機動戦士ガンダム 羽虫兵士の四ヶ月戦争   作:神谷主水

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第2話からの登場人物

サンチェ
 サイド3出身。23歳。第01偵察小隊所属。23歳にしては老け顔で寡黙なタイプ。北米降下時にザクⅠを撃墜され半ば左遷の形で転属、捲土重来の機を狙う。階級は上等兵。
現状の乗機は当然ワッパ。

アルマ・シュティルナー
 「バトルオペレーション Code Fairy」に登場する、後に「ノイジー・フェアリー」に転属するMSパイロット。明るい頑張り屋だが、今作では調子を狂わされ続けている。転属前の最後の研修先がよりにもよって第01偵察小隊であるのが後の不幸の始まり。階級は少尉。
(今作オリジナル設定あり)


埃まみれのモビルスーツ

 宇宙世紀0079年9月18日、現状地球連邦軍唯一の宇宙基地ルナツー近辺のサイド7にて軍事史を揺るがす大事件が発生した。MS同士の格闘戦が行われたのだ。

 ゲリラ部隊掃討の帰路にあったシャア・アズナブル少佐のムサイ級軽巡洋艦「ファルメル」が、とある偶然から連邦軍のMS開発計画「RX計画」の成果物であるMSの回収のためサイド7に入港するところを発見。一時の手柄欲しさに部下3名を派遣してMS開発の内情を探らせた。その途中で何をトチ狂ったか部下のジーン軍曹が暴発。組み立て途中の「RX-77 ガンキャノン」や「RX-75 ガンタンク」のほとんどの破壊には成功したものの、民間人アムロ・レイが最後の1機「RX-78-2 ガンダム」を起動させてしまう。そして性能差にものを言わせてザクⅡ2機がビームサーベルによって破壊されてしまった。

 

 まあそんなことが北米に知れ渡るのはもう数日後のことではあるが、別に連中を驚かせた出来事がある。

 同日午前5時27分47秒。北京基地および二ホンのジオン軍、極東方面の連邦陸軍に対し降伏――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙世紀0079年9月19日 オーシャンサイド基地

 

 このオーシャンサイド基地は、地球連邦軍が旧米軍海兵隊基地を居抜きで使用した基地である。ジオン軍の北米降下時、3月17日に占拠され、キャリフォルニアベースの最後の砦として数々の部隊が駐屯している。

 その基地にいる部隊のうち、表向き哨戒・偵察任務に特化した第711哨戒中隊第01偵察小隊でのこと。

 

 「なんだね小隊長さん、その娘は?」

 

 小隊長室に呼ばれたパッキーは、アマヤ小隊長の隣にいる女性を指さして開口一番そう問うた。こんな赤毛の女の子この基地にいたか?――と。

 アマヤがさっきから額に手を当てて抱え込んでいることには気が付いていなさそうだ。

 

 「一応上官なんですけど……。パッキーさん、この方はキャリフォルニアベース経由でグラナダから研修に来てる新任士官の方です」

 「新任……ねぇ」

 「あ、アルマ・シュティルナー少尉ですッ!」

 

 明らかに緊張している。男2人して少し笑いかけてしまった。

 ちなみに旧アリゾナ州ユマでの新兵器テストをもって研修自体は終了している。本日が本配属前の実地体験といったところか。 

 

 「はい、そこの曹長さんから聞いたと思うけどジーン・パチョレック伍長。パチョレックだからパッキーね」

 

 中隊長や一部士官を除いてタメ口なところがまた出たので、アマヤがまた頭を抱えた。

 彼女の制服をよく見ると、胸のあたりの階級を表す翼模様に線がない。これは少尉階級であることを証明するものである。マントがないし、あと野戦服のようだから勘違いするところであった。

 しかしパッキーは忘れているようだが、目の前の少尉は16・7の女性である。胸なり首なりをじろじろ見られたら、それは赤面して手をブンブン振りながら拒否反応を示す。

 

 「あ、あわわっ!」

 「ああいや、ほんとに少尉さんなんだなぁと思って。こいつは失礼つかまつった」

 

 しかし平然と敬礼して心にもないお詫びをしてみせるこの男もこの男。明らかにこのお転婆を楽しんでいる。小隊長はため息をついた。

 

 「はぁ、相変わらずですねパッキーさんは……。そういえば、今日第2分隊はカリフォルニアの下の上(バハ・カリフォルニア・ノスト)との境までパトロールでしたね」

 「そうだよ。それがどうかしたの?……あーね」

 

 最初こそ首を傾げたが、すぐ得心がいったのか縦に振って頷いた。

 了解した、ということだ。

 

 「はい、アルマ少尉を伴ったパトロールとなります。予備のワッパなんかあるわけないので、その辺は工夫してください」

 

 

 「あのぉ、パッキーさん、って呼んでいいんでしたっけ」

 

 マツオカ達を伴って格納倉庫に行く途中、ノーマルスーツに着替え終わったアルマがまだ他人行儀で話しかけてくる。緊張が解けていないようだ。

 正直上司としても下の立場としても女性軍人と接する機会の少ない12歳年上の伍長さん。少しだけ考えるそぶりを見せて

 

 「うーん、そう呼びたいんならいいんじゃない?」

 

とだけ言うのが精いっぱいだった。

 

 「それじゃ改めてよろしくお願いします!」

 

 しかしアルマにとってはそれでいいらしく、すぐに笑顔で敬礼してみせた。すでに心が荒み切った彼にとって、その笑顔は眩しすぎたようで、しばらく固まっていたところをマツオカ達に笑われた。歩く道々では、怠け者パッキーを知っている者達は意外そうに眺めているばかりであった。

 

 

 「それでどうするんですか?予備ないんでしょ」

 

 ヤスダ二等兵が尋ねたのは、「この研修生まさかアンタが載せるの?」という内意に相違ない。

 しかしパッキーは即答した。

 

 「俺のワッパに載せるしかないでしょ。ってかボヤボヤすんなよ」

 『はぁ!?』

 

 第2分隊メンバーはともかく、アルマもこれには驚きまた頬を赤らめる。しかし暴君パッキーはお構いなしだ。

 

 「ハイハイ、少尉ちゃんは俺の席の後ろにしがみついてりゃいいんだから。とっとと座れやぁ!」

 「は、はいぃぃぃッ!?」

 

 こうして無理矢理ワッパの座席後部にしがみつくことを余儀なくされた彼女を他所に、他の隊員はシートベルトを締めて発信準備を終えている。

 最後にパッキーが座り込み、両手が巻き付いている背もたれを空けてシートベルトを締める。最後に彼女の方を見てサムズアップするだけで、プロペラント・ローターを起動させる。ローターからは下の泣くような起動音が聞こえる。

 

 「よし全12機発進!」

 「ひゃぁー!!」

 

 こうして第2分隊ワッパ12機が浮上、空の彼方へとその姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 旧カリフォルニア州最南端の山地

 

 一年戦争による被害は至る所にあるが、昔の国立公園や国有林なども消失していたり、軍の仮陣営代わりにしていたりなど、もはや自然保護もおぼつかなくなっていた。

 

 「うわぁ、こんなにでこぼこが……」

 

 道中大小のクレーターを眺め悲しんでいるアルマの呟きを他所に、分隊副官サンチェ上等兵のワッパが近づき、上空に飛んでいる、ワッパたちと真逆の方向を行く航空機を指さした。

 

 「あれは我が中隊のルッグンです。どうも最近、この近辺にミデアが現れるとの報告が上がっておるようです」

 「なるほどな。んで、そのミデアは?」

 「分隊長、それがルッグンに見つかったと知るやすぐに離れているとのことで……」

 「見つかっては不都合なことでもやってるのかね」

 「そう考えてしかるべきでしょう」

 

 サンチェは元MSパイロットだ。北米降下時に思わぬ敵の抵抗に遭い、上記のザクⅠを失ってしまった。その咎の意味も多少はあってか、現在第01偵察小隊でパッキーの副官を務めているというわけだ。彼もパッキーと同じく、故あらば手柄を挙げようとする者の1人である。

 山地に着いた時、頭上に巨大な四角い影が覆っているのが見え、分隊長が大声をあげて指令を下す。

 

 「おい、多分サンチェの言ってたミデアだ!散開して隠れろ!」

 「え、ど、どういうこと!?」

 「少尉ちゃん、しっかり掴まってろ!」

 

 皆思い思いに三方の木々がある山に飛び込み、ワッパを着地させて身を伏せる。座席後部からアルマ少尉を引っ剥がしたパッキーも同様、常時携帯の通信機と暗視ゴーグルを持って乗機から離れたところに身をかがめた。

 無理矢理伏せられたアルマに、呻くように聞かせる。

 

 「ああいうことも時にはある。MS乗りならともかく、俺達は無力だ」

 「そう、ですか」

 「おう、俺達の仕事は偵察だ。できうる限り正確に現況を知らせることで、味方を助けてやれる」

 

 やがて四角い影の主――ミデア輸送機3機がゆっくりと着陸した。そして後部コンテナハッチが左右に開放され、巨大な台車がそこから滑走していく。

 その様子を暗視ゴーグルで見ていたパッキーとサンチェの両目は血走っていた。その台車に寝かされているもの、それはザクⅡ。各地での発見事例が多い連邦軍が鹵獲したザクの3機小隊。

 横目でちらりと隣を見ると、アルマ少尉はあまり驚いていない風であった。多分内心驚きでものも言えないのであろうが、その心中ではすでに別の考えが頭をよぎっていた。

 

 「何だろう……?」

 「少尉ちゃん、どうした?」

 

 彼女の呟きに不審を感じその正体を訊く間にも、台車から足を出し、一つ目の巨人は静かに起き上がろうとしている。

 それを眺めながら、彼女は時間をかけて思考を巡らせていた。いったいあのザク達は何がしたいのか。戦術試験にしては、ここは何もない。しかもここはジオンの勢力圏。隠密的に移動しているにしては、いささか目立ちすぎ――。

 

 「っ、そうか!」

 「チッ、クソがッ!」

 

 2人が叫んだのは同時であった。といっても向こうには聞こえていない。

 パッキーが気付いた点は2つある。ひとつはアルマと同じく、旧メキシコ北部のジオン軍が健在であるのに悠々と空を飛べ、こんなところで着陸できている点。もうひとつには、ここの三方をまあまあの山々に囲まれている点だ。

 さらにアルマがここまでの雑感を述べる。

 

 「分かりました!これは挑発です。所属不明機に見せかけて同士討ちに見えるように……」

 

 なるほどそう見えなくもない。しかし半分外れであろう。それにしては、ミデアという連邦軍機の象徴が後ろに控えている。だから同士討ちにしては少々味方に優しすぎる(・・・・・・・・)

 そうすれば答えは自然と絞られてくる。それを伝えに通信機を開いた。通信先はオーシャンサイド基地。

 「こちら《クロウ1》!応答願います!」

 

 しばらくして、基地司令部通信士の声が明瞭に聞こえた。後で聞いたが、この通信士は元アナウンサーらしい。

 

 『こちら司令部、どうぞ』

 「実況報告。旧ポトレロの平原、現在ワッパ停止位置より約4キロ前方にて敵MS、正しくは鹵獲されたザクⅡ3機が並列で移動訓練を行っている模様。発見時刻1526時、現地に留まり監視を続ける。ミデア輸送機3機が着陸済、また鹵獲機はザク・マシンガンを手持ちとし備え付けはヒート・ホークのみの模様」

 

 そこから一拍おいて、

 

 「注文!サイドメニューは『剣闘士』と『白馬』、どうぞ」

 

となぞなぞをかけた。哨戒部隊が多いこの基地の連中だ。誰かが気付いてくれるだろう。

 いや、誰ひとり気がついていなくても、この言葉をキャリフォルニアベースに伝えるよう、中隊長経由で基地司令部には申し渡してある。

 

 「あの、ひとついいですか?」

 

 アルマではなく、いつの間にかいたマツオカが声をかけた。なぞなぞが解しかねるようだ。

 

 「『剣闘士』と『白馬』ってのはどういう?」

 「いずれ分かるよ」

 「じゃあ私から」

 

 と今度はアルマだ。

 

 「もしですよ、もしパッキーさんが言ったことの意味を基地の方が分からなかったらどうするんですか?」

 

 するとパッキー、ここぞとばかりに鼻で笑っていわく。

 

 「いいんだよそれでも」

 「は?」

 

 「分かる奴があっち(・・・)にいるから」




登場兵器
ルッグン(初出:ガンダム6話「ガルマ出撃す」)
ジオン軍地上部隊の偵察機。上の張り出した部分に操縦用、機体内部に哨戒用のコクピットがある。逆T字型で無尾翼、ビームで支えられたレドーム2基といった独特な形状のVTOL(垂直離着陸機)。両翼端に機関砲があり、また上方のコクピット下部には一応小型ミサイルランチャーが4基搭載。

ミデア(初出:ガンダム第9話「翔べ!ガンダム」)
地球連邦軍のメイン輸送機でVTOL機。ペイロードが160tもある巨大コンテナには、MSや基本物資などありとあらゆるモノを積載することができる。自衛用に機体各所にある機関砲等があるくらいで、戦闘には一切不向き。

鹵獲ザクⅡ(初出:MS IGLOO-一年戦争秘録-)
一年戦争最序盤から地球連邦軍が鹵獲していたザクⅡ(C型も少々存在)。戦術研究のため各所に配備され、一部は物資集積所を襲撃している。
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