ハイルディン・ゾビーズ
サイド3出身。それ以外はすべて不詳。地球連邦軍特務部隊「スカルバット」隊長。戦いに何かを求めている節がある。名前は与えられたもので、本名ももちろん不明。階級は中尉(経緯は不明)。
ブレードアンテナが付いているだけのザクⅡC型に搭乗。
カトウ
千葉県出身。22歳。ルウム戦役でMSの力を目の当たりにした。「スカルバット」で念願のザクに乗ることができて気分が高揚している。薬物疑惑あり。階級は准尉。
ザクⅡJ型に搭乗。
オオクマ
大阪府出身。33歳。「スカルバット」では比較的冷静な方。階級は准尉。
ザクⅡJ型に搭乗。
ヒロタ
サイド3出身。キャリフォルニアベース通信室長兼第二地上機動師団通信大隊長。キシリア・ザビ少将の珍采配もあり司令代行に。冷静沈着かつ深い洞察力を持つ。階級は中佐。
第3話のみの登場人物
ミアディッチ
第01偵察小隊所属の一等兵。名前と声だけの出演。
宇宙世紀0079年9月19日 キャリフォルニアベース通信室
一大都市サンフランシスコを含めた、旧カリフォルニア州海岸沿いに位置する巨大軍事基地には、各種潜水艦用ドック、単段式のHLVの打ち上げ場所と、ザンジバル級機動巡洋艦を打ち上げるマス・ドライバーなどが存在する。
かつてこのキャリフォルニアベースは、地球連邦軍が南米奥地にあるという総司令部基地ジャブロー防衛第一の要であった。しかし3月11日の北米侵攻において、わずか2日でこれを陥落せしめたジオン軍第二地上機動師団が基地機能を改造。攻撃型潜水艦Ⅷ型数隻と大型潜水艦3隻を鹵獲・改装し運用したほか、ザクだけでなくサイド3・9バンチ「海」でテストを終えた水陸両用MSやガウ攻撃空母の生産拠点にもなっており、ジャブローの言う「定期便」の送信先として知られる。
そんなキャリフォルニアベースの通信室に、オーシャンサイド基地司令部から一報がもたらされた。
「オーシャンサイド基地より緊急入電!旧ポトレロにてパチョレック伍長率いる偵察分隊がミデア3機と敵ザク1個小隊に遭遇、これの排除に際し至急増援を望む。なおサイドメニューは『剣闘士』と『白馬』だそうです」
通信室長兼司令官代行のヒロタ中佐がじっと聞き耳を立てる。
暗号自体は非常にチープ極まりない。これは兵器に対する報告者の第一印象にすぎないからだ。そしてこの暗号文が
さらに現地は山麓であろうから、地上戦だけで鎮圧など考えては逃げられる恐れが十分考えられる。
「確かに『剣闘士』と『白馬』なんだな?」
「は、はい。そうですが……」
謎解きの説明に時間をかけている暇はない。もし仮に敵の目的が旧メキシコ北部の攪乱にあるのなら、これをむざむざ許しては今後の北米戦線の形成がおぼつかなくなる。本来これを決めるべき基地司令官がなぜか月面都市グラナダに出頭中であるので、少々強引にならざるを得ない。
「よし……、司令部付B小隊を出せ。ついでにMS支援小隊をこれに付け、偵察分隊を一刻も早く救うべし」
通信室の一同が絶句した。現時点での「虎の子」を出す必要があるのか。北米戦線において、特に碌なMS情報のない連邦軍相手に
しかし、その通信士の文句言いたげな顔を見ぬふりをし、マイクを片手に取り館内放送回線で指令を下す。
『司令代行命令。司令部付機動歩兵B小隊並びに第3MS支援小隊は直ちに旧ポトレロポイントへ出撃。偵察部隊の救出、および旧メキシコ戦線崩壊を防ぎ同胞の戦意を惹起すべし』
◇
同日 旧カリフォルニア州最南端 旧ポトレロ
「ちくしょう、これ見よがしに射撃練習なんざしくさる……」
誰かが、呻いている。
当然のことだ。鹵獲されたザクを、連邦軍のパイロットが自由気ままに乗り回している様を思い浮かべるだけで、少なくともパッキー以外は吐き気を催しそうな気しかしない。
心配になったパッキーが通信機のチャンネルを必死に合わせる。ある程度軍人経験をしていると分かるのだが、ジオン軍人というのは階級問わず謎の義侠心、ないしは盲目にあるきらいがある。
『お前ら、援軍が来るまで絶対に動くんじゃねぇぞ。ってかワッパの機銃じゃ傷ひとつつかねぇからそもそも無理っちゃ無理なんだがな』
「それは、そうでしょ。ハハハ……」
アルマの突っ込みは置いておき、悔しいのは皆一緒だ。パトロールとはいえ、目の前のザクに対して碌な装備がなく、しかもそのザクが別にこちらのことを見もせず動き出そうともしていないから手の出しようもない。ただ連邦軍からしたら、そんな彼らの思いなど
「何言ってんだ腐れ外道が……」
でしかないわけである。ほんのついさっきといえる時期まで連邦軍がその一つ目の巨人に蹂躙されつくしていた、鹵獲ザクに対するジオン軍人の反応はただの未練がましい言い訳であって、嫌なら自爆装置くらい付けとけよ愚図、が客観的に正しい結論であろう。
その木々の陰で唇を嚙んでいる腐れ外道共を尻目に、鹵獲ザクは次の行動に移っていた。
「いやーキモティー!」
ザクマシンガンを撃ち続けているカトウ准尉の快感は、地球連邦軍の人間であれば一度は味わってみたい感覚であろうか。
彼ら総司令部直属戦術的特務小隊「スカルバット」は、現在に至るまで物資襲撃所襲撃・敵輸送機破壊・格闘戦展開など、非公式の遊撃任務を主体として戦闘経験と勝利回数を積み続けている。
より正確には、「V作戦」の一環である教育型コンピュータに反映させるための実戦データ提供の役割が本業。テム・レイ技術大尉の使い走りといってもよい。
その戦闘データも8月初頭にサイド7に持ち込まれたため、今はまた遊撃任務に戻っているというのが現況だ。
「おめぇいい加減にせえよほんと。ここで弾薬無駄にする必要はまったくねぇ」
「あっ、さーせんした
角付きザクⅡC型に乗っている隊長格の男が呆れて制止する。この男、顔中に様々な傷を負っている。
カトウのザクが撃ち終わったのを機に、もう1機のザクに乗っているオオクマ准尉が通信を開いた。
「中尉、そろそろ任務を優先しましょう。敵がいつまでたっても来そうにないので」
「そうか、どっちでもいいからMS小隊をぶっ倒して、北部メキシコ戦線を捻じ曲げるんだったな。あんまり面白くねぇ……」
その男は手柄を欲しがっている。戦いに飢えている。
地球連邦軍の者であれば、彼がジオンから亡命してきた人間であることは分かっている。だがそれだけだ。
亡命前はどこぞの戦線で功績を挙げた程のMSパイロットであったというが、それがどこかも分からない。家族はいるのか、なぜ亡命したのか。それすらも己の口から吐き出すことはついぞない。
「誰か、誰か戦う奴ぁいねえかなあ……」
しかし分かっていることが3つある。
ひとつは、彼がいかなる理由にせよジオン公国軍から脱走したこと。
いまひとつは、彼の闘争本能がとどまるところを知らぬこと。
そして最後に。
――地球連邦軍は、彼に部隊だけでなく、「ハイルディン・ゾビーズ」という新しい名を与えたこと。
◇
旧ポトレロ付近の山
「……分隊長、奴ら急に転進しましたね」
「おー、案外切り替えが速いのな」
サンチェが言うように、山々に背を向けてザク達が悠々と歩みを進めていく。それに合わせ、ミデアも2機わずかに浮上する。真ん中の1機がどうやら輸送部隊の指揮機であるようで、それだけはなぜかそのままである。しかしこちらに迫った危機が過ぎ去ったのなら、それに越したことはまずない。
ジオン軍人からしたら傍若無人に見える行状に腹が立たぬ者はないが、約1名、本気で抑えられない者がいたとしたら。
『こ、この野郎……』
「この声、ミアディッチか?」
「お、おいミアディッチ!何をする気だ!?」
サンチェが通信機に近寄り、興奮している声の主であるミアディッチ一等兵の制止に入るも、身分不相応に愛国心を持っているミアディッチの怒りは収まらないままだ。
『何って、一発喰らわせてやりたいんです!』
それを聞き、感情任せにサンチェをどかしパッキーが怒鳴りつける。
「ミアディッチこの野郎!あんなションベンみたいな機銃が通用するものか!相手は仮にもザクだぞ!?」
『それでも……、それでもジオン軍人として我慢なりませんッ!連邦は卑怯にも我が軍のザクをあのように使って』
「甘ったれんな!ユーコンなんざ連邦の潜水艦だぞ。鹵獲兵器の使用禁止など南極条約どころかジュネーヴ条約にもねンだから当ったり前なんだよ!お互い様だ!」
『もういい!自分は行きます、止めないでください!!』
「待てよコラァ!!」
左の山から、1機のワッパが飛び立っていった。ザク達が向かうその方向へまっしぐら。明らかに無謀な特攻。しかしサンチェも、マツオカも足が小刻みに震えている。
「てめぇら……」
通信機からも、
『俺だって俺だって……!』
『あの野郎を助けに行かせてください!』
『コケにされたまま終わりたくないです!』
『お願いします、やらせてください!』
「……」
我慢の限界からか、今までの厭戦機運はどこへやら。いくらなんでも仲間の危機まで捨て置くような、情けない心は持ち合わせていない。
しかし一応パッキーは分隊長だ。絶対に部下を死なせることはできない。だがミアディッチを放っておけば、間違いなく何らかの餌食にあって、ドン・キホーテの二の舞が精いっぱいだ。気が付けば、皆が驚くくらいの大声で叫んでいた。
「できねぇ……、できねぇよ……。どっちにしたってみんな死ぬじゃねぇか!」
そこに、いつの間にか隣にいるアルマが、身をかがめながら上目遣いで覗き込んできた。どうやら、あの連中とご同心のようだ。
「パッキーさん。行った方が、行った方が、後悔しないんじゃないんですか?」
何かが、弾けた気がした。
最早何等の考えもなく、意識もなく、ただ通信機に手を伸ばしていた。
「ミアディッチは進みながらでいい。数は多いが、
◇
旧ポトレロ ザク・カトウ機のコクピット
『おい、何でぇさっきから蚊が鳴くような』
ゾビーズが妙な音を聞き、思わず足を止めた。止めてしまった。
カトウも気にはなっていたようで、耳を澄ませてみると、たしかに虫が飛んでいるような、そんな音。
「センパイ、俺もですよ。おかしいなぁ」
『ん?今度はコツン、だぞ』
明らかに、何かがおかしい。おかしいが、コクピットのモニターでは確認できない。
オオクマだけは至極冷静で、
『しかし中尉、所詮は機銃の音でしょう。装甲に傷など付かんのですから、気にせず任務に戻りましょう』
それはその通りだ。その通りではあるが、どうしてもハエや蚊の類が自分の体についていると、不安だから叩き潰したくなるのもまた人情。
上半身を操作し、マニピュレーターを振り回してみるが、特に何もない。機体をかがめてみても、何もない。しかし音源は増え続けている。
人間そうしたものが鬱陶しくなると、何もかもが大振りになる習性があるそうで。
「しつこいんだよッ!」
カトウ機が右腕部を大きく振りかぶると、この場にいないはずの機体……と呼べるか分からない小ささのモノが、その風に煽られていく。
ただ小さいものほど、立て直しも早いそうで、その機体の群れは巻き付くようにカトウ機の周りをブンブン飛んでいく。
「――ッ!」
誰かが気が付いた時にはもう遅い。
「スカルバット」のザク達が、謎を解き終えて次の行動に移すその一瞬。その一瞬に、そいつらがすべてを叩きこむ。
東部・胸部・膝関節部・脚部。ありとあらゆるところに持てるすべてをぶつけるその姿は、日系人の二人にとってはまさしく「カミカゼ」であった。
気が付いたその時には、カトウの右親指がコンソールのボタンを深く押していた。
『おい、撃つんじゃねぇ!撃つんじゃねぇ!』
「センパイ!そんなこと言ったってよぉぉぉッ!!」
銃声以外は全く聞こえず、というよりも銃声であえて他の音を聞かないように、殻に閉じこもってしまった。
さらにオオクマ機も、恐怖に飲み込まれてしまう。
『あ、あ……、あああぁぁぁああぁぁ!!』
『チッ、これだから
ゾビーズだけが分かっていた。そのモノの正体、それがもたらす負の影響、そして……
「あァ!?おい、おいッ!何で出ねぇんだよッッ!!」
『あぁぁぁああぁぁぁぁっぁッ!!……あれ?』
経験不足による、パニック症状。
ホバーバイク・ワッパ12機が、4機編隊でザク1機に対してただただ飛び回り撃ち放し、それを強弱付けて繰り返す。狙いはただひとつ、弾切れだ。
いくらハイルディン・ゾビーズのもとにいた2人でも、こうした対歩兵戦を経験せぬばかりに、やたらめったに撃ち続けた結果、銃口から単純かつ空虚な音が噴き出るばかりであった。
『おいっ、何やってんだよ!とっととマガジン変え……』
彼が必死に次の行動を指示しようとしたまさにその時。
『――なんだ、アレ?』
扁平な航空機に乗った、ザクと同じような外見で、しかしザクとは違う青いMSが、盾と剣を携え悠然と降下していた。
見る人によっては、白馬の騎士にも見えたろうそれは、今の彼らには死神にしか映らない。
登場兵器
MS-06C ザクⅡC型(初出:「ガンダムセンチュリー」文字設定)
キシリア・ザビ少将の助言の元、ザクⅡA型を格闘戦に対応できるよう再設計した機体。「ほんのついでに」核爆発の放射能を防ぐため三重装甲を採用。
後のザクⅡの原型となる部分は右肩部スパイク・アーマーと左肩部のシールド。少々のカスタマイズで地上にも対応し、地球侵攻初期に獅子奮迅の大活躍。