機動戦士ガンダム 羽虫兵士の四ヶ月戦争   作:神谷主水

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第1話からの登場人物

ジーン・パチョレック
 主人公。28歳。サイド3・24バンチ「タイガーバウム」出身。北米ジオン軍第01偵察小隊所属。家族の暮らしのため、結婚したばかりの妻のため奮闘しようと軍隊に入るも、鳴かず飛ばずの毎日でやさぐれている。階級は伍長
 ワッパでパトロール。

ヤジロウ・M・アマヤ
 25歳。サイド3出身。第01偵察小隊長。入隊理由が「一番金払いがよさそう」というだけの生真面目野郎。階級は曹長。
 本格的な登場は2話から。

マツオカとヤスダ
 第01小隊所属の二等兵。両方20歳。

第1話だけの登場人物

マネー
 35歳。オーシャンサイド基地警務部所属。暇すぎるのかおおらかではあるが、侵入者が来たときは人が変わるとかなんとか……。階級は少尉。


それは失意で始まった

 宇宙世紀0079年1月3日、サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し突如宣戦布告。一週間の間に三つのサイドが崩壊、サイド2のコロニー1基がオーストラリア大陸に落着した事件を含め、全人口110億のうち実に55億人の命が失われた。

 悲惨な事態から始まったこの一年戦争。ルウム戦役もジオンにとっての形成好転には繋がらず、3月1日、東欧旧ウクライナの港湾都市オデッサの落城を契機として地球侵攻作戦が開始。なによりも当時人型汎用機械「MS(モビルスーツ)」に対抗する術がなかった(・・・・)地球連邦軍は各地で壊走。6月時点までに地球上の半数以上を制圧し、地上をホームグラウンドとする連邦軍の度肝を抜いた。

 

 しかし所詮はその程度。地球におけるジオン軍の補給線は侵攻範囲に対し伸びきっていた。6月から一ヶ月間行われたインド亜大陸侵攻作戦「赤」作戦失敗を契機とした連邦軍の猛反撃により、今まではMSに遠く及ばなかったとされた61式戦車や戦闘爆撃機フライマンタなどが工夫次第でMSに通用すると判明。侵攻速度が鈍ったどころか、7月には旧メキシコ南部が取り返され、8月はオデッサのジオン軍がヨーロッパの大半の制圧を完了したが、一部の連邦軍が史上二度目のダンケルクを敢行。さらに9月現在、ハワイ基地に連邦の海・空軍が殺到し、陥落も時間の問題であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙世紀0079年09月15日 北アメリカ大陸旧カリフォルニア州森林地帯

 

 さて舞台は旧アメリカ合衆国地域に移る。少なくともキャリフォルニアベース周辺ではいまだジオン軍の勢力が根強く、北米の連邦軍の大半はゲリラ活動がやっとという有様。旧ジョージア州オーガスタ基地を除きまともな武器が残っているはずもなく、携行火器の類によるささやかな抵抗が続いている。

 そんな連邦軍ゲリラ部隊のアジト特定に向け、北米ジオン軍の第二機動師団付第711哨戒中隊に属する第01偵察小隊の皆さんが、夜陰に紛れて今日も元気にホバーバイク・ワッパを飛ばしてパトロールしていく。

 うち2人が敵部隊を発見。知らせを聞き急行した1人は森林にうまく紛れる場所にワッパを止め前進。するとその景観を保護色としたテントがあったではないか。

 

 「しっかしかったりぃなー。あいつら少しは休むってこと知らねぇのかな」

 

 そのアジトと思しき場所についた第一声がこれである。先の戦況が半年も続けば緊張感を失うのも無理はない。

 愚痴を吐いた男――ジーン・パチョレック伍長(愛称パッキー)は入隊から五年間、ずっと緊張感どころか使命感を喪失したままだ。地球降下以後も活躍の機会がなければ、家族のためにマイホームを奮発した意味などまったくない。先月で28歳になるパッキーだけでなく、分隊や中隊全体が厭戦機運の塊であるので仕方がないところ。

 あたりを見回すと、すでにワッパが2台置かれていた。一足先に着いていた二等兵の襟章を付けた若者2人が駆けつける。

 

 「パッキーさん、見ときましたよ」

 「おう、来たかい」

 

 額に三日月傷の童顔、マツオカ二等兵の手には赤外線暗視スコープがある。これを取り上げて念入りにテント周辺を確認。向こうには軍用車両がいくつか。また歩哨だろうか、小銃を持ってうろついている野戦服も見えた。

 

 「あと裏側も見たんですけど、例の74式巡航戦車、そうビーム砲戦車も2両ありました。とんでもないもの作ったもんですねあいつら」

 

 マツオカの相棒である、小柄のヤスダ二等兵がそういうので、

 

 「巡航戦車?よし、連れて行ってくれ」

 

 3人は歩哨に見つからないよう、時に匍匐(ほふく)、時に小走り。巡航戦車があるという裏側まで急行。再びスコープで視認を始める。

 外見は主力戦車である61式戦車と酷似しているが、その61式とは異なり機動力の方は最悪。図体が大きいだけの的であろうと目される。しかし低出力とはいえビームを発射できる。ザク程度の装甲ではまともに当たったらひとたまりもない。

 ゲリラとはいえ、まだこんな戦力を隠していたのか……。額に冷たいものがじんわりと浮かんできた。

 

 「ありがとさん。すぐワッパまで戻ろう」

 

 3人共急いでワッパの位置まで戻り、パッキーは腕時計を確認する。現在午前2時7分。

 その後気だるげに持ち寄りの通信機を開くと、通信機の向こうに情報を伝えるため通話機能をオンにする。

 

 「えーこちら《クロウ1》。はい、特定終わりましたので報告を開始いたします。テントにて特技兵含む歩兵36名および戦車人員6名、えーワッパ停止位置より南西3キロ先において休憩中の模様。うち2名歩哨あり。発見時刻0207時、次の指示を待つ。車両M72トラック9台、ホバートラック1両、巡航戦車2両。小銃多数、AMSM(対MS重誘導弾)発射機6。以上」

 

 言い終わって1分後、多少のノイズとともに声が聞こえた。オーシャンサイド基地の中隊通信士だ。少々声が低い。

 

 『了解。索敵任務終了と判断、直ちに帰投してください』

 「はーい、周囲の警戒を厳にして直帰します。……帰るぞ、かったりぃ」

 「「了解」」

 

 これでパッキー達の今日の任務は終わり。哀れゲリラ部隊は、この後すぐに基地から派遣されるマゼラアタックに轢かれ、あるいはザクによって蹂躙されることであろう。

 自分はジオンでよかった。そう安堵のため息をつき、ワッパは地を這いながら去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 オーシャンサイド基地

 

 帰投は午前4時台。夜勤だったこともあり、すでにクタクタであった。

 

 「おおパッキー、お疲れちゃん!お手柄だったねぇ」

 

 出迎えたのは、当直をやっている基地警務部のマネー少尉だ。警務部にしてはおおらかな性格で評判とのこと。

 当然ながら暇で暇で仕方ない哨戒中隊は、夜勤以外ほぼ全員がぐっすり就寝しているため、まともに起きているのが警務部ばかりとなる。

 いつもなら駆り出されまくる嫌味の一つでも言いたいところだが、そんな度胸も気力もすでに尽きており、

 

 「ああマネーさん、ヤスダとマツオカに言ってやってくださいよ。おやすみ……」

 

 と言いながら自分の部屋に直行するので精いっぱい。一瞬拍子抜けしたマネー少尉であったが、気を取り直したのも一瞬のことであった。

 

 「お、おう。お休み……。マツオカ君達もよく帰ってきてくれたな!しっかり休めよ」

 

 

 

 パッキーが起きたのは午前5時半。軍隊はきっちり7時間睡眠、と平時であれば言えなくもない。しかし現在は戦時中。しかも夜勤パトロールともなると午前8時の引継ぎが終わらないとぐっすり就寝などありえない。ということで約1時間半の仮眠ということになる。その仮眠にしても30分が妥当な時間であるが、気を抜いて寝ていたため、思わず3倍の時間を取ってしまったようだ。

 目を開けると、額の三日月傷が今にもキスしそうな距離に見えた。

 

 「お、おはようございます……?」

 

 当然内心では驚いているが、その表情を見せる間もなくまじまじと見つめる。

 

 「う……」

 「う?」

 「うわぁぁぁー!!!」

 

 ここが軍事基地でなければ、羞恥心から今すぐにでも飛び降りて逃げ去りたいと思うパッキーであった。

 

 

 

 「いやだなぁパッキーさん。あと30分でみんな起きるから、その前に起こそうと思っただけですよぉ」

 「いやだからさ、いきなりその顔が来たら誰だって叫びたくなるってのよまったく……」

 

 午前6時。通常勤務の人員は皆起床する時間。夜勤は何をするかというと、2人のように機体整備を行う者もいれば、引継ぎ用の書類作成であったり、この基地ならではのライフスタイルだとトランプに興じたりする馬鹿者もいるのだとか。

 

 「しかしヤスダはこの時間でも整備終えてトレーニングですよ。いいなあ体力のある奴は」

 「そうは言うけどよ、ここにいる時点で体力自体はあると思うぜ」

 「そりゃあそうですけどね。まあでもパッキーさんは寝すぎた分整備に時間とられるんですけどね」

 「そらそうよ。はぁ……」

 

 ワッパのプロペラント部分に異物が挟まっていないか、機銃にも混入していないか、そもそも各部に錆がないか等々。確認作業は多い。

 さらに後ろを見回してみると、掃討作戦が意外にも早く終わったのか、ザクやマゼラアタックの整備に追われている戦闘部隊連中がいた。パッキー達が偵察するたびに駆り出されるのだから、最早恨みを通り越して諦観の境地である。

 

 午前8時。ヤスダ・マツオカ両二等兵を伴い第01偵察小隊長室に出頭し、状況説明や引継ぎなどを行う。

 小隊長はパッキーより3歳年下の日系スペースノイド――ヤジロウ・M(モーゼス)・アマヤ曹長。生真面目だけが取り柄の男だ。

 

 「……ということで後お願いします」

 「はい、お疲れさまでした。3人共今日はゆっくりお休みなさい」

 

 ごくごく簡素な事務的会話を持ってパッキーの夜勤は終了した。ちなみにだが例のゲリラ部隊は壊滅。74式巡航戦車は念入りに吹き飛ばされ、把握している限り敵人員のほとんどは戦死したという。

 パッキーのこの怠惰的勤務態度が改まるのは、いったいいつのことであろうか。




登場兵器
PVN.4/3 ワッパ(初出:ガンダム14話「時間よ、とまれ」)
第01偵察小隊などの哨戒・パトロール部隊に配備されているホバーバイク。前後のプロペラント・ローターで浮遊・飛行する。武器は機関銃のみだが、非常に小型であるので狭い場所でもスイスイ行ける。

PVN.42/4 マゼラアタック(初出:ガンダム序盤)
ジオン公国軍地上部隊の主力戦車もどき。主砲である175mm砲部分の航空機マゼラ・トップと、35mm三連装バルカン砲を搭載したマゼラ・ベースとに分離できる。命中率はお察し。

MS-06J ザクⅡJ型(初出:ガンダム序盤)
ジオン公国軍主力MSザクの地上用兵装型。後に出てくるバリエーションの半分はJ型から派生。

M72 1/2tトラック ラコタ(初出:MS IGLOO2 重力戦線)
地球連邦軍の高機動汎用四輪駆動。歩兵の脚として愛用されている。4人乗り。

M74-A4 74式巡航戦車(初出:ゲームブック「灼熱の追撃」)
地球連邦軍の長距離偵察用巡航戦車。対MS用ロケットランチャーとビーム砲2門を搭載するなど強力だが、機動性はワースト。もはや粗大ゴミ。

M353A4 ホバートラック(初出:第08MS小隊)
地球連邦軍のホバートラックというより軽装甲車。MS運用の補助として索敵や早期警戒などをこなすが、ゲリラ部隊ではこれも主力になりうる。武器はターレットの20㎜ガトリング砲のみだが、あらゆる環境に対応できるホバーユニット、予備人員などを積載できる後部など充実。

M-101A3 リジーナ(初出:MS IGLOO2 重力戦線)
対MS重誘導弾(AMSM アンチ・モビルスーツ・ミサイル)。3名くらいの部隊で1基の発射機を運用する。それを複数でMSを待ち伏せし、関節部やコクピットなど装甲が弱い部分を集中して狙い撃ちする戦法がある。
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