花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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第3話 偶然か、必然か

 四国全土が揺れ動き始めている。大社は反政府勢力、大和維新軍によって1時間あまりで陥落した。大社の拠点であった建物には大和維新軍の旗が翻っている。一般市民は何が起きているのかを把握するのに時間を要した。だが次第にこの事件の概要を把握し出した市民は、野次馬のように大社の拠点へと押しかけ始めたのである。

 そこで大和維新軍は市民の目が自らに注目が集まっているとわかるやいなや、声明を発表した。宗主、乃木園子の命はこの国の向かうべき未来のために犠牲となった、と。

 

「それがここ数時間の概要ですか」

 

 晴信さんの運転する車は大橋の目と鼻の先にまで迫っていた。俺は車内で今大社が把握していることを再度伝えてもらう。大和維新軍の中では既に乃木園子は行方不明という扱いではなく死に至ったという結論でまとまっているらしい。

 

「大社も園子様の行方はいまだに把握していなくて。だから、一概に大和維新軍の主張を嘘とは言えないんだ」

 

「……なるほど。と言うか、今回の大和維新軍の目的ってそもそも何ですか?」

 

「晴哉君も大体は知っているだろう。聞きたいのは今回、奴らの蜂起の目的だよね」

 

「はい」

 

 さすが晴信さん。俺が聞きたいことを的確に当て、話を進めてくれる。

 

「大和維新軍は私たち大社が物資を配給せず、私腹を肥やしていると市民には訴えかけている」

 

「それは事実なんですか?」

 

「そっちは嘘っぱちだ。確かにガソリンなどのエネルギーに関しては流通を規制してる。神樹様の遺骸から取れるエネルギーの研究が進むまでは大量に備蓄してあるものを放出するわけにもいかないから」

 

「だけど食料は……」

 

「あぁ。確かに不満が出るほどには不足してた。配給制を停止した今でも物価の高さは調整できてない。大社側が力不足だったのは事実だ」

 

 その辺りは俺も感じていたが、事情を知っている身として仕方ないと割り切って生きていた。とは言え、何も知らない人たちからすればそう言った批判の声が出るのは理解できる。

 けれどその程度でここまで大きな動きをするだろうか。俺の疑問を感じ取ったのか、晴信さんは無言で頷いた。

 

「実際のところは神樹様という支柱を失った大社に代わるチャンスが出来たからというのが大きいかな。晴哉くん達が命をかけて天の神と戦っていた辺りから、実は彼らは存在はしていたんだ」

 

「案外簡単に政権を奪えるだろうと考えたけど、力を取り戻すのが早かった。園子のおかげで」

 

 ここで全てが繋がった気がした。言うならば、大和維新軍の動きは切羽詰まった果ての愚行であり、同時に園子への八つ当たりにほど近い。

 それを国民のためと大義名分を掲げて実行に移しているというわけだろう。大和維新軍のリーダーが何者かは知らないが、よっぽど相手型の方が自分の権力しか考えていないのではなかろうか。

 奴らの目的を把握し切った所で車は病院へと辿り着いた。

 

「っと、話はここまでだ。晴哉くん。君がどう言った選択をするかはわからない。けれど、今回も1人じゃない。それはわかっていてほしい」

 

 晴信さんの強い意志を感じる眼差しに俺は頷いた。信じるに足る言葉だと、俺は素直に受け入れる。

 

「ありがとうございます。この先も無事で」

 

「もちろん。僕は夏凜を残してこの世は去らないからね。如何なる手段を取っても生き残るさ」

 

 何だかこの人とは同じようなシンパシーを感じつつ、俺は頭を下げて謝意を示すと病院へと駆け込んだ。

 受け付けに飛びつくようにして尋ねると、既に話は伺っていると物凄くスピーディー且つ丁寧な対応で銀の病室へと案内された。

 病室の前まで行くと、かなり厳重に警備が引かれており、屈強な男性陣が控えていた。

 

「鷲尾晴哉です。あの、銀は……」

 

「晴哉様お待ちしてました。どうぞ中へお入りください」

 

 名を名乗るとその屈強で強面な面構えから想像できないくらいの人懐っこい可愛らしい笑みを浮かべた警備の人に俺は思わず面食らいながら、病室の中へと入る。

 病室には銀の両親と安芸先生が銀のベッドを囲むようにして座っていた。銀も何事もなかったかのように俺に右手を振っている。

 

「ハルヤ!良かった無事だったんだ。ハルヤも襲われたって聞いてたから心配で」

 

 決して自分が負傷した事を何とも思っていないようなその表情に、俺は張り詰めていた糸が切れたように身体の力が一気に抜けた。

 

「俺の心配をできるなら大丈夫、だな。良かった……。銀が生きてて……」

 

 銀の横たわるベッドまでヨロヨロと近づき、銀の手を握った時の暖かさに俺は思わず堪え切れなくなった。

 ポツリとポツリとこぼれる涙が銀の手を濡らす。恥も外聞もこの時ばかりは気にならなかった。

 

「ハルヤ、そんなに泣き虫だった?」

 

「知るか……」

 

 揶揄うような声音。俺はそれに照れ臭さも相まってぶっきらぼうに返す。

 

「須美と一緒でハルヤも泣き虫って事だね。それならこうするのが正解かな」

 

 そう言うと銀は俺の頭を優しく撫でる。思いの外気持ちが良くて、須美と園子が求める理由も今ならわかってしまう気がした。

 数秒間はされるがままになっていたのだが、向けられる視線に意識がハッとなる。慌てて銀の手から離れ、俺は銀の家族に恐る恐る視線を向けた。銀は銀でどうしてそんな物足りなさそうな顔をするのか。余計ややこしくなるだろう。

 

「お、お見苦しいものを……」

 

 顔が赤くなってしまったのを感じた俺はそれを隠すために頭を下げた。

 

「良いのよ。晴哉くんが銀のこと、どれだけ大切に思ってくれてるのか見れて良かったわ」

 

 顔を上げると心底嬉しそうな銀の母親が映り、これなら良いかと自分を無理矢理納得させる。お父様だけは複雑そうな顔をしている。ごめんなさいね。俺で。

 俺は2人から意識を再び銀へと戻す。……何であなたはあなたでそんなに顔を赤くしてるのか。それを問うと面倒なことになりそうだったのであえてスルー。

 

「んんっ。銀、怪我の具合は?」

 

「アタシ?アタシは左肩を撃たれたくらい」

 

「撃たれた!?え、じゃあ……何で起きてんの?麻酔は。手術したでしょ」

 

 俺はもしかして怖いものを見ているかもしれないと、銀から距離を取る。

 銀はケラケラと笑うと確かに。と何度も首を振った。

 

「それなんだけど、何故か怪我の治りが異常に早くて。って事でここからバトンタッチ。安芸先生、説明お願いね」

 

 銀はここで説明を放り出した。託された安芸先生はこれまで沈黙を貫いていただけに、存在を少しだけ忘れていた。

 俺は安芸先生に向き直ると説明を求める。

 

「どう言うことなんですか?」

 

「三ノ輪さんにこれを持たせたんです」

 

 そう言って安芸先生が赤く染まった布から取り出したのは原型を留めているのが不思議なほどにヒビ入り、風化した携帯端末だった。

 

「それは……」

 

「これは私が乃木さんから貴方に渡すように託された『神器』です」

 

「『神器』?そのスマホが?」

 

 にわかに信じられない話に思わず食い気味に反応してしまう。何故ならその勇者システムは……。

 

「乃木さんの説明によるとこれは壊れた勇者システムみたいです。誰のものなのか、該当する人物は大赦のどの記録にも残っていませんでしたが……」

 

 そうは言っているが安芸先生は本当にこのスマホ…勇者システムを所持していたのか誰なのか知っているように見えた。ただ、今それをここで指摘すると話が脱線するので今はグッと堪える。

 

「でも。今の話だと何も繋がりがないですよね。これがどうして……」

 

「私にもわかりません。そうしろと言われたような気がして、救急車を待つ間布を三ノ輪さんの傷口に押し当てながら、この勇者システムを握らせたんです。そしたら傷が塞がっていって……」

 

 なんて馬鹿げた話だと鼻で笑われることだろう。だけど俺には、その理由がわかってしまった。

 その勇者システムは『時量師神が不知火幸斗に託した勇者システム』だ。要するに出典はまさかの俺……。今もそれが動くのだとすれば俺が無意識に銀の傷が回復を望んだとするならば、命を救うための神器を使っていてもおかしくない。

 

「なんてご都合のいい話」

 

「何がですか?」

 

「いえ。何も。あの、それ俺に預けてもらってもいいですか?」

 

 皆に説明するのも本当にややこしくなりそうなので、ここは一度話は置いておくことにした。

 首を傾げながらも安芸先生はその勇者システムを差し出してくれる。俺はそれを手に取ると目を瞑った。

 

(やっぱり……。変な因果だ。こうして手元に戻ってくるなんて)

 

 偶然なのか。はたまた必然なのか。これが今まで残っていること自体が奇跡にほど近いとすら言えよう。

 感慨深い気持ちになりながらも、時の流れを使用したログを読み解いていく。この端末では数時間前の一度と300年前の一振りの剣と天叢雲剣が最後となっていた。

 

(と言うか動くのかこいつ……)

 

 俄かに信じがたい事に俺が電源ボタンに触れると、勇者システムは砂嵐を起こしながらも正常に機能した。

 その光景を見ていた安芸先生と銀の両親は目を剥いた。銀は「やっぱりね」と納得しているようだった。

 

(園子はこれを俺に託してどうするつもり……。いや、きっと俺の答えなんて彼女の先見の明の前ではわかりきってたんだろうな)

 

 園子がどんな思いと考えをもちながらこれを託したのかを想像すると思わず笑みが溢れた。

 俺は改めて安芸先生へと向き直り、誰でもない。自分の意思でこの戦いへと足を踏み入れることを決めた。

 

「安芸先生」

 

「なんですか?いえ。聞くまでもないですね……。本当に良いんですか。貴方はそれを嫌うと思っていましたが」

 

「もちろん嫌です。人の命を奪うのは。けれど、安芸先生が襲われた。銀が傷つけられた。俺は大和維新軍を許せない」

 

 俺の中で湧き上がる大和維新軍への怒り。大社と園子にあらぬ疑いをかけ、自らの欲望のためだけに他者へと暴力を振るった。そんな連中に容赦は要らないだろう。

 

「鷲尾くんは……変に優しすぎます」

 

「そうですか?」

 

「ですが、その優しさは本当の優しさであるから一度考え直してみてほしいと思います。……今回もそうですが、様々なことを今まで押し付けてきた私が偉そうに言えたものではありませんが……」

 

 自分の生き方を恥じているのか、俺とは一向に目を合わせようとしない。それが俺の胸には酷く苦しかった。加えて、安芸先生はもう俺が止まらないだろうと察し、もう一つ園子から預かっていたと言う御役目を俺に与えた。

 

「鷲尾晴哉様。貴方を【鏑矢】に任命します。これから先はこの事態の鎮圧が計られるまで、大社の遊撃部隊として敵と戦っていただきます」

 

 勇者の御役目に引き続き、任命された正式な御役目。いつか大赦の文献で読んだことがある。確か赤嶺家が同じような事態に陥った時に任命された役職だったはずだ。赤嶺家はこの御役目を完遂させ、その名声を広めたとされている。まるで状況が酷似しているだけに、焼き直しではあるが相当重要な御役目だと言う意味を含んでいるように思えた。

 俺は安芸先生に頭を下げてその任を受ける。

 

「かしこまりました。鷲尾晴哉。乃木園子の矛と盾として、その御役目引き受けます」

 

 こうして俺は【鏑矢】の御役目に就くこととなった。銀とはしばらく会えなくなると覚悟し、必ず無事である事を約束してから俺は病室を出た。

 そして最初の役目を俺は大社臨時政府から引き受けることとなる。連絡は晴信さんから受けた。

 

「晴哉くん。君がこれからすることはただ一つ。乃木園子の発見。救出だ。大社は警察を各地に配置して警備を固める事しかまだ出来ていない。遊撃部隊である君だけが頼りだ」

 

「了解です。何とかやってみます」

 

 自分を奮い立たせる言葉を唱えながら通話を切り、俺は前を向く。そして託された時量師神の勇者システムを起動させた。

 相変わらず装いは地味で派手さのかけらもない。取るに足らぬ花のしかも残滓。それでも十分すぎるほどに体には力が満ちた。

 

(守り人として皆を守っていたと思えば次は守るために人を攻撃する鏑矢、か。何が起こるかわかんないな。人生って)

 

 怒りを原動力に引き受けたとは言え、やはり傷つける事にはほろ苦い感情が混ざり合う。だが、今はそれを無視しなくてはいけない程に状況は切迫している。

 園子の救出は絶対条件だ。それに俺は何度も園子に誓った。今度こそは園子を助けると。見つけさえすれば必ず助ける。見つからなくても気合いと根性で見つけ出す。だからーーーーー。

 

「園子。無事でいてくれよ」

 

 俺は再び曇天に見舞われる空を見上げて呟き、大橋市から丸亀城を目掛けて地面を蹴ったのだった。

 




今回も読んでいただきありがとうございます。

第3幕の最終話にてひなたが回収した勇者システムをここで登場させてみましたがどうでしたか?繋がりを感じてくれれば嬉しい限りです。

さて、今後も加筆修正していくと思いますがその時はお知らせします!
今はとにかく投稿頻度を上げたいので思いつきを形にしてます。そのため不備があるとは思いますが、温かい目で見守ってください!
これからもよろしくお願いします!
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