花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第7話 夜桜

 合宿が始まり俺と須美、銀、園子はみっちりと鍛錬を重ねた。

 初日は基礎力から技の型まで、全てその道の達人が指導にあたった。明日は予定では不足している連携の力を深めるそうだ。

 大赦はこの数日で俺に起きている()()について一つの結論を出した。

 5分以上の使用、もしくは1日においての複数回使用。これが()()が発生する条件であると。

 実際、過去の戦闘は5分以上は経過していることが多いことを含めると理論的には完璧であるように思える。しかし、一体何に置き換わっていっているのかはまだわからないとのこと。

 

(俺もそれなりに考えてるけど、やっぱりよくわかんないんだよなあ)

 

 自分の使うことのできる力の限界点の把握すらままならない事に複雑な心境になる。

 大赦の仮定を信じ、俺は勇者システムを使わなくても可能な訓練をひたすら受けるしかなかった。

 

 合宿中の四人の自由時間は、夜の鍛錬後、入浴時間からである。ここから就寝までは自由に過ごせるとのこと。ただ朝5時起床とかいう鬼畜っぷりなので夜更かしはできない。

 この合宿に異論はない。ないのだが、俺を悩ませていることが一つだけある。

 

「なんで同じ部屋なんだ…」

 

 先生よ。確かに俺に同性の友達は少ない。いや、いないけれども。これでも男なんですよ。現に男湯浸かってるわけなんだし。

 信頼されていると考えればいいのだろうか。でも普通に考えれば修学旅行とか別の部屋でしょ。知らんけど。

 隣の女性陣はとても楽しそうにはしゃいでいるのが聞こえる。

 べ、別に聞き耳立ててるとかそんなんじゃない。本当だ。神樹様に誓って。何度も言うが聞き耳を立てていたわけではない。ないが…会話が耳に入ってしまった。

 

「その胸、クラスで一番大きいんじゃない」

 

「銀!!!!」

 

 俺は思わず吹き出しそうになった。きっと反応を聞かれれば須美は俺とは2度と会話をしてくれなくなる。そんな未来を予感するだけで耐えることは容易だった。

 続いて暴れてるのか揉み合いになっているのかバシャバシャと水の音が響く。

 

 

(鷲尾晴哉…心を無にするんだ…そうだ。お経を唱えれば変なことを考えずに済む)

 

 煩悩を捨て去れと自分に言い聞かせるが、そう簡単に追い出せるのならばこの世は仏僧だらけになる。

 

「それに、俺お経なんて知らんぞ」

 

 無論、ただの小学生がお経なんて知るわけがない。できないことをしようとするものではないということが大変よくわかった。

 

「もう風呂出れば万事解決じゃ…」

 

 答えを求め、湯煙を目で追い続けると真相にたどり着く。

 短い時間だったが十分堪能したことにして俺はさっさと湯船から出た。

 

 俺が部屋に戻ってから10分近く経ったがまだ彼女達は戻ってくる気配がない。さぞ、楽しんでいらっしゃるようで。

 

(…俺もそこらへんにいる神官誘ってキャッキャウフフすればよかった)

 

 果たしてそれに付き合ってくれる人はいるのか。そんな事を考えながら暇を持て余した俺は布団を敷いたあと、カバンから文庫本を取り出して、本を読みながら時間を潰すことにした。

 

 数分後………。

 園子は肌がつやつやに、須美と銀は疲れ切った顔をして戻ってきた。

 

「おかえり。遅かったな」

 

「兄さんが早いのよ…」

 

 一体疲れ果てるほど風呂で何してたんだ。疑問に思ったが敢えて聞かないことにした。

 三人は俺が敷いておいた布団に倒れ込んだ。

 

(本当に何してたんだ……)

 

 疲れて倒れ込むほどの戦いがあの湯船の中で繰り広げられていたのだとしたら、それは誠に良い訓練になったことだろう。知らないけど。

 それから夜も更けて、就寝時間になっても、銀はすぐに寝なかった。体力は無尽蔵にあるらしい。回復能力も高く、年寄りの俺にはわからない体の構造をしているらしかった。

 

「お前ら、簡単に寝られると思うなよ?」

 

「私はいついかなる時も眠れるよ〜」

 

「明日も早いのよ。ほら銀、目を閉じなさい」

 

「いやだ」

 

 銀は優等生の意見をケロリと拒否した。須美は銀を教育しようと立ち上がる。

 

「好きな人いいあいっこしよう!」

 

 しかしその銀の一言で、須美はピタリと動きを止めた。その目からは闘志は消え去っている。

 

「銀…好きな人って…」

 

「もちろん。お父さんとか身内で濁したやつは勇者の称号剥奪な!」

 

 俺は嫌な予感がしたので寝たふりと洒落込むことにした。そんなふざけた会話に参加するくらいなら寝る。そう意思をはっきりと示した。

 だが、銀は俺が狸寝入りをする事も予想済みだったのか、布団を剥がそうとジリジリと近づいてくる気配がした。

 

「ハールーヤー?気づいてるぞ?」

 

「………」

 

 何とかそれでも目を瞑ってなんとか誤魔化そうとしたが、そうは問屋がおろさない。

 

「ちょっ!やめ、やめろーーーーー!!!!!」

 

 俺は布団を剥がれ、銀に脇をくすぐられて俺の策はあえなく敗退した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。カハッ…」

 

「大丈夫〜?」

 

「だ、大丈夫だ…話をするならしてくれ…」

 

「じゃ、じゃあ銀はどうなの?」

 

 積極観念して俺はこの恋バナなる話題の船に無理矢理乗船した。

 死の淵を彷徨い、肩で息をする俺とは対照的に須美はこの話題に俺が驚くほど、この話題にくいついた。

 

「どきどき〜」

 

 園子も、期待に目を輝かせている。銀は溜めに溜めた後ーーーーーー。

 

「いない!」

 

 そう、銀はドヤ顔で言い放った。

 

「それはずるいよ〜」

 

 園子は抗議するが、須美は安堵しているようだった。自分以外にも居ないという答えが出てきたからだろう。

 銀は愚かだった。少しでも面白い回答を引き出すなら、先に須美を問い詰めるべきだったのに。可哀想に良い機会を逃してしまっている。

 

「私もいないから、おあいこね。そのっちは?」

 

 案の定、須美はけろりと自分の番を流した。変なところだけ器用だった。

 

「ふ!ふ!ふ!私はいるよ〜」

 

 その予想外にもあっけらかんとした園子の返事に、銀と須美はぐぐっと、身を寄せた。

 

「おおっ!コイバナきたんじゃない!」

 

 銀のテンションのボルテージがさらに上がる

 

「だ、誰…?クラスの人?」

 

 園子の答えを今か今かと待つ須美は何故だか緊張していた。

 確かに俺もここで知ってる名前が出てきたら驚く。須美の緊張感も相まって、俺まで変に緊張してしまった。

 

「うん、わっしーとみのさん」

 

 それから園子は俺たちの注目を集めたが、満を辞して出てきた名前になんだか複雑な気持ちになった。

 ぱあっと華やいでいる園子の台詞に反比例して、銀と須美のテンションは落ちていった。

 

「あっ!でも〜、一人忘れてた〜」

 

「え、誰?誰なの!?」

 

 銀と須美は一回下がったテンションが再度上がる。俺も「おっと?」となって身を乗り出した。

 そして出てきた名前はもれなくーーーーー。

 

「えへへ〜、ハルスケ〜」

 

 俺だった。

 

「ふぁっ!?」

 

 出したことのない変な声が思わず飛び出た。当然の如く、須美も銀も一度顔を見合わせたと思ったら、同時に園子に飛びついた。

 

「な、え、そのっち!?それって…つまり…」

 

「おま、おまえ、園子…それって」

 

 ガクガクと銀に揺さぶられ、早くその先の答えを言えと園子は急かされる。けれど、本人は何故そこまで急かされているのかわかっていない様子で、いつも通りのんびりとした声音でその真意を曝け出す。 

 

「私ずっと一人っ子だったからお兄ちゃん欲しかったから〜。ハルスケ優しいし、わっしーが羨ましかったよ〜」

 

「あぁ…そういう…」

 

 銀のテンションがまた下がった。

 対照的に俺は不覚にもドキッとしていた。こんなことを言われたのも生まれて初めてなので照れくさかった。そういう意味でなくとも普通に嬉しかった。

 

「なんだかぱっとした話が出なかったな。もっとこう…燃えるような…」

 

「さ、最後に結構大きな爆弾が落とされた気もするけど」

 

 園子はずっとニコニコとしていた。

 こうして、第一回勇者たちのコイバナ大会は幕を閉じた。はずだった。銀が余計な事を言い出すまでは。

 

「ところでハルヤは?」

 

「そういえば確かに兄さんだけ聞いてなかったわね」

 

 だからどうしてこう言う時ばかりはこの妹はノリがいいのだろうか。俺を助けるのは須美の仕事だろ?と視線で文句を言うが、言われた本人はあっけらかんとしている。

 酷い話だ。古今東西どの世界の物語を見ても類を見ないほどの裏切り。

 

「俺なんか聞いてどうするん」

 

「ハルヤ、アタシ達と居てもそう言う気配ないからさ。実際どうなのかなって。気になってるか子とかいたりするんじゃない?」

 

「確かに気になる〜。私、ハルスケに好きな人がいるなら応援したいな〜」

 

 何と優しい園子の申し出。だが、残念な事にいるわけもない。

 

「いないよ。俺、クラスの女の子の顔思い出せるの君たち3人しかいないし」

 

 面白く無い回答ではあるがこう答えるほかない。本当に俺はクラスメイトの顔をほとんど覚えていないのである。 

 友達もいなければ知人と言える人がいるかも怪しいレベル。改めて感じるが、相当に俺の対人関係は終わっていた。

 俺の答えを面白くなさそうに聞いていた銀だったが、おもむろに指を鳴らすと名探偵ばりの迷推理を繰り広げた。

 

「そうなると……やっぱり須美か!」

 

「えっ」

 

 何とふざけた推理か。俺が犯人からその場でこの迷探偵をバールのような名状しがたい何かで頭をかち割っている。

 そして須美。その反応は不味い。すぐに否定してくれ。

 

「馬鹿言うな。俺は須美の事は大好きだけどそれは家族としてだ」

 

「まあ、そうだよね。ハルヤの須美の溺愛っぷりは凄いし」

 

「納得してくれて嬉しいよ」

 

「そうだハルヤ。須美の小さい頃の話、聞かせてくれよ!アタシ達が出会う前のさ」

 

 恋愛話に飽きたのか、これまた別の話題を銀は放り込んできた。銀と園子は2人合わせて「聞きたいな」なんて言っているが、俺と須美は思わず困り顔を浮かべてしまった。

 

「え?どしたの」

 

 先程までと打って変わり、何も話さなくなってしまった俺と須美に銀は首を傾げた。

 園子は何か思い当たる節でもあるのか「あっ」と銀には聞かれないほどの小さな声を上げて口を押さえた。

 俺はこんな事を言わなければならない申し訳なさに胸が苦しくなった。しかし、こう言う以外に方法は無かったように思えた。

 

「銀。須美の事、友達だと思うなら誕生日くらいは覚えといてあげてな」

 

「え、うん。もちろん覚えてるよ。前聞いたし。4月8日だよね」

 

「それじゃあ俺の誕生日は」

 

「へ?」

 

 更に聞かれた銀は目を点にして、しばらく考え込む。俺も銀が答えを出し渋っている間に、この事は公にして良いのかと言う疑問が今更ながら湧き上がっていた。

 とは言え、大赦の中枢にも属しこうして御役目に選ばれている家系な以上、知っているとばかり思っていた。思い込みというのは怖いものだ。

 

(いや、でも知ってると思ったんだけどなあ……。明らかに須美が神樹館に来たタイミング変だし)

 

 知ってた上で黙っていてくれたのかと思っていたが、そうではなかったらしい。この程度のこと、銀や園子の中では日常の些細な出来事だったのかもしれない。

 

「で、ハルヤの誕生日っていつなん」

 

「4月8日だよ。覚えときな」

 

 銀の問いに俺は捨て台詞のような口調で思わず嘘をついた。しかし、銀は俺が嘘をつくかどうかの鎌をかけたらしかった。

 

「いや、3月8日でしょ。アタシ、ちゃんと覚えてるんだから」

 

「知ってるんかい。それならわかるだろ?そう言うことだ」

 

 今度こそ、そこで話は終わりだと俺は自らの布団に再びくるまった。普通に考えていつか簡単にバレる事だ。それなら今のうちにこうしてカミングアウトをする機会を得れた事は良かったのかもしれない。

 けれど俺の中で少しだけ不安があったのかもしれない。2人が俺たち兄妹を特異なものとして見てしまうようになるのではないかという不安が。

 それから先は気まずい空気が流れ、特に話す事もなくそのまま皆眠りについたのだった。

 

 

 深夜、三人が寝静まったあと、俺は部屋を抜け出して旅館の近くの浜辺に出ていた。見つかれば多分怒られる。

 浜辺は真っ暗で何も見えない。携帯も置いてきてしまったのでライトの代わりになるものもない。

 

「というより、わざと置いてきたんだけど」

 

 俺は手短な場所に座って右腕に意識を集中させた。想像するのは以前夢で見た一本の刀。今まで使っていた剣は量産型の取るに足らないものたち。夢の中で見た剣はそんなものを遥かに凌駕するだけの力があると感じていた。

 実際に作れるかはわからないが、仮に扱えるのなら戦闘をかなり有効に運べる上に、守る上でも有利になるはずだ。

 あんな会話をした後だからか、少しだけ思考に濁りが生じる。それでも工程を進める中で忘れて行き、無の状態でそれを作り上げる。

 

 想像する。その刀の形をーーーーー。

 想像する。その刀に込められた思いをーーーーー。

 想像する。その刀の使い手をーーーーー。

 想像する。その刀の見た景色をーーーーー。

 

 そして遂に手は"それ"を握っていた。

 

「作れた…」

 

 その刀は"いくたち"

 本物には遥か遠く及ばないのでこう明記することにする。中身は全くない、ただのハリボテだ。たとえハリボテでもその力は今までのものとは比べ物にならないのを肌で感じた。

 言ってしまえばこれは神器。人が作ることを許されず、所有することすら認められないもの。

 

(それは良いんだけど、俺の中身もこう……スカスカに見えるのかな)

 

 成功したことの達成感もあるのだが、なんだか作った刀は空虚な自分を表しているようで少し悲しくなった。

 

 

(でも、これで戦いの幅は広がった。何かあっても、皆を護れる)

 

 熱い思いが込み上げ、心中で拳を握る。

 

(それに、今回のことで様々な確証が得ることができた)

 

 俺を()()しているのは神樹そのもの、右腕が概念上『神』というものに上書きされたのだとすれば人の姿のまま神器を扱うことも可能である可能性が高い。

 

「男の身体乗っ取ったって、なんの価値もないだろうが…」

 

 俺は右腕を握りながら神樹に向かって悪態をついた。

 

「勇者システムを使わなくても良くなるってそういうことか」

 

 ようするに全身を強化するなら勇者システムは必須だが、この右腕を使っても結論、勇者システムみたいなものなのだから本質的には同じということか。

 

(けれど、本当にそうなのか?偶然とは言え、俺の勇者システムだけそんなに狂った構造になるか?)

 

 妙な違和感が俺を襲うが、すぐに霧散して消えていく。気がつけば"いくたち"は手の中から消えていた。

 右腕から意識を離すと身体が急に重くなった。

 結構体力を使うらしい。俺はその場で大の字になった。砂で汚れるのがわかっていてもそうせざるを得なかった。とにかく身体が怠い。

 空を見上げると、星が無数に輝いていた。

 

 どれくらい眺めていただろうか。ようやく身体が軽くなってきたその時、人の顔が俺の目に飛び込んできた。

 

「うわっ!?」

 

「うわっ!?って何よ。失礼ね」

 

「なんだ須美か……」

 

「重ね重ね失礼ね」

 

「こっちからすればただのホラーだ」

 

 良い意味で日本人形のように透き通った肌と整った顔立ちをしているのだ。見る人によっては暗闇から現れる須美は少し怖いと感じるのではと思ってしまう。

 俺は「よっこらしょ」と独り言を言いながら立ち上がった。

 

「何してんだこんな時間に。危ないだろ」

 

「自分が何してるか言ってみなさいよ…」

 

「秘密の特訓ってやつだ」

 

「全く…」

 

「そういう須美こそ、なんでここに?」

 

「部屋に兄さんがいなくなってたからよ。しかも、こんな早朝に」

 

 須美はぐいっと俺の目の前に携帯端末を差し出す。時刻は朝の4時を指していた。

 

「…悪い。というかわざわざ探したのか?」

 

「当たり前じゃない。心配にもなるわよ」

 

「…考えが足りなかった…すまん」

 

「反省してるならいいわ」

 

 須美はそういうと難しい表情をした顔を崩した。

 

「兄さんのことだから、浜辺に行ってるんじゃないかと思って」

 

「流石我が妹。これで俺も安心してイネスで迷子になれるってもんよ」

 

「恥ずかしいからやめて」

 

 本当にやめてほしそうなので迷子になるのはやめておこう。未だにインフォメーションセンターのお世話になっていないので、そのうち一度だけ体験しておこうと思っていたんだが、確かに普通に考えたらおかしい。対象年齢はとっくに過ぎている。

 俺の軽口の連続に何か感じ取ったのか、須美はポツリと言葉を溢した。

 

「気にしてる?」

 

「は?何を」

 

「銀からの質問」

 

 俺はこの時、須美がこんな時間に俺を追いかけてきた理由はこれだったのかと合点が言った。先程も混乱して、ふて寝したみたいになってしまったし、須美には嫌な思いをさせてしまったかもしれなかった。

 空を見上げてしばらく考えた後、俺は素直な気持ちを須美に答えた。

 

「どうなんだろ。まあ、いずれバレる事だしね。隠してる方がむしろ不自然だ。良い機会になったんじゃないか?」

 

「それは、そうだけど」

 

「何でも良いよ。俺は須美のお兄ちゃんで須美は頑固で責任感魔神だけど、時折り素直で可愛い妹。それに変わりはないよ」

 

「途中酷くないかしら」

 

「さあね。って、なんか空が明るくなってきたような……」

 

「ほら、もう戻りましょ。そのっちや銀が起きてしまうわ」

 

「りょーかい」

 

 俺は須美の隣に並び、旅館へと戻る。些細な問題など心配いらない。そう言わんばかりに俺たち2人の背を照らし、押すように徐々に空は白み始めていた。

 

「今度イネスのジェラートね」

 

「え」

 

 

 合宿の最終日。軽くオールナイトしてしまったので眠気がすごかったが自分の責任なので我慢することにした。

 今日は予定通り連携の訓練となった。

 俺と銀が前衛。園子が中衛。須美が後衛だ。

 俺は今日だけは勇者システムを使用して訓練に参加することにした。これで置き換わってしまうのなら、それはそれでいいと割り切った。どうせ、バーテックスが来た場合使わざるを得ないのだからそう変わりはない。

 それに、連携の練習をせずに失敗して命の危機に晒すようなことはしたくない。

 

「それじゃあ、始め!」

 

 先生が手を叩いたのと同時に四人は動き出す。

 合宿最後の訓練は先生や1日目に指導してくれた人たちからお墨付きを貰えるくらいの出来だった。

 

 帰りのバスの中。一番後ろの席で三人一緒に眠っている。よっぽど疲れたらしい。

 変なアドレナリンのせいで眠れない俺は暇潰しに三人の寝ている写真を撮っていつか役にたつだろうとフォルダーに入れた。

 

「貴方は眠らなくていいの?」

 

 と通路を一個挟んで隣の席に座っている安芸先生が声をかけてきた。

 

「特に眠いとかないので。多分家帰ったら寝ますけど」

 

「そう。体調には気をつけなさい」

 

 そう言うと安芸先生はくすっと笑った。

 それから俺と先生は目的地に着くまで、なんてことない先生と生徒の会話を続けていた。

 

 

 

 家に帰り、お風呂に入ってから自室のベットに寝転ぶと急激な眠気に襲われる。そのままの眠気に身を任せて俺は深い眠りについた。

 

 

 勇者システムを使った日には決まって夢を見る。

 いつも夢に出てくるあの俺に似た人物は今日もいた。

 結局この人は何者なんだろうと声やかけようとするたびに何かに阻害される。

 空は真っ暗だ。夜だろうか。

 俺は彼に手招きされ、また不思議な場所へと案内された。

 そこには一本の桜の木が堂々と聳え立ち、綺麗に花を咲かせている。

 俺に似た人物はその桜の木を俺と同じように見上げ、不意にこちらを向いた。

 改めて見るとやはり似ている。そう思った。

 そして彼は何やらおもむろに話し出した。

 

「この木は、た……ゆ……な」

 

「は?」

 

 言葉にノイズが走り、全く聞き取れなかった。嫌な音が耳にこびりついて不快感が耳を介して脳を刺激する。

 そんな俺を無視して一方的に話し続ける。

 

「お………は、し……ぬい………と」

 

「おい!」

 

 俺の声は聞こえていないのか話続ける。

 

「きみは………なる。………ま………れ」

 

「だから!」

 

 自分でもわかるくらい声を荒げた。

 そして、彼をつかもうと近づいた瞬間。また、意識が暗転した。

 

 

 

 

 目が覚める。いつもの部屋だ。自分の部屋だと再確認する。

 

「あの桜の木、なんだったんだ…」

 

 とても不思議な感じだった。綺麗ではあったがなんとも言えない雰囲気ではあった。今の俺にそれを言い表すのは不可能に思えた。

 結局あの人は俺に何を伝えたかったのか。全く想像がつかない。

 段々とさっきまで見ていた夢の内容は忘れてきていた。

 ただ、夢の中で見たあの夜桜だけは決して忘れなかった。

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