花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

83 / 94
魂の篝火

 三ノ輪銀は3体のバーテックスによる攻撃を撃退したのを境に勇者の役目を降りた。目に焼きついた鮮血。耳にこびりついた肉が焼ける音。鼻を突き抜ける血の匂い。弾け飛んだ晴哉の左腕の出血を止めるための応急処置で触れた傷口の生々しい手触り。五感の全てが銀の強靭な魂を揺るがせ、遂に熱く燃え盛った魂の篝火を絶やしてしまった。

 園子、須美、晴哉の3人は銀が途中で御役目を降りたことを怒りはしなかった。優しい言葉で受け入れてくれた。そんな3人のことが大好きで、ずっと一緒に。ずっと近くに居たいと心の底から思った。だがしかし、現実は甘くなかった。

 

 10月末。大橋決戦と呼ばれる最後の戦いが発生した。

 銀は樹海化が解けると、周りからの忠告を無視して真っ先にいつもの場所に走り出す。辿り着いた時には既に現場は地獄と化していた。

 

「なんで大赦は嘘をついた!」

 

 動かないはずの身体を激情だけを頼りに動かし、鬼気迫る勢いで晴哉が安芸に掴みかかる。

 

「……」

 

 安芸は無言で晴哉の言葉を受け入れる。銀も止めに入ろうと足を動かそうとしたが、晴哉のその表情に気圧され足が動かない。ただその場で立ち尽くす。

 

「都合が悪かったからですか?こうなることを知っていて!!」

 

「落ち着きなさい!」

 

 怒りに身を任せた晴哉だがその身体は何度も言うが動いているだけでも不思議なほど。それを知っているからか周りの神官が晴哉を抑えようと動き出した。腕を掴まれた晴哉はそれでも抵抗しながら怒りを目の前の安芸にぶつける。

 

「答えてください!園子を!須美をこうすることが!お前らの願ったことか!?だとしたら俺はお前らを一生許さない!今すぐ大赦をつぶしーーー」

 

 無限の星が輝く夜空に晴哉の怒号が響く。だがそれも彼が吐血し、意識を失うまでのこと。それから後はただ救急車のサイレンだけが銀の耳には届いていた。

 大橋決戦の日から銀達はバラバラになった。唯一残ったのは身体中をボロボロにし、日常生活を送るのが精一杯な晴哉のみ。妹の須美を失い、園子を見捨てその居場所を見失った事への後悔。ぶつけどころの無い怒りをただ無様に慟哭する事しか出来なくなった彼の背中を銀はただ見てるだけしか出来なかった。

 

 〜2月4日〜

 無情にも時はすぎ、銀はグラウンドに降り積もった綿雪を掬い上げる。手をするするとこぼれ落ちていく雪は今の銀を何処と無く表しているようであった。

 

「アタシはどうしたいんだろ……」

 

 迷うのも自分らしく無い。そう思うが以前ほど不安無し、考え無しで動けるほど今の銀は身軽ではなくなっていた。消えてしまった炎は未だに元には戻らない。自信という燃料はあの日を境に尽きてしまった。燃料がなければ火は灯らない。道理である。

 

「須美も園子も今頃何をしてるんだろ」

 

 銀は誰かが作った小さな雪だるまに問いかける。もちろん答えはない。銀はその雪だるまに指で笑顔を描くと、皆下校して空になった校舎へと戻っていった。

 6年2組。ここが銀達の教室。夕方のこの時間、本来なら人はいない。だが、1人だけ教室に残った変わり者が1人。銀はこの変わり者を早く教室から連れ出さなければならないのである。でないと先生に怒られるのだ。その為だけに中に戻ってきたのだ。

 

「ハルヤ。そろそろ帰らないと下校時間ギリギリだぞ」

 

「わかってる。あと少し。あと少しでなんとか安芸先生を言いくるめられる理屈を……」

 

「須美と園子の居場所を見つけ出すのは良いけど、人に迷惑をかけるのは違うでしょ」

 

 銀は晴哉の席の前。須美の席だった場所に腰を下ろした。目線をようやく合わせた晴哉だが、その表情は憔悴しきっていた。

 晴哉の手元を覗き込むとそのノートにはびっしりと園子の元に辿り着くための策らしきものが敷き詰められ、一部は真っ黒に塗りつぶされている。それを見て銀は思わず息を呑んだ。

 

「ねえ、ハルヤ。ちゃんと寝てる?」

 

「どうだろ。退院してからはわかんない」

 

「わかんないって。このままだとハルヤ、また入院することになるよ」

 

「なっても良い。とにかく園子だけは大赦にいる事は確実なんだ。後はどうにかして会う方法を……」

 

 全く聞く耳を持たない晴哉。銀は寧ろ友達のためにここまで躍起になる晴哉の方が正しいのではないかとすら思えていた。それに比べて自分は特に何かをするわけでもなく、空虚な日々を過ごしている。

 灯火が消える前までの自分からどうしただろう。そんな事を考えてしまう。

 

「先に帰ってても良いよ。俺なら大丈夫。ちゃんと時間になったら帰るから」

 

「それで『そうなんだ!OK!』って言えない事くらい察してよ」

 

「ははっ、確かにそうだ」

 

 銀は久しぶりに晴哉が笑っているところを見た気がした。

 

「ところでハルヤ。考えながらで良いから答えて欲しいんだけど、ハルヤはもう体調大丈夫なの?神器だっけ。その影響がなんとかって言ってなかった?」

 

「とりあえずは。やっとシャトルランが120まで戻ってきたところ」

 

「しれっと凄いこと言うね。シャトルランの神様もびっくりだね」

 

「なんだよシャトルランの神様って。………神様?それだ!!」

 

 ケラケラと銀の冗談に笑っていたかと思えば、晴哉は突然天啓が降りたかのようにフリーズした。そしておもむろに椅子を倒す勢いで立ち上がったのである。

 

「な、何事!?」

 

「ありがとう銀!なんとかなりそうだ!」

 

「え?あ、うん。どういたしまして?」

 

 置いてけぼりにされ、唐突に感謝の言葉を伝えられた銀は赤べこのように何度も首を縦に振った。

 それから数日後。晴哉はこれまで突き詰めていた表情から解放されていた。きっと園子の居場所を突き止められたからだろう。だが、晴哉が銀に園子の居場所を伝える事はなかった。その理由を銀は少し考えた。その結果でた結論は「言ってしまえば全てが水の泡になるから」と言うものだった。結局、晴哉も大赦の秘密主義には逆らえないのである。

 

〜2月24日〜

 雪が溶け、春の匂いが鼻腔をくすぐり始める時期になった。それでも肌を刺すような寒さの中を掻き分けながら銀と晴哉はイネスのジェラートを食べている。

 

「こんな寒い中食べる必要ある?絶対屋内でよかったじゃん」

 

 歯をガチガチと言わせながら宇治金時味のジェラートを舌の上で転がしながら晴哉は文句を言った。

 

「寒い日に寒いものを食べるのが三ノ輪家の常識でさ」

 

「きっとそんな常識は捨てた方がいい。いつか身体を壊すよ。さっむ!」

 

「寒中水泳とかだよね。これ多分」

 

「平然と食えるの凄いな……。おかしいよ」

 

「そこまで言う?」

 

 銀とて半分くらいは痩せ我慢だ。とは言え晴哉ほど凍えていないのも事実。それには訳があった。

 

「少しだけ私の中にも戻ってきたんだよね」

 

「はい?何が?」

 

 銀の不可解な物言いに晴哉は首をひねる。銀はスプーンを醤油味ジェラートに突き刺して掬うと、あろうことか晴哉のジェラートにねじ込んだ。

 不可解な物言いと行動に晴哉は完全に混乱状態。抹茶味と醤油味という合うはずのない2つの味を何を思ったのか口の中で戦わせ始めた。

 

「まずい……。食えたものじゃない」

 

「どっちが強い?」

 

「醤油味」

 

「くっくっくっ。そう言うこと!」

 

「………………」

 

 呆れきった晴哉はそれ以上は何も聞かなかった。聞いてもわからないと思ったのだろう。銀は勝ち気な笑みを浮かべて醤油味ジェラートを元気よく頬張った。

 『本来の三ノ輪銀』が『今の三ノ輪銀』に打ち勝ち始めた。まさに銀はジェラートでそれを体現して見せたのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

〜2月15日〜

 

 部屋の片隅にゴロンと寝ころびながら、銀はそのメールを何度も見返していた。

 

「以前の勇者育成の任を引き続きしてほしい、ね」

 

 初めて次の勇者を育成する大赦の施設に出向いてから3ヶ月近く。あの数週間だけあの施設に出向いていたのだが、晴哉のリハビリが終わると同時に出向く事は少なくなっていた。

 銀からすればその存在すら忘れかけていた頃である。しかもメールには大赦のその施設に泊まり込みで外部からの情報は遮断。口に出してもいけないとか言う曰くつき。銀はあまり乗り気ではなかった。

 

「……ここに行けばあの時の気持ちを少しでも取り戻せるかな」

 

 勇者として戦っていたあの時の熱い気持ちを。

 しかし、同時にフラッシュバックする光景。気分が悪くなり、口を思わず抑える。近くにあったペットボトルの水を飲むと少しだけ気分が和らいだ。

 

「いつまでもこんなのじゃ、何かあった時ハルヤを助けられない」

 

 いつも1人で密かに何かしている相棒と言っても差し支えのない存在になってしまった晴哉。晴哉はいつかどこかで躓くと銀の感は言っていた。その感を信じて、その時のために銀は今一度強くならないと行けないと焦りに近い感情を抱えている。

 

「行くしかない。取り戻すんだ。自分を……」

 

 決意を固め、銀はメールに返信した。

 

『やります』

 

 たった一言。そこには誰も予想しないほどの熱い思いが込められていた。

 

 大赦から返信が来たのはその2日後。そしてその返信と同時に銀は施設へと誘拐されたのである。

 

「心の準備がまだなんだけど」

 

 神社の石段の前に降ろされ、その石段の向こうに見える境内に目を向けた。

 仮面を被った神官に言っても淡白な言葉が返ってくるだけ。銀はつまらなさそうにしてその石段を一歩ずつ登り始めた。

 

「アタシはメールに書いてあった通りの事をすればいいんですよね」

 

 銀は再度、この新たな御役目について神官に問う。

 

「はい。三ノ輪様にはこの場で改めて勇者の育成に携わっていただきます。基本的には一人一人に勇者としての立ち回りと立ち振る舞いを指南していただければ十分です」

 

「ほとんど前と変わらないですね。了解です。任せておいてください」

 

 銀は振り返って神官に力強く笑いかけた。神官の仮面の奥の表情は見えない。それでも銀は気にしたら負けだとばかりにその後は石段を止まらずに登りきった。するとコツンとつま先に何かがぶつかった。

 

「……なんで木刀?」

 

 登りきったところにある木刀を見て銀は思考が停止した。もちろん訓練用なのはこれまでも見てきたのでわかる。でも何故ここに?と言う疑問符が浮かんでは弾ける。

 次の瞬間、銀は直感で木刀を拾い上げるとその態勢のまま右に振り上げた。すると木刀と木刀がぶつかる音が銀の耳に飛来する。銀は腕に力を込めると振り下ろされた何者かの木刀を押し返した。

 

「な、何するんだ!?……なんだ夏凜か」

 

 突然のことに驚きながら、銀はその相手を見る。三好夏凜は自分の一撃が防がれた事が不満気なのか何か言いたそうに銀に視線を送った。

 

「アタシが来るってわかってたの?」

 

「たまたまそこで鍛錬してたらアンタを見かけたからやりたくなっただけよ」

 

「なんて暴力的なお出迎えだこと。もうしないでくれよ」

 

「もうしないわよ。私はアンタに構ってる暇なんて本当ならないんだから」

 

 突き放すように夏凜は言う。銀もその言葉の鋭さに苦笑いを浮かべる。それでも直ぐに切り替えて、『以前の三ノ輪銀』を演じ始めた。

 

「あ、アタシ一応教官なんですけど。まあいいや。これからどのくらいお世話になるかわからないけど三ノ輪銀!本日付けで着任しました!」

 

 銀は挨拶と共に夏凜に手を差し伸べた。期待と不安。その2つが混ぜ合わさったその手を夏凜は渋々と言った様子で握り返したのだった。

 それから数日、銀は学校が終わるとこの場に足を運んだ。休みの日は朝一番に誰よりも早くこの場に足を運ぼうとしていた。それでも銀より先に必ずいる者もいた。

 

「おはよう楠さん。今日も早いね」

 

「おはようございます三ノ輪さん」

 

 楠芽吹。彼女は勇者選抜が始まってから他の人と比べてみても群を抜いて成績が良かった。銀の彼女の印象は須美よりもバカ真面目。気が強くて負けず嫌いな子と言うものだった。本音を言ってしまえば、初対面の須美よりも銀の中の印象は複雑である。

 今もこうして銀が挨拶をしても会話には発展しない。こちらに意を返さずただひたすらに剣を振る。

 

(……アタシはそれだとダメだと思うから声かけてるんだけどなあ)

 

 ここ数日を見ても、彼女は自分にも他の人にも厳しい。よく言えばストイック。悪く言えば冷たい。そう捉えられてもおかしくは無かった。

 勇者はただ身体的に強くあればいいと言う訳ではない。銀はそれを身をもって感じている。初陣と2戦目。あれは園子と晴哉が居なければチームワーク不足で敗北していたに違いない。仲間を信じる力。仲間を思いやる力が無ければ勇者にはなれない。それが銀が経験の中で感じた事だった。

 何か一つでもきっかけになれば良い。そう思って銀は芽吹に一つ勝負を持ちかけた。

 

「楠さん。アタシと一瞬勝負しよう!」

 

「貴女と勝負して私が何か得られると」

 

「もちろん!アタシはそのためにここにいるんだしね」

 

 銀の挑発的な言い方にぴくりと芽吹は眉を動かす。

 

「ちなみに勝負は1対2だ」

 

 銀の提示した条件に更に芽吹は眉間に皺を寄せた。いくら先代勇者と言えど勝てると思っているのか?と言う顔に銀はしめしめと内心喜びを隠せないでいた。

 

「もう直ぐで多分来るでしょ。とか言ってたら来た来た。おーい!夕海子さーん!」

 

 銀は階段を登ってきた候補生の1人。弥勒夕海子を呼び寄せた。銀は彼女については若干まだ人間性が見えていない所の方が多い。知っているのはアルフレッドと言う名の執事が家にいると言う話。それとこの勇者選抜に名乗りをあげている理由くらいである。

 

「三ノ輪さん。おはようございます。朝から素晴らしいルーティーンを決めてきた私に何か用事がありまして?」

 

 夕海子はそう言いながら大きな所作で長い髪を手で払った。華麗ではあるがなんて無駄な動き。とは口に出せはしない。これでも銀の一つ年上である。

 

「素晴らしいルーティーン!とやらが気になりますけど、それならアップは大丈夫ですね。今から楠さんと夕海子さんでタッグを組んでアタシに一度でも木刀を当ててください」

 

「貴女は良いのですの?怪我する可能性がありますが」

 

「大丈夫です。アタシ、負けませんから」

 

 その自信たっぷりに言う銀に夕海子は頷くと木刀2本を専用の袋から取り出して芽吹の隣に並んだ。

 

「よろしくお願いします芽吹さん。三ノ輪さん、2人で簡単に料理してしまいましょう」

 

「……そうね」

 

 芽吹と夕海子が構えたところで銀も2本の木刀の柄を何度か軽く握る。手に馴染んだところで改めて2人にルールを説明した。

 

「楠さんと夕海子さんはアタシに一度でも2人のどちらかの木刀を当てる事。アタシと2人のどちらかに当てれば勝ちです。今からこの石を投げるから、これが地面に落ちた瞬間スタートです」

 

 銀の説明に2人が頷いたのを確認してから銀は「それでは……」と前置きをした上で石を上に投げた。

 銀は石が落下する間に2人の出方を考えた。構えから見て、芽吹はそのまま今にも突っ込んで来そうな程に愚直。しかし夕海子は恐らく動かない。銀の動きをなるべく見ようとするだろう。

 そう結論付けたと同時に石は地面にぶつかった。銀は次の瞬間、左の木刀を芽吹めがけて投げつけた。同時に銀は芽吹の懐目掛けて低い体勢で入り込む。

 真っ直ぐに突っ込んで来ていた芽吹はそれに対応するために一度立ち止まり、右手の木刀で飛来した木刀を弾いた。銀はそこまで読んでいた。芽吹が気づく頃には右の死角に入り込み、右手に残された木刀を芽吹の横腹に突きつけていた。

 

「………はえ?」

 

 一歩も動かず、一瞬で決着がついてしまっていた夕海子の腑抜けた声で止まっていた時が動き出した。

 

「ふぅ。久々に人を相手にするけど案外やれるものだね」

 

 銀は晴哉直伝の相手の動きを『読む』力で勝利を手に入れた。直感だけで動いていた頃に比べれば相当に成長したとも言える。

 対照的に銀に負けた芽吹は少し放心状態となっていた。それでも徐々に現実が追いついてくると、芽吹は悔し気に唇を噛んだ。

 

「こんなの負けたうちに……」

 

「入るよ。実戦なら楠さん。あなたは死んでる」

 

「!?」

 

「夕海子さんを一度でも見た?」

 

「…………」

 

 銀の問いに答えられない芽吹に答え合わせとばかりに銀は夕海子に問う。

 

「夕海子さん。今、何しようとしてました?」

 

 突然のフリながら夕海子は簡潔にわかりやすく自分がしようとしていた動きを答える。

 

「私は一旦三ノ輪さんの動きを見ようと思ってました。それから2人で畳み掛ければ、と」

 

 それはまさしく銀が予想した通りの動き。相手と仲間の一挙手一投足に注目する。基本でありながら1番難しい技。銀がこれが出来るようになったのはつい最近だった。友人を死の淵に追いやってしまった。この経験が銀の視覚から得られる情報に過敏になっていたのである。

 

「楠さんは夕海子さんの動きを見てればアタシに簡単に勝てたって事。さて、ここで改めて楠さんに質問です。勇者にとって大事なことは何でしょう」

 

 銀の改めての問いに芽吹はしばらく考えた後、ボソッと小さな声で答えた。

 

「……相手の動きを読むこと」

 

「残念!答えは仲間を思いやる事でした!どう?伝わったかな」

 

 銀としてもここまでの指導は初めてだった。それに加えて相手は同い年の子だ。あまり偉そうな態度を取れるはずもなく、言い方も難しくこれで良かったのかと終えてから自問自答していた。

 そんな銀の不安を他所に、芽吹は悔しさのあまりとんでもない事を銀に言ってのけた。

 

「仲間を思いやれるほど、ここは優しい場所ではないのよ。皆が皆ライバル。運で選ばれたあなたとは違う。私たちは実力で選ばれるの。この御役目に」

 

 芽吹はそのまま境内の奥の方へと引っ込んでしまった。言い放たれた銀はポカーンと呆然状態。まさかそんな返しが来るとは思っておらず、思考が追いつかなかった。

 そんな銀を気遣ってか、夕海子が側に来て銀の肩に優しか触れた。

 

「芽吹さんは誰よりも強い思いを持ったらからこそ悔しがってるのだと思います。あまり三ノ輪さんも今のは気にしない方がいいですわ」

 

「は、はい。そうします」

 

「でも、私には貴女の伝えたかった事しっかり伝わりましたわ。少し私も見方が変わりそうです」

 

 夕海子はそう言い残して芽吹の後を追って境内の奥へと入っていった。銀はようやく現実が追いついてくると大胆不敵に微笑んだ。

 

「こりゃ仕込み甲斐がありそうだ」

 

 銀の中の消えていた篝火に、燃え盛る『情熱』と言う燃料が投下される。それは1つ、2つと灯って行き、遂に『三ノ輪銀』と言う存在をこれ以上なく明るく照らし出す。

 新しく再生産された三ノ輪銀は『勇者』としてではなく『導き手』として新たにその熱を宿したのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。