は美遊なんだから美遊だろって感じ」

 

「ええ……」

 

 なんだその言葉にもなっていない理由は。もしかして今回もこの人たちフィーリングでやろうとしていないだろうか。名前って普通、何かの意味を持つものなのではないのか。私がここ十二年間持っていた価値観が崩れ去った瞬間であった。

 

「だって俺と銀、お前が生まれた瞬間から何も決めてなかったのに美遊って呼んでたからな。そりゃ何か運命的なものだろ」

 

「お父さんの口から運命的とか。笑える」

 

「べ、別にいいだろ?」

 

 ここでようやく私の緊張感もほぐれて来たのかようやく心から笑うことができた。お父さんも私に釣られて口の端を上げる。

 

「でも、私もこの名前好きだよ」

 

 私はお父さんに向かって最大の笑顔を向ける。

 

「そりゃよかった」

 

 お父さんはぶっきらぼうに言うが、その表情はとても優しく穏やかなものだった。

 

 

 それから五時間くらい経った頃だろうか。

 私が少し眠たくてうつらうつら船を漕いでいるとお父さんのものでもないお母さんのものでもない、自分のものでも、看護師さんのものでもない声が聞こえた。

 

「お父さん」

 

「今回も銀、頑張ってくれたんだな。行くか」

 

 お父さんが立ち上がると同時に分娩室から看護師さんが出てくる。お父さんは看護師さんに一礼をした。それを真似して私も軽く一礼をする。

 

「無事産まれましたよ。母子共に健康です」

 

 看護師さんが笑顔で伝えてくれたため、それがすぐに真実であると言うことがわかった。お父さんもそれを聞いて大きく息をついた。なんだかんだと言ってやはり緊張していたみたいだ。

 私はお母さんと妹が無事だと聞いて安心した次は、自分の妹と初めて対面すると言うことに急に緊張し始めた。まさに感情のジェットコースター。

 看護師さんに案内される形で中に入ると、お母さんとお母さんに抱えられる形で新しい命が芽吹いていた。

 

「まずはお疲れ様。銀。ありがとう」

 

 お父さんはまず最初にお母さんに礼を言う。

 お母さんはまだ声を出すのが辛いのか、小さく笑顔を浮かべて頷いた。お父さんがお母さんの身を案じるのとは対照的に、私の視線はお母さんに抱えられている小さな子に釘付けになっていた。

 小さな子の目はまだしっかりと開いてはおらず、体も自分が想像していた二段回ぐらい小さい。少しだけ窮屈だったのか小さく身じろぎする。

そしてその際に逆手を打った。

 

「あ」

 

 と誰かが声を漏らす。

 

「逆手……」

 

 お父さんがぽかーんと、珍しく放心状態に陥る。

 

(え、何かダメなの?こう手を逆さに打つのが縁起が悪いとか?)

 

 私は周りの大人たちの反応を見てかなり混乱した。

 

「この子もほんの少しだけ名前はお預けかな」

 

 お母さんが困った表情を浮かべ、苦笑した。

 私はお父さんの方を見る。私の視線に気がついたお父さんも肩をすくめて首を横に振った。完全に想定外の話だったようだ。

 ただ、何故命名が保留になったのか。その理由を私はすぐに知ることになる。

 

 逆手ちゃん(仮)は検査があるとかであの後、お医者さんによって連れて行かれてしまい、お母さんは特に異常はないが一旦入院することになり、お父さんは家まで入院のための道具を取りに戻った。

 お母さんは病室で疲れ果てて眠っている。本当にお疲れ様の気持ちで一杯だ。

 逆手の打ったことに対する周りの大人たちの反応が何故あのようなものだったかを勝手に想像しながら待っていると、病室の扉がノックされ開かれた。園子様が普段掛けない眼鏡をかけ、髪型を微妙に変え、姿を見せる。

 

「あれ?園子様。どうしたんですか?」

 

「やあやあ、美遊ちゃん。先週ぶりかな〜?あと、園子様とか固くなくていいよ。わっしーが読んでくれてるみたいにそのっちとかでも私は嬉しいな〜」

 

「は、はあ……」

 

 話し方や素振りを見て、やはりこの人は弥生の母親だと感じた。

 ここまで遺伝するのもなかなか珍しい気がする。私は…言わなくてもわかる。

 

「みのさんは眠ちゃってるね〜。わかるよ〜。辛いからね〜」

 

 私は周りに誰もいない事を確認してから園子様に問いかける。

 

「そんなに、ですか?」

 

「そうだね〜。私、結構痛みとかに強いとは思うんだけど、それでも耐えられるか微妙なラインだったからね〜。大変だったよ〜」

 

 いいのだろうか。そこまでペラペラと話してしまって。誰かが聞いてるとも限らないのに。私の懸念を感じ取ったのか園子様は笑いながら言う。

 

「この病院はほぼ私のものみたいな所あるからね〜。大丈夫だよ〜。仮に聞かれてたとしてその人は次の日いなくなってるから〜」

 

 最後にとんでもない事を言った気がするが私は敢えて無視することに決めた。頼むから冗談であってくれ。

 

「それで、園子様は何を?」

 

「そうそう。肝心な事を忘れて帰っちゃう所だった。ハルスケとみのさんの子供の事で話があってね」

 

 私はすぐにあの子の事だと気がついた。やはり、園子様が出てくると言うことはかなり大事なのかもしれない。

 私が不安に陥っていると、ちょうどお父さんが荷物を持って戻ってきた。

 

「園子、来てくれたのか」

 

「うん。そろそろかなあって思って。ふふふ、私の直感すごいでしょ〜」

 

「俺としてはお前があの子が逆手を打つところまで想定してる方が末恐ろしいよ」

 

 大人たちだけで話が進み、子供の私は完全に置いてけぼり。

 厳格な説明を求めようと思ったが出てくる単語の一つ一つの意味を咀嚼し、自分で理解しようとしてしまったために聞く機会を完全に逸していた。

 とりあえず理解できたのは「逆手を打つ」と言う行為は決して悪い事ではないということ。そして、三百年近く「逆手を打った」者には「友奈」と言う名が与えられるということ。

 そして、まだこの先その風習を続けるのかという話だった。どうだ。結構噛み砕いて理解できているのではないだろうか。

 園子様は最初の間は迷った風ではあったが、園子様自身の中で結論が出たらしく、この風習はしばらくの間は続けることになった。

 その結果何が起きたかというと問答無用で妹の名前が「友奈」になったのだ。お父さんも苦笑いを浮かべていたが、仕方がないか。と諦めたようであった。お母さんはこれを聞いて何と思うのだろう。案外、喜んでしまいそうなのが怖い所である。

 こうして紆余曲折がありながらも私たちの新しい家族に「鷲尾友奈」が加わったのだった。

 

 

 

 友奈が産まれてから2回目の週末を迎えた。

 

「私と同じ名前だ!よろしくね友奈ちゃん!」

 

「友奈、あまり大声出されると友奈が泣き出すから少しボリューム下げてくれると助かる」

 

 お父さんがそう言うと友奈さんは「えへへ、ごめん」と謝った。

 友奈さんは仲間ができたみたいで嬉しいみたいだ。それにしても頭がこんがらがる。

 一週間ほど前に友奈は帰宅の許可をお医者さんから貰うと、初めて鷲尾家に足を踏み入れた。

 それから一週間後の今日、話を聞いた友奈さんが友奈を見に鷲尾家を訪れているわけである。

 二人の友奈が集った事により場はかなり混沌を極めていた。度々、私もお父さんもお母さんも「友奈…友奈?あ、いや。両方とも友奈だ」となり会話をするのに一々頭を使うハメになった。このような弊害、誰が想定できただろうか。

 

「そう言えば友奈。今日、須美は?」

 

 お父さんは何か足りないなと首を傾げた後にいつも友奈さんの隣にいる人物がいない事に気がついた。

 

「東郷さん?東郷さんならバイクと車のメンテナンスをしてくれてるよ。あと東郷さんから伝言。また次の機会に会いに行くだって」

 

「了解。待ってるとだけ伝えておいてくれるか?」

 

 お父さんがそう言うと友奈さんはもちろんと頷いた。

 今更言うのも何だが私は未だに「東郷さん」で呼べばいいのか「須美さん」と呼べばいいのかはっきりとしていない。

 私はお父さんサイドなので「須美さん」と呼ぶことの方が多い。なのでこの際決めておこう。須美さんは須美さんであると。

 私が考えをまとめていると、友奈さんが話しかけてくれた。

 

「それより美遊ちゃん。折角私たちも調査から戻ってきたわけだし、あまり深掘りしない程度で外のこと話してあげるよ」

 

「本当ですか!?」

 

「うん!いいかな。晴哉くん」

 

 友奈さんは何故かお父さんに許可を求める。お父さんはそれを聞いていないふりをして、友奈を抱えると部屋の外に出て行った。要するに俺は何も聞いていないから好きに話せという事。友奈さんもそれがわかっているからか、地図を広げたり、写真を見せてくれたりと視覚的な情報を使い、私に様々な事を教えてくれた。この時ばかりは私は自分の欲望が勝ってしまい、自分の妹の事などそっちのけになっていたのだった。

 

 友奈さんが帰った後、私は外の世界に想像を膨らませながら、赤ちゃん用のベッドで寝ている妹の友奈の頬を軽く突いていた。突くたびに、やめろやめろと身じろぎをするのが可愛くて意地悪と知っていても何度も何度もやってしまう。

 

「何一緒にしてあげよっかな〜。なるべく友奈がやりたいと言った事には付き合ってあげたいなあ」

 

 12も私の方が歳上なのだ。やってあげられることなんて無限にあるだろう。それと後は頼れるお姉ちゃんでありたい。

 

「友奈は私が守るよ。なんて」

 

 今時そんな体を張って誰かを守る事案の方が少ないだろう。

 逆に言えば無いだけ平和というものだ。

 

「美遊、遊んでるのはいいけど宿題やったのか?」

 

 お父さんに言われて私はハッとなる。友奈と遊ぶ事を優先していたばかりに自分の本来の学業という本分を忘れる所だった。

 

「忘れてたから、今からやるよ。私はお父さんより真面目だからね」

 

「なんて事言うんだ。事実だけれども」

 

 私はお父さんのかつての不真面目っぷりをお母さん須美さんから聞いている。それはもう手に負えないレベルであったみたいだ。ただ、風さんや樹さん、夏凛さんに聞くと別におかしい人ではあったが不真面目ではなかったと言うので小学生の頃から親しい人たちと、中学生の頃から親しい人とでは印象が違う。私の中では小さい頃のお父さんは不真面目であったと言う方が面白いのでそちらで完結させている。お父さんからすれば迷惑もいいところだろう。

 

「というわけで今日も宿題助けてね。お父さん」

 

「断る。たまには自分でやれ」

 

「距離の問題がわかりません」

 

「そろそろ俺に聞くのは歴史分野だけにしてくれ。もう流石についていけない」

 

 お父さんはどこから取り出したのか白旗を振って降参の意思を示すと、友奈が喜びそうなおもちゃを手に取り、私の代わりに友奈と遊び始めた。

この人、もしかしたら私からその位置を奪うために宿題云々を伝えに来たのだろうか。仮にそうだとしたら策士だ。

 

「そう言えばお母さんは?」

 

 今日、ずっと姿を見ていない気がする。靴もなかったし出かけているのだろうか。

 

「銀なら気分転換に出掛けてもらってる。今頃夏凛か園子あたりとどっかで遊んでるだろ」

 

 お父さんがそう言うと同時にお父さんの携帯が音を立てる。

 お父さんは画面を見てから小さく笑うと私に画面を向ける。その画面には夏凛と園子と一緒に写真に収まっているお母さんがいた。

 

「楽しそうだね。お母さん」

 

「だな」

 

「でも、年齢的にもちょっとアレだと思う」

 

「………おい」

 

「しまった。今のお母さんに言わないでね」

 

 私はその場を逃げるようにして自室へと引き返した。

 私の去り際にお父さんが友奈に対して「お前のお姉ちゃん、怖いもの知らずすぎるぞ。良かったな」と言っていたのを聞き逃しはしなかった。何がいいのかさっぱりだ。

 お父さんに昔から言いたいことがあればはっきり言えと教えられてきたので完全に先程のも教育の賜物であった。

 ただ、おそらくお父さんが想定していたものとは違うのかもしれないと、最近の私は思い始めた。というか、間違いなくそう。

 

「とりあえずやるかな…うう、めんどい」

 

 早く終わらせて少し遅いけど結衣か弥生を誘って何処かに遊びに行こう。

 私はそう思う事で何とかモチベーションを保ったのだった。

 

 

 とまあ、私の平和な日常は続く訳ですけども。そこはやはり私。これから二週間ほど、奇妙な事に巻き込まれるとは私は予想できはしなかった。

 

 季節は夏へと移り、蝉がジージーと大合唱。そんな中、私は結衣と一対一で【英霊の碑】にてご対面する。何でも結衣が私に相談事があるみたいだ。

 相談と言われて仕舞えば私に断る理由は何一つとしてない。

 だが、さしもの私もこれから結衣が言う事には首を傾げざるを得なかった。

 

「私、最近変な夢、ばかり見てて。ねえ、美遊。貴女には、私は殺人鬼に見える?」

 

「………はい?」

 

 そう言われてから私は結衣の全容を捉えると一瞬だけ、私の目には結衣の後ろに控える影が結衣の身長と同じくらいの大きな鎌を持っているように見えた。

 

「…………………なにこれ」

 

 ここに一夏の奇妙な物語がここに幕を開けようとしていた。




ちょっとこの話に小ネタを仕込んでみたのですが気づいてくれましたか?
ここで何故、第四幕0話で園子が銀とそのお腹に宿る命を奪ったのか理解できるのではないかと思います。若干後付けした感は否めないですけどね。
こんな感じで素人なりに面白くできそうな要素を何個か含ませているので気づいてくださると嬉しいかもです。
それでは三話でまた会いましょー。
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