花を咲かせ、未来に繋ぐ [加筆修正中]   作:まんじゅう卍

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【特異点】反鏡の章
第1話 2人なら


 神世紀298年秋。大橋跡地で起きたバーテックスとの最大規模の戦闘。その戦闘に身を投じた鷲尾須美。乃木園子。そして鷲尾晴哉。この3人は見事バーテックスを撃退したものの、鷲尾須美と乃木園子は複数の満開により視力と足の機能。その他を喪失したものの、鷲尾須美、乃木園子共に記憶だけは残った。

 鷲尾晴哉は足が動かなくなった須美を園子に預け、単身24体のバーテックスへと攻撃を行った。勇猛果敢な奮戦により、撃退することが出来たものの、彼は度重なる神器の使用により深い眠りについた。

 

〜神世紀299年春〜

 勇者の役目が終わってから数ヶ月。世界は滅亡への時計の針を刻一刻と緩やかに。されど確実に進めている。

 満開を繰り返し、現人神に近づいた2人の少女。大赦にて崇め奉られ、鳥籠のような場所に閉じ込められた。そんな2人は不自由な生活を強いられて──。

 

「ねぇ、わっし〜。今から何しよっか〜」

 

「そうね。天正カルタなんてどう?」

 

「トランプ!良いね〜。神官さんも呼んで付き合ってもらおうよ〜」

 

「そうしましょう」

 

 いなかった。

 須美が首からかけているホイッスルを吹けば凄まじい速度でやってくる神官。須美はここに来てから数日でこの神官達を自らの扱いやすいようにしてしまっていた。

 

「私たち天正カルタやりたいの」

 

「かしこまりました」

 

 一度恭しく礼をしてからトランプを取りに立ち去る神官2人組。去り際、ヒソヒソと「なんだ天正カルタって」「初めて聞いた」とやり取りをしていたのを須美は聞き逃さなかった。

 

「全く。その言葉程度も知らないなんて、大赦も終わりが近いわね」

 

「最近、わっしー大赦の人達に当たり強くない〜?」

 

「当然よ。満開のことを隠して更に兄さんの消息まで隠して。私だって気は立つわ」

 

「確かにハルスケは心配だよ〜。ハルスケ、大丈夫かな……。生きてるよね」

 

「それすらもわからないのが歯痒いわよね。それに銀もどうしてるのかしら」

 

 戦闘が終わり、目を覚ませばこの空間にいた2人にとって家族と親友の消息は何よりも知りたい情報だった。

 しかし、大赦は2人に何も伝える気がないのか聞いてもはぐらかすばかりだった。

 

「私はこうしてわっしーが居てくれるから寂しくないけど、みのさんは……」

 

「1人になっちゃった、わね」

 

「私たち、忘れ去られてないよね〜」

 

「そ、そんなこと銀に限ってあるわけないわ!」

 

 園子が不安そうに須美を見つめるものだから、須美も思わず声を荒げて否定してしまった。言ってから須美はスッと口元を押さえた。

 

「うぅっ。みのさんに会いたいな〜」

 

「それは私もよ……。兄さんも今頃、何処で何をしてるのかしら……」

 

 不自由はない。しかし、銀と晴哉に会えない。その寂しさは2人の間で不満として日に日に蓄積しつつあった。

 小さくため息をついたところで入り口付近に気配を感じ、須美はそちらに目を向けた。そこにはトランプを金塊を持つかのように丁重に扱う神官の姿があり、須美は思わず苦笑いした。

 

「乃木様。鷲尾様。お持ちしました」

 

「あら。いつの間に。ありがとう。ところでさっきの話は聞いてた?」

 

「………はい。申し訳ありません」

 

「謝らなくて良いから銀と兄さんに合わせて」

 

「それは無理なお願いにございます」

 

 会話の流れで行けるかな?と思って試したが結果は無意味。

 須美に代わって園子が次は無理難題を言ってみる。

 

「それなら今日の夜は満漢全席が食べてみたいな〜」

 

「かしこまりました」

 

 園子の願いは受け入れられ、今夜の夕食は満漢全席と合いなった。

 

「どうしてそれは出来るのに、もっと簡単な事が出来ないのよ……」

 

「そうだね〜。前もわっしーが無理難題を言って本当にやりだしたし〜」

 

「切腹の作法を覚えて実践してって言って本当にやる人達だとは思わなかったのだもの」

 

「冗談ってものが通じなさそうだよね〜。満漢全席の工程、半分終わったあたりでやっぱり要らない〜って言ったらどうなるかな」

 

「案外そのっち意地悪ね」

 

「正直、満漢全席食べるくらいなら焼き鳥食べたいんよ〜」

 

「それなら一回それやってみましょう」

 

 須美の悪戯心にも火がつき、園子の案に乗ることに。思いの外、やりたい放題の2人である。

 

「スタッフが美味しくいただきました〜ってなるのかな」

 

「満腹になって弾け飛べば良いわ」

 

「やっぱりわっしー最近怖いよ〜」

 

 緩やかに。されど確実に進み行く滅亡へのカウントダウン。それを知らず、須美と園子はたった2人の世界だけで幸せな時間を築いていくのだった。

 

 

〜神世紀299年夏〜

 

「みのさんとハルスケに会わせて。せめてお手紙だけでも」

 

「無理です」

 

「戦艦長門を見たい」

 

「かしこまりました」

 

「………何処からこんなもの用意してきたのよ」

 

「無駄な労力だ〜」

 

 こんな事を繰り返し続け、決戦からはや半年。未だに園子と須美の本当の願いは叶えられていない。

 

「はぁ……。足が動けばこんなの」

 

「仕方ないよ〜。むしろこの程度で済んでるのが奇跡くらいだよ〜」

 

「結局、私たちの中で1番自らを犠牲にしたのは兄さんだったわね……。そのっち、兄さんの姿いつまで見てた?」

 

「16体目のバーテックスを倒した辺りまで、かな」

 

「神器って使用に制限は無いのかしら」

 

「身体に凄い負荷かかっていたと思うよ〜?今にも内側から弾け飛びそうって言ってたし……」

 

「それを知った上で兄さんは」

 

 須美は自分の兄の最後の姿を瞼の裏に映す。精霊のおかげで外傷はない。だと言うのに、傷付き痛みを堪えながら笑顔を見せ続けていた。

 園子も須美お同じようにしていたのか、当時の自分の判断を憂いた。

 

「止めなかった私の……ううん。止めることをしなかった私の責任でもあるよ」

 

「でも、止めてたら世界は滅亡してた。一体、何が正解だったのか全くわからないわ」

 

 思い返してみても須美と園子は選択肢を一つ。また一つとあの戦闘では潰されていた。そこに一つの打開策があるとしたら鷲尾晴哉の存在以外になく、最悪の一手であったにせよ仕方ないと首を横に振って自らを誤魔化す以外に事の結末を納得させる方法を持ち合わせていなかった。

 

「この選択をいつか後悔する日が来るのかしら」

 

「わっしーは後悔してる?」

 

「私は、まだわからないわ」

 

「一緒だね〜。私も」

 

 2人顔を見合わせてクスッと笑った。1人では無いだけ自分達には救いがある。切実にそれを2人は感じたのだった。けれど、他の2人はどうなのか。

 

「みのさんは何してるかな〜。勝手に予想してみようよ〜」

 

「私たちの居場所、探してたりするのかしら」

 

「うーん。それを想像するのはつまらないから私とわっしーの存在を忘れたって言う体での日常生活を予想してみよう〜」

 

「やっぱり家族と過ごしてるとか?」

 

「『HiHi!マイブラザー!朝だぜベイベー!』とか言ってお布団剥いでそう〜。それで一緒に寝てそう〜」

 

「寝るんかい。い、今の銀の真似?」

 

「そう〜。似てない〜?」

 

「そのっちの中の銀はそんな感じなのね。間違ってもいないのがなんとも」

 

「わっしーは?」

 

 園子は視線だけを須美に送る。須美はいざ答えようとすると、何故か言葉に困ってしまった。

 

「………私は、ごめんなさい。そう言う想像出来るほど頭、柔らかくないみたい」

 

「ふふっ。わっしーは忘れられたくないんだ」

 

「そうみたい。……会いたいね。そのっち」

 

「だね〜。みのさんにも。ハルスケにも」

 

 会いたい。ただそれだけが2人の願い。でも、叶えられない願い。

 

「会えるのかな。いつか」

 

「いつかは会えるよ。絶対に」

 

 出会うその時まで、きっと耐えられる。2人なら。

 

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