機動戦士ガンダム 羽虫兵士の四ヶ月戦争   作:神谷主水

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第4話からの登場人物
モーリッツ・エルンスト・フォン・グリンベルハイム
 サイド3出身。25歳。キャリフォルニアベース本部所属のエースパイロットで自称名家出身。話す言葉、というより口調やイントネーションがいちいち二ホンの歌舞伎じみている。階級は少佐。
濃い青色のグフに搭乗。

バロウズ
 サイド3出身。27歳。グリンベルハイムの部下で、いつも彼のわがままに苦労している口。赤髪の男でまあまあの人気者。階級は少尉。
グフに搭乗。

マチルダ・アジャン
 初代ガンダムから登場する補給部隊リーダー。今回は「スカルバット」の実質上官として、航空隊増援などを含め手はずを整えた。



(2023年1月27日 改変しました)


開かれた戦端

 少し前にさかのぼる。

 

 「よし聞け。とにかく即席の4機編隊を組んで飛び回れ」

 

 相手は地球連邦軍が鹵獲した機体。これを運用するにあたり、旧アリゾナ州の砂漠ど真ん中で物資集積所を襲撃するなど、対MSにおける戦闘経験は充実している。しかしその相手が特にワッパのような対人となるとどうだろうか。

 実はそのところの経験において、連邦軍の特技兵部隊より技量に長けた対MSコマンドは存在しえないのだ。しかも第1分隊にそのような武器があるはずがないので、モノアイに全弾当てない限りはすべて雀の涙。ただ人間というもの、立場が変われば人も変わるとはよく言うもので、ザクに乗っていると初心(・・)を忘れてしまう。

 

 「奴らは小さな的にも全力でぶつけると、そういうことですか?」

 「おうよ」

 

 サンチェの言を少し分かりやすくすると、相手の兵器をハエたたきレベルにまで貶める。つまりは、まず徹底して無駄な抵抗を続ける。さすれば相手は、未知に対する恐怖からとにかく滅茶苦茶に撃ちまくる。そして気が付かぬうちにマガジンから弾が……、ということが理想だ。

 パッキーは通信機のチャンネルを変え、オーシャンサイド基地の司令部に繋ぐ。

 

 「こちら《クロウ1》。そろそろ増援来るか?」

 『はい。MS1個小隊があと3分でそちらに来る予定です』

 「あらあら、これは手厚い……。ありがとさん」

 

 思った通りの増援に満足しながら、またチャンネルを合わせて仲間内に切り替える。

 

 「喜べ!増援がもう少し(・・・・)でこっちに来るぞ!それまで無様に飛び回れぇッ!!」

 『おぉぉぉぉッ!!』

 『大将ッ!』

 

 通信機から顔を遠ざけたくなるような大歓声。あまりにもやかましいが、その士気だけは買いたい。

 ふと、アルマの方を見る。自分達の特攻に付き合わせるわけにはいかない。

 

 「少尉ちゃんはどうすんの?行かないなら俺のワッパで基地に帰んな。乗り方は分かるだろ」

 

 本来、最後の研修としてのパトロールが、まったくの偶然とはいえ、敵の軍事作戦に遭遇してしまい、なおかつそれが死に直結してしまうものになるとは誰も思っていなかったろう。

 しかし、彼女は黙って首を横に振った。目は今にも山々を燃やさんかという程にギラギラと炎が見える。

 

 「も、もちろん!言い出しっぺだし、だって、だってわたし……!」

 

 その次の言葉に、パッキーは思わず嫌悪感から顔を歪める。あまりにも心当たりがありすぎたから。

 

 ――もう捨てられたくないから……ッ!

 

 

 「ナカモト、てめぇ……」

 

 これからワッパを操り、機銃を握るべき右掌から血が流れているのが見える。

 入隊前に友達になった、厭味ったらしいズル剥け眼鏡が6月に残した手紙を思い出す。彼も確か、「フラナガン機関」に出向中であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその3分間、ワッパ計12機は耐え抜いた。

 耐え抜いたというよりも自滅という印象が強すぎる。

 

 「オラァ!もっと気合い入れて撃たんかい!!」

 『こなくそぉッ!』

 『やってやらぁ!』

 

 都度都度、すれすれを通る口径120mmの銃弾をやり過ごし、ザクの全身にありったけの弾という弾を叩きこむ。どうも敵はこのような相手に慣れていないのであろうか、真ん中の角付き以外がザクマシンガンを周囲いっぱいに撃ちまくっている。とにかく当たらないし、味方に対する誤射を招きやすいが、それだけは何とか避けているのが分かる。

 

 「もっと飛べやぁッ!!」

 

 パッキーの檄とともに、角付きから4機が左隣のザクに集中して飛び掛かった。的が増えたことによって、より大振りになる。思えば、角付きの右隣は相手が4機だけだというに落ち着きが足らない。

 

 「よしよし、あと30秒。持ち堪えろよ!」

 『はいッ!!』

 「少尉ちゃん、覚悟はいいかい!?」

 「は、はいぃッ!」

 

 彼女もワッパの背もたれを抱えてばかりではなく、自身の拳銃でモノアイめがけて撃ち続ける。届いてもいないし、届いたところで大して損傷を与えられないからから特に意味はないが、ここでは戦う姿勢に意味があるのであって、このことも敵の恐怖心をあおる結果に繋がった。

 残り13秒。とうとう2機のマガジンが尽き、カチカチと空しい音が聞こえるのみ。角付きが一切動じていないのが気がかりではあるが、両脇のザクがいつまでも弾が出ないと分かっているのかどうか、引き金を引き続けている。

 

 「や、やったぁ!」

 「よおし、退けィ!!」

 

 残り5秒。パッキー達第1分隊が隊列を整え、1人たりとも欠けることなく悠然と引き上げた。追いたくても2機の弾薬の補給で足を引っ張られることが確定しているため、角付きは何もしない。

 そして入れ違いに現れた編隊が、ザク達の前に飛来。

 扁平な機体形状のSFS(サブ・フライト・システム)ド・ダイYSの上に搭載されている、全身が青くブレード・アンテナが付いている機体。MS-07B グフが、騎士のごとくその雄姿を現した。

 

 『さすがオーシャンサイドのワッパ共。ここからは我らの戦場ぞ、かかれ!』

 『はっ!』

 

 真ん中の濃い青色(アズールライト)のグフに乗っている、長い金髪をなびかせたモーリッツ・エルンスト・フォン・グリンベルハイム少佐の檄とともに、第二機動師団中央大隊司令部付機動歩兵B小隊がついに剣を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――なんだ、アレ?」

 

 いかにジオン軍入隊以来実戦経験豊富のハイルディン・ゾビーズであっても、目の前の青い機体は見たことがない。急いでデータベースを開こうとするが、そもそもC型を持って連邦軍の服を着ていたのであった。あの機体のことがまったく出てこない。

 自分達だけが死ぬ分には戦闘データだけでもジャブローに持ち帰ればそれでよいが、最悪後ろのミデアが撃墜されたときは、帰る場所も手段もないし、せっかくの戦闘データもパアになりかねない。

 

 「これは、これはマズい!」

 

 ワッパの時はそうでもなかったのに、事ここに至るによって焦りだした。せめてミデアだけは、任務などどうでもいいからミデアだけは守り抜かなくてはならない。

 あのわけの分からぬ青い機体の小隊が撃破できれば、その任務を果たしたことになる。だからミデアだけは――。

 

 「――マチルダ姐さん、航空隊はまだかよッ!?」

 『……もう来たぞ』

 

 姐さん、そう呼ばれたマチルダ・アジャン中尉が呆れて告げたように、

 

 「よし!」

 

 地球連邦軍の小型戦闘機TINコッドが9機、主力戦闘爆撃機フライマンタが9機戦場に到着した。もちろんその任務はミデアの護衛であろうが、この航空機がたやすくジオン制圧地域まで飛行できる以上、ジオンの海軍と防空網がザルであると言わざるを得まい。

 勇躍したゾビーズ達「スカルバット」は、ワッパ達に乱された並列陣形を立て直す。

 

 「青いのがこっち来たぞ。載せてる奴は俺がやるから、落ちたら袋叩きにしろ!」

 『了解!』

 『合点承知よ!』

 「航空隊もそれでいいな!?」

 『了解です』

 

 角付きのC型が号砲一発。濃い青色のグフが乗るド・ダイめがけザクマシンガンの銃口が火を噴き、これを合図としてザクと航空隊がスラスターを点火させて猛進する。その一発を避けたド・ダイも、搭載機を振り落とさぬ程度にスラスターを噴かせ前進を始める。

 今ここに、公式資料に残る中での、地上における史上初のMS戦が開始された。

 

 

 しかし何といっても、鹵獲ザクを倒すためには、まず目の前の有象無象共を倒さねばならない。

 

 『バロウズ、ドーレズ。散開して撃つのだ!』

 『了解』

 『これでも喰らえぃ!』

 

 バロウズ少尉機の右腕部から伸縮式の電磁鞭ヒートロッドが放たれる。先端に熱の赤みが表れるそれは、目にもとまらぬ速さでたちまちTINコッドを切り裂いていく。

 しかしその初撃だけで見切ったようで、放たれるたび別々に旋回しながら弾幕を張り続けていく。やはり空中戦では連邦軍の方に分があり、ドーレズ少尉の機体もヒートロッドを避けられ、シールドを構えていないと撃墜しかねないほどの弾幕を浴びせられ続ける。こんなことを繰り返していると、ミデアどころか囚われの巨人すら遠ざかってしまう。

 

 『ええい、図に乗るでないわ!』

 

 その一方、グリンベルハイム機のヒートサーベルが熱して唸る。ド・ダイを蹴って飛び上がるや、的を失った弾幕を他所にこれを振り上げ、その勢いのままフライマンタを2機真っ二つに叩き割った。これではサーベルというより青龍刀だ。

 しかし、そのことでできた隙を見逃すハイルディン・ゾビーズではない。

 

 「そら足元がお留守だぜ!」

 

 彼の額から一筋の冷たいものが流れた。

 グリンベルハイム機を搭載していたはずのド・ダイにザクマシンガンが向けられた。さらに突出したTINコッドがそちらに向きを転換、2つの銃口が同時に火が噴く。

 

 『うわぁぁっ!少佐、少佐ァッ!!』

 

 まさに第二次世界大戦のチャッカマン。その機体と同時に、「足」を失った濃い青色の剣闘士もそのまま不時着。炎上を他所にスラスター推力の反動を利用し、いったん浮き上がった剣闘士に、今度はフライマンタとカトウ・オオクマ両機が奇声を上げながら襲い掛かる。

 その2振りのヒートホークがグリンベルハイム機を切り裂くことは、なかった。

 なんとか弾幕を振り切ったドーレズ機のヒートロッドが2機に割って入り、フライマンタを絡めとってしまったのだ。

 

 『ドーレズ!そのまま叩きつけてやれ!』

 『へっへっへ……』

 

 嬉々として、幼児が貴重なおもちゃを無邪気にぶち壊すがごとく、右腕部の鈍器(・・)を振り回していく。その間にも、フライマンタ機内には高圧すぎる電流が注がれる。

 

 

 ――吐き気がする。ジオンはいつもそうやって……!

 カトウの顔がどこまでも醜く歪んでいく。彼の親友はサイド2の住人であった。そのサイド2は……。

 

 『そうやって、そうやって……。お前らはッ!!!』

 

 おもちゃのように地表に叩きつけられたコロニーと、あのフライマンタとが重なったのか。上空のそのグフめがけてなんとヒートホークを投擲してしまった。他に武器がないカトウにとっては、あまりにも自殺行為。

 

 「あいつ何やってんだ!?」

 『な、なんだぁあのバカ』

 

 単純に過ぎる軌道の投擲など、MSのプロ(・・・・・)であるドーレズが避けられぬはずがなく、爆炎を上げた鈍器(・・)を持ったまま左に機体を動かしてやり過ごす。

 目の前の単細胞をどうやって調理しようか。そのように考えていたドーレズに、その機会は訪れることはなかった。

 

 『わぁぁぁぁ!!』

 

 たった今、バロウズ機のヒートロッドを叩きつけられ、エンジンが火を噴いている別のフライマンタ1機が、ミサイルを撃ちながら超音速で落下していく。それが偶然、本当に偶然ドーレズ機と軌道が合ってしまう。

 

 『ドーレズ避けろ!避けるんだ!』

 『はあ?』

 

 バロウズの叫びやフィンガー・バルカンも届かず、機体の警音に気が付くも一拍遅い。

 

 『ドーレズゥゥゥゥゥ!!!』

 『うわあっ!』

 

 それはド・ダイに直撃。ヒート・ロッドを手放し自らも隊長にならい降下。自分の脚と引き換えに2機のフライマンタが炎上。

 戦いはまだ終結の様相を見せない。




登場兵器
MS-07B グフ(初出:ガンダム12話「ジオンの脅威」)
ザクⅡの基本設計のもと、陸戦用という部分をより追求し、格闘戦にも主眼を置いて開発されたMS。コクピット周りが比較的重装甲であり、シールドはオプション。両肩にスパイク・シールド、指は5連装75mmマシンガン、さらに実体剣型ヒートサーベルや伸縮式電磁鞭ヒートロッドを装備。ザクの武装はおおむね流用可能。

ド・ダイYS(初出:ガンダム23話「マチルダ救出作戦」)
MS本格運用に向け、要撃爆撃機をMSの「足」にすべく再利用された(SFS)。機首の8連装ミサイルランチャーのみで、空対空にはあまり向いていない。逆に指揮管制機としての運用例もあるにはある(マ・クベ配下のクリンク中尉機)。

フライマンタ(初出:ガンダム23話「マチルダ救出作戦」)
旧式ながら、一年戦争時の地球連邦軍主力戦闘爆撃機。スピード・機動性・航続距離に優れ、ドッグファイトではなんとジオン軍のドップよりも強い。機首にはミサイル発射口6基と自動追尾式機関砲を装備。爆撃用に翼下にスマート爆弾や対地ミサイルなどが搭載可能。

FF-6 TINコッド(初出:モビルスーツバリエーション)
地球連邦軍の小型戦闘機。これの対抗としてドップが開発されたという。25mm機関砲や空対空ミサイルが装備されているが、いまいち実戦配備が遅れている機体が多い。
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