花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

77 / 94
 皆さん1年ぶりですね!笑
 久しぶりに興が乗ってしまったので書いてみました!時系列は天の神を打倒した後になります!
 それではどうぞ〜


EXEP : 樹クライシス【1】

 天の神を妥当し、人類が神を頼りとせず自分たちの足で歩き始めてから迎える初めての春。世間は新生活スタート秒読み段階でもあり、どことなく忙しなく感じる。

 そんな世間の空気感に当てられてか、春休み期間中である讃州中学内もどことなく忙しない。生徒達は新入生の歓迎をいかにするかの対応に終われ、教員達は当然の如く様々な対応に終われ、阿鼻叫喚といった様子。

 職員室に用事があった俺はその光景を見て、大人になることの虚しさを肺いっぱいに吸い込んだ。

 

「先生達、忙しそうね」

 

 同じように職員室内を見つめ、そう呟いたのは東郷美森。訳あって鷲尾須美とも名乗っていたことのある。鷲尾須美を名乗っていた時期は俺の義妹である。

 東郷は俺と同行し、勇者部の活動についての話をしに来たのだがどうにも入りづらそうである。それでも東郷は遠慮がちに職員室の扉に手をかけた。

 

「行くの?この状況で?」

 

「仕方ないじゃない。そうしないと話が進まないのだから」

 

「ごもっともなことで」

 

 俺と東郷は意を決すると扉を開け放ち、中に足を踏み入れる。

 教員達の視線が一斉にこちらに向いたのは無視し、勇者部の面倒を見てくれている先生の机へと真っ直ぐに向かった。

 だが、なんと言うことかそこには先客がいた。

 

「あら、鷲尾君。東郷さん、おはよう。あなた達も勇者部の話?」

 

「えぇ、そうです。……樹も?」

 

 予想外の人物の滞在に、俺と東郷は目を見合わせて同時にクエスチョンマークを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

「来年の部の存続について?」

 

「はい。夏凜さんの言う通り、簡潔に言うとそんな感じです」

 

 部室に戻った樹は先程まで話していた内容をそのままそっくり俺たち勇者部部員に伝えた。

 全てを聞き終わった夏凜は「続けるに決まってるでしょ?」と樹に問う。

 

「続けたいのは山々なんですけどね。今年の新入生が入らないと私1人の部活になっちゃうので……。先生はその辺りを気にしてたみたいです」

 

「確かに元々は風先輩が『勇者』を集める。と言う目的で作った部だったものね」

 

 東郷が過去を思い出しているのか虚空に遠い目を向ける。俺と言えば今は部室に居ない創立者の顔がくっきりと思い浮かんだ。

 

(あの人、それ相応にインパクトのある人だったんだ……)

 

 俺の人生に及ぼしている影響はそこらの人よりも比にならなさそうである。

 

「それなら今年、新入生の歓迎を頑張れば良いんだよ!」

 

「ゆーゆーの言う通りだよ〜。いっつん。一緒に頑張ろ〜」

 

 「おっー!」と2人でやる気を漲らせる友奈と園子。どちらかと言えば俺もこの2人側の思考である。

 足りないならば足せばいい。神樹も消滅し、世界が混乱している状況だからこそボランティア活動に参加したいと考えてくれる子もきっといるはずだからだ。

 

「お姉ちゃんはどうやって友奈さん達を勧誘したんですか?」

 

「私と東郷さんは柱の陰から出てきた風先輩にジャジャーンっ!て部活動案内と入部届を出されたかなあ」

 

「俺も同じく突然陰から出てきたな。……あの人、ワンパターンすぎやしないか?」

 

「まあ、お姉ちゃんですから」

 

 樹の風先輩へのこの件に関する評価は置いておき、確かに部員問題は相当深刻である。

 俺を含めた新3年生も受験などで簡単には部活に顔を出せなくなる。そうなるとこれまで通りの活動は出来なくなってしまう。樹の憂う気持ちも痛く理解できた。

 

「よし!しばらくこれを勇者部の課題とするわよ!樹のためにも知恵を働かせましょう!」

 

 夏凜が会話の行き先を決め、この日は意見をなるべく出すだけ出す。と言う終着点が満場一致で決められたのだった。

 ただ、結論を出さないと言う条件の中、真っ先に否認された案がこちらである。

 

「となるとやっぱり勇者部伝統芸、柱の陰からの突入?」

 

 銀がケラケラと笑いながら、冗談混ざりに提案したこちらは苦笑いを浮かべた樹によって遥か彼方に投げ捨てられたのであった。

 

「お姉ちゃんは好きだし、お姉ちゃんみたいにはなりたいけど、それは…ちょっと……」

 

 風先輩。あなたの築いた伝統芸能、誰かが引き継いでくれますよ。きっとーーーーーー。

 そして園子によってこの議案の名称が決定した。

 約1ヶ月に及ぶ『樹クライシス』の始まりである。

 

 

 

 

 

 その日の夜、俺は居間でテレビを眺めている銀と園子、東郷の横顔を横目に1人調理場で晩御飯の用意をしていた。

 最近はこうして神樹館の勇者達だけで集まると言う機会も生まれている。三者三様に辛い過去を乗り越えただけに、結束はどの人達とも比べものにならないものとなっているはずだ。東郷も園子と銀といる間だけは、須美へと回帰しているようにも思えた。

 ただ、今日の話題はどうしても勇者部のことで持ちきりとなっていた。皆、真剣に部の事や大事な後輩のために知恵を働かせている。

 

「兄さんは何かいい案思いついた?」

 

 ジャガイモの皮を剥きながら、俺はその問いに答えた。

 

「そうだなぁ。確か、新入生の前で部活動紹介をする時があったよな。その時に何かしらの劇をやる、とか?」

 

 次にジャガイモを適度な大きさに切り分け、鍋の中に放り込む。そして予め切っておいた人参と玉ねぎを時間差で入れてしばらく炒める。

 

「それだと演劇部の勘違いされない〜?」

 

「確かにそれはありそうだ」

 

 火の通りにくい野菜を炒めたら、次は豚肉を投下。この辺りは勘。どうせ煮込むので確実に豚肉に火は通るのでOK。

 最近、この辺りの具材の高騰っぷりが半端ではないのでどうにかして欲しい所だ。

 

「やっぱり柱の陰作戦か……」

 

「銀はその案から離れなさい」

 

 そう言って東郷が銀の頬に人差し指を軽く押し付けた。銀はそれを嫌がる事なく、受け入れる。

 そんな様子を見ながらカレールーを投下。後は煮込むのを待つだけ。

 

「わっしー私にもやって〜」

 

「はいはい。相変わらずそのっちのほっぺた柔らかいわね」

 

「わっしーには負けるよ〜」

 

「そうだな。アタシも須美に実る果実の弾力にはぁぁぁいててててっ!?」

 

 先程までの優しさはどこに行ったのか、余計な事をいった銀の頬を東郷は引っ張った。今のは料理に集中していて聞かなかった事にしておこうと思う。

 

「真面目な話、勇者部の強みってなんなん?」

 

 引っ張られた頬をさすりながら銀が鋭い事を言った。確かにその通りで、他人にアピールをするならば長所を伝えるのは絶対条件だ。意外にも失念していたことではなかろうか。

 

「器用貧乏になれる〜!」

 

「それは果たして強みなのか?」

 

 思わず口に出してしまうほどにそれを長所にするのはどうかと思った。だが、実際器用貧乏になりかけの人物がいる訳なので否定はできない。そう、鷲尾晴哉その人である。

 

「っと、話は一旦ここまでにしてご飯できたぞ」

 

 いい具合に煮込まれたカレーはその匂いを武器に空腹感を煽る。それに耐えながら、盛り付けをしてテーブルに4人分を並べ終わった。これにて今日の仕事は終わり。後は食事を楽しむだけだ。

 並べられたカレーを見て、席に座りながら園子は目を輝かせる。

 

「うわあ!高級料理のカレーだ〜!」

 

「カレーが高級料理になる日が来るとは誰が想像するよ」

 

 銀の言う通り、まさかジャガイモが千円を超える日が来ようとは誰が思うのか。大赦の計算では徐々に物価高騰は落ち着くと言うが、それがいつになるのか明確な時期はわからないらしい。

 経済対策に翻弄され、食料危機に翻弄され、革命勢力に翻弄され、散々な大赦を今だけは可哀想に感じた。

 

「とりあえずいただきましょう」

 

「そうだな!冷めちまったら困る!」

 

「いただきます〜」

 

 3人が手を合わせてから、カレーをスプーンですくって口に運ぶまでを見守ってから俺も自分のカレーに手をつける。

 

「カレーだな」

 

「逆にそれ以外だったら怖いって」

 

 笑いのツボに入ったのか銀は腹を抱えて笑っている。この程度で笑ってくれるなら俺も適当に喋る甲斐があると言うもの。

 

「それで勇者部の強みだけど、コミュニティを広げられるってのはどうだ?」

 

「地域での交流が増えるってことね」

 

「なぜ言い換えた。まあ、そんな所」

 

 俺の案にうーん。と唸る3人。やはり決定打とするには漠然としすぎただろうか。

 

「人助けができるとか?」

 

「世の中そんなに良いことをしたい人ばっかりかね」

 

「兄さん捻くれすぎ……。全く、兄さんは……」

 

 確かに今のは捻くれすぎだったかもしれないと反省。少なくとも、銀が言うことは勇者部の活動の行き着く先なので何も間違いはない。

 

「そうね。愛国心がーーーーーー」

 

「「「そうだな(ね)〜」」」

 

「3人とも酷くない!?」

 

 東郷、戦わずして敗北。ガックリと項垂れる東郷の肩を俺はせめてもの情けで軽く叩いた。

 

「次があるさ」

 

「くっ。愛国心を教え込む良い機会だと思ったのに」

 

「俺嫌だよ。また皆で富国強兵を掲げるの。またうどんが食べれなくなっちゃう」

 

「わ〜。そんな事もあったね〜。懐かしいなぁ〜」

 

「うどんが食べられなくなったのは園子の夢の中だけだろ」

 

 懐かしい記憶に思いを馳せていると、いつの間にか各々食事を終えていた。こうして友達と食卓を囲めたことに感謝しながら、手を合わせる。

 

「洗い物は私がするから兄さんは休んでて」

 

「よしっ!それならアタシも須美のお手伝いしよっと」

 

「私も私も〜」

 

 片付けからは東郷の出番。と今日は決まっていたのでそれに甘えつつ、俺はテーブルを離れてソファの中に沈み込んだ。

 癖で見上げた天井には走り抜ける一匹の蜘蛛。どこに行くのだろうかと目で追っていたら、いつの間にかその姿は見えなくなっていた。

 

「ん?」

 

 蜘蛛を諦め、また意味もなく天井を眺めているとスマホに通知音が。画面を覗くと一通のメッセージがあり、送り主は犬吠埼風となっている。

 グループではなく個人に送ってくるとはこれまた珍しい。

 ロック画面を解除して、チャットの画面を開く。

 

『晴哉、今度話したいことあるから私の家来てもらって良い?』

 

 よくわからないが、俺は風先輩の家にお呼ばれしたらしかった。

 

 

 

 

 

 数日後、俺は風先輩のもとへと向かった。樹が家に居ない日がこの日しか無かったとかで時間が経ってしまったのである。

 風先輩から俺に相談とはまた奇妙な話があるものだ。天の神でも降ってくるのかもしれない。

 何気に初めて来るかもしれない犬吠埼家のインターホンを押すと、待たずにドアが開いた。

 

「いらっしゃい。よく来たわね」

 

「すみません。すぐ来れなくて」

 

「大丈夫よ。立ち話もなんだし、早く入って」

 

 俺は促されるままに玄関に通され、あれよあれよと居間の椅子に座っていた。

 

「あ、これ一応手土産です」

 

「ありがとう。おおっ、ケーキなんて久々に見たわ。高かったでしょ」

 

「無料です。それ」

 

「……どんなマジック使ったのよ」

 

「そこの店主さん、俺が前に偶然助けた人だったみたいで。お礼にと」

 

 一年前ほど前の事をよくその店主さんも覚えていたものだと思う。確か風先輩達が勇者として戦う前の事なので相当前だ。

 

「なに、命でも救ったわけ?」

 

 笑いながら風先輩はそのケーキを皿に分けると、正面の席に座った。

 

「そんな所です」

 

「本当なんかい。あんた、知らない所で相変わらずこそこそやってるわよね」

 

 呆れ気味にため息をついて、風先輩はケーキを口に運ぶ。お口に合ったのか、自然とその頬は緩んでいた。

 俺もそれに追随するようにケーキを口の中に放り込み、その甘みを充分に享受する。一緒に出してくれた飲み物でその甘みを洗い流してから会話を再開した。

 

「車に轢かれそうになった所を助けただけですよ」

 

「それを平然とやるのが恐ろしいのよ。あんた、自分の命を少しは省みなさいよ」

 

「友奈にも言われました」

 

 天の神との決戦後、友奈の家に招かれ、その際に渡された勇者御記。それを渡された理由も、俺が少しでも自分を大切に出来るようにだった。

 

「まあ、今は改心してるのでOKです。それで、風先輩話っていうのは」

 

 俺が本題を切り出すと、風先輩はケーキを突いていたフォークを置くと妙に真面目な顔で答えた。

 

「樹の部活についてよ」

 

「だろうとは思いましたよ。やっぱり不安ですか?」

 

「そりゃあねえ。樹も私の知らないところで成長してるとは言え、姉としては不安は尽きないわよね」

 

 あんたも兄なんだからわかるわよね。と言われ素直に頷いてしまう。俺も時々、東郷の依頼にーーーーーー。

 

「あれ?そう言えば須美のあの時の用事なんだったんだ?」

 

「晴哉、あんたが心配されてるのよ」

 

「兄としての威厳はなかったんですね」

 

 俺が心配していると思っていたら俺が心配されているだけだったらしい。

 

「一応言っとくと、東郷は晴哉のことだいぶ気にかけてるみたいだから」

 

「そうなんですか?」

 

「前言ってたわ。兄さんの足が治るまでは私は近くにいます。って」

 

 神器の後遺症は未だに治っていない。今日も杖をついて、えっちらおっちら歩いてここに辿り着いている。

 冷静に考えたら天の神の一撃を相殺するほどの攻撃をこちらは繰り出したのだ。それ相応の代償は負うのは承知の上だった。

 

「悪い気はしないですね。っと、話が脱線してるんで戻しましょうか」

 

「そうね。一応、晴哉達もあと一年でしょ?だから樹を部長にしたんだけど、新入生が入らなかったらあの子1人にしちゃって寂しい思いをさせるんじゃないかなって」

 

 大方予想通り、風先輩も自分の判断に自信がないように見えた。

 

「今、勇者部でどうしようかって話をしてますし、俺としてはそこまで心配する事もないんじゃないかなと思いますけど」

 

「東郷や乃木、晴哉もいるし知恵の面では気にしてないわよ」

 

「樹がアピールできるか、ですね」

 

 俺としてもそこの辺りは心配は正直していない。恐らく今では俺の方が人前で話すのが苦手なまである。

 

「やっぱり私が……」

 

「引退したんですから大人しく高校で擬似勇者部作っといてください」

 

「冷たい!ん?何、あんた私と同じ高校受ける気なの?相当偏差値高いわよ?大丈夫?」

 

 この人、俺の頭脳を甘く見過ぎではないだろうか。弱点である数学を除けば最早敵はいない。

 

「とにかく、樹は大丈夫です。それこそ、お姉ちゃんである風先輩が樹のことを信じてあげないでどうするんですか」

 

「そうね。私が間違ってたわ」

 

 風先輩はニコッと笑って先程までの自分の考えを振り払った。気がつけば風先輩は二つ目のケーキを自分の皿に乗せていた。あまりにも自然な動作すぎて俺は呆気に取られた。

 そんな俺の気持ちなど気にかけるわけもなく、話題は進む。

 

「今の所どんな案が出てるのよ」

 

「今は園子によって樹が歌って踊る事になってます……」

 

「全然大丈夫じゃなさそうだけど!?」

 

「さすがにボツなんで大丈夫でしょ」

 

「ふ、不安だわ」

 

 せっかく吹っ切れたのに変に不安を助長させてしまったのは申し訳なく思った。

 

「晴哉は何か案とかはないの?」

 

「俺としては充分この部活は魅力的なので素直にその話をすれば良いと思ってますよ。変なアピールをしなくても伝わるものは伝わるはずですから」

 

 乾いた唇を湿らせるために今一度飲み物を含む。その際、風先輩は凄く意外そうな顔をしていた。

 俺がそんな事を言うとは思っていなかったと言う感じだ。

 

「なんですか」

 

「晴哉的には勇者部は魅力的になってくれたの?」

 

「入ったきっかけは成り行きですけど、活動自体は好きですよ。元々、神樹館にいた時から児童館で読み聞かせとかしてましたし」

 

「あんた、本当に人間嫌いなの?」

 

 銀辺りにでも俺の小学生の頃の話を聞いたのだろう。かなり前の事になってしまった当時の事を思い出しながら、俺は笑った。

 

「大っ嫌いですよ。でも、一周回って好きです」

 

「あんたのその辺りは複雑怪奇ね」

 

 声を出して豪快に笑う風先輩につられて、俺もまた自然と笑みが溢れた。

 

「ちなみに俺は樹に歌って踊って貰うことは悪くないと思ってます」

 

「ちょっと!?晴哉っ!?」

 

 冗談混じりにそんな事を言うと風先輩は目に見えて焦り出した。その様子を揶揄いながら、俺は樹が用事から戻ってくるまで風先輩となんて事のない会話を続けたのだった。

 

 

 

 

 それからまた数日後。『樹クライシス』が議案になってからちょうど1週間弱の月日が流れている。新入生の歓迎ムードも日に日に高まって来ていた。

 そんな中、勇者部は未だに解決策を見出せていなかった。

 

「こんなに困る事になるとは思わなかったわ」

 

「夏凜ちゃんの言う通りね。いかにしてこの部活の魅力を伝えるのか、こんなにも難しいとは思わなかったわ」

 

 部室内の黒板前の席に座りながら夏凜と東郷が腕を組んで唸っている。

 こう、俯瞰してみると、樹のためを思って必死に知恵を出そうとしている勇者部の面々は本当に優しいのだと思う。

 ただ、樹はここでとある決断を下した。

 

「勧誘はやっぱり普段通りの事をしようと思います」

 

 樹は前置きで俺たちに頭を下げてからその理由を語った。

 

「確かに他の部活とは違う事をすれば印象には残るかもしれませんけど、勇者部はそんな事をしなくても大丈夫じゃないかと、私は思います」

 

 それを聞いて俺たち上級生は顔を見合わせると同時に頷いた。

 

「それが部長の判断ならついて行くんよ〜」

 

「アタシも樹の決めた事なら全力でサポートするよ!」

 

「銀さん、園子さん。ありがとうございます」

 

 樹は受け入れられた事に安心したのか、胸を撫で下ろしつつ嬉しそうに目を細めた。

 

「そうなると後は樹ちゃんの発表する文章だけだね!」

 

「そうですね。それはしっかりと考えないとーーー」

 

「もう既に考えてあるわ」

 

「「「「「はや!?」」」」」

 

「結果的にこうなると思ったから。勇者部は確かに特別な部活だけど、特別な事をする必要はないってね」

 

 東郷が胸から取り出したのは一枚の用紙。そこには3分ほどで読みきれそうな文章がつらつらと書かれている。

 俺は東郷に断りを入れてからその用紙を見せてもらった。

 

「……どうして凄いまともな事書いてるんだよ」

 

 少し期待したのと異なる文面に思わず肩を落としそうになる。

 

「兄さんの私に対するイメージの末端を見た気がしたわね」

 

 東郷は苦笑いを浮かべながら俺の手元から用紙を抜き取ると、樹に手渡した。

 

「これを利用しても良いし、樹ちゃんが自分で考えてくれてもいいわ。発表の練習も同時進行でやっていきましょう」

 

「はい!ありがとうございます!私、頑張ります!」

 

 皆の助けを無駄にしないようにと樹は今一度自分自身に気合いを入れたようだった。

 そしてこの一週間は、きっと勇者部の活動を今一度振り返る時間となったのだと皆で笑った。そこからの決まり具合は凄まじく、その日中に銀と友奈によってポスターとビラが大枠完成し、俺と夏凜によって樹の部活動紹介の発表練習が行われた。その裏で東郷と園子によってプレゼンテーションが作られ、一瞬の間に準備は整って行ったのだった。

 

 

 

 そして遂に新学期になった。こんな世界情勢でも、新入生達の顔は希望に満ちている。

 新入生の入学式と学校生活のデモンストレーションが終わると、部活動勧誘は開始される。俺たち上級生の授業も昼間には終わるように設定されているのだ。新入生からすると入学式で新しい友達作りとかもあるのに、加えて部活動紹介を聴くのだから疲労も凄そうに感じる。

 ただ、上級生はそんな事はお構いなし。昼を過ぎると校舎内の活気もかなり高まり、皆がその空気感に当てられた。2年の途中から転校して来た銀と夏凜は何気に初めての歓迎ムードを味わっている。

 

「こんなに部活勧誘って盛り上がるわけ?」

 

「予想以上すぎて結構驚いてる。けど、良いね!楽しそうなこの雰囲気!」

 

 勧誘する側として盛り上がっている2人は折角なのでビラ配りに向かってもらい、俺は部室で勇者部に興味がある人への説明役を担っていた。

 今頃、樹、東郷、友奈、園子は体育館で行われている部活動紹介の最中だろう。準備も万全に出来ていたし、上手くいくと信じて待つとしよう。

 

「それにしても暇だ」

 

 まだ勧誘が始まったばかりとは言え、1人部室に残されるのはなんとも切ないものがある。

 そんな時、部室の扉が音を立てて開かれた。

 お、どんな子が来たかなと思って見てみたら、そこに居たのはすらっとした中学生離れした長い手足を持ち、肩の辺りで綺麗に切り揃えられた茶色がかった髪。整った顔。部活内外に人気の高いバドミントン部の部長がニヤニヤとした笑みを浮かべながら立っていた。

 

「何しに来たん。敵情視察?」

 

 俺は度々バドミントン部に助っ人に行っていたために、こうして軽口を叩けるくらいには仲良くなれている。

 この関係も勇者部に居なければ生まれなかった関係だ。振り返ってみると感慨深いものがあった。

 

「敵と認定するには些か相手が弱いかな」

 

「おい。なんてこと言うんだ」

 

「ふふっ。冗談だよ。近くを通ったから何となくね」

 

「人気のバドミントン部の部長がこんな所に居て良いのかよ」

 

「ハルッチと居たら勘違いされちゃうかもねぇ〜」

 

「ややこしくなるからやめてくれ。今年は何人入りそう?」

 

「20人は堅いかな。勇者部はどうなの?」

 

「4人は欲しいかなあ。樹……今の部長の代が部長しか居ないからさ」

 

「樹ちゃんね!さっき私の後に話してたよ。噂には聞いてたけど凄い可愛い子だね」

 

 あれなら人気でそうだ。なんてアイドルプロデューサーのような事を言いながら彼女は笑った。

 その容姿に見合わず豪快な笑い方をする彼女を見ているとふと、俺は思いついた。ここは作って来た人脈の使い所ではないだろうか。

 

「バドミントン部に勇者部のビラって置けたりしない?」

 

「ふむ。うちから侵入部員を引き抜こうって事かな?」

 

「違う違う。認知度を高めたいだけだよ。こう言う部活もあるよってね」

 

「なるほど。こちらから声をかけてもチラシは受け取って貰える可能性は少ない。それなら新入生の当事者達の中で広めてくれる方が良いって事か。君、賢いね」

 

「ははっ。よく言われる。別に手に取ってもらわなくたってサブリミナル効果的なものもあるし、方法は思いつこうと思えばそれなりに出てくるものだよ」

 

「そこまで考えてるなら良いだろう。よし。それなら等価交換と行こう」

 

 何やら錬金術師のような事を言い始めた。俺はとりあえず何も言わず聴くことに専念する。

 

「今年の新入生の教育の依頼をしたいね」

 

「いや、自分たちでしろよ。そこは」

 

 聴き専になるはずだった決意は秒で崩れ去った。

 

「ハルッチはそこそこ人に教えるの上手いだろ?だから外部コーチってことでさ」

 

 褒められてる。褒められてるはずだと自分に言い聞かせる。これも樹のためだと自分に言い聞かせる。

 ただ少し考えてみると、この程度の依頼今更余裕ではないか。俺は二つ返事で引き受けることにした。

 

「うーん。まぁ、良いかなあ」

 

「よっしゃ!契約成立ってことで私はここで失礼する!」

 

「おい。まさかお前、最初からーーー!」

 

「気づかない君が悪いね!さらば!」

 

 嵐のような勢いで居なくなるバド部部長。彼女を止めることができるのは彼女の側近の子しかおるまい。

 勇者部にも自由奔放な人は何人かいるが、あそこまで自由奔放なのもそう居ないだろう。そしてちゃっかり勇者部のチラシは持っていってくれるのだから隅に置けない。

 

「凄い疲れた……」

 

 新入生を相手にする前に怒涛の疲労感を味合わせるとは思わなかった。

 それからしばらくするとチラシを配り終わった夏凜と銀が戻って来た。予想以上に早いお帰りである。

 

「もう配り終わったのか?」

 

「そりゃ、アタシに掛かればイチコロよ」

 

「凄い勢いだったわよ。本当に。私も負けじと渡すので精一杯だったわ」

 

 よく分からない相乗効果が生まれていたので、この2人を派遣したのは間違いではなかったみたいだ。

 樹の陣地分けは正しかった。と言うことはつまり俺は……。

 

「役立たずってこと?」

 

「そう言うわけではないと思うケド?」

 

「適材適所ってものがあるでしょ。きっとそれよ」

 

 銀はともかく夏凜は慰めになっていないように思う。樹に限ってそんな事はしないと思いたいと言う願望を胸に抱きながら、ひたすらに待つ姿勢を見せることにした。

 銀や夏凜は他の部活の様子も見てくると、こちらも勇者部で培った人脈を武器に情報を集めに行った。

 

「それにしても今年の新入生歓迎会は盛り上がってるなぁ。学校だけでも明るい話題を作りたいって言う生徒会の意向かね」

 

 そんな呟きが廊下からの喧騒に打ち消される。神話の時代から祭りというものは悲しい時や辛い時にこそ、その真価を発揮して来た。あながち、今の学校のあり方は正しいように思えた。

 しばらくまだ人は来なさそうだと勝手に判断し、俺は椅子の背中にもたれかかった。そしてそのまま目を閉じる。

 別に寝る気などこの時は微塵も考えていなかったと先に言い訳しておこう。本当に目を閉じただけだった。

 

 

 

 

「晴哉さん。晴哉さん!!」

 

「はっ!」

 

 樹の声に耳元で呼びかけられ、俺は椅子の音を鳴らして立ち上がった。冷や汗が止まらない。とんでもない大失態を犯したのではないかと何度も何度も部室内を見渡した。

 既に最近買い替えた電子時計は17時30分となっている。下校時刻も僅かにすぎ、先程までのお祭り騒ぎのような喧騒は不安になるほど静寂に変わっている。

 

「やらかした?」

 

「いえ、晴哉さんが眠ってる時も誰も来なかったみたいなので問題はありませんでしたよ」

 

「……それ、俺が寝てたからとかじゃなくて?」

 

 それが事実であればどれだけ良かっただろう。残酷にも樹は首を横に振った。

 

「晴哉さんが寝てしまってから、園子さんと東郷先輩がすぐ戻って来てましたから」

 

「そっか。みんなは?」

 

「明日もあるので先に帰ってもらってます。私は、その。これでも部長なので」

 

「とんでもなく迷惑かけちゃったみたいだね。ごめん」

 

「ふふっ。大丈夫です。園子さんと東郷先輩が、晴哉さんは最近用事が立て込んでいるから寝かせておいてあげてと言ってましたから」

 

 急に2人から向けられていた謎の優しさに少しだけ背筋が凍る。

 それはともかく、樹が強がっているのは目に見えてわかった。本音を言えば今すぐにでも肩を落としたい所のはずなのに、俺の目の前だからと気丈に振る舞っている。

 

「俺の愚行は反省するとして……。まだ初日だ。新入生も疲れてるだろうし、明日か明後日には興味持った子が来てくれるよ」

 

「そうだと良いんですけどね」

 

 久しぶりに見た樹の弱々しい表情。樹も樹で発表練習や、部長としての緊張感から大変な思いをしていたに違いない。

 ここは一つ、先輩としての威厳の見せ所といこう。

 

「よし。樹、ちょっと付き合ってくれ」

 

「え?」

 

「気分転換、しに行こうぜ」

 

 俺は急いで荷物をまとめると、銀と友奈に連絡を入れた。そして、そのまま動かぬ足を意思の力だけで動かしながら樹の手を引っ張って、駅に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 空が完全に暗くなる前に、俺と樹は駅に辿り着いた。呼び出しておいた銀と友奈は既に到着していたようで、俺と樹をみると手を振って待ち受けてくれる。

 2人の元に駆け寄ると、銀は真っ先にニヤニヤとした笑みを浮かべて俺の横腹を突いた。

 

「よっ。寝坊助さん。呼ばれたから来てあげたよ」

 

「うっ。今回ばかりは否定のしようもない……。友奈も突然悪い。家、着いた頃だった?」

 

「ちょうど東郷さんと別れた時だったかな。個人で連絡が来るの珍しくて、東郷さんに何も言わずに走って来ちゃった」

 

「あ、そうなの?走らせちゃってごめん」

 

 通りで東郷が居ないわけだ。俺は勝手に友奈がこれば東郷もセットでくっ付いてくると思っていただけに誤算だった。

 それなら仕方ないと自分の中で納得しかけたその瞬間、銀の顔が強張る。「え?」と勝手に声が出たのと同時のこと。

 

「誤算……とでも思ったかしら。兄さん」

 

 あまりにも聴き馴染みのある声が、身体を突き抜ける。

 

「ひぃ!?」

 

 思いっきり飛び退り、一旦その存在と距離を取った。

 

「失礼ね。そんな驚かなくても良いじゃない」

 

「完全に登場の仕方が日本昔ばなしのホラー回なのよ」

 

 恐怖回とまで言われ、不服そうな東郷を尻目に一先ず樹にこれから何をするのかを伝えなくてはならない。樹が怖がっているではないか。

 

「時間は少なく短いけど、そんな短時間でも七つの大罪を打ち消す可能性を秘めた、そんなショッピングモールに行こうと思ってて」

 

 樹は俺の紹介に戦々恐々と言ったご様子。

 

「な、なんですかそれは」

 

「さあ、銀。答えをどうぞ」

 

 俺のパスに待ってましたと言わんばかりに銀は即答した。

 

「イネスだな!よしっ!そりゃアタシを呼ばないで誰を呼ぶってんだ」

 

 イネスマスターこと三ノ輪銀さんだ。さぞかし、その持ち前の元気さと知識で樹の気持ちをリラックスさせてくれるだろう。

 こうしてる間にも電車の時間はやって来て、俺たちは電車に飛び乗った。

 

 

 新勇者部のスタートダッシュは成功したとは言えなかった。だが、まだ明日が、明後日がある。勝負はここからだと未来に明るい展望を持っておくとしよう。

 

    【樹クライシス 上 END】




こちらの話は三部構成になってます!次の更新をお待ちください!

読んでくださって本当にありがとうございます!またお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。