花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第三話 散った花の残影

 

 私は結衣の影に目が釘付けになっていた。結衣は普通だ。それは間違いない。異質さを放っているのはどう見てもあの影だ。

 

「美遊、やっぱり私、どこかおかしい?」

 

「え!?いや、全然!全然おかしくないよ!」

 

 結衣の心配そうな声音を聞き、咄嗟にそう言ってしまった。目の前のまた影がゆらりと動く。

 私は変な汗が止まらない。影は影だと言うのに、私はこれに殺されるのではないかと言う錯覚を抱いた。

 私は結衣から一歩後ろに下がる。足が勝手に動いて更に後ろへと引く。

 

「美遊?」

 

 私の異変を察して結衣が逆に私を心配する。だけど私にはその言葉でさえ恐ろしかった。こんなの友達に抱いていい感情ではない。

 だから私はもう色々と怖くなり、ぐちゃぐちゃになってしまった心の収縮をつけるために結衣の目の前から逃亡した。

 

「美遊!?」

 

 結衣から伸ばされた手すら振り切り、私はとにかく走り続けた。

 

 

 

「やっちゃった……」

 

 飛び込むようにして家に入った後にようやく私は冷静になれたのか、自分の行動を振り返っては自己嫌悪に陥った。いくらなんでも逃げるのは相手にも失礼だし、相手が友達なら尚更だ。

 私は息を切らしながら玄関の扉にもたれかかった。

 夏だった事もあり、私の体は汗で濡れていて気持ちが悪い。

 最近伸びてきた髪もべっとりと張り付いてしまってこれまた気持ちが悪い。

 

「こんなに暑いのにランニングにでも行ってきたの?」

 

 何も知らないお母さんが友奈を抱えながら居間から出てきた。先程まで友奈はぐずっていたのか目元が赤い。

 

「ううん。違うよ。結衣に会ってた」

 

「結衣に?なら尚更どうしたよ。そんなに汗まみれになって。ああ、喧嘩でもして走って逃げてきたわけか」

 

 お母さんは私を揶揄うように笑った。私も「あはは」と変な笑みを浮かべる。折角整理がついた心は再びぐらりと揺れた。

 

「とりあえずシャワーでも浴びなよ。アタシと友奈ちょっと出かけてくるからさ」

 

「……そうする。あと、私も一緒に行くから待ってて」

 

「了解。ならさっさと浴びてこい」

 

 お母さんに促される形で私はシャワーだけを浴びに浴室へと向かう。

 シャワーを浴びながらも私は常に頭の片隅には結衣のことがちらついていた。

 

 私は友奈を乗せたベビーカーを押しながら、お母さんの隣を歩く。

 イネスに買い物に行くとかで私はシャワーを浴びた後に着替えてからお母さんと友奈と共に家を出た。

 歩きながら私はお母さんの影を見る。やはり至って普通であった。これで私の目がおかしくなってしまったと言う可能性は僅かながら減った。

 

「前見て歩かないと危ないよ」

 

「ごめんごめん。ちょっと考え事してて」

 

 お母さんに注意されてハッとなる。自分の思考の世界にかまけて友奈を危険に晒しかけていた。それはどうにもいただけない。

 

「暑くない?」

 

 私は友奈に問いかける。日除けがベビーカーについているとはいえ、体温は自然と上がってしまう。友奈は言葉を理解したのかはわからないが顔の前で手を何度も叩いて大丈夫だと意思を示した。

 

「でも、ちょっと休憩しようか。信じたくはないけれどおばさんのアタシの方がキツい」

 

「車使えば良かったのに」

 

「美遊は早めに車校に行く事をお勧めしておくよ」

 

 そういえばお母さんは車の免許を持っていなかった。本人曰く、「ハルヤがいるから大丈夫と思っていたら実際そんな事なかった」とのこと。

 人生の中でトップ三十の何処かには入る過ちらしい。

 

「お母さんまだ若いよ。周りに比べたら」

 

「三十過ぎると衰えるものさ。ハルヤが異常なだけ」

 

 お母さんは近くの公園の木々の影に立ち寄ると自分が飲むより先に私にペットボトルのお茶を渡してくる。私はありがたくそれをいただいた。

 友奈はまだ生後二ヶ月で飲めるものがミルクだけと限られており、来る前に飲んだためか必要ないとお母さんが判断して今この場では飲ませることはなかった。飲ませすぎも良くないとかなんとか。

 

「ハルヤよくあそこまで働けるよなあ。大社に行ったり学校行ったりと大変じゃないのかね」

 

 お母さんは今日も休日だと言うのに大社に呼び出されたからと朝から出て行ったお父さんの事を気にかける。

 

「お父さん両方の仕事好きって言ってたし、楽しいのならいいと思うけど。私は」

 

「それでしかもちゃんと子供の事見てくれてる訳だし」

 

「いいお父さんだよね。本当に」

 

 もう今ではお父さんの知能が私の勉強している範囲に追いついていないが、小さい頃はよく色々と教えてもらったものだ。それだけに限らず、休みの日は今日のように特に用事がない日以外はよく遊んでくれた。

 私も成長して料理とかもできるようになった訳だし、お父さんもお母さんも私をもう少し頼ってくれてもいいと思う。今こそ恩返しの時かも知れない。

 

「ハルヤの話はここらでいいとして、何かあった?結衣と」

 

「なかったと言えば嘘になるけど……。今回は私が全面的に悪いかなあ」

 

「アタシでよければ話は聞くよ。悩んだら相談。昔から言ってるだろ?」

 

 悩んだら相談。それはお母さんの昔からの口癖だった。何しろお父さんが一人で何でもかんでも抱え込んでいた時期があるらしく、その時からよく言っているようだ。

 

「暑いし、イネスも近いからそっちで話すよ」

 

「了解。美遊がそう言うなら従いますよっと」

 

 お母さんは立ち上がり、友奈の調子を確認してから私に代わってベビーカーを押しながら歩き出す。私もそれに続いた。

 イネスに着いてからは色々と必要なものだけを買ってから私たち三人はフードコートに立ち寄った。

 数年前にお母さん御用達のジェラート店が潰れてしまい、嘆いていたのを思い出した。ただ、代わりに入ったお店がアイスクリーム店なので特に変わりがないと私は思っている。お母さんからすれば何かが違うみたいだ。

 

「で?そろそろお母さんに話してくれてもいいんじゃない?」

 

 お母さんに笑顔で促されて、私はついに言わざるを得なくなった。

 話すつもりではいたが、いざ話そうとすると緊張してしまう。

 

「お母さんはさ、私の今から言うこと信じてくれる?」

 

 今から私が言おうとしてる事は頭が狂っていると思われても仕方がない事だ。だから私は例えお母さんと言えど信じてくれないのではないかと疑った。だが、その心配は杞憂だった。

 

「アタシは美遊のお母さんだっての。娘を信じない親が存在するとでも?母親舐めんな」

 

 お母さんはそう言うとニカッと笑った。私はその笑みに背中を押されて、少しずつではあるが朝にあった事を打ち明ける。

 結衣が自分の事を殺人鬼かも知れないと言い始めた事。そしてそれと同時に結衣の影が別の何かに変容したこと。そして私自身が、結衣が困っていたと言うのに話を最後まで聞かずに逃げ出してしまったと言うこと。

 お母さんは私が話す魑魅魍魎の話を無言で聴いてくれた。

 そして私が全て話終わると、少しの間沈黙が訪れた。

 

「とりあえず美遊。アタシから言えることは一つだけ」

 

「うん」

 

「なーんにもわからん!」

 

「ちょっと!?」

 

 お母さんは自慢げに胸を張るのだが、それでは勇気を出して話した意味がなくなるではないか。

 私がぐぬぬ。と拳を硬く握りしめるとお母さんは「まぁまぁ」と私を宥める。

 

「ちょっと話を聞く感じそこら辺の奇妙なことはハルヤに相談した方が早い。けれど、美遊が結衣の話をもう一度ちゃんと聞きたいと思うのなら聞いた方がいいと思うな。それだけ」

 

 私の心はお母さんにそう言われただけでかなり軽くなったように感じた。たった数時間であったと言えど胸につっかえていた棒のような物が取り払われたような錯覚を抱く。

 

「素直に最初からそう言えばいいのに」

 

「大人になると素直にならなくなるものさ」

 

「そんな大人にはなりたくないよ……。けど、ありがとうお母さん。また、結衣には話を聞くよ。今すぐは…少しまだ怖いかな」

 

「美遊がしたいようにすれば良いよ。良い方に転ぶか悪い方に転ぶかは美遊次第だけど」

 

「なんで急にそんな不安になるようなこと言う!?」

 

 私が不吉な事を言うお母さんに対して前のめりになっていると、友奈が自分を忘れるなと言わんばかりに泣き出してしまった。

 

「ごめんごめん。忘れてないって。ほら、ちゃんとお姉ちゃんもいるぞ。誰もお前の事なんて忘れないって」

 

 お母さんが抱っこをしてあやすだけで直ぐに友奈は泣き止んだ。常々思うけれどお母さんは子供の扱いがとても上手い。私がやろう物ならもっと時間が掛かっていたに違いない。

 私はお母さんに尊敬の念を送る傍ら、一つの言葉が気になった。

 忘れない、か…。なんでだろう。その言葉は私の心を強く脈打たせた。

 私は無意識に忘れ去られる事を怖がっているのだろうか。

 何故?

 私はこの問いに答えようとするとドツボにハマりそうになったので意識を無理矢理、お母さんと友奈へと向ける。

 

「友奈は泣き虫だなあ」

 

「美遊の方が酷かったよ。寧ろ友奈の方が夜泣きも少なくて助かってる」

 

「衝撃の新事実」

 

 本当に私はお姉ちゃんとしての威厳はその内残されているのだろうか。

 しかも次にお母さんが言った内容によって私の将来はかなり不安なものへと変化した。

 

「美遊、手を握ってやってないと常に泣いてたからね。それこそ本当に忘れないでくれって言わんばかりだったよ」

 

「かなりご迷惑をおかけしたようで」

 

 その時の様子を想像して私はお母さんに謝ったのだった。お父さんにも心の中で謝っておいた。

 

 それから二日後の放課後、夏休みまで残り一週間というところまで来てクラス内は盛り上がりを見せていた。

 みんな何処に行くとか、何をしたいとか夏休みの計画話に花を咲かせている。そんな中、私はいつ結衣に声をかけようかタイミングを図りかねていた。

 不味い。このままだと結衣は帰ってしまう。動け、私!

 無理矢理足を前に出して私は結衣との距離を詰める。

 そして何とか結衣が教室を出るかどうかと言うところで結衣の肩を掴む。

 

「美遊?」

 

 急に肩を掴まれたからか結衣は思いの外驚いていた。

 

「少しだけ話、良いかな」

 

 結衣も私がそういうだけで内容を察したのか小さく頷く。

 弥生の方を見るとクラスメイト達に囲まれており、こちらの事を気にする素振りはない。

 私は結衣と共に教室を出て、近くの空き教室に入る。

 空き教室に入るなり、私は結衣に頭を下げる。

 

「ごめん。前は、その、気が動転してて…」

 

「ううん。大丈夫。私も、少し、急すぎただろうし。それで話って…」

 

「結衣の話を今度こそ最初から最後まで聞こうと思う」

 

 私は断固とした決意を結衣にぶつけた。ここで逆にあちら側に引き下がられても困る。

 

「はっきり言って、信用してもらえるとは、思ってない、けれど」

 

「大丈夫。私は結衣が言ったことは信じるよ。だって私は結衣の友達なんだから」

 

 私がそう言うと結衣は小さく微笑むと「ありがとう」と言った。それから結衣は以前の続きを語り始める。

 

「夢の話はした、わよね。そこで私、毎回人を斬り殺してるの。自分よりも大きい鎌を使って……。それから、現実なのか夢なのかわからないくらいになった頃に決まって、誰かに胸を貫かれるの。そこで私の夢は、終わり。どう?おかしな話でしょう?」

 

 私は一通りの話を聞き終わってから少しだけ話を自分の中で噛み砕いて見た。噛み砕いた言葉を咀嚼して飲み込むとようやくしっかりと内容が理解できた。

 

「うん。はっきり言っちゃうと凄く怖いし、おかしな夢だとは思うけど別にそれは夢の話だよね。夢で見たからと言って自分の事を殺人鬼なんて恐ろしい言い方しなくてもいいと思うのだけど」

 

「そう、かも知れないけれど。私が相談したいのは、夢なのか現実なのかわからなくなる、ところ」

 

「と、言いますと?」

 

 私が問うと結衣は苦しそうに顔を歪ませる。私はここでもしかしたら深掘りしてはいけない範囲のことを聞いてしまったのかと感じた。

 結衣は苦悶の表情を浮かべながらも私の問いに答えてくれる。

 

「私、そのうち本当に、誰かを殺しかねない、ということ。今は私は新島結衣でいられてる。おかしな事を言っている、自覚はあるわ。でも、私はいずれ私ではいられなくなってるかも知れない。それが、怖いの…」

 

「結衣……」

 

 確かに結衣が言っていることはかなり謎めいている。それに何も知らない人が聞いていればさぞかし痛い事だろう。だけれども結衣がふざけてこんな事を話すような人ではないのを私は知っている。それに結衣が浮かべる表情が全てを語っていた。

 

「その結衣が言うその内ってどのくらいかわかる?」

 

「段々、感覚がおかしくなって来てる、から。二週間…くらい」

 

「結構短いね。でもわかった。結衣の感じている不安を取り除けるかわからないけれど助けになりたい。だから「弥生もいるんだぜ〜」」

 

「「!?」」

 

 え、何、何処から聞こえた!?名前も知ってる人の名を名乗っていたけれども普通に怖い。いかんせん姿が見えない。

 

「ここだよ〜。いい加減気づいてほしいな〜」

 

 背後から声が聞こえたので私はゆっくりと振り返る。

 背後にはベランダしかない。

 

「……弥生、普通に来てよ。あと何その手帳」

 

「だって〜、内緒の話みたいだったし邪魔するのも悪いかと思って〜。手帳はメモ書きだよ〜」

 

 何のメモ帳なんだというのは気になったが、知ってしまうとどうにも不味いような感じがして聞く気にはなれなかった。

 弥生のために鍵を開けて入ってもらう。

 

「話は聞かせてもらったよ〜。私も結衣に協力させて欲しいな〜」

 

「弥生…」

 

 結衣は話を信じて、協力してくれると言ってもらえたことがとても嬉しいみたいだ。結衣は小さく微笑んだ。

 

「ありがとう。迷惑、かけるけれどよろしく」

 

「もちろん!」

 

「任せてよ〜。その悩み、ちゃんと解決してあげる〜」

 

 私と弥生は結衣の手を強く握ったのだった。

 そして再び、結衣の影はぐにゃりと歪な何者かに変化していったのを私の目は見逃さなかった。

 

 学校からの帰り道は結衣とは別々の方向なので自然と別れてしまう。

 結衣の別れ際の表情は悩みを打ち明けられたからかとても清々しいものへと変わっていた。

 私と弥生は並んで歩く。夕陽が二人の影をアスファルトに引き伸ばす。

 

「ねえミユスケ」

 

「ミユスケやめい。どしたのやーちゃん」

 

「懐かしいね〜。その呼び方。私はそっちの方が好きだよ〜」

 

「私が恥ずかしいから嫌なの」

 

 周りから見ればこの会話は至って普通。けれども、私には弥生がわざわざこのような形で話を切り出して来た理由を直ぐに理解する。

 

「私と美遊は昔からの幼馴染だよね」

 

「そうだね」

 

 弥生の語尾がふわふわとしなくなったということは超真面目モードに入ったという事。真剣に友達の事を考えているらしい。無論、私もそうだ。

 弥生はズバズバと鋭い質問を私にぶつける。

 

「だから私と美遊は結構沢山のこと知ってるよね。互いに。家のことだってそう」

 

「そりゃね」

 

「結衣とも付き合いは長いよね」

 

「うん」

 

「普通に考えたら結衣の家とか、その周りのこと知っていてもおかしくないよね」

 

「……」

 

「だったら何で私達、今の今まで結衣の事を名前以外知らないの?」

 

「…………」

 

 二人の間が沈黙で満たされる。

 弥生の質問はあまりにも的確すぎた。その通りだ。私は、私たちは結衣とは親友だ。それは間違いない。けれども私たちには結衣が何処に住んでいて、学校にどのような道を辿って来ているのかすら知らない。詳しく知らなくても断片的には知っていてもおかしくない情報ではある筈なのに。

 しかも私たちは結衣の家族を見たことがない。授業参観にも、運動会にも姿を見せたことはない。仕事が忙しいという可能性もあるが、それでも異常だ。

 結衣は元から自分の事をあまり語らない。それはその通りなのだが、何故か私と弥生にはとても引っかかるものがあった。

 

「ねえ弥生。この世の中には知らなくていい事の方が多いって言われるけどどうする?」

 

「仮に知ろうとするなら結衣はあまり自分に踏み込んで来てほしくなさそうだからね〜。そこは配慮するべきかな〜」

 

 弥生の口調はいつのまにか元に戻っていた。たまになるあのモードは何なのだろうか。スイッチのオンオフが直ぐにできる弥生は凄い。

 

「やる?」

 

「やっちゃいますか〜」

 

 私と弥生は結衣に申し訳ないと感じながらも、探偵気分になってしまい勝手に悪い笑みがこぼれたのだった。

 

 その日の夜、私はお父さんに相談をすることにした。

 

「お父さん、聞きたいことがあるんだけれど大丈夫?」

 

 お父さんは読んでいた本を畳むと姿勢を正した。私はそれを許可だと捉えてかくかくしかじか、あった事の全容を話した。

 お父さんは話を聞きながら何度も頷いている。

 

「なるほど。美遊、ちょっと時間くれ」

 

 お父さんは一度欠伸を噛み殺すと立ち上がって部屋の外に出て行ってしまった。

 

「……え?どうしろと?」

 

 きっと今の私の頭にはクエスチョンマークが浮かんでいることだろう。

 そのくらいにはお父さんの行動はあまりにも謎に満ちていた。

 数分後、お父さんではなくお母さんが友奈を抱えて居間に入ってくる。

 

「お父さんは?」

 

「さっき出て行ったよ?」

 

「えぇ……」

あの父親一体何をしているのだろうか。でも、時間が欲しいと言ったと言うことは何かしら協力してくれているのだろう。

「嫌な予感するなあ。それに本当にこれは知っていいことなのかな」

私は天井を見上げながら、いくら結衣の悩みを解決するためとは言え本当に今自分がやっている事が正しいことなのか懐疑的になったのだった。

 

 

ー晴哉sideー

 

 俺は車を走らせ、高知県の小さな神社へと向かう。大社の中枢であった花本家が管理していた場所だ。

 俺は車から降りて神社の境内に入る。夜の独特な雰囲気が絶妙な気味悪さを醸し出していた。この神社の特徴は一つの場所を基点にして何輪もの彼岸花が咲いていることだろう。

 しばらく目的の人物が来訪するまでその彼岸花を見つめていると背後に何者かの視線を感じた。

 ようやく来たか、と俺はゆっくりと後ろを振り返る。

 

「元からおかしいとは思ってたんだよ。そもそも今の人間は高嶋友奈なんて存在、殆ど知らないからな」

 

 俺は美遊から結衣とどのようにして出会ったかを聞いていた。そして、以前一度だけあった際に新島結衣の歪さに気がついた。同族、とまではいかないがそれに近い。そして調べさせてもらった。結論は簡単に出た。

 

「わざわざ香川から俺を追いかけてくるとは思ってなかったよ。それは置いておいて、何十年もこちらにいて夏の亡霊ってわけでもあるまい。今更現世に未練でもあったのか?郡千景?」

 

「それは、こちらの台詞よ。不知火さんの偽者さん」

 

 月明かりが散った花の残影を僅かに写し、それは僅かに吹いた夜風によってぐらりと揺れるのだった。

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